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~『その人それぞれ』という回答~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 人それぞれですね
質問に対する『人それぞれ』という回答

 

 

日々SNSで情報発信をしていると、特に面識の無い方からも質問のメッセージが来ることがあります。それに対してどう対応するかは人それぞれだと思うのですが、私はなるべく真摯に応えようとします。その結果、どうなるかというと多くの回答が『その人それぞれになりますね』となってしまいます。

 

その人それぞれ。何という玉虫色の具体性のない回答でしょうか。きっと質問者はこのような回答を求めていないことでしょう。ただ本気で考えるとこういう回答になりがちです。

 

順を追って説明しましょう。

 

まず私のSNSにダイレクトメッセージで質問してくる方は知り合いかそうでないかの2択になります(至極当然ですが)。知り合いの中でも実際に会ったことがある人と、SNS上でのやり取りだけの人と、実際に会ったことはないのですがその人が発信している情報を拝見している人といった区分があります。知り合いであれば程度の差はあれ相手のことを知っているのでどういうレベルの質問か察することができます。

 

これが知り合いではない人の質問だとどうなるでしょう。正直なところ何を聞いているのか(どの程度の回答を求めているのか)判断に苦しむのです

 

例えば『ハリって効果ありますか?』といった質問。

知り合いであればどのような回答にするか考える余地があります。10年以上臨床のある同業者の鍼灸師、親類、地元の元同級生、母校の大学関係者などなど。その人が考えているであろうレベルを察して回答しようとします。

 

ところが全く面識のない人から突然このような質問を受けても、私がプロフィールから鍼灸師だと分かった上で質問していると仮定して、

・どういう場合における効果なのか?

・鍼刺激の効果の機序を知りたいのか?

・そもそもハリって何?あなたが想定しているハリとは鍼灸の鍼で合っているのか?

といった疑問が浮かぶのです。

 

そして鍼術は種類がたくさんあります。体に刺す、触れるだけ、擦る、棘のようなものを貼る、刺してテープで固定して数日そのままにする、など。中には熱した鍼を刺すとか、皮膚を切るとか、敢えて血を出す、など特殊なものもあります。一体どのような状況でのような種類の“ハリ”をしたときにどの程度の効果があるか否かを質問しているのでしょう

 

このような疑問を抱いて、あなたのいうハリとは鍼灸の鍼ですか?どういう状況を想定していますか?鍼だとしてもいくつもあるので何を指していますか?もしもドライニードルのことを言っているのであれば私にはわかりませんけど?などと質問に質問を返さないといけません。全く面識がない人にそれができるかどうか(たぶんできない)。

 

結果として

Q『ハリって効果ありますか?』→A『その人それぞれですね』

という回答になります。

 

この例は非常に情報が少ない事例で特別かもしれませんが、実際にこれくらいの要領を得ない質問はままあります。

一般の方だと何を質問していいのか分からないことでしょう。何かの情報を得て頭に浮かんだ質問をそのままダイレクトメッセージで送ってきたのかもしれません。

 

まだプロフィールやタイムラインでその人なりの情報があれば考慮します。性別、年代、生活圏、趣味など。そういったものが分かれば推測して回答するかちょっと質問をすることもできます。例えば「若い女性だと思うのですが、ご自身に症状があって鍼治療に興味があるということでしょうか」など。それが匿名、性別年齢不明、自ら何も発信していないという人(アカウント)ですと変にこちらから質問しても何が起こるか分からないのでこちらから質問をするのは躊躇します。

 

かと言って情報があるから良いというわけでもありません。

 

ここ数年毎年あるのですが、1月頃に『今年受験の鍼灸学生です。どのような国家試験対策をすればよろしいでしょうか?』という質問。これも全く面識のない方からですと『国家試験対策は人それぞれなので何とも言えません』という回答になってしまいます。何故ならその学生と称する方のレベルがさっぱり分からないからです。普通に勉強していれば受かるレベルで直前になって心配になったのか、それともほぼ合格は無理というくらいのレベルなのか。一般的には専門学校が卒業見込みを出さなければ国家試験を受験することはできませんから、卒業試験など事前のハードルは越えていると予想できます。そうだと仮定すると尚更これまでやってきた勉強方法を継続して続けた方が合格の可能性は上がると思うので今まで通りでいいと思うのですが。

 

同じ鍼灸学生さんでも、過去のタイムラインでこの教科がわかない、学内試験で赤点ばかりだった、第○○回の過去問は××%取れた、といった情報が発信されていればそれなりに回答するかこちらから質問して課題点を探ることができます。

そもそもそのような国家試験直前で面識のない私にダイレクトメッセージで質問するくらいなら専門学校の教員を頼った方が100倍効果的です。これまでの習熟度も分かっているでしょうし。過去問対策だってしっかりとやっているはずですから。

 

相手の状況が分かる場合でも「その人それぞれ」という回答をしてしまうこともあります。

 

例えば同業者でかつ相当なレベルにあると分かっている人の哲学的な(ように感じてしまうような漠然とした)質問。鍼灸大学教授から『腰痛に鍼施術は妥当であるか?』など質問されたら、違った意味で悩みます。同業者であるので細かい状況や条件があることを知っているはず。

 

・腰痛とは?

→単に腰が痛いというわけではないだろう。筋筋膜性の腰痛、神経性の腰痛、内臓関連痛の腰痛、悪性腫瘍由来の腰痛、骨関節由来の腰痛など複数の選択肢を想定しているはず。

・鍼施術とは?

→侵襲性の刺激という意味なのか、東洋医学的観点を主眼とした施術という意味なのか、どれくらいの範囲を聞いているのか。

・”妥当である”という表現の意味は?

→禁忌か否かと聞いているのか。積極的に推奨するか否かと聞いているのか。想定しているリスクとデメリットを挙げて比較しろというのか。

・そもそもなぜこのような質問をしたのか?

→自分で答えを持っているであろう。もし無くても自ら調べればいいわけだ。何か意図があってこちらに質問をしているのだろう。どういう回答を求めているのだろうか。

 

などいくらでも深読みできてしまうのです。結果的に『受療する人それぞれ、場合によります』といった玉虫色の回答になってしまうでしょう。

 

これらのように『人それぞれ』という回答はコミュニケーションが取れていない、あるいは取ることが難しい人からの質問に無難に逃げるためのものだと言えます。どのパターンでも、質問の意味や意図が不明瞭なのでもう少し教えてください、とこちらから質問をして探ればいいわけですから。それができない人には「人それぞれ違いますから」という全方位の回答で角を立てない(こちらの意思を示さない)スタンスを取ってしまいます。

 

私は全く面識のない人(アカウント)からの質問にもなるべく真摯に対応しようと心掛けていますがコミュニケーションが取れないだろうなというものに対してはその次第ではありません。正確には考え抜いた結果、『その人それぞれですね』と答えるというか。『その人それぞれ』というのは体のいい自分で考えろというわけですね。

 

甲野 功

 

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