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~4E戦略~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 4E戦略
4E戦略 4Pと4Eの比較

 

 

独立開業すると否応なしに経営業務が出てきます。

母校の東京医療専門学校では開業支援の授業が鍼灸科、鍼灸マッサージ科2年生で行うようになり、少しずつ学校でも学ぶ機会が増えているかもしれませんが、学校指導要領の指定する内容に経営項目はありませんし国家試験に出ることもありません。開業権がある職種で開業する人間が多いのですが、経営についてはほとんどが独自に学ぶことになります。大学で経営学部を出たとか元々経営者だったという限定された条件を除いて、開業者にとって経営は大きな課題です。

 

経営と大きく言っても経営戦略、マーケティング、集客、宣伝、会計処理など多岐に渡ります。私も独立しようと決めたときに経営面が一番不安で、何年も勉強してきました。書籍を買い、セミナーに参加して、サイトを覗き。何より日々の業務から試行錯誤を繰り返して学んでいます。

そこから分かったことは経営とは環境に大きく影響を受け、セオリーとされる基本手段が時代と共に変化していくということ。このやり方がいい!と本に書いてあってもそれが現在(特に新型コロナウィルス感染拡大後のいま)に通用するのかを考えないといけなくなりました。

 

また経営理論の多くは海外のものが多く、略語が頻繁に登場してとっつきにくいところがあります。近江商人の“三方よし”のようなものもありますが、だいたいはカタカナ英語だったり数字とアルファベットのものだったりします。私は元々そういうのが大の苦手でした。文系の人が化学式を見るようなイメージでしょうか。しかしそうも言っていられないの状況なので日々情報を取り入れています。

 

そして新しく知ったのが“4E戦略”なるもの。

 

こういうの多いよなあ、と内心うんざりしながらも学びました。これまでに3S(個人商店の3S3C5A4Pなど紹介してきましたが今度は4Eかよと。そう思いながらも調べてみると時代の変化を踏まえて4P分析を進化させたものだと分かりました。

 

まず4P分析とは何か。以前紹介しましたが4Pとは「Product(商品)」、「Price(価格)」、「Place(流通)」、「Promotion(プロモーション)」の4つです。この項目について自社製品を分析して経営に活かすものです。

これはもはや古典的というやり方と言えて、マーケティングの神様フィリップ・コトラーが提唱したマーケティング1.0のもの。1900年代の製品中心の考え方で、モノが行き渡っていなかった時代、製品を作れば売れたので製品を中心に分析するやり方です。その頃から100年以上時代が経過した現在。4Pという製品中心の考え方を発展させました。それが4E戦略です。

 

4Eとは「Experience(体験)」、「Exchange(交換)」、「Every Place(あらゆる場所)」、「Evangelism(伝道)」の4つのこと。

最初が体験となっていることから分かる通り、4つの言葉の主体は顧客になっています。ありきたりな言葉ですが4E戦略は顧客中心のマーケティング戦略になります。

 

いまは良い製品を作れば売れる時代ではありません。確かに圧倒的に良い製品は売れますが、基本的に業界No1のものだけ。それも圧倒的でなければ即座に真似されて他が安価にして製品にしてしまいます。どのような製品を作って売るかよりもどのような顧客に売れるか(売るか)を考える時代と言えるでしょう

 

4Pと4Eはそれぞれ対応しています。

 

まず4Pの「Product(製品)」は4Eの「Experience(体験)」に対応しています。

これは製品の良し悪しからその製品を得ることで顧客がどのような体験をもたらすのかに変わったと言えるでしょう。

私の業界に置き換えてみましょう。製品は鍼灸施術であったり按摩指圧施術だったりとします。効果のある、痛くない、心地よい、上手といった品質を表す形容詞があります。質が高いのは当たり前でその施術によって患者さんは何を得るのでしょう、体験できるのでしょう。例えば鍼灸を受けたことによってより社交ダンスが上手く踊れるようになった。按摩指圧を受けてよく眠れた。このような体験に視点を変えるということです。

 

施術の質を高める、というのは術者である私の都合です。それはもう最低限のことでそこに注目していても足りません。患者さん(顧客)が施術を受けることでどのような(プラスの)体験をするかを考える。例えば今週末にチャリティーマッサージを行いますが、私の按摩指圧という施術(製品)を受けることで体が軽くなる、健康になる、気持ちが良いといった経験の他に「社会貢献」という更なる体験があります。

 

続いて4Pの「Price(価格)」は4Eでは「Exchange(交換)」になります。

価格は非常に根本的な経営の要素。価格設定で顧客層は変わりますし変えられます。高すぎれば売れないですし安すぎれば利益が出ずに疲弊します。ところが価格だけをみてもうまくいかなくなりました。その値段(価格)と顧客は何を交換するのか、といった視点が重要になりました。例えばバンクシーという謎の芸術家の作品は、一見ただの落書きに見えるものに数億円という値がつきます。顧客は壁に書かれた絵を数億で買って何と交換しているのでしょうか。それは芸術だったり社会風刺だったりそのバンクシー作品の所有者という立場だったりと交換しているのではないでしょうか。

 

私自身の話にしましょう。価格設定は開業する上で非常に難しいところです。商品を卸して売るわけではありませんので原価は驚くほど安いこの仕事。ほとんどは私自身への価値の現れとなります。そして私の拘束時間に対するもの。同時に患者さんは料金と共に自らの時間も支払っています。当院は施術時間で料金を決めているので長時間のコースは値段が上がります。すなわち患者さんもその時間を費やしているとも言えるわけです。時間以外にも院に来るでのコスト(交通費、体力、行き来に掛かる時間など)、あるいはリスク(効果が無かった、より悪くなった、私と合わないなど)も。

患者さんが交換しているものはどこまでなのかを考慮する必要に迫られます

 

4Pの「Place(流通)」は4Eの「Every Place(あらゆる場所)」へ。

製品をどのような経路で売っていくか、販路に関すること全般を流通としてみます。個人商店なのかネット通販なのかなど。これは時代と共にテクノロジーが発達し販路の選択肢が大幅に増えたと言えるでしょう。インターネットの普及と進化によって製品は全世界に売ることが実質可能となりました。京都の工芸品がフランスで人気のように。

 

私の仕事は対人サービスである以上、あらゆる場所というのは不可能です。店舗であろうと出張で訪れるのであろうとその場所に行かないと成り立ちません。ただし情報はあらゆる場所まで伝わります。普段はしませんがオンラインセミナーをするのであれば場所の制限は無くなります。オンラインセミナーの講師や外部組織の会議に参加する依頼は治療院から行いました。施術に関しては当てはまりませんが、他のサブ業務に関してはまさにあらゆる場所で行う可能性を秘めています。

 

最後、4Pの「Promotion(販促)」は4Eでは「Evangelism(伝道)」に対応します。

販促とは製品の販売促進活動。どのように製品を売るかを考えて告知、宣伝をしていきます。対して伝道というのは宗教の布教に関する言葉でその製品を買った顧客が他社に勧めてくれることと言ってよいでしょう。

現在は企業が出したCMの効果が薄れていると言われています。何故ならば情報化社会が進み誰でも情報発信できるようになった結果、企業の発信する自社に都合の良い情報よりも消費者の声の方が信憑性が高いと思うようになったからです。またコロナ禍もあり冒険したくない、失敗したくないという心理が強く働き、損をしない購入心理が強くなっています。

 

このことは特に私の仕事に影響します。対人で行うことですから客観的評価が難しいもの。誰かの紹介が無いと来院しづらい(売れない)ものです。こちらがどれだけ美麗字句を並べても本当かどうかは怪しいですし(判断は施術を受けないとできない)、悪化するあるいは気分を害するといったリスクもあります(そうならないように全力を尽くしていますが)。そうなると私がどのような内容を広報するかよりも、誰が宣伝してくれるかの方が重要になってきます。身近な信頼できる人が推薦してくれるなら行ってみようという気持ちに繋がるものです

 

このように4P分析を踏まえた上で4E戦略を考えると頭が整理されてきます。また製品中心から顧客中心へ、時代の変化とともにマーケティング理論も変化していることが見てとれます。

このことを知ると「技術があればやっていける」という鍼灸マッサージ業界の(かつての)定説は通用しないなと思います。確かに技術は必須なのですが、その技術には“患者さんのためになる”という形容詞が必要になってくるし、そこをきちんと踏まえないといけないでしょう。そして考え方も術者中心から患者さん中心にしていくこと。このようなことを4E戦略から学びました。

 

甲野 功

 

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