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先の灸法臨床研究会で話をした『鍼灸院経営におけるSNSの活用』。そこでSNSがもたらした鍼灸業界の変化を冒頭に説明しました。
おそらくまだまだ、SNSは危険なもの、鍼灸師には関係が無い、そんなものに時間を使うなら技術を磨け、怖いから手を出さない、やってみたいけれどどのようなものか分からない、というネガティブな声があると思います。これらの意見が完全に間違っているとは言い切れません。必要がなければ手を出さない方が無難であるかもしれません。
ただこのテーマで依頼された以上、鍼灸院経営でSNSを活用する話をするわけで、セミナー参加者に知っている人も知らない人もSNSの登場によって鍼灸業界が変わっていたことがあることを伝える必要があると考えました。
このセミナー依頼の件とは別に、以前からここ数年の出来事をまとめておく必要があると考えていました。今の鍼灸専門学校に通う学生さん、これから進学しようかと考えているプレ学生さんにとってSNSから情報収集することはごくごく当然のことになっています。もちろんSNSなど知りません、使っていません、という人もいるでしょうが、確実にここ最近増えてきていると感じています。
この状況はずっと前からあったわけではなく、本当に最近になって生まれたということを知ってもらいたいのです。長年試行錯誤を経てできた安定した状態ではなく、始まったばかりの変化に富んだ状況であること。ほんの少し前には考えられなかった。時代の変化というものを記しておきたい、おかないといけないと考えていました。
今から10年以上前。2000年代中頃に私はmixiを使っていました。今はほとんど使われていませんが、当時は利用する人が周りに結構いました。主に本名を使わずハンドルネーム(つまり偽名)で登録し、互いにやり取りができる“マイミク”というものになるには申請を出して相手の許可が必要でした(マイミク申請と言いました)。そして共通の話題や趣味で集まったグループが多数存在し、互いに誰だかよく分からない状態で意見を書き込み合っていました。いまをときめくひろゆき氏が作った2ちゃんねる(当時)というネット掲示板に比べると、やや非公表な感じがありました。
その後、実名登録が基本のFacebookが登場します。ネットに実名を出すのは危険だという意見がありましたが、実名だからリテラシーが守られるとも考えられ、こちらに移行する人が多かったと思います。私も段々とmixiから遠ざかりFacebook中心になっていきます。
実名登録が基本で“友達”の上限が決まっているFacebookに対し、多くのユーザーがハンドルネームを用いて素性を隠した状態で行うTwitterも広まっていきました。Twitterはフォローをするのに申請が必要なく、そのフォロー数・フォロワー数に上限がありません。140文字限定という仕様もあり情報が広まるスピードが非常に高いSNSです。
日本でSNSが普及する要因の一つに東日本大震災が挙げられます。あの日、携帯電話は本当に繋がらなかったです。家の電話は無事でしたが携帯電話が繋がらないことで非常に不便を感じました。そのときSNSは生きていて、特にTwitterにより決して少なくない命が救われたと言われています。かく言う私もTwitterを始めたのは東日本大震災がきっかけで情報を得るための手段として登録したものでした。
私があじさい鍼灸マッサージ治療院を始めた2014年当時。宣伝する資金が無いため(特にネット広告やビラを作る必要もないと考えていましたが)、広報活動としてFacebookを大いに利用していました。その頃はホームページをある程度作り込んでしまうと、特に更新する内容がありません。Facebookに日々投稿する方が効果があったと思います。またFacebookは実名登録で顔も載せている人が多いため互いに素性が分かることが信頼感を生みました。特に小学校、中学校、高校と携帯電話普及前の友人たちとの繋がりを復活させるのに非常に便利なツールでした。
Facebookはまだまだ仲間内だけの世界に留まっている感じで実際に会ったことが無い人の友達申請は警戒します。当時から利用している鍼灸師は少なくなかったのですが、個人的な日記を知り合いに向けて公開しているという感じでした。段々とFacebook内のグループが生まれてやり取りするようになっていましたが、今ほど活況ではなかったと記憶しています。
鍼灸業界に影響を及ぼしたSNSと言えば、私はTwitterだと考えます。前置きが長くなりましたがTwitterを中心にSNSが鍼灸業界にもたらした変化を書いていきます。新型コロナが流行する2020年はじめ頃までを目途に何が起きたのかを、私が経験したことを中心に紹介します。
鍼灸業界で時代を変えたキーパーソンが関東鍼灸専門学校内原拓宗副校長です。私はそう考えています。
内原先生が2017年、当時は非常に珍しかったクラウドファンディングを行い在校生にキングコング西野氏の著書『革命のファンファーレ』を配布する企画を立て実行します。今でも色々と言われている西野氏。その著書を鍼灸専門学校の学生に副校長という立場の専任教員が配布する。その資金をクラウドファンディングで募る。今みても相当すごいことをしています。
関東鍼灸専門学校は伝統校と言われる古くからある学校の一つ。40年以上の歴史を誇ります。私も鍼灸マッサージ教員養成科を出ていて同じように伝統校である東京医療専門学校を卒業していますから、専門学校教員の雰囲気は分かります。ちょっと信じられない行動だと私は思いました。まして内原先生は40代。思春期の頃からスマートフォンを触っているスマホネイティブ世代ではありません。今のようにクラウドファンディングが当たり前になる数年前にそれを達成するためにSNSを使って寄付を募りました。
このクラウドファンディングをきっかけに全国の鍼灸師、関係者が内原先生と繋がったといいます。
2017年の時点でSNSを活用する鍼灸師はたくさんいました。ただ比較的若い20~30代前半の人が多かったと思います。私もぎりぎり30代だったのですがTwitterでこの取り組みを知りました。専門学校の管理職である先生とSNSを使うことに抵抗がない若い、そして全国の鍼灸師が内原先生の取り組みを知り面識が生まれたのです。これまでは母校、勉強会、師匠と弟子、業界団体、学術会、職場といった所でしか鍼灸師同士が知り合う機会がありませんでした。そしてそこには少なからず封建的な上下関係やハラスメントが存在し、若い世代とベテラン世代の壁が生まれていました。私の世代は上下関係がまだまだ厳しい中高大学生時代を過ごしましたが、今の20代や30代はじめの人たちにはそれがパワハラでしかない、という。壁ができて当然の世代差、そして伝統校専任教員と臨床現場にいるいち鍼灸師との立場の壁を越える出来事だと考えています。
このクラウドファンディングをきっかけにそれまで交わることがなかった人々がどんどん繋がっていったと思います。
内原先生は生徒だけではなく、これから教壇に立つ専門学校教員の卵にも『革命のファンファーレ』を読んでもらった方がいいと助言を受けて、母校の東京医療専門学校教員養成科にも持っていくことにします。その取り組みをTwitterで知った私は内原先生が教員養成科の先輩であることを知ります。内原先生に賛同した私は本を一冊寄贈することにしました。その時に一緒に教員養成科に渡すことになり、内原先生がクラウドファンディングを行った経緯や感想を授業で話すという流れになりました。おそらく関東鍼灸専門学校副校長が来るので教員養成科側も顔を立てたのではないかと思っています。更に内原先生から開業鍼灸の立場からSNSについて話しませんかと声を掛けていただき、二人で授業を行うことになります。
これが2017年から続く特別授業の始まりでした。
当日教員養成科職員室で内原先生と会ったのが初対面。それまでメールのやり取りしかしていませんでした。教員養成科の授業がTwitterで決まるということがあるのか?と戸惑いました。教員養成科で授業するのは非常に名誉なことです。卒業生だからよく分かります。それがOBであることを差し引いてもTwitterで決まるとは。それもSNSについて話すなんて。90年以上の伝統を誇る母校はSNSが嫌な(相手にしていない)学校だと認識していましたから。
鍼灸専門学校の教員がSNSを使い出したことは大きな時代の変化だと思いました。そして内原先生のクラウドファンディングを起点に大きなうねりが生まれていきます。
上に挙げたように2017年の12月に東京医療専門学校教員養成科2年生を対象に、鍼灸師のSNS活用について特別授業が行われます。
翌2018年3月には関東鍼灸専門学校で美容鍼セミナーが開催されます。
積聚を教える関東鍼灸専門学校で美容鍼のセミナーというのも当時はかなり意外なことでした。しかも講師は三重県からよんで。若くまだまだ関東では知られていない、何か団体で役職があるわけでもない、鍼灸師が講師を務めます。クラウドファンディングで内原先生と縁ができました。以前であったらちょっと考えられないと思いました。加えてそのセミナーをZoom配信で全国の鍼灸師にリアルタイムで見せたのです。今では誰でも使うZoom。2018年の時点で生配信を行っていたのです。それができる若い世代の鍼灸師が参加していて裏方として手伝っていました。時代の先を既に行っていたと思います。
ある鍼灸学生さんが「臨床現場に出ている鍼灸師の施術を見学したい」という内容の呟きをします。それならば場所を提供しましょうか、と声を挙げる開業鍼灸師が現れます。続々と手伝いましょうという鍼灸師が増えて、自然にイベントが発生。
2018年5月には学生施術見学会が行われます。講師は現場に出ている鍼灸師4名でその中に私と内原先生もいました。他には三重県から来た美容鍼を行う20代の鍼灸師、30代の美容鍼を行う鍼灸師。20代、30代、40代の鍼灸師が学生及び鍼灸師の前で施術を見せる。なんと大阪から参加する鍼灸師もいました。更に大阪の鍼灸器機メーカーも見に来ていました。この時もZoom配信も行われました。
業界団体のイベントでも学術大会でも専門学校主催の会でもない、個人がTwitterを介して集まり自然と役割分担が決まって開催されたイベントでした。発端はいち学生さんの呟き。しがらみのない、スピードが速い、フットワーク軽く集まってくる、これまで経験したことが無いイベントでした。学校もキャリアも問わず集まり多くの交流が生まれました。
この学生向け施術見学会の他にも鍼灸BBQ、若手鍼灸師忘年会、アースデイのお灸イベントなどTwitter及びSNSを力にして様々なイベントが開催されました。そこには専門学校専任から学生さん、鍼灸師歴10年以上の中堅、ベテラン鍼灸師から新卒鍼灸師まで所属を問わず集まりました。個人的なイベントも多数行われて鍼灸師の交流が非常に活発になりました。東京の鍼灸師が関西に行く。関西の鍼灸師が東京に来る。東海地方に集まってイベントをする。このような地域をまたいだ移動も珍しくなくなります。以前であったらまず出会わなかった地域の鍼灸師同士が顔を合わせる。その原動力にTwitterがあったと思います。
2019年にはWebメディア『ハリトヒト。』が誕生します。『ハリトヒト。』は主に鍼灸師のインタビューを中心としたメディア。今では業界内で大きな存在となっています。この創設メンバーを私はほとんど知っているのですが、関東と関西で地域が異なる鍼灸師が集まり結成しました。その出会いは主にSNSを介したイベントがきっかけでした。
『ハリトヒト。』はネット上の記事だけでなく製本された冊子も作成。2019年には「ハリトヒト。マーケット」というイベントを関東鍼灸専門学校で開催。ここには白髪の大ベテランの鍼灸師から学生まで、複数の業者も参加、東北や大阪といった遠隔地からも人が集まる多種多様な催しになりました。私は大阪から来た学生さんと出会い、たくさんの鍼灸師を紹介しました。またこのとき私は知らなかったのですが、会場で見かけて後に会うことになる鍼灸師さんが何名かいました。
このようにSNSはこれまで存在していた所属する学校、職場、学会・勉強会とは別の場(フィールド)を生みました。個人がネット上で交流するためだけのツールからその役割を変えました。鍼灸業界の、世代、地域、キャリアの壁を越えて自由に交流、情報交換する動きを生んだと言えるでしょう(※2020年の新型コロナが感染拡大してからはまた状況が変わったと思いますが)。
変化の激しい現代。IT革命の波(SNS)は保守的であった鍼灸業界にも変革をもたらせたと思います。もちろんまだまだ以前と何も変わっていない部分もあるでしょうが。少なくとも無視できない社会環境になったといえるでしょう。この先、どのように業界が進むのか注目しています。
甲野 功
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