開院時間
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先週土曜日に新型コロナウィルスワクチン接種の一回目を終えました。周りをみると加速度的にワクチン接種が進んできている実感があります。ワクチン接種の効果がどのように出てくるのか注目しています。
注目していると言えば経済。私も自営業で経営を担う立場なので新型コロナウィルス流行による社会への打撃、いわゆるコロナ禍での経済活動に注目しています。せざるを得ないといいますか。
最近も池袋の東急ハンズ閉店の話を聞いて、あの象徴的な店舗が無くなることに驚きました。また新宿大ガードレール前のヤマダ電機が入っていたビルが一棟丸々空きテナントになったことにも衝撃が走りました。大きなオーロラビジョンを持ち新宿らしいビルの一つですから。
このコロナ禍の経済状況で気になっていたのがプロレス。
プロレスは中学2年生のときに見るようになってから高校卒業まで熱心に追っかけていました。大学、社会人と段々と別のことに重心が移りましたが今でも気に掛けているジャンルです。
プロレスから学んだことの一つに興行論があります。巡業を周り興行をうって利益を上げるプロレスは他のジャンルに比べて経営情報が生々しいほど開示されています。分裂して、旗揚げして、潰れて、という過程をずっと続けています。中学からずっと見続けてきたおかげで、興行の裏側、スター選手を作ることの重要性、一般人気と会場人気の違い、地方と都市部の差など経営面の視点を自然と学んできました。実はこの見方は今とても役に立っているのです。
さて本屋で手を取ったのがこちら。
<シリーズ逆説のプロレスvo.19「コロナとプロレス」適者生存の掟 双葉社スーパームック>
コロナ禍でのプロレス事情はどうだったのかを特集、検証した一冊になっています。おそらく史上最大の危機であろうこの状況でプロレス界はどのようにしてきたのか。読むことで色々な発見がありました。
日本のプロレス業界をざっと説明します。
戦後故力道山により大ブームが起こります。街頭テレビで力道山が空手チョップで大きな外国人レスラーをなぎ倒す姿に日本人が熱狂したといいます。しかし力道山は北朝鮮出身のもと相撲取り。ルーツは朝鮮で空手をしていたわけではありません。その力道山が日本を背負って外国人と戦っていたという現実があります。
力道山の死後は正当な後継者たる故ジャイアント馬場とアントニオ猪木氏の対立時代が長く続きます。アントニオ猪木氏が設立した新日本プロレスとジャイアント馬場が設立した全日本プロレス。そして国際プロレスの3団体時代があり、国際プロレスが倒産し残った選手は新日本プロレスと全日本プロレスに吸収される形になりました(引退、海外に出るなど例外もあります)。
新日本プロレスはアントニオ猪木氏の性格もあるのか選手の独立、脱退を繰り返し多くの派生団体を生むことになります。対してジャイアント馬場の全日本プロレスは一般企業メガネスーパーの業界参入によりトップ選手だった天龍源一郎氏が脱退、多くの選手が退団することになります。1990年代のはじめに企業オーナーであるプロレス団体SWSが誕生しました。潤沢な資金があるSWSですが当時のファンに合わず、また雑誌媒体のネガティブキャンペーンにより数年で解散となります。ジャイアント馬場の死後、圧倒的カリスマがいなくなった全日本プロレスは選手、スタッフのほとんどが退団し新団体設立となります。全日本プロレスに残った選手はわずか2名で存続の危機に陥りますが当時新日本プロレスのトップ選手であった武藤敬司選手らの移籍で息を吹き返します。
新日本プロレスは格闘技路線が迷走し経営難の時代に突入。破綻寸前になりますが一般企業に身売りすることで延命措置を取ります。一般企業の経営者が入ることで新日本プロレスは息を吹き返し、現在はブシロードを親会社とし経営のプロであるオランダ人メイ氏が社長を務め世界2位の団体となります。日本国内では圧倒的1位です。
コロナ禍前の日本のプロレス業界は圧倒的トップの新日本プロレスとその他という感じでした。女子プロレスについては後述します。世界に目を向けるとアメリカのWWEが世界最大のプロレス団体として君臨。WWEは競合だったWCWとの戦いに勝利し圧倒的規模で世界中で大会を行っていました。アメリカおよび世界ではWWEとそれ以外という状況で、WWEに追随するのが日本の新日本プロレスという図式でした。
コロナ禍では当然プロレス興行ができません。リングでは濃厚接触以外の何物でもないことが行われます。他のイベント同様に大会の中止、延期が相次ぎました。会場に集まって生観戦が主体だったプロレス団体は経済的打撃を受けます。入場料、会場の物販による収入が無くなるわけです。想像に難くありません。
では実情はどのようなものだったのか、そしてどう対応していったのか。それを本書は記しています。
結論から書くと、確かに困難に見舞われたがしぶとくやっている、というものでした。
この手のムック本はだいたいプロレス業界のスキャンダル、ネガティブなものばかり取り扱います。裏側というか。表のことは週刊プロレスを筆頭にした媒体が担うわけで。ところがこの号ではかなり前向きな記事が多かったです。雑誌の作りとして悪い情報が出るのは当たり前なので、反対に状況を逆手にとった記事を入れた方が読み手のひきが生まれるということでしょうか。
まず最大手の新日本プロレスは数年前から行っていた配信サービスがいきていきます。月額見放題で過去の動画も見放題、海外からも視聴可能です。この収入がありました。また無観客で大会を再開した際も配信することで、会場には行けないが大会自体は視聴できるのでファン離れを減らせたようです。
そして視聴メインであるならば同じ会場で大会をし続けても問題がありません。これが通常興行だと毎日東京で大会をしていたら地方のファンは困りますし東京のファンだって飽きるし毎回チケットを買うのも大変です。それが無観客の配信であれば問題ありません。また会場設営も一度やってしまえば翌日も使えますし、会場使用料も安く済みそうです。興行収入はありませんが経費削減になります。
また大会が無かった分、ベテラン選手は体を休めてコンディション調整することができて良かった面があるとのこと。反対に大会が無いことで調子が狂いケガをしてしまう若手選手もいたとか。
新日本プロレス以外でみるとサイバーエージェント傘下に入ったプロレスリング・ノア(以下ノア)がコロナ禍で躍進したといいます。
ノアとは全日本プロレスから故三沢光晴を筆頭にほとんどの選手が離脱し設立されました。一時期は新日本プロレスを超えて業界の盟主と言われましたが、テレビ中継の終了と創設者である三沢光晴氏の死により経営難に陥ります。多くの選手が退団しましたが2020年にサイバーエージェントの傘下に入ります。サイバーエージェントはABEMAを運営するネット企業。配信事業に長けています。そのためかなり早い段階からノアは無観客興行をうち、動画配信を行いました。
その中で起きた象徴的な出来事が開始30分にらみ合いというもの。ゴングが鳴っても選手同士が接触せずに30分にらみ合ったという。通常の興行では観客が怒り出しますから不可能でしょう。観客全員がリングサイドにいるわけではないので遠い席では動いてもらわないとよく分かりません。目の前で大男二人のにらみ合いを30分も見せられたらたまったものではないでしょう。これが動画配信ですとカメラが表情をアップで追うことができますし実況・解説が音声としてつくので見てられます。何が起きているのかどのような心境なのか目の前で見るより分かりやすいでしょう。何より各々好きな状況で観戦できるので30分も見てられたと思われます。選手二人にとっても大きな賭けだったと思いますが大きな話題となり評価されることに。
サイバーエージェントは他にもDDTというエンターテイメント色の強いプロレス団体も持っており、DDT代表がノアの社長になります。DDTは故ジャイアント馬場ともアントニオ猪木氏とも異なる系譜で生まれた団体であり、それまでの王道プロレスラーにはない独自のアイデアで成長した団体です。そのDDT創設者が全日本プロレス・ジャイアント馬場から三沢光晴の流れをくむノアの社長に。これもサイバーエージェント傘下にノアが入らない限りあり得ないこと。更に全日本プロレスから元全日本プロレス社長秋山準選手がDDTに入ります。秋山準選手はジャイアント馬場の最後の教え子でノアに移籍後全日本プロレスに出戻ります。その秋山準選手がDDTに入るというのも歴史的な大事件と言えるでしょう。コロナ前では考えられません。サイバーエージェントの存在なしには起きなかったのではないでしょうか。
しかしこのことは大きなメリットを生みます。DDTには王道の基礎がしっかりとした全日本プロレスからの技術が入ることになります。そしてノアには時代を先取りしてきたDDTのノウハウを得ることになります。サイバーエージェントは特色が大きく異なったプロレスコンテンツを持つことになり動画配信を展開することができます。それまで互いに苦手、足りなかった部分をサイバーエージェントが橋渡しをする形で補強することになります。
加えてつい最近、元新日本プロレスのエース武藤敬司選手がノアに入団。これによりサイバーエージェント参加では新日本プロレスと全日本プロレスの両方の技術を継承する土台ができ、選手育成おいて大きなプラスとなるのです。
女子プロレスに目を向けると、紆余曲折があった女子プロレス界は現在スターダム一強という状況になっています。スターダムは新日本プロレスと同じくブシロード傘下の団体。地上波のテレビCMをうつことができます。
女子プロレスはアイドル要素が強く、男子よりも根強いファンが多いといいます。対戦カードよりも推しの選手を見たいという気持ちが強く、カードに左右されづらい特徴があります。物販も強いのでオリジナルグッズの通信販売も好調だと。
また世界的に純粋な女子プロレスの文化は日本にしかほぼありません。本場アメリカはというと、女子レスラーはお色気要因であったり男子レスラーのキャラ付けに使われたりで純粋な試合内容で魅了するのは難しいと言われています。そのため日本の女子レスラーでないと出せないクオリティがあり、今も昔も日本の女子プロレスは需要があると言われています。世界最大のWWEも日本の女子選手をスカウトすることが多く、海外で大活躍する女子選手が増えてきています。スターダムも動画配信サービスを持っているので海外からも視聴可能であることが大きいのです。
このように見ていくとプロレス業界は企業傘下と動画配信をキーワードにコロナ禍でも進化していることが分かります。
30年前メガネスーパーが参入したSWSは早々に解散しましたが、現在は企業参入が良い方向に向かています。
トッププロレスラーが社長を務めていた時代から現場はプロレスラー、経営やマネージメントは会社と棲み分けが進んでいると思います。収入面についても、昭和は地上波テレビ中継、平成は会場での生観戦だったのが、令和のコロナ禍では動画配信を軸にして生き残っていると。むしろコロナ禍でも団体は増えており挑戦する人が絶えていない。
昔からしぶといことで有名なプロレス業界。何があっても生き残ってきました。改善されない点もままありますが、他の業界が低迷する中新しい生き方を模索するプロレス業界に勇気をもらいます。
甲野 功
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