開院時間
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私が持っている国家資格の免許は
あん摩マッサージ指圧師
はり師
きゅう師
柔道整復師
の4つになります。これらの免許があることで現在の仕事がある(成り立つ)わけです。この業界の関係するようになってもう15年以上経過しました。当然その前からこの業界は存在しますし、これらの免許も存在しました。過去の歴史において今現在の業界状況に大きな影響を与えた裁判が幾つかあると考えています。もしもあの裁判で勝訴していたら、あるいは敗訴していたら。今このような状況はあり得なかっただろうというもの。
その裁判の一つが通称“福岡裁判”あるいは“北九州裁判”と呼ばれるものです。
この裁判の結果、柔道整復師専門学校及び鍼灸師専門学校の新設が解禁されることになります。福岡裁判とはどのようなものだったのかみていきます
基本的な情報は以下の通り。
裁判所ホームページ 行政事件 裁判例集 柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件
『
事件番号:平成9(行ウ)31
事件名:柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件
裁判年月日:平成10年8月27日
裁判所名:福岡地方裁判所
分野:行政
判示事項:厚生大臣が柔道整復師養成施設指定申請に対してした同指定を行わない旨の処分が,違法とされた事例
裁判要旨:
厚生大臣が,柔道整復師養成施設指定申請に対し,柔道整復師の従事者数は相当増加している状況にあり,養成力の増加を伴う施設を新たに設置する必要性が見いだし難いこと等を理由としてした,同指定を行わない旨の処分につき,当該申請は所定の指定基準を満たしているところ,柔道整復師法(昭和45年法律第19号)の制定経緯,柔道整復師とその免許等において類似するあん摩マツサージ指圧師,はり師,きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)19条1項があん摩マッサージ指圧師等の養成施設の認定,承認をしないことができる例外を設けているのに対し,柔道整復師法にはこのような規定がないことからすると,申請について所定の指定基準が満たされている以上,処分庁において裁量の余地はなく,厚生大臣は前記申請に対し指定を行わなければならなかったものであり,また,仮に,裁量の余地があるとしても,前記処分の理由では,厚生大臣の裁量権の行使には逸脱があったというべきであるとして,前記処分を違法とした事例
』
原告は福岡県内に新たに柔道整復師専門学校を設立しようとする代表者で、その申請をしたところ却下されたことを不服として被告厚生大臣(※当時は厚生労働省ではなく厚生省)を相手取り裁判を行ったものです。結果は原告の勝訴となります。公開されている判決文から詳しく紹介します。
原告は福岡県内に柔道整復師専門学校を新設することを計画し1996年(平成8年)7月に2年後の1998年(平成10年)4月1日開校予定の申請書を福岡県知事に提出します。1996年10月に審議会が開催され申請は却下されます。その理由は
①1973年以降、専門学校は新設されていないが柔道整復師の数は増加しており新たに専門学校を作る必要性がない
②福岡県及び柔道整復師関係団体から反対の意見がある
の2点でした。
原告は1996年12月に再度申請書類を福岡県知事あてに提出するも正式な回答を得られず、翌1997年4月に三度申請書類を提出します。
被告厚生大臣は1997年7月に公正取引委員会から柔道整復師専門学校に対して法令に具体的根拠のない調整(つまり新設を認めないこと)は競争政策の観点から問題であるのでこのようなことを行なわないよう要請を受けます。
審議会は1997年9月に下記の意見を提出しました。
①公正取引委員会からの要請は、昨今のあらゆる分野での規制緩和、自由競争化という傾向から理解できる。
②しかしながら、改めて議論したが前回の意見を変える必要はないとの結論に達した。
③よって、速やかに適切な措置をとるべきである。
原告の新設申請に対して、被告は1997年9月に申請を認めないと回答します。理由は以下の2点。
①柔道整復師の数は増加しており専門学校を新たに設置する必要性が見出しがたい。
②審議会から「認めることは適当でない」との意見書が提出されている。
当時の柔道整復師に関わる状況です。全国の柔道整復師の人数は1970年(昭和45年)が6,974人で1996年(平成8年)では28,244人であり約4.05倍に増えている。福岡県の柔道整復師の数は1980年(昭和60年)193人であったが、1994年(平成6年)には635人に増加している(15年間に約3.29倍)。1996年末時点における人口10万人に対する柔道整復師数は、全国平均が22.4人、東京都が54.2人であるのに対し、福岡県は14.1人であった。比較対象として整形外科医師数を見てみると1994年の全国の整形外科医師数は21,661人で1970年に比べて約2.14倍と増加、1994年末における人口10万人に対する整形外科医の数は全国平均が12.5人、東京都が13.7人、福岡県が16.8人であった。柔道整復師の養成施設は全国で14校(入学定員数の合計は1,050名)。内訳は6校が関東地方、3校は近畿地方に存在し、九州、中国、四国地方には1校もありません。なお養成施設の新設は1972年(昭和47年)から裁判当時まで1校も認められていませんでした。
原告の主張です。柔道整復師法の要件を満たしているのに申請を許可しないのは違法である。また職業選択の自由が憲法で原則認められている。柔道整復師の増加は国民にとって利益になることである。福岡県、九州地方、その近隣地方では柔道整復師の供給は不足している。養成施設が特定地域に固まっており、九州・中四国地方の柔道整復師を目指す者に不利益となっている。柔道整復師は国家試験合格者であるから養成施設の数ではなく合格者数によるもの。増やさないのは既存の学校の既得権益保護による。人口10万人に対して全国平均を上回っている県において支障が発生した事実はない。整形外科と柔道整復は異なるもの。審議会の構成メンバーは偏りがあり公正な判断が期待できない。県知事の意見書にあった福岡県柔道整復師会の意見は根拠・理由に乏しく不合理。既得権益を守るためのもの。専門学校新設を認めないのは独占禁止法に該当する違法行為である。
このような内容の主張をしました。
被告の主張です。柔道整復師は医療の一翼を担うものであるから、一定水準以上の養成施設で学ぶ必要があるだろう。医療従事者は適正数を確保する必要があり、柔道整復師の過剰が発生した場合、過当競争により経営の不安定化及び施術の質の低下を招き、適切な医療提供体制の確保に支障を生じる恐れがある。そのためには国家試験受験者数を調整する必要があり、柔道整復師養成施設は文部大臣又は厚生大臣の許可を受ける。法だけでなく厚生大臣の裁量に委ねられている。柔道整復師の業務は整形外科医と重複するものであるため整形外科医が全国平均を上回っている九州・中四国地方において柔道整復師養成施設を増やす必要はない。学校を増やした分、合格者数を減らせば不合格者が続出し大きな不利益を受ける。全国的に柔道整復師の数は著しく増加しているため学校を新設する理由にならない。審議会構成員の柔道整復師関係者は過半数に満たず、審議会は公正な判断が期待できる。
原告の主張に対抗するものです。
裁判所は法的根拠、現状、今後の予測、審議会の妥当性などを考慮した結果、原告勝訴の判決を出します。被告である厚生大臣(国)側の主張を認めなかった結果です。それにより柔道整復師養成施設(専門学校、大学、視覚支援学校)の新設が解禁されることになりました。その結果、どのようなことが起きたのでしょう。
判決文によれば判決前には全国で14校だった養成施設(入学定員1,050名)は2021年3月に行われた第29回柔道整復師国家試験のデータによれば、養成施設合計120校(大学17校、専門学校102校、視覚支援学校1校)にも増えました。なお120校の中には既に閉校あるいは募集停止している学校も含まれるので実数は減ります。それにしても学校数は大幅に増加しました。福岡裁判前はだいたい国家試験受験者数は1,300名弱だったのが昨年29回国家試験では4,561名になりました。しかも学校数、受験者数はピークアウトしており受験者数はここ5年右肩下がりなのです。数字を見れば、増えすぎた学校そして学生が、社会的需要が無くなり減っていると考えられるのです。
ここで裁判判決文より被告厚生大臣の主張を抜粋してみましょう。
『
柔道整復師の養成についても、当然、柔道整復師の施術に対する国民医療の需要を勘案しながら適切に行われるべきであり、例えば、柔道整復師の過剰が発生した場合、過当競争により、経営の不安定化及び施術の質の低下を招き、適切な医療提供体制の確保に支障を生じる恐れがあることから、試験の受験者数を調整する必要があるのであり、受験資格取得の対象となる学校又は養成施設は、こうした観点も含めて文部大臣又は被告の指定に係らしめることとされているのである。
』
柔道整復師の数が過剰になったときに過当競争による経営の不安定化、施術の質の低下を招き適切な医療提供体制の確保に支障を生じる恐れがある、と厚生大臣側は主張しました。この懸念通りに現状がなっていると思われます。増えすぎた専門学校や大学は既に募集停止や閉校に陥り始めています。日本で最初にできた柔道整復師専門学校は募集を停止しました。もちろん全てとは言いませんが経営の不安定化は顕在化しています。そして生徒集めに苦慮する学校は入学者を篩にかける余裕はなく生徒の質、ひいては卒業生=柔道整復師の質の低下が言われています。
『
柔道整復の業務目的は、医師(整形外科)による診療と重複するものであって、柔道整復師の需給については、整形外科医の状況も勘案する必要があり、中国、四国、九州の各地域における整形外科医の従事者数は平成六年末の時点で全国平均を上回っている以上、当該地域において柔道整復師の養成増を図る特段の必要性は乏しい。
』
整形外科医と競合するということは的外れとは言えません。現在SNS上では柔道整復師の仕事の仕方(骨盤矯正や交通事故自賠責取り扱い、高額な回数券を販売するなど)に苦言を呈する整形外科医(と称する)アカウントがあります。本来ならば手を取り合う関係性にあるはずなのに目の敵にするような投稿も見受けられます。
『
柔道整復師の従事者数の適正な水準を維持するために試験の合格者数を限定し、学校及び養成施設の卒業者の多数を不合格とすることとすれば、学校又は養成施設を卒業したものの免許が取得できない者が続出し、これらの者は、時間と費用の多くを無駄に費やしたこととなり、大きな不利益を受けることとなる。
』
この指摘通り、福岡裁判の判決までの第7回(平成10年度)国家試験までの合格率は86%、こと新卒受験者(現役生)の合格率は95%。入学すれば多くの学生は国家試験を合格したといえるわけです。昨年第29回国家試験では全体の合格率が66%、新卒合格率が85%になっています。国家試験に合格しない学生が悪いと言えば確かにその通りなのですが、学校に入るときが楽な分国家試験をパスできない学生が増えたとも考えられます。現に第29回は既卒受験者数が1,396名もいるのです。勉強不足なのか、不利益を受けると捉えるのかは意見が分かれるところでしょうが24年前に指摘された「卒業したものの免許が取得できない者が続出」していることは当たっています。
この判決は柔道整復師だけにとどまらず鍼灸師養成施設も新設解禁となりました。柔道整復師同様に鍼灸専門学校は激増します。そして同じように学校数は減少に転じて国家試験受験者数も近年右肩下がりです。養成施設の新規参入が可能になるということは学校自体の質も問われるわけです。法律によって規定された条件をクリアしているだけではカバーできないものがあります。自由競争は正しいのですが恐らく裁判官が想定したようなきちんと質を保った上で数が増えるという状況には、ならなくなったのではないでしょうか。
約四半世紀前の地方裁判所の判決が現在の業界状況に対して非常に大きな影響を与えたと言えます。もしも上告して徹底的に争い原告が敗訴したら今どうなっていたでしょう。歴史にifはナンセンスですが学校も学生も首を絞め合っているようにみえる現状はもう少し避けられたように思います。先のあん摩マッサージ指圧師養成施設新設裁判では最高裁までいきましたが原告敗訴により新設解禁とはなりませんでした。注意してほしいのは新設が不可能というわけでなく、条件を満たせば可能だということ。(現在の)厚生労働省及び文部科学省が認定するという手綱を離すか否かはとても重要だと、今となっては思うわけです。
甲野 功
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