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~重心~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 重心
重心の位置

 

 

重心。ここでは特に人体の重心、身体重心について触れていきます。

 

私は大学の応用物理学科を卒業しました。高校の頃から物理学が得意でした。まだ物理・化学・生物・地学に分かれる前の中学理科の段階で好きでしたし、得意でした。自転車をこいで坂を上がるとき、蛇行して進むと少ない力で上れます。「位置エネルギーを運動エネルギーによって坂道を攻略している」、「仕事量は力と距離の積だから距離を伸ばして力を減らすのだ」、などと考えて自転車をこいでいた中学生でした。 

物体には重心が存在します。ネットの辞書によるとこのような説明があります。

重心(じゅうしん、center of gravity)は、力学において、空間的広がりをもって質量が分布するような系において、その質量に対して他の物体から働く万有引力(重力)の合力の作用点であると定義される点のことである。

なんだか難しく表現していますが、簡単な表現にすると「重さの中心」です。略して「重心」。そのような理解で普通はいいのかと考えています。物理的な話をすると重心は“点”です。理論上大きさがありません。よく物理(特に力学)の問題で「※なお大きさは考慮しない」といった注釈がつくことがあります。点が移動したとか、点に重力がかかるといった条件で問題が出るのです。ほとんど仮想の話ですが“全く大きさの無いもの”に外から力が加わったらどうなるか、という条件での問題文。そうしないと計算が複雑になるので最初はこのように考えるのです。反対に大きさがあると「力のモーメント」というものが出てきます。

 

話を本題に戻すと人体にも重心があります。スポーツ分野で「体重が乗っていない」とか「重心の位置が高い」などの解説や指摘がよくあります。人によっては、特に区別なく体重と重心を使っているようですが物理を勉強した人間からするとそこははっきりとした方がいいと思うのです。先述したように体重は大きさがある体の重さを示していて、重心は体重の中心という意味です。

 

大学で競技ダンスを始めてどのように動いたら効率よく踊れるかを考えるようになりました。その過程で「体重移動」と「重心移動」は別のものだと考えるようになりました。また「体重が乗っていない」という表現は「重心が乗っていない」というものとイコールではないと。大学卒業後にあん摩マッサージ指圧師になるために専門学校で学ぶようになります。免許としては「あん摩マッサージ指圧師」として一つなのですが按摩、マッサージ(massage)、指圧と元々異なる3つの技術を一まとめにしているのです。そのため3種類の技術を各々学ぶ必要があるのですが、体の動かし方に相違があることに気付きました。重心移動が大事なのだと。

 

以降は体の重心という意味で重心と書いていきます。

 

きちんと重心を学んだのは専門学校のリハビリテーション医学の授業からでした。立位での重心の位置がどこにあるかという。立位時の重心は第2仙椎の前方と言われています。第2仙椎とはお尻の中央にある仙骨という三角形の骨の場所です。元々5つの骨が癒合して一つの仙骨になっています。上から2つ目のところが第2仙椎です。高さでいうと、成人男性だと地面からみて身長の約56%の割合の位置、成人女性は下から約55%の位置にあるとされます。そして位置としては重心線上という立位で体重(重さ)が真っ直ぐかかる体の中心を貫く地面と垂直な線の上にあります。つまり大雑把にいうと骨盤の中に重心があるということです。 

もう少し細かくいうとこの重心は身体重心となります。身体重心は上半身重心下半身重心の中点(真ん中)にあります。上半身重心は第7~9胸椎の高さ、下半身重心は大腿骨の中点(真ん中)の少し上の高さと言われています。これら上半身と下半身の重心の中点として(身体)重心をとります。こう考えれば、屈んだときや背中を反ったときなどでも重心を見つけることができます。ここではシンプルに立位での重心を考えます。

 

運動をすることのほとんどは体をどのように動かすかが重要になります。その際にこの重心を意識することが大切であることはもちろんです。古武道では臍下丹田といって臍の下を意識する、あるいは東洋医学ではそこに気が集まる、といった考えがあります。それは重心の位置とほぼ一致すると考えられるのです。手足、頭などを動かしたときにどのパーツにも重さ(体重)が存在するのでそれは厳密に言えば体重移動になります。その際に重心が動いていなければ重心移動はありません。反対に重心が移動するときは体重も移動します。よって重心移動は体重移動を含みますが、体重移動したからといって重心移動もするとは限らないのです。

競技ダンスでは「大きく動く」と表現したときに「重心が大きく移動する」と置き換えた方が分かりやすい場合があります。(重心のある)骨盤が移動していないと傍目から見たとき動いていないように見えるのです。それは当人が思っているよりも動いていない。なぜかと言うと頭が動けば視覚から情報の8割を占めるといわれる目が動くことで本人が“動いている”と錯覚しやすいのです。しかし重心の移動がないと社交ダンスとして客観的にみたときに“大きく動けている”とはいかないのです。

あん摩マッサージ指圧師の技術である按摩はあまり重心の移動が少なく体重移動が大きいと考えています。指圧の押圧操作は位置を決めたら重心移動によって圧を入れ、マッサージ(massage)は他の2つに比べて大きく重心移動をする、といえると思うのです。

 

重心という位置(定点)がどのように動くかを考えると動作の理解に繋がると思います(※体勢によって上半身重心と下半身重心の兼ね合いによって身体重心の位置が変わります。立位のまま動いていくと条件を狭くした仮定の話です)。体の重心を知ることで歩行のメカニズムを理解できるようになります。だからこそリハビリテーション医学の授業で重心を学ぶのですが。重心を知ることで歩行だけでなく、徒手療法の技術や運動全般にも活用できました。

 

甲野 功

 

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