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令和4年(2022年)2月7日にあん摩マッサージ指圧師専門学校新設を巡る裁判の判決がでたと報道がありました。
NHKニュース
<指圧師 養成施設の設置規制 最高裁「憲法違反とはいえない」 2022年2月7日 19時56分>
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視覚障害があるあん摩マッサージ指圧師を保護する法律の規定を理由に、視覚に障害がない人向けの養成施設の設置が認められなかったのは職業選択の自由を保障する憲法に違反すると大阪と福島県の学校法人が訴えた裁判で、最高裁判所は「憲法違反とはいえない」とする判決を言い渡しました。
大阪市と福島県郡山市の学校法人は、視覚障害がない人を対象としたあん摩マッサージ指圧師の養成施設を設置しようと国に申請しましたが視覚障害がある人を保護する法律の規定を理由に認められなかったため、「規定は職業選択の自由を保障した憲法に違反する」として国を訴えていました。
東京と大阪、仙台で行われた裁判で1審と2審はいずれも憲法に違反しないと訴えを退け、学校法人が上告していました。
7日の判決で最高裁判所第2小法廷の菅野博之裁判長は、「あん摩マッサージ指圧師は、従事できる職業が限られる視覚障害者にとって主要な職種の1つで、障害に適した職業に就く機会を保障することは、自立や社会経済活動への参加を促進するという積極的な意義も考えると、障害がない指圧師の増加を抑制しても不合理とはいえない」と指摘しました。
そのうえで、視覚障害がない人向けの施設について規定では規制の必要がある場合にかぎり設置申請を認めないことができるとされていて、既存の施設も10都府県に21あるなどとして「職業選択の自由に対する制限は限定的で、憲法には違反しない」と結論づけ、学校法人の上告を退けました。
学校法人理事長「この状態続けば職業なくなってしまう」
判決後の会見で大阪の学校法人「平成医療学園」の岸野雅方理事長は「残念ながら敗訴となったが、勝訴した国にとっても本当にこのままでいいのかと感じる。障害がない人以外を対象にした既存の養成施設もあるが数は限られている。視覚障害がある人でもあん摩マッサージ指圧師の職業を選択する人は減っていて、この状態が続けばマッサージという職業がなくなってしまうのではないか」と話しています。
厚生労働省「おおむね主張が認められた」
判決を受けて、厚生労働省医政局の太田富雄医事専門官は「おおむね国の主張が認められたと承知している。今後とも、あん摩マッサージ指圧師に関する制度の適正な運用に努めて参りたい」とコメントしています。
視覚障害などの団体「最高裁に明言してもらい安ど」
視覚障害がある人などでつくる16の団体がこの裁判のために立ち上げた「あん摩師等法19条連絡会」の竹下義樹会長は判決について、「視覚障害者の職業的自立のためには必要な規制だと最高裁に明言してもらって安どした。技術の向上や職業的な努力を続けながら社会に貢献していきたい」と話していました。
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どのようなものか説明を加えます。学校法人「平成医療学園」が東京、仙台、福島、大阪で視覚障害のない健常者のためのあん摩マッサージ指圧師(国家資格)を養成する専門学校を新設しようと申請を出したところ、国(厚生労働大臣)が認可を降ろしませんでした。このことに対して学校法人(原告)は厚生労働大臣(被告)にその判断は憲法で保障されている権利、職業選択の自由に反することだと裁判を起こしたのです。1審、2審は原告の敗訴となり、上告して最高裁判所の3審まで争われました。その判決が2月7日にくだされました。詳細は裁判所のホームページにある判決結果詳細にあります。
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事件番号:令和3(行ツ)73
事件名 :非認定処分取消請求事件
裁判年月日:令和4年2月7日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
原審裁判所名:東京高等裁判所
原審事件番号:令和2(行コ)30
原審裁判年月日:令和2年12月8日
判示事項:あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律19条1項は,憲法22条1項に違反しない
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事情を説明しますとかつての按摩(あん摩)師(現在、法律上の区分は「あん摩マッサージ指圧師」)は古くから盲人(視覚障害者)の生業として日本に根付いてきました。かつては琵琶法師、按摩師、鍼灸師が視覚障害者が就ける仕事の多くでした。
江戸時代に杉山和一という按摩師、鍼師が時の将軍徳川綱吉公の庇護を受けて世界初の視覚障害者向け職業訓練校にあたるものを作りました。その頃から現代に至るまで盲学校、視覚支援学校では教育と共にあん摩マッサージ指圧師及び鍼灸師になるための科を持ってきました。現代の視覚障害者向けの学校は多くが国公立であり、ルーツは明治、大正時代のものも珍しくありません。
視覚障害のない健常者(晴眼者といいます)があん摩マッサージ指圧師になるための学校もありますが、晴眼者のあん摩マッサージ指圧師が増えたことで視覚障害者の仕事を奪うことになることを懸念し、法律(『あん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律』、通称あはき法)によって晴眼者向けの養成施設を新たに作ることを制限しているのです。ただし完全に禁止しているわけではなく、条件を満たしたとすれば新設を認めます。その条件は大まかにいうと、視覚障害者に不利にならないと判断されるなら、ということ。この条件に関して当事者である視覚障害者団体や認可を出す厚生労働省らは、条件が満たされていないと判断しています。よって晴眼者のあん摩マッサージ指圧師養成施設を新たに作ることを認めないのです。
認可を出さないことはあん摩マッサージ指圧師になりたい人がなれないことなので、これは“職業選択の自由”に反する違憲行為だと原告は主張します。最終的に養成施設新設を認めさせることが目的だったはずです。
実は同じような裁判が平成8年(1998年)に起きており、平成10年(2000年)に判決が出ています。それは当時、柔道整復師養成施設を新たに作ることを同じように規制していたのですが、それは柔道整復師になろうと希望する者の職業選択の自由を奪うものだと同じように厚生大臣(当時)を相手に訴えを起こしたもの。この裁判では原告が勝訴して柔道整復師養成施設を作ることが解禁されます。それにより鍼灸師養成施設を新設することも解禁となり爆発的に鍼灸師養成施設(専門学校及び大学)が増えることになります。この裁判についてはまた別の機会で説明します。
この判決後に全国で多くの柔道整復師専門学校、鍼灸師専門学校が設立するのですが、あん摩マッサージ指圧師に関してはあはき法19条があることで増えることは例外を除いてありませんでした。もちろん視覚障害者向けの養成施設は別です。
原告も既に鍼灸師専門学校を持っておりそこにあん摩マッサージ指圧師の科を新設しようとしているのだと考えられます。というのも鍼灸師養成施設が解禁される前の専門学校、そして盲学校ではその歴史からあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師全てのことを学んだ上で生徒に国家試験受験資格を与える科があるからです。かくいう私も呉竹学園東京医療専門学校(1926年設立)の鍼灸マッサージ科で学びあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師を取得しました。鍼灸マッサージ科に入ると3年間でこれらの国家試験受験資格が得られるのです。現状ですと鍼灸師が改めてあん摩マッサージ指圧師の資格を得たいとなれば改めてあん摩マッサージ指圧師専門学校に入りなおして3年間勉強しないといけません。もちろんその上で年に一度のあん摩マッサージ指圧師国家試験に合格する必要があります。なお現時点であん摩マッサージ指圧師単独の科がある専門学校は3校しかありません。
よって鍼灸マッサージ科は鍼灸科よりも人気があることが多く、学校経営としては鍼灸マッサージ科を持ちたいというのが本音なのです。
改めて最高裁判所の判断として、視覚障害者の労働条件は改善されておらず晴眼者向けのあん摩マッサージ指圧師養成施設を新たに作ることは認めない、また現状で10都道府県に21もの専門学校があるのでなろうと思えば晴眼者でもあん摩マッサージ指圧師になれるわけですから職業選択の自由が損なわれているわけでなく違憲とはいえない、ということです。判決文を細かく読むと裏付けるデータが明記されています。またある裁判官の意見も述べられています。このことについてはまた別の機会に触れることにします。
最高裁判決が出たことで6年間に渡りチェックしていたこの一連の裁判が決着しました。本当の問題は、あん摩マッサージ指圧師免許を持たない者が勝手にマッサージのようなことを行い、かつ視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師の職域を奪っている状況にあります。視覚障害者団体はきちんとあん摩マッサージ指圧師の仕事が守られることが本当の願いです。なぜならば視覚障害者団体は既存の晴眼者向けあん摩マッサージ指圧師専門学校に対してあん摩マッサージ指圧師科を無くせとか定員を減らせという要求はしていません。きちんと手順を守れば拒否しません。実際に2000年以降に鍼灸マッサージ科のある専門学校は設立されています。
視覚障害者のあん摩マッサージ指圧師を守るという、もう一つ大きな問題はまだまだ解決していません。この判決がニュースになることで少しでも世間に知られることを願います。
甲野 功
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