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先日紹介したRICE処置。少し説明をすると手足(四肢)の急性外傷、いわゆるケガに対してRest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字をとったものがRICEであり、英語のお米という意味ではありません。
ケガの応急処置の基本とされています。私は鍼灸マッサージ専門学校、柔道整復師専門学校の両方で習いました。少なくとも15年以上前からあるものです。
そして同じくらい前から「RICE処置はもう古い」という意見が見受けられてきました。RICE処置ではなく、これからはこれだ!というものが登場しているのです。それらを紹介していきましょう。
<亀田メディカルセンタースポーツ医学科 ホームページ 怪我後の早期管理について 〜RICEからPOLICEへ〜>
まずは亀田メディカルスポーツ医学科のホームページより。ここではRICE処置からPRICE、更に発展してPOLICEが生まれたとしています。
既存のRICE処置のR(安静)。この安静だけではケガをした部位(組織)を保護できないのでProtection(保護)を加える、RICE+PでPRICE処置に変わったと言います。Protection(保護)、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の5つですね。もちろん価値を意味する英語ではありません。
さらに時代が進み、ケガをした後に必要以上の長期間、固定・安静をすることは悪影響を及ぼすということでRest(安静)をOptimal Loading(最適な負荷)に置き換えたPOLICE処置というものが登場します。「最適な負荷」というのは少々分かり辛いですね。受傷直後から経過観察をしながら、なるべく早くから動かした方が回復が良くなるのです。動かすというのは正確ではなく、関節を動かさないで力をこめる(筋肉を収縮させる)、体重を掛けるといったことも含みます。これらのことを「負荷」と表現します。トレーニング、リハビリテーションと捉えてもいいかもしれません。POLICEとは
Protection(保護)、Optimal Loading(最適な負荷)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の5つの頭文字(6文字になりますが)ですね。もちろん警察を意味する英語ではありません。
このRICE→PRICE→POLICEの変遷があります。そこにPRICEとPOLICEを使い分ける意見がありました。
<目指せスポーツドクター ブログ スポーツ外傷の応急処置においてRICEはもう古い?これからはPRICE、POLICEの時代に!>
整形外科医でスポーツドクターをしているという方のブログです。
ここではPOLICEは医療者向けの四肢外傷の処置、PRICEは一般人向けの四肢外傷の処置、というような説明をしています。POLICEとPEICEの違いはOptimal Loading(最適な負荷)の有無。このブログでは“各組織、部位に対する適切な負荷は専門家の意見を聞いてから行うことを推奨します”と注意しております。
続けて“POLICEは外傷への現場対応というよりは、その後のスポーツ復帰を早めるための治療に関する考え方です”としています。この視点は鋭いと思います。応急処置で最適な負荷を掛けている暇はないでしょう。筆者は個人的な考えとして、スポーツ現場ではPRICE処置、それ以降の治療ではPOLICE処置を推奨する、といいます。スポーツ外傷では最悪の場合を想定して患部を安静にした方が無難であり、然るべき医療機関でしっかりと診断してもらう。その後の治療は最適な負荷を含めたものを意識すると。
スポーツドクターである整形外科医の立場から述べた意見として、非常に納得できる内容ではないでしょか。
POLICEから更に増えたPEACE&LOVEという概念が登場します。これはブレーズ・デュボワ氏によって提唱されました。
ランニングクリニック創立者兼代表 ブレーズ・デュボワ氏のブログ
このPEACE&LOVEは軟部組織損傷の早期回復を考えたものです。軟部組織とは筋肉、靭帯、腱、関節包など主に骨以外の身体を構成する組織を指します。その軟部組織が損傷された際の治療方針のようなもの。
まずPEACEです。Protection(保護)、Elevation(挙上)、Compression(圧迫)はRICE、PRICE、POLICEと同じです。加えてAのAvoid anti-inflammatories(抗炎症薬を避ける)、更なるEのEducation(教育)が入ります。教育とは最適の対処法を教え、不必要な受動的療法を避けると説明されています。まとめるとProtection(保護)、Elevation(挙上)、Avoid anti-inflammatories(抗炎症薬を避ける)、Compression(圧迫)、Education(教育)の頭文字でPEACE。もちろん平和を意味する英語ではありません。
続いてLOVEです。これはLoad(負荷):徐々に負荷をあげる、Optimism(楽観思考):前向きな考え方をする、Vascularisation(血流を増やす):有酸素運動を取り入れる、Exercise (運動):筋力、自己受容性感覚、体の動きなど、の頭文字でLOVEです。もちろん愛を意味する英語ではありません。
ここまでくると完全に医療関係者向けになります。Aの抗炎症薬を避けるというのは患者さんからすると考慮することはほぼできません。出された薬が抗炎症薬なのか理解しづらいですし、そうだと判明したとしても自己判断で服用拒否をしてよいものなのか。Eの教育も医療側の話です。LOVEの部分はリハビリテーションをする段階のことが多いのです。
ケガ(外傷)をした時期を並べると受傷直後の急性期、少し時間が経った亜急性期、ケガを治療して元に戻ろうとする回復期に分けられます。RICEとPRICEは急性期の、POLICEは亜急性期までの、PEACE&LOVEは回復期まで含めて想定していると言えるでしょう。
外傷の治療において議論が分かれるのが冷却(アイシング)と安静です。
アイシングをすると血流が悪くなるので体が回復することを妨げます。ウイルスや細菌が入って感染症になると発熱するのは体温が高い方が免疫力・抵抗力が上がるからです。外傷の治癒も同じで体温を上げて血流を良くした方が治りは早いのです。ただし受傷直後は痛みがひどく、それを抑えるためには冷やして感覚を鈍くさせた方がいいでしょう。また出血している場合は止血を促す効果もあります。ボクシングでラウンド間のインターバル、パンチを被弾した顔を温めているところを見たことがあるでしょうか。少なくとも私は受傷直後を冷やさないというのは賛同しかねます。また痛みがひいたら温めた方がいいと考えています。
安静についてもそうです。いつまで安静にしておくのか?動かさないと廃用性症候群といって筋力低下、関節拘縮といった諸問題が起きます。そのためなるべく早期から動かす方がいいのは確かです。ただし受傷直後はやはり安静にした方が賢明です。完全骨折している場合は動かすと転位といって折れた骨がずれてしまう、あるいは不全骨折で済んでいたものが完全骨折になってしまうという懸念があります。急性期を脱したら適切な負荷を掛けて治癒を促進させる、機能低下を防ぐというのは理にかなったことでしょう。
大きな問題はRICE処置と他の概念を同じ土壌で語ることだと思うのです。
まずRICE処置とは四肢外傷における応急処置をシンプルにまとめたものです。それには一般の人に向けたものでもあるはずです。医療従事者であれば知識があるので臨機応変に対応できるでしょう。急な事故やケガをした際に病院に行くまで、呼んだ救急車が到着するまで、どのようにしたらよいかを示したものだと思うのです。下手に素人があれこれして悪化しないように最低限この4つはしてくださいね、という。医療従事者は急性期を過ぎたらいつまでもアイシングする必要はないし、ずっと安静にしているのは好ましくないことは分かっているはずです。最適な負荷をかける、抗炎症薬を避ける、教育するといったことは医療従事者に向けたものでしょうから(そんなことを一般の人に言うのは無理がある)。
そしてRICE処置と他の処置が同じものなのかということです。ケガをした時期でいえば、急性期の応急処置としてRICE処置があります。POLICE、POLICE、PEACE&LOVEはその後のことを見据えているのです。これら一緒くたにしてしまうのは違うと思います。
なお日本整形学会のホームページにはRICE処置の安静には固定が含まれる、つまり保護の概念があります。PRICEはRICE処置を少し丁寧にした感じです。
そもそもPEACE&LOVEは軟部組織損傷の早期回復を見据えたもので応急処置だけの話ではないのです。
処置をする時期も伝えたい対象も実は異なっているのに、英単語の頭文字を集めて説明しているから、どれも同じものであるかのようにしている意見が多いのです。この文章もそのような流れで始めは書いています。しかしよく読むと前提条件がどんどんと変わっているのです。
「RICE処置は古い」という意見はRICE処置が他に置き換わるべきだという印象がありますが、適応範囲や前提条件が違うものを論じているように感じるのです。そのため、一般の人や医療を学ぶ学生さんが混乱するという弊害があると思います。「RICE処置はもう古い、これからはPEACE&LOVEだ!」と言ったとしても9項目も覚えるは無理がありますし抽象的な項目もありますから、結局詳しく勉強して知識がなければ分からないでしょう。柔道整復師の立場からすると急性期の応急処置に色々とするよりはRICE処置だけして速やかに医療機関を受診してくれという気持ちになります。
RICE処置はRICE処置で、他にPRICEだとかPOLICE、PEACE&LOVEがあり、各々大切な概念だと考えています。RICE処置は古いという意見は論点がずれているように思います。
甲野 功
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