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先日行った東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科特別授業。今年で5年目で関東鍼灸専門学校副校長内原拓宗先生と担当しています。
前半は内原先生が行うことが恒例となっており、私は登壇者であると同時に講義を聞く立場にもなります。教員養成科の学生さんは私達2名の話で一つの授業であるので前半の内原先生パートと連続して聞きます。毎年のことですがほとんど内原先生とは意見交換をすることなく本番に臨みます。だいたいこういうことを話しますという程度。ですから私は当日内原先生の話を聞く生徒でもありますし、その話の流れで自分が話す内容を微調整することにもなるのです。
ここ数年、内原先生の話で特に気になった部分をピックアップしてまとめています。2018年のときは全体を紹介しましたが、2019年は鍼灸業界と社会に共通する世代間のことや組織の在り方などについて書きました。昨年は内原先生が語る「SNSは『実力』をつけるためのツール」という点に絞って。
今回の授業で私が一番気になったこと、そしておそらく内原先生が最も強調していたことが“ホワイト化”というキーワードでした。
ブラック企業という言葉が一般化しました。劣悪な労働環境、社会倫理から逸脱した振る舞いをする(強いる)といった企業をブラック企業と一般的に呼びます。そのブラックに対応する意味でホワイトを用い、社会のホワイト化という言葉を出しました。この授業は根っこにSNSがあるのですが、内原先生はSNSは社会のホワイト化をもたらすとしています。これはどういうことでしょうか。
数年前から指摘されたことですが、SNSの普及により一般の人もメディアのように情報を世間に届ける術を持ちました(実際に届いているかは別の話ですが)。それまで見過ごされてきた問題も広まるようになったのです。
例えばマスコミが発表したことが実は間違っていた。テレビ番組のやらせを関わった一般人がSNSで指摘する。
声を挙げる場ができ、それが広く拡散して影響力を持つこともある。そのような状況はSNSが生み出しました。
特に今年は東京オリンピックに関して多くの担当者が失言や過去に行った行為を問題視されて辞任、解任しました。リアルタイムで起きた報道をSNSが拡散して大きく発展する。数十年前のことを調べ上げてSNSに投稿しそのことが周知される。今に始まったことではありませんが特に目立ったように感じます。コロナ禍により現実世界の交流(オフライン世界)が激減しネット上でのやり取り(オンライン世界)が激増したここ2年で、相対的に目立つようになったようにも考えられます。
内原先生はこのような流れを社会のホワイト化と説明し、ホワイト化時代の鍼灸について言及しました。鍼灸業界でもSNS上で大小様々な議論や問題に対する指摘が行われており、今年に入って起きたいくつかの事例を紹介しました。そのことが強く印象に残りました。
というのも私も授業資料を作るにあたりSNS上で起きた鍼灸業界の出来事を紹介しようと考えていました。毎年SNSを利用する利点しか話しませんでしたが今回は問題点も紹介した方がいいのではないかと。しかし直前に見せて頂いた内原先生の発表資料には私が考えていた想定を越えた内容が載っており、それを拝見してこの話題に触れても仕方ないので資料に入れるのを控えました。
毎年の事なので分かるのですが、内原先生のこの授業内容はかなり先生の心情が現れます、それも直近の。内原先生がSNSや社会、そして鍼灸との向き合い方が変わってきているのだと。それを端的に表す表現が“ホワイト化”なのだと思いました。専任教員として鍼灸専門学校で働くと同時に大学病院漢方科で鍼灸師として外来に立つ内原先生は、社会と同様に鍼灸業界にもホワイト化の流れが来ていると捉えていました。
私も特に今年になって同じような考えを持つようになっていました。
ダメなことはダメ。そういう社会になっていきている。
それをホワイト化という言葉で表現されたなという感想です。この特別授業で毎年のように話すことが、SNS(ネット)の普及により嘘がばれる時代になった、ということ。嘘をついても誰かがすぐに指摘し検証される。少し前まではこれくらい大丈夫だろうと大げさに風呂敷を広げても見過ごされていたことが、そういかなくなったのです。
一億総監視社会なんて言葉がありますが、SNS上ではおかしいと思う点を指摘する土壌ができているように思います。ブロックチェーンのように個々がチェックすることで情報の訂正、上書き、新たな情報提示が自然に起きている。内原先生の資料には具体例が提示されていました。
またネット上だけでなく行政側も以前よりも厳しく目を光らせています。小顔矯正に対して医学的根拠が無いとして景品表示法違反の措置命令が下されたのが数年前。今年の薬機法改正もあり、医療や健康に関する誇大広告を取り締まる動きはコロナ禍で加速。表現に厳密さが求められてきています。
内原先生は「SNSは『ホワイト化の波を実感し、波にのる準備をする場』」と話しました。
私はSNSによりホワイト化が進むと考え、内原先生はそれを実感して準備するためのものと考えています。若干の差異はありますが同じようなことを考えていたことが興味深いです。
授業後にある学生から質問が出ました。「結局、声の大きい人の意見がまかり通ることになるではないのですか?」という内容でした。私の考えは、声が大きいというのは立場強い権力がある人の声に等しいという前提でSNS及びネットによって(立場が弱い一般市民の)小さな声が増幅されると考えています。むしろ声の大きな人が思い通りにできなくなっていくのではないかと。そうでなければ実績のある人間が失言によって役職を辞任させられることは起きないでしょう。100の声で押し切ろうとも1の声が1万集まれば勝てるはずもありません。
ホワイト化という言葉が何かピタッとはまった感じがします。社会のホワイト化、鍼灸のホワイト化。大きなヒントを特別授業で得ました。
甲野 功
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