開院時間
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当院に来院される競技ダンス選手ほぼ全員に話すことがあります。それが足首と膝の角度の関係です。
足首。シューズを履く部分(足部)とふくらはぎ(下腿部)の境目の関節です。ここを足関節といいます(正確には距腿関節といいます。足部の距骨という骨と下腿部の脛骨と腓骨で作られる関節なので距腿関節。ここまで細かく言わず足関節としましょう)。足首を曲げ伸ばしする、という動作は解剖学的な表現では、足関節の屈曲伸展をする、に変換できます。
膝。解剖学では膝関節といいます。太ももの骨(大腿骨)とスネの骨(脛骨)、それに膝のお皿(膝蓋骨)によって構成されています。膝の曲げ伸ばしを解剖学でいうと、膝関節の屈曲伸展、といいます。
足首の角度と膝の角度、すなわち足関節と膝関節の角度の関係性がダンスに関係するという内容を丁寧に書いていきます。
まず人間は足関節角度:膝関節角度=1:2のとき安定して直立姿勢が取れます。数学的な表現をすると足関節角度をx、膝関節角度をyとしたときに
2x=y (x:足関節角度、y:膝関節角度)
の状態だと安定して立てるというわけです。
具体的な数字をあてはめると、足関節が90°、膝関節が180°の状態は楽に立っていられます。これはピンと膝を伸ばして立っている状態ですから納得しやすいでしょう。
足関節80°、膝関節160°でも立っていられます。これは軽く膝を曲げた状態です。競技ダンスではスタンダード種目の選手ではこれくらいの角度で普段立っていることが多いのでは。
足関節30°、膝関節60°。これはロアーあるいはフォールという膝を曲げた状態です。この時も立っていられます。
足関節の角度が2倍が膝関節角度のときに、安定して立っていられるということです。
仮に足関節と膝関節の角度が同じだったとします。これは難しくなります。やってみれば分かりますが足関節、膝関節どちらも80°くらいにしたら立っていることはかなり難しくなります。踵を上げて膝を曲げている状態は保つのは厳しいわけです。踵を上げたとしても膝関節も伸ばしておけばそこまで体勢を保つのは難しくありません。
さてこの法則を前提に、数式の条件を変えたとします。
2x<y (x:足関節角度、y:膝関節角度)
のときに体は前に進むようになります。これは重心が支持基底面を外れて前に進むようになるからです。ここで言う重心は上半身をまっすぐした状態での身体重心です。骨盤内にある定点だと考えてください。支持基底面は床に触れている部分を外周にした面積です。立った状態を保つには支持基底面内に重心があること。反対に歩く時は支持基底面から重心を外すことで可能となります。この足関節と膝関節の関係では重心が前に出てくるのでバランスが前に崩れるようになります。
2x>y (x:足関節角度、y:膝関節角度)
のときに体は後ろに倒れるようになります。上式とは逆に重心が支持基底面の後ろ側に出るように動きます。この足関節と膝関節の関係では重心が後ろに下がるのでバランスが後ろに崩れるようになります。
ここから更に条件を追加して膝関節角度を一定にしたとします。つまり膝関節の角度を変えないという条件。この場合では足関節角度xを変えるだけで、前進でも後退でも、初動が可能になるのです。つまり歩く時の最初の動きは足首を動かすだけで膝を動かさなくてもできることになります。
※精密な動作を考慮すると他にも色々と要素が入ってくるのですがシンプルな動作モデルで考えるとします。
このことを競技ダンスにあてはめます。特にスタンダード種目に。
前進にせよ後退にせよ、動作を始めるときは足首の動作が大切になります。反対に膝を使いすぎると動きが汚くなります。筋肉の強さでみると足首を曲げ伸ばしする筋肉よりも膝を曲げ伸ばしする筋肉の方がずっと強いのです。ですから初心者は強い筋力を使おうとして膝を使って動き出そうとしてしまいます。頭がぴょこぴょこしてしまう原因の一つになります。断っておきますがスタンダード種目に限らず競技ダンス全般で膝の動きは必ず必要になります。初期動作の話です。
膝を曲げたロアー状態でも同様です。膝関節角度60°くらいで下に降りた状態をキープしたら、足首をより深く曲げればそのまま体は前に進もうとしますし、反対に足首を伸ばせば後ろに進もうとします。このときに膝を伸ばそうとすると動きは上方向に行き効率が悪くなりますしスムーズになりません。膝関節を曲げれば伸ばそうと体が反応するのですが、初動作は足首を意識して膝を使わないように意識するのです。
足関節角度を調節して重心を支持基底面進行方向に出していくことが初動作になります。競技ダンス経験者だと分かると思いますが体を放り出すとか、足は体に付いてくる、といった表現がこれにあたると思います。反対に足を大き出そうと大股にしても重心が支持基底面から外れないと体が動こうとしないので「足は出ているけれど腰抜け、へっぴり腰で動けていない」ことになります。初心者の多くがこの過程を経験するのではないでしょうか。特に学生や青年で競技ダンスを始めた、筋力はあるけれど使い方が分からないという場合に。まず重心を支持基底面から外して(放り出して)次に倒れないように足が出て支えることでステップに繋がる。慣れてくると息をするようにする動作ですが、最初は感覚的に膝や股関節をよく使った方が大きく動けるような気がするものです。
さてこのことを知ると女性のヒールも関係が分かります。競技ダンスでは女性(パートナー)は高いヒールのシューズを履きます。だいたい7~9cmくらい。初心者はこのヒールの高さに苦しめられて、男性(リーダー)はヒールが無いから楽でいいわよね、と一度は思ったことがあるのでは。しかしこのヒールがあることで後退する際に省エネできるのです。どういうことかというとヒールがあることで足関節角度xが常時大きくなっています。ですから後退するときは軽く足首を伸ばすだけで重心を外せるので初動作が楽です。男性との身長差をカバーするだけではありません。反対に前進する際は、より足首を曲げないといけないので男性よりも動作に時間がかかります。それは男性の後退でも同じなのですが。この理屈を知っていると足を痛くするヒールが少しありがたくなるかもしれませんね。
このように競技ダンスにおける足首と膝の関係を説明しました。ほとんどスタンダード種目限定ですがラテンアメリカン種目でも応用できる部分もあります。動作の初期は足首を意識してその後膝を使っていきましょう、と考えてみるだけで初心者の動きがぐっと変わりますし、何年も経験してきた選手でも動きが変わることがあります。
甲野 功
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