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~社会生態学者ドラッガー~

宝島社 ドラッガーの教え見るだけノート 藤屋伸二監修
宝島社 ドラッガーの教え見るだけノート 藤屋伸二監修

 

 

ドラッガーという名前をご存知でしょうか。経営に関わる人ならばどこかで耳にすると思います。

ピーター・ファーディナンド・ドラッガー(Peter Ferdinand Drucker)

 

だいたいドラッガー、あるいはピーター・ドラッガーと表記されます。1909年11月19日-2005年11月11日とほぼ96年を生きた経済界の偉人です。

一般的に有名にしたのは10年以上前の作品ですが、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という小説ではないでしょうか。「もしドラ」と略されて実写映画化もされました。

 

私はその映画が流行っていた時期、当時の職場でドラッガーを知りました。幹部職に就いており経営の勉強の一貫で。ドラッガーの考え方をセミナーや資料で学んだのでした。

今は自らあじさい鍼灸マッサージ治療院を経営する立場となり、経営関連の本を読み、幾つかのセミナーに参加する状況に置かれています。思い返すと経営学というものの入り口はドラッガーだったといえるでしょう。ただドラッガーの著書は読んだことがありません(生涯多数の書物を世に出しました)。

 

開業してからよく読むシリーズがあります。これまでに何冊も触れてきた「見るだけノート」シリーズです。イラストが多く広く概要を捉えるのに適した本です。最近読んだのが

ドラッガーの教え見るだけノート 藤谷伸二監修 宝島社

です。

 

今まで何となく知っていたドラッガーについて網羅していると思い手に取りました。ピーター・ドラッガーとはどのような人物で何を考えたのか。この本を元に軽く紹介します。

ドラッガーには数多くの異名があります。

異名・知の巨人

マネジメントの父

20世紀の目撃者

未来学者

など。

100年に迫る生涯でほぼ20世紀を網羅し、多数のジャンルの著書を記した結果でしょう。未来を予測するので未来学者と呼ばれたとか。

 

しかしドラッガー本人は自らを

社会生態学者

と称したそうです。

社会生態学という学問は無いそうで、この肩書はドラッガーの造語だそうです。生態学とは(生物の)ありのままを観察して研究する学問。社会をそのように観察したのだと。ドラッガーは社会とは、そして人間とは、どうあるべきなのか?という問いを持ち、その先に、人は自分の価値観に従い自分の強みで社会に貢献する責任がありその責任を果たしてこそ本当に幸せになれる、と考えていました。

 

私には、経営ノウハウというより経営哲学の方が重きを置いていた印象を受けました。当時ドラッガーの考えを扱ったセミナーでは経営に使う具体的なことばかり習ったのです(それは当然のことなのですが)。

 

ドラッガーが提唱したことで非常に有名なことの一つに

「顧客の創造」こそ企業の目的である

があるでしょう。顧客を創造することが重要であり、ではその顧客とは何か、ということを当時の私は強く意識させられて考えたものでした。

 

ドラッガーは「顧客の創造」に必要なのはマーケティングイノベーションであるといいます。経営、経済によくある横文字でしかも圧倒頻度で出てくる言葉であるマーケティングとイノベーション。一般用語になっているとも言えますがその解釈は人それぞれではないでしょうか。

ドラッガーはこの2つの言葉を以下のように定義しました。

 

マーケティング:顧客のニーズを探り、顧客が望む価格や流通チャネルで提供するという「顧客起点の仕組み」。

イノベーション:新しい経済価値を生み出し、顧客により大きな満足をもたらすこと。

 

なかなか面白いです。マーケティングは市場調査や販促活動と捉える人も少なくないなか、「顧客起点の仕組み」と定義するのです。マーケティングの定義は諸説あり議論が分かれるところです。イノベーションも革新と日本語に訳されることが多く、画期的な発明という意味合いが一般的なのかと思います。ドラッガーは顧客により大きな満足をもたらすことという定義なのです。

共通していることはどちらも顧客を基盤に考えていることです顧客の創造に必要なものとして挙げているのですから当然のことと言えば当然なのですが。何より顧客中心の考えがあるようです。

 

それでは企業側、提供する側についてはどう考えていたのでしょうか。この本で私が気になったことがこちらです。

仕事と労働の違いを理解する

仕事と作業の違いについては別の本で読んだことがあったのですが、仕事と労働の違いというのはいったい何なのか。ドラッガーはこう定義しました。

 

仕事(work):論理的・分析的に組み立てられるもの。成果をあげるプロセスを論理的に組み立てたもの。

労働(working):人の活動そのもの。自己実現の手段であり、社会との絆をつくるもの。

 

workとworkingに違いがあるのかと英語に疎い私は考えてしまいます。現在進行形になったらこれだけ意味が変わるのか?という疑問。日本語の解説をみると労働(working)は生き甲斐としての活動で、仕事(work)は効率的な労働の過程という印象を受けます。何にせよ労働者が今やっているのは仕事なのか労働なのかを理解することが重要なようです。ドラッガーは知識労働者(Knowledge Worker)という概念を生み、(単純)労働者とは異なるものだとしました。

 

企業(組織)についてはこのように考えていました。

 

・情報化時代にあっては、いかなる組織も学ぶ組織にならなければならない。しかし、それは同時に、教える組織にもならなければならない。

・働く人の価値観と組織の価値観に矛盾があってはいけない。

 

社会生態学者を自称するドラッガーによる結論なのでしょう。20世紀の終わり、IT革命が起きて急速に情報化社会に変化しました。比較して単純に事が進まなくなった現代に学ぶことそして教えることが組織には必要だということでしょう。そして価値観が組織と働く人に矛盾が無い状態で。当たり前のようで見落としがちなことです。

 

マーケティング関連の書籍で必ず出てくる用語にニーズがあります。お客のニーズを捉える、あるいはニーズを生み出す、といった文言はよく見かけます。ドラッガーはニーズを「存在しないものに対する要望」と説明しました。そして顧客の創造に必要とされるイノベーションを導く3種類のニーズがあるとしています。

 

プロセス・ニーズ:利用方法や購入手段などのプロセスについて、消費者のニーズに応えられていない。

労働力ニーズ:労働力の体制に変換が求められているのに、そのニーズに応えられていない。

知識ニーズ:新しい知識が求められているのに、そのニーズに応えられていない。

 

商売の基本は困っていることを解決することだといいますが、ドラッガーも応えられていない要望を分類してそれを解決することが顧客を作るのだと考えていたのでしょう。

 

ドラッガーの名前を冠した学会が存在するほど研究対象として氏の残したものは膨大です。ほんの触りを私個人で気になった個所だけピックアップしてみました。大学で経営学や経済学を学んだわけではないので何となくですが、ドラッガーが見ていたものは社会であり人であったのだろうと感じました。そこから具体的なマネジメントや経営手法を導き出しただけで、作りだしたのではなかったのでは。今でいう行動経済学に近い印象を受けました。

 

甲野 功

 

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