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これまでたくさんのマンガを小さな頃から読んできました。その作品数は本当に数え切れないくらい。一つ一つ挙げていくと気が遠くなります。
この年齢になると趣味というより仕事の範疇でマンガを読んでおり、ヒット作品は目を通しておこうという気持ちが強くなっています。小学校から大学生くらいまでに持っていた、作品に夢中になるという感覚が薄れてきています。色々なことを知ったいま、『鬼滅の刃』も『進撃の巨人』も確かに作品に引き込まれるのですが、前者だと『ジョジョの奇妙な冒険』の初期設定を踏襲しているなとか、このセリフ回しと構図は『BLEACH』だなとか、『るろうに剣心』や『NARUTO』のエッセンスも入っているな、という見方をしてしまいますし、後者は実社会の問題を描いているなとか、作者は総合格闘技が好きなのだなとか、余計な感想が入ってきます。
また勉強のために医療系マンガを読むことがあり、『スーパードクターK』らのKシリーズや『ゴッドハンド輝』、『コウノドリ』に古くは『ブラックジャック』といったマンガは参考文献のような意味合いがあります。
これまで読んできたマンガでベスト5を挙げてくれてと言われたら非常に困るのですが、間違いなく上位にくると断言できるのが『め組の大吾』です。
『め組の大吾』は曽田正人先生が1995年~1999年に少年サンデー(小学館)で連載された作品。内容は消防士の話です。1995年は私が高校2年生から3年生の年。阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた年で非常に記憶に残っています。1999年は大学3年生から4年生からの年。連載期間はちょうど私が社会に出る前年で体力が一番あって楽しい学生生活を送っている時期であり、世紀末というワードが社会にあって(ノストラダムスの大予言や2000年問題なんてものがありました)今とは異なった不安が漂っていました。
この『め組の大吾』ですが、雑誌で読んだことがなくどのように読み始めたのか理由が定かではありません。きっかけを忘れてしまいました。今でもそうですが3大少年誌と言われる少年ジャンプ(集英社)・少年マガジン(講談社)・少年サンデー(小学館)が当時もあり、私がチェックしていたのは主にジャンプ。たまにマガジンという感じ。サンデーはほとんど手に取っていませんでした(そのため『名探偵コナン』も『うしおととら』もちゃんと読んだことがありません)。誰かに面白いからと勧められて『め組の大吾』を読み始めたのでしょう。
『め組の大吾』は理屈ではない、感情が揺さぶられるのです。
曽田正人先生は“天才を描くことの天才”と称される漫画家で連載作品のほとんどがアニメ化や実写化されています。どれも主人公は人並み外れた能力やこだわりを持ったいわゆる“天才”。それゆえに偉業を成し遂げるのですが、周囲の人間を置いてきぼりにしてしまう天才の葛藤を持っています。
『め組の大吾』の主人公、朝比奈大吾も災害現場では本能的な危機察知能力を持っています。理屈ではない、説明できない、第六感のような。そしてそれに従い一心不乱にに突き進んでいきます。描く線の不安定さもあり、少年マンガらしい現実味の無いストーリーなのですがキャラクターはやけに生々しいという印象を受けました。
特にあの時代は阪神淡路大震災に地下鉄サリン事件と自然災害にテロと突然事故に巻き込まれるという実感がリアルにありました。
災害現場でしか発揮できない才能、それも人並み外れた。それを持つ朝比奈大吾は人が悲しむ災害現場でしか輝くことができない、心の奥で災害がこの世から消えたら自分の居場所がなくなってしまうのでないかという不安を抱えています。その不安は消防士、レスキュー隊にとってあってはならない不謹慎なもの。その心情を吐露したことで、朝比奈大吾は同期でライバルであり仲間である甘粕士郎と大喧嘩することになります。
後に朝比奈大吾と甘粕士郎は“2人のA(エース)”と称されるハイパーレスキューのトップ隊員になります。最終話のエピソードにおいて、ヘリで現場に出場するときに朝比奈大吾に語る甘粕士郎のセリフはこれまで読んできたマンガの中でも特に印象深いものでした。ここでは紹介しませんので気になる方は読んでください。
4年間の連載期間、単行本20巻という比較的短い作品でありながらとてもインパクトがありました。
それから20年の時間を経て続編となる『め組の大吾 救国のオレンジ』が月刊マガジン(講談社)で連載開始となりました。前作が小学館のサンデーで続編が講談社のマガジンというのもちょっとした驚きです。はっきり言えばライバル出版社に行ったわけです。それも続編で。
曽田正人先生は秋田書店の少年チャンピオンでも連載経験があり、大手三社を渡り歩いた稀有な漫画家。今後ジャンプの集英社で連載すればメジャー少年誌制覇となるでしょう。
『め組の大吾 救国のオレンジ』を知ったのは別のマンガを買ったときに広告が出ていてその存在を知りました。高校・大学生の頃に読んでいたのがまたやるのだ、という感想。最初は手を出すのをやめておこうと思ったのですが、数ヵ月後にはやはり気になって買ってしまいました。
読んでみると、この年になってもやはり揺さぶられる作品でした。
当然ながら画力が上がり、より見やすい絵と構成。実社会でも25年が経過しており、作中は令和になっています。救国のオレンジの主人公は十朱大吾で前作同様「大吾」です。
第一話では東京スカイツリーらしき建物が折れた災害シーンから始まります(災害地の住所は墨田区押上)。最初から一つのクライマックスを描いており、そのあとに数年前のシーンから物語が続いていきます。『救国のオレンジ』の大吾も前作同様、周囲の常識を超えたレスキュー能力を発揮しています。ただそのモチベーションは前作よりも複雑で生々しいものになっています。
大人になって『め組の大吾 救国のオレンジ』を読んで分かったことがありました。それは舞台設計が秀逸であること。消防士の話というのは優れた題材でした。
まず現実に存在し、身近なものであること。町に消防署があり生きていれば必ず消防車や消防隊員を目にします。架空のストーリーではありません。次に災害を体験する可能性は決してゼロではありません。人生で火事や災害を見たことがない大人はまずいないでしょう。小さなボヤから大災害まで何かしらは体験することはなくとも実際に見ることはあるはずです。特に近年自然災害が多発していますからマンガの中のお話でしょうということにはなりません。
そして明確な敵のいない戦いであること。男性向けマンガのほとんどは“戦い”がテーマです。何かと戦って買って時に負けて成長する話がほとんど。恋愛マンガでも恋敵と争うというのであれば戦いと言えるでしょう。スポーツでも芸術でもバトルでも何かと戦い争うのがベースにあります。ところが消防士は明確な敵と戦っているわけではありません。災害という不可抗力から人を救うための戦いをしています。よってラスボスというものがいません。炎、水、熱、煙、高さ、毒物、鉄筋コンクリートといった無生物が相手。戦いにルールがなくその都度状況が違うという、本当の意味で何でもあり。登場人物は岩を砕くパンチも衝撃波も呪文も超能力も出しません。最先端の災害対策アイテムと(常識的な)基礎体力、それに災害現場の知識を駆使して挑みます。
もしかしたら明日自分が巻き込まれるかもしれない災害に対して、非現実的な能力ではなく本当に行っている訓練と日々科学によって進化するアイテムを駆使して、ルール無用の災害現場に挑むレスキューが題材というのは凄いことだと気づきました。このシチュエーションで魅力的な“天才”大吾がどのように動くのかが面白いのです。
久しぶりに読むと冷静でいられなくなる作品に出会いました。
甲野 功
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