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先日、東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科2年生を対象に特別授業を行いました。東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科(以下、教員養成科)は私の母校にあたります。30期として入学し、2014年に卒業するまでの2年間在籍しました。毎年この時期に関東鍼灸専門学校副校長である内原拓宗先生と一緒に主にSNSに関する内容で2年生を前に1コマ(90分)話をしています。今年で5回目。毎年のことですが緊張しました。
日本で最も古くからある鍼灸マッサージ専門学校の教員免許を取得することができる科です。以前は他校にもっとありましたが現在は数が減っており、1年に生まれる専門学校教員の半分を当校が輩出しています。ここで登壇することは非常に栄誉なことであり、私も聴く学生の立場だったのでその価値が分かります。うちの教員養成科は教員免許を取るだけでなく、「10年の修業を2年で行う」をモットーに食える鍼灸師を育成することを掲げています。そのため知識だけでなく技術、臨床、研究、経営と学ぶ内容は多岐に渡ります。そこの1コマの半分を頂くので変なことはできません。
特に今年はSNS関連で大きな事件があったと思うので、どう伝えようか悩みました。この授業のために1年間をかけてネタを収集しているところがあり、何を入れて何を削ろうかと。コロナ禍と言われる社会環境になって丸一年以上。それまでになかった出来事が増えました。
そもそもこの授業の発端は意外なことです。4年前に関東鍼灸専門学校の内原先生がクラウドファンディングを行ったことが全ての始まり。教員として行き詰まりを感じ、特にお金のことを知らないと言われてきた内原先生は、キングコング西野亮廣氏が書いた広告やお金に関するビジネス書籍『革命のファンファーレ』を生徒に配布したいと考えます。そこで資金を調達するために当時はまだまだ知られていなかったクラウドファンディングを実施、成功させます。その出来事をSNSを通じて知った私は専門学校の副校長という立場で凄いことをしたと感嘆しました。当時は内原先生と会ったこともありません。今も何かと騒がれているキングコング西野氏が書いた本を鍼灸専門学校の生徒に配布するとは。それもクラウドファンディングを実施して。
内原先生の行動は更に進みます。鍼灸師になる学生に渡すのも大切だが同じように専門学校教員になる人たちにも知らなければ意味がないのではという助言を得て、内原先生は母校の教員養成科にも本を寄付することを決意します。そこでTwitter上で本を寄付してくれる方を募りました。このときに内原先生が教員養成科の先輩であることを知り、私も『革命のファンファーレ』を読んで大いに参考になったため、寄付しますよと声を挙げました。ついでに教員養成科に渡しに行くときはその現場を見てみたいです、とあまり深く考えず連絡をします。教員養成科側も関東鍼灸専門学校副校長がやってくるので(当時としては)鍼灸業界で珍しいクラウドファンディングのことを授業で話をしてくださいとそのときの学科長が決めました。そうしたら、内原先生が私に開業鍼灸師の立場でSNS活用について話をしませんかとお話してくれました。せっかくのご提案なので引き受けますと私は返事をしました。この時点でもまだ内原先生とは会ったことがありません。私も教員養成科卒だったからということもあるでしょうが、Twitterのやり取りだけで教員養成科で話す機会を貰ってしまったのです。本当にちょっと前では考えらない事態だと思いました。そのときは何となく内原先生は専任教員の立場でSNSを活用しクラウドファンディングを成功させたことを話し、対比的に個人鍼灸院を開業している立場で私のしているSNSのやり方を話しましょうという段取りでした。それが5回続くことになるとは。
2017年あたりから鍼灸業界でSNSが定着し、大きな動きが生まれたと言えます。今では普通になったZOOM配信も2018年の3月には関東鍼灸専門学校で行われた美容鍼セミナーで全国に向けて実施しています。今や鍼灸業界のWebメディアとして確立された「ハリトヒト。」もその成り立ちにはSNSの存在が大きく関与しています。コロナ禍になる前までは全国といっていいほどのレベルでイベントが生まれ人が行き来し、情報発信がされました。関東の鍼灸師が関西に出かけることもその反対も珍しいことではなくなりました。それも既存の学会ではなくフリーでオープンなイベントとして。閉鎖的だった鍼灸業界が急激に開かれて交流が活発になった大きな一因に、SNSの役割は本当に大きいと思います。
それからコロナ禍となりSNS環境も大いに変化しました。昨年の授業のときもコロナ禍ではありましたが、今年は数多くのトラブルが目に入りました。それまでの授業ではSNSの利点だけを述べてきたのですがネガティブな面も紹介しなければいけないかなと悩みながら資料作成を始めました。私は当たり前のように日々利用しているSNS。まだまだやっていません、怖いので近寄りません、という学生さんは少なくありません。授業をしてもほとんどがアカウントはありますが何もしていません、うかつなことを書いて炎上が怖いです、という声が多いのです。そのためネガティブな面を話すのはより遠ざけるという懸念がありました。だからといってSNSは素晴らしいツールですよと双手を挙げて礼賛するのも違うなと。同じことを内原先生も考えていたようで事前に先生の制作途中の資料を見せていただきました。そこには私が紹介しようか迷っていたトピックよりもずっと深く多様な内容が掲載されていました。内原先生も同じ考えだったようで、内容が被っては勿体ないので私は違った情報を紹介することに決めます。
私に求められる話の内容は開業鍼灸師のSNSテクニックだと捉えています。開業して丸7年。どのように生き残ってきたのか。その生の体験を学生さんは知りたいし教員養成科は求めているのではないかと考えています。一度も内容に関して指示されたことはありませんが。開業権がある我々の職業、経営や集客、マーケティングなどは無視できないもの。一生勤め人であるならば別ですが、多くの人間がどこかのタイミングで独立を視野に入れます。教員養成科を卒業しても全員が学校の専任教員になるわけではありませんし。今年もベースはSNSを使った経営手法にしようと決めました。“SNS活用”という表現で。
軸とするのはマーケティングについて。私がマーケティングのことをきちんと知ったのは森岡毅氏の本からでした。経済番組『カンブリア宮殿』に低迷していたユニバーサルスタジオジャパンを大躍進した立役者として出演した姿に感銘を受けて手に取りました。そこから真剣に学び、自ら試行錯誤してきました。マーケティングとは営業とか市場調査とか宣伝活動というものではなく、非常に広い活動範囲を指します。決して「金儲けのノウハウ」ではありません。昨今、技術の研鑽に励まずマーケティングに走る鍼灸師が多い、というような声を見かけるのですが、技術とマーケティングは対立するものではなく、技術を磨く、勉強をする、学会に出る、論文作成するといったことも開業鍼灸師にとってマーケティング活動に入ると考えています。そのことを伝えたかったのです。専門学校が国家試験に合格させることが絶対に逃げられないように、開業鍼灸師は売上から目をそらすことはできません。利益が出なければ活動は終わりですし、その立場に私はいるのです。
ではマーケティングとは何か。その定義は曖昧で変化してきたことを伝えるために、フィリップ・コトラー(マーケティングの神様と称される経済学者)が推奨するマーケティング1.0からマーケティング4.0の変遷を紹介します。社会環境の変化でマーケティングが変わってきたのですが近年SNSの存在が大きく影響していると。インターネットの普及により情報量が膨大に増え、SNSによって利用者も提供者も情報を発信できてかつ相互に繋がることが容易になりました。このような社会でなされるマーケティングとは。
続いて私の自己紹介。これは毎回行う、時系列にそって詳細に行います。講師がどれだけ正しいためになることを言っていても嫌われてしまったら(拒絶されたら)効果が薄くなります。人は知らないことを拒絶します。反対に言えば情報があれば安心しやすくなります。なので途中で結構に時間を割いて私の自己紹介(これまでの経緯)をしっかりとします。そうすると聞く側が少し身近になって話を受け入れやすくなります。このやり方が、開業してからずっと行っているSNS活用のキモ。自分を知ってもらうこと。
今度は消費者心理の変化について話題を変えます。マーケティングの一環ですがモノやサービスを購入する消費者は考え方が変わってきたという話。結局それもSNSの登場によるものが大きいのですが。AIDMAから始まってULSSASまで。敢えて横文字を紹介します。その変遷でUGCというキーワードを挙げます。ユーザー・ジェネレート・コンテンツ、UGC。平たく言えば口コミなのですが、SNSによってUGCが生まれやすく、かつ広まりやすいということを挙げました。情報を発信することそのものがコンテンツであり、そこに誰かがリアクションするだけで(いいね!を押す、コメントする、リツーイトする、など)それはUGCになる。提供者が出す情報(コンテンツ)がUGCになることで信用度、魅力度が大きくなるのです。
そして情報発信の仕方について。情報発信そのものがコンテンツになるのですが、それには2種類あると。2種類の特徴を踏まえてどう使い分けをするのか。TOYOTAの方法を具体例に紹介しました。また私の(あじさい鍼灸マッサージ治療院の)やり方も少しだけ紹介します。最初のうちの授業ではこのノウハウを詳しく話してきましたが人によって通用しないと考えるようになって省略することにしています。
最後にここ1年で起きた省庁の発表について紹介。Yahoo!広告のレポート、経済産業省の出した医業類似行為等に関する健康被害に対する報告書、経済産業大臣から厚生労働大臣に向けた勧告、厚生労働省からの指示など。このような大きな社会ニュースからSNS利用の危険性を最後に述べて終わりました。
一通り資料をまとめた結果、ずっと悩んでいた講義スライドのサブタイトルを~時代の変遷~とすることに。理由は時代、すなわち置かれている社会環境は変化してきていること、それはSNSの利用環境も含まれる、ということを伝えたいということです。今年も内原先生が先に講義をしました。事前に資料を見ていたので内原先生の話す内容に対応したアレンジをすることができました。私一人だともっととっ散らかった内容になっていたことでしょう。講義内容は毎年変えているのでベストかどうかは分かりませんが、私の中ではベターになるように努力しました。
教員養成科のある代々木から帰宅するとき、大きな仕事が終わって疲労感と充実感に包まれました。
甲野 功
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