開院時間
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先日、学生の頃から当院の勉強会に参加していた新卒鍼灸マッサージ師さんが来てくれて練習会をしました。その方の按摩手技を受けたときのこと。
ほとんど輪状揉捏のみで全身を行うことに衝撃を受けました。
技術的な説明をしておきます。
按摩(あんま)というのは「あん摩マッサージ指圧師」の最初に来る古くからある徒手療法です。日本最初の法律と言われる大宝律令(701年)にも按摩博士という文言があるほど我が国に古くからある技術です。発祥は中国です。薄い衣服の上から体を揉む、押す、叩く、揺らすなどの刺激を与えて人体の調子を整えます。
今も昔も視覚障害者の生業としてあり、昔は侮蔑する呼称として視覚障害者を「あんま」と呼んでいました。当時の視覚障害者は按摩師か鍼灸師か琵琶法師くらいしか仕事がありませんでした。
その按摩ですが基本にして最も重要な手技が揉捏(じゅうねつ)です。筋肉を揉む技術なのですが、揉捏ができれば何とかなってしまうといって過言ではないくらい重要で多用される基本手技なのです。今月当院で学生向けに行った技術セミナーでは、最初から最後までこの揉捏だけを練習する内容でした。それくらい重要です。
術者のどの部分で揉捏するかで
母指揉捏
四指揉捏
手掌揉捏
手根揉捏
などに分類されます。特殊な技術として肘や前腕、さらには足底(足の裏のこと)を使うものもあります。
その他に筋肉を揉み方によって
・線状揉捏
・輪状揉捏
の主に2種類があります。鋸切状揉捏、櫓盪揉捏、錐揉状揉捏、把握揉捏といった特定の部位で行うものもありますが、基本は線状と輪状です。
線状揉捏は字のごとく直線状に筋肉を揉み、往復する方向で動かします。対して輪状揉捏は円を描くように筋肉を揉むやり方で基本的には時計回りか反時計回りの片方のみで行います。
冒頭に挙げた新卒の方の按摩は、全身をほぼ輪状揉捏のみで行いました。私は線状揉捏を多用するので意外であったのです。話を聞くと訪問マッサージの現場で働いていてそこで用いているやり方だそう。
私が驚いたことは相手が自分と違うやり方をしていたことではなく、状況によって線状揉捏と輪状揉捏で使いやすさの違いがあることに気付いたことでした。
何が言いたいかというと、思い返すと私も患者さんの自宅に訪問して按摩を行う時は輪状揉捏を多用しているのでした。普段はあじさい鍼灸マッサージ治療院の中で按摩を行っており、そのときは線状揉捏を多用しています。訪問になると線状揉捏より輪状揉捏を多く使っている事実に気付いたのです。
では、なぜ普段は線状揉捏を使っているのに訪問マッサージになると輪状揉捏を多用するのか?その答えは輪状揉捏の方が術者(つまり自分)の移動が少なくて済むという気付きでした。
院では部屋の中央にベッドを置きベッドの周囲360°どの方向にも立つことができます。そしてベッド外周の自分が動く範囲には物を置いておりません。動きやすい環境なのです。
これが患者さんの自宅や指定された場所に行って行う場合、患者さんの周りに物が置いてあって自由に移動できないことがあるのです。例えば入院している病室いけば一方向から揉むことができないことはざらです。患者さんがベッドから乗り降りする側しか空いていなくて反対側は隣のベッドや壁。頭の方は壁になっているか機材が置いてあって患者さんの頭上に立つことは不可能。足元は転落防止柵がついています。自宅でもベッドは壁際にあることが多くどこか一辺にしか立てないことが多いのです。
線状揉捏は立ち位置を変えていかないと皮膚表面に対して垂直に圧を入れることができません。垂直に圧が入らないと皮膚の遊びができてしっかりと筋肉を捉えることができません。輪状揉捏の場合は円を描く方向に動かす関係で、少し皮膚面に垂直に圧が入ってなくても揉むことができます。つまり術者が位置を変えなくても輪状揉捏の方がやりやすいのです。
このことに気付いて自分で驚いたわけです。
ですから例え訪問マッサージでも広い部屋の真ん中に布団を敷いてそこでやってくださいという状況であれば、普段院内で行っているやり方とあまり差がなくできます。ベッドと布団という高さの違いはありますが。移動できないという制約が入ると俄然輪状揉捏の出番が増えるのです。
今の今まで線状揉捏と輪状揉捏でこのような違いがあるなど考えたことがなくて、私の中では衝撃でした。
線状揉捏は直線状に往復する動きなのですが、輪状揉捏は動かす方向が2種類あります。これは中国鍼の運鍼技術(捻転法)に通じるのですが、時計回りか反時計回りかで違いがあります。背中の筋肉では特にそうで、脊柱から筋肉を剝すように回して動かすのか脊柱に筋肉を寄せるように動かすのかで違いがあります。この違いしか習ったことがなかったのでした。
今回、線状揉捏と輪状揉捏の新たな違いが発見することができました。そして輪状揉捏という技術にもう一度しっかりと向き合うきっかけになりました。飽きるほどやってきた揉捏という基本手技ですがまだまだ気付くことがあるのだと実感し、少し成長できた気がします。
甲野 功
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