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『最近の老人は
主語がデカくて
参るよホント』
これはポスト鬼滅の刃と言われる大人気コミック『呪術廻戦』の3巻で作中最強と称される人気キャラクター五条悟のセリフです。
このセリフは五条悟の上司にあたる楽巌寺嘉伸の
『やれやれ
最近の
若者は
敬語もろくに
使えんのか』
というセリフに対する返答です。
楽巌寺嘉伸は作中で76歳、五条悟は28歳。五条悟は楽巌寺嘉伸から見ればまさに“最近の若者”。それに対して五条悟は“最近の老人”と言い返しています。そして続くのが“主語がデカくて”。
このセリフ回しに私は感心しました。さり気ないやり取りですが社会の真理をついているような気がするのです。
最近の若者。よく耳にするフレーズで、誇張ではなく私が幼少期の頃からあります。ほとんどは目上の年上の人間が自分たちより若い人を揶揄するときに用います。
ありがちな嫌味に対して五条悟は『主語がデカくて参るよ』と言い返すのです。そう主語がデカい、すなわち作中の主語は対象が広範囲で特定性に欠けて一般論にしている。そのことを敢えて“最近の老人”と主語をデカくして言い返しているのです。
作品の流れで五条悟と楽巌寺嘉伸は面と向かって話をしています。楽巌寺嘉伸からみて敬語がろくに使えないのは目の前にいる五条悟に他なりません。それを敢えて主語を“最近の若者”と一般論にして五条悟以外の若者全般にまで広げています。堂々とお前の態度が悪いと言うのではなく。
その態度に対して五条悟は同じように“最近の老人”と老人全般にして“主語がデカい”と指摘(というか悪態)している。その対象は間違いなく目の前の楽巌寺嘉伸に向けているにもかかわらず。センスのある返しだと私は思いました。
※作品の内容として、目上で立場上格上の楽巌寺嘉伸ですが、五条悟にとってはその気になれば倒せてしまうという力関係と、やりたいことを妨害されている苛立ちがあってのやり取りです。
主語を何にするのか。それが大きすぎないか。
日常によくある問題を端的に表していると思います。
日本語は主語を省略することが多い言語です。誰が何をしているのか。誰を省略して行間で読ませる文化があると思います。英語だったら最初にIやyouなどはっきりとさせます。英語に比べると誰が誰に対して何をといった部分を曖昧にすると思います。
また主語を大きくしがちです。個の意見ではなく一般論だからと予防線を張りやすいと言いますか。本当はその人個人の意見であるのに“日本人なら”、“男なら”と大きな括りで言ってしまうことが多い気がします。
責任逃れともとれる。
僕だけじゃないみんなの意見だから。
そのような思惑が出てしまう。
他にも“普通は”、“常識で考えて”、などの個別ではなく大勢の意見だとするような修飾詞を添える場合も。
そもそも“若者”とはどの範囲を指すのでしょう。76歳からみれば50歳でも若者になるでしょう。もちろん28歳も。15歳でも5歳でも若者。加えて“最近の”とはいつになるのか。ここ1年くらいのこと、それとも10年くらい、あるいは1週間?とても曖昧です。漠然としているというか。煙に巻いている言い回しです。
個人の意見を一般論に置き換えて発言することはよくあることです。
日本人なら勤勉であれ。
男なら妻子を養え。
ありきたりな言葉ですが、これらは自分がそうありたいという考えを主語を大きくして一般論にすり替えていると思うのです。海外の人に比べて勤勉ではない日本人もいますし、日本人は世界一勤勉な国民だというのも暴論であると思います。何より日本人というは国籍上なのか遺伝上なのか文化的な意味なのか分かりません。見た目が外国人のようでも国籍も言語も思考も昔ながらの日本人そのものという人はいますし、海外で生まれ育ち遺伝的に日本人でも日本語が話せず考え方や文化はその国のものという人もいるはずです。
男なら妻子を養えというのも健康上の理由で働けない場合や、結婚する気が無い子どもは作らないという考えは無視しています。以前より多様性が認められた時代においてはナンセンスになるでしょう。
そこは、僕は日本人は勤勉であるべきだと考える、とか、私の意見として男性が妻子を養う方が好ましいと思う、といった表現だと私は考えます。主語を小さくし個人の意見であることをはっきりさせて。
自分の意見を、責任を取りたくないがために主語をデカくして誤魔化す。僕はあなたの意見に反論する、とは言わずに、みんながあなたの意見に反論しているんだよ(みんなって誰かははっきりしないけど)にすり替える。それを『呪術廻戦』では風刺していると思いました。
そうならないように私は普段から気を付けてるようにします。そして目に入ってくる氾濫する意見で、それが個人のものなのか、一般常識の範囲なのか、一般論にすり替えた個人のものなのか、を見定める習慣をつけています。
甲野 功
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