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埼玉県は今年令和4年(2022年)2月17日に認知症専門リハビリテーション事業者に対して景品表示法違反(優良誤認表示)が認められたとして、措置命令を行いました。このことについて書いていきます。
まず景品表示法について。景品表示法とは通称で正式には『不当景品類及び不当表示防止法』といます。不当表示、不当景品から一般消費者の利益を保護するための法律です。簡単に言えば誇大広告を取り締まりまる法律です。誇大広告の具体的なものとして優良誤認表示があり、それは商品・サービスの品質、規格、その他の内容において実際よりも著しく優れたように見せかける表示(広告など)を言います。景品表示法違反と判断されると処分が下り、その一つが措置命令です。措置命令は再発防止の徹底、処分を受けたことを周知させることを求められます。ここ2年はパンデミックの影響もあり、誇大広告に厳しくチェックが入ります。景品表示法違反による措置命令が増えているように感じます。最近ですと、空間ウィルス除去グッズや瞬間湯沸かし器のメーカーに処分が下りました。景品表示法は主に消費者庁が管轄する法律ですが、措置命令は地方自治体でも出すことができます。今回の措置命令は消費者庁ではなく埼玉県が出しています。
<埼玉県ホームページ 県政ニュース報道発表資料 整体院等を経営する事業者に対して行政処分を行いました>
この措置命令処分がどのようなものか内容をまとめて説明します。対象とした事業内容は認知症専門リハビリテーションです。何が違反だと判断したのかというと景品表示法第5条第1号(優良誤認)にあたります。具体的に指摘したところは5点あります。
①「これが、薬を使わず認知症を改善させた脳のリハビリの方法です」等と表示するなど、あたかも、本件役務には認知症を改善する効果があるかのように表示していた。
②「日本で唯一改善実績のあるリハビリ施設です。」等と表示するなど、あたかも、日本で唯一の認知症が改善する役務の提供ができる施設であるかのように表示していた。
③「当院は様々なメディアで取り上げられております」等と表示するなど、あたかも、本件役務が様々なメディアの企画又は特集として取上げられているかのように表示していた。
④「事実、認知症専門リハビリを受けたご家族様はこのような結果を手に入れています・・・」等と表示するなど、あたかも、体験談が掲載された12名の顧客は、本件役務の提供により認知症が改善した体験を有しているかのように表示していた。
⑤「※個人の感想であり、成果を保証するものではありません。」と表示するなど、当該表示は、一般消費者が上記12名の顧客の体験談の表示から受ける本件役務の効果に関する認識を打ち消すものではない。
これら全てを埼玉県はチェックしています。一つ一つみてみましょう。
①あたかも、本件役務には認知症を改善する効果があるかのように表示していたについて
『
実際には、顧客が認知症の診断を受けていない場合にも本件役務の提供はなされており、さらに、認知症が改善したとする定義は医師が診断した結果によるものではなく、MMSE等のいわゆるスクリーニング検査の点数の向上又は顧客の主観的意見及び顧客の家族の客観的意見によるものであった。
』
MMSEとは認知症に関する検査です。複数の質問回答を点数にして症状を数値化するものです。改善したと書く根拠が薄く、医師の診断結果ではないことを問題視しています。
②あたかも、日本で唯一の認知症が改善する役務の提供ができる施設であるかのように表示していたについて
『
実際には、第三者機関による調査の結果等で、日本で唯一認知症が改善できる施設であるとされたのではなく、同様の施設が存在しないと自認しているのみであった。
』
景品表示法では“日本一”、“地域No1”とか“唯一の”などの謳い文句を原則禁止しています。本件では客観的な根拠がなく、単に自分で言っているに過ぎないとしました。
③あたかも、本件役務が様々なメディアの企画又は特集として取上げられているかのように表示していたについて
『
実際には、雑誌の企画又は特集ではなく、整体院等の広告として掲載されているものであった。
』
これは取材を受けたのではなくメディアに取り上げられたのではなく広告だとしています。実際によくあるのですが雑誌や媒体から特集記事を組みますから料金を支払ってくださいという話があります。読者からすると雑誌が頭を下げて取材したようにみえて、実際には店舗側が広告料を支払う実質広告という記事です。余談ですが当院にもよく有名雑誌に記事を載せませんか?という営業メールが届きます。
④あたかも、体験談が掲載された12名の顧客は、本件役務の提供により認知症が改善した体験を有しているかのように表示していたについて
これにはきちんと調査されています。
『
実際には、
(1.)体験談が掲載された12名の顧客うち、6名は医療機関に通院しており、そのうちの2名は薬を服用していたが、本件役務の効果によってのみ認知症が改善されたと判断できる医師の施術記録等はなかった。
(2.)残りの6名は、認知症の診断を受けていないにもかかわらず、本件役務の効果によって認知症が改善されたと評価されていた。
上記(1.)及び(2.)から、体験談が掲載された12名の顧客は、認知症が改善したとの体験談を有しているとはいえない。
』
体験談を書いた12名を調査しています。医師のカルテを確認したり、そもそも医師の診断を受けていないことを確かめたりしています。
⑤について
「※個人の感想であり、成果を保証するものではありません。」と注釈をつけて“あくまで体験者の個人の意見ですから一般論を言っているわけではありませんよ”といういわば言い訳を付けることを「打ち消し広告」と言われます。この行為自体を禁止しています。少し前には非常に小さい文字で注釈をして責任逃れをする宣伝がありましたが、今は認められません。
これらのように事業者のホームページにある表記内容で不備があるところを指摘し、その根拠(体験談の調査など)も明示した上で埼玉県は措置命令を出しています。措置命令の内容は具体的に
『
ア 景品表示法に違反する表示を行っていたことを一般消費者に周知徹底すること。
イ 再発防止策を講じて、これを従業員に周知徹底すること。
ウ 今後、同様の表示を行わないこと。
』
の3つとなります。
なお問題は景品表示法違反だけではありません。細かく見ていくと理学療法士の在り方に関わる問題が出てきます。このリハビリテーション事業者は理学療法士が行っています。理学療法士とは何か。法律の文面を挙げます。
<理学療法士及び作業療法士法>より抜粋
『
第1章 総則
第2条 この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し、主としてその基本的動作能力の回復を図るため、治療体操その他の運動を行なわせ、及び電気刺激、マツサージ、温熱その他の物理的手段を加えることをいう。
3 この法律で「理学療法士」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、理学療法を行なうことを業とする者をいう。
』
理学療法士とは、医師の指示のもとに理学療法士の名称を用いて理学療法を行うことを業とする者になります。“業とする”というは“反復継続の意思を持って行う”という意味です。法律の前提として『医師の指示の下に』という条件があります。そして『理学療法士の名称を用いて』という文言が入っていますが、名称独占といって理学療法士免許を持たない者が理学療法士を名乗ることを同法律で禁止しています。
『
第17条 理学療法士でない者は、理学療法士という名称又は機能療法士その他理学療法士にまぎらわしい名称を使用してはならない。
』
そしてその業務は
『
第15条 理学療法士又は作業療法士は、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)第31条第1項及び第32条の規定にかかわらず、診療の補助として理学療法又は作業療法を行なうことを業とすることができる。
』
とあるように“診療の補助として”理学療法を行うことを業とすることができるとしています。法律らしい回りくどい言い回しに見えますが、リハビリテーションなどの理学療法は患者の家族なども行う必要に迫られることがあるので、その行為自体を非理学療法士に禁止しているわけではありません。医師の指示の下、診療の補助としての理学療法を反復継続の意思を持って行ってよいと言っています。以下の資料ではこのように解説しています。
『
〇法律における理学療法の定義
第1章 総則 第2条
この法律で「理学療法」とは、身体に障害のある者に対し(対象)、
主としてその基本的動作能力の回復を図るため(目的)、
治療体操その他の運動を行わせ、及び電気刺激、マッサージ、温熱その他の物理的手段を加えること(手段)をいう。
〇診療の補助
医師の指示ないしは管理を受けないで医行為に属する業務を行った場合には、医師法第17条違反となる。
医師の指示ないしは管理下で行う限りにおいては、診療の補助行為に該当する。その補助行為といえども、医師でない補助行為者の能力や経験、社会的期待に見合った行為でなければならない
医師法第17条:医師でなければ、医業をなしてはならない
診療の補助行為として理学療法を業とすることが許された。
無資格者には許されない部分を占有すること。
理学療法業務の中には一般に禁止されていない種類のものも含まれているが保助看法で定める診療の補助行為としての理学療法であるため、厚生労働省の見解は業務独占であるとしている。
医療行為の中でも医師以外が出来ないものを絶対的医行為といい、医師の指示を受けて行う仕事が相対的医行為=診療補助行為という。
〇名称の独占的使用・医師の指示の下に
理学療法士及び作業療法士法の解説(厚生省医務局医事課編)
理学療法士が個別の業務を行うに当たって、そのつど医師の具体的指示を受けることが必ずしも想定されているのではなく、その業務が全体として医師の指示によって運用されることを期待しての表現である。
患者の病勢に変化があるときはそのつど医師の指示を受ける必要がある。
』
説明すると医師法17条において医師免許を持たない者が医業(医行為を業とする)をすることを禁じています。医者以外が診療、投薬、手術などの医行為をすることができません。それを医師の指示の下という条件下で相対的医行為=診療補助行為など医行為にあたることを許されていると解説しています。
さて本件の措置命令に話を戻しましょう。理学療法士が認知症リハビリテーション事業を独自に行っています。これは医師法違反にならないのか、という問題です。措置命令を判断し埼玉県の文言が正しいとなれば医師の指示なしに理学療法を行い、利用者の容態を判断(診療)しています。どういうことでしょう。また前提として理学療法士に開業権がありません。あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師には施術所を開業することが認められていますが理学療法士には無いのです。それは医師の指示の下、理学療法を行うという条件である以上、(医師の指示がない)独立した状況で理学療法を行うことができないからです。健常者に対して予防指導を行うことについては別ですが、今回のように認知症患者を対象としたリハビリテーション事業を理学療法士単独で行うことはできないはずです。このことについては平成27年に公益財団法人理学療法士協会が警告を出しています。
『身分法上は、「理学療法士とは、厚労大臣の免許を受けて、理学療法士の名称を用いて、医師の指示の下、理学療法を行うことを業とする者をいう。」となっています。したがって、理学療法士が医師の指示を得ずに障害のある者に対し、理学療法を提供し、業とすることは違反行為となります。
本会としましては、理学療法士の「開業権」及び「開業」については、現行法上、全く認められるものではないとの見解に立っています。』
事業業態自体がなぜ許されているのか。ここで埼玉県の出した県政ニュースのタイトルに注目します。「整体院等を経営する事業者に対して行政処分を行いました」となっています。整体院等とあります。つまり施術所でもクリニックでもない業態を意味しているのではないでしょうか。というのもあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師が開設する施術所(マッサージ院や鍼灸師)も柔道整復師が開設する施術所(接骨院)も法律による規制があります。施設要件や届出、現場での立ち入り検査などが課せられています。クリニック等の医療機関は医療法による制限が課せられます。そもそも開業権の理学療法士にはこのような法律による縛りが無いのです。存在することを想定しないといいますか。施術所、医療機関であれば法律により広告内容に規制があります。そのため景品表示法違反で指摘されるような広告自体が管轄する法律によって規制されます。開業する理学療法士には理学療法士法による規制がありません。同じく理学療法士協会は過去2度にわたって理学療法士を名乗る者のSNSについて注意喚起をしています。
日本理学療法士協会ホームページ 理学療法士を名乗ってのSNS発信情報への注意喚起(再掲)
『
理学療法士を名乗りソーシャルネットワーキングサービス(SNS)を用いて医学上の不適切な情報発信を行っているのではないかとの問い合わせが本会にございました。本会で確認したところ、医学的に正しいとは言えず、さらに実践することにより患者さんなどの身体に悪影響を与える可能性のある治療法が掲載されておりました。
』
これらのように単なる誇大広告を注意したという話に留まりません。本来医療機関で医師の指示の下、働く職種だった理学療法士の根幹に関わるような問題を秘めている措置命令処分だと思います。どうして埼玉県がこの事業者を取り締まる行動に出たのか。色々と考えてしまいます。
甲野 功
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