開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
町の本屋さんがどんどん消えています。私が子どもの頃は近所に何軒もあった個人商店の本屋さん。今ではその多くが姿を消して、多店舗展開をしている大手しかほぼ残っていません。例え大手であっても生き残りは厳しく、新宿にあったジュンク堂書店はビックロに姿を変えて、タカシマヤタイムズスクウェアにあった紀伊國屋書店は規模を大幅に縮小しました。私が柔道整復師専門学校時代から鍼灸マッサージ教員養成科専門学校時代の足掛け6年、代々木駅前の校舎に通っていたので歩いて新宿南側のこれらの本屋によく足を運んでいたのですがどんどん消えていき、より新宿中心部に行かないといけなくなったことを記憶しています。
大手ですらそうですから町の個人商店はもっと厳しいです。人口が多い新宿区ですら実店舗を構える本屋は絶滅危惧種と言えるでしょう。私は子どもの頃から本屋巡りが好きでした。当時は結構立ち読みができた時代で(もちろん本当はいけませんが)、何よりマンガにビニールカバーが付いていませんでした。長時間の立ち読みはいけませんが手に取って中身を眺めることは購入に繋がると思います。高校生くらいになると、世界一の古書街と称される神保町と早稲田大学の城下町といえる早稲田の、古本屋巡りを始めます。掘り出し物を探しに自転車を走らせていました。
Amazonを筆頭にネット通販が台頭してくると本はネットで購入することが主流になっていき、在庫という物理的スペースを抱える本屋はどんどん苦境に立たされて消えていきます。私はそれがとても寂しく、本屋での予期せぬ本との出会いが無くなってしまうなと。幸いにも新宿駅まで出ればブックファーストをはじめまだまだ大規模な本屋があるので助かっているのですが。現物を見ないで本を買うあるいは電子書籍のみというのは、世代もあるかもしれませんが、困ってしまいます。
私が住むところは神楽坂が近いです。そして神楽坂周辺は出版社が多い。神楽坂というと文豪に縁がある、かつての花街、嵐メンバーの聖地(二宮和也、相葉雅紀氏の主演ドラマ撮影地)といった印象があるかと思われますが、出版の街でもあります。大手では新潮社、旺文社があります。他にも中小規模の出版社が複数あるのです。出版、編集関係者にとって本屋は大切な読者(お客さん)と繋ぐ場です。
その町の本屋さんですが、長らく家族経営を続けていた本屋が東西線神楽坂駅矢来口横にありました。子どもの頃からよく通っていた本屋で店員さんの顔が似ているので兄弟なんだろうなと勝手に思っていました。その本屋も時代の流れに逆らえないのかシャッターが降り、閉店の貼り紙。ああ、また一つ馴染みのお店が終わってしまったと私は思いました。
その事態を私以上に嘆いたのが同じ神楽坂にある書籍の校閲専門の校正会社の人。本屋の灯を消さないためにその本屋を「かもめブックス」として再生したのです。
かもめブックスは主に3つの業態によって成り立っています。本屋単体ではこの時代生き残ることは厳しいため複数の要素を取り入れたと言えます。
〇本屋:かもめブックス
『かもめブックスは新刊書店ですが、良い本をじっくりお客様にご紹介し、新しい本との出会いをもっと丁寧にご提供できるよう、書店従来の新刊を優遇した売場作りとは異なる「レコメンド/感動を伝える」「リマインド/感動を想起させる」を意識した売場を作っていきます。』
かもめブックスホームページより
元からある本屋機能を残しています。古書店ではなく新刊を扱います。以前より置いてある品数は大幅に減りましたが選んで本を置いてある店づくりをしていると感じます。反対に品揃えは絶対にネット通販に敵うわけがありません。まさに新しい本との出会いを提供するという意図を感じます。個人的な話ですがこちらには伝説のオカルト雑誌月刊ムーが置いてあるので、この号は買いたいと思ったらかもめブックスに行って買っています。
〇カフェ:WEEKENDERS COFFEE All Right
『美味しい珈琲を携えてページを捲ることの喜びを、もっと身近に。京都の自家焙煎専門店「WEEKENDERS COFFEE」金子将浩さんのこだわりの豆でエスプレッソをお楽しみください。ハンドドリップでスペシャル珈琲豆も味わって頂けます。テイクアウトのご利用もどうぞ。』
かもめブックスホームページより
大きなポイントはこのカフェでしょう。通りに面した一番目立つところをカフェスペースにしました。それによりカフェでお茶をしながら本を読んでいるお客が外から目に付いて集客効果が見込めます。立地でいうと神楽坂駅前と言っても外れの端っこです。最も栄えているエリアは飯田橋駅から大久保通りの間の神楽坂下でかつての花街、毘沙門天、路地裏などメディアでよく出るところ。大久保通りを超えて東西線神楽坂駅の方が神楽坂上で地元商店街の雰囲気があります。かもめブックスは神楽坂上の端で奥神楽坂と言われるエリアに近いのです。そこにカフェの路面店ができたので一気に雰囲気が華やかになりました。また、トーストを食べましたが美味しかったです。
〇ギャラリー:ondo kagurazaka
『見知らぬ熱に触れたとき、私たちは饒舌になったり奮起したりしていることに気がつきます。ondoは人と人が出会い、新しい何かが始まるスペースです。大阪の「ondo tosabori」と2拠点展開という新しい試みで、東西の面白いモノゴトをご紹介していきます。』
かもめブックスホームページより
店内の奥にはギャラリースペースがあります。ここに作品を展示すること、また入れ替えることで常に新鮮さを演出できます。展示するアーティストのファンも見込み客として狙えるでしょうし、カフェや本を求めたお客にも作品が目に留まる可能性が上がり、アーティストも本屋も互いに良い関係を築けます。表のカフェ、奥のギャラリーと本屋としてのスペースを削ったことで従来の本屋の印象を払拭して、神楽坂の街歩きで押さえておきたいオシャレスポット、という印象を持たせることができたのではないでしょうか。
これら以外にも食材を店頭で売ることもあります。
更に追い風となったのはラカグ(la kakagu)の完成です。ラカグとは新潮社の倉庫を改装した商業施設で設計を隈研吾氏が行った前衛的な建物。敷地の半分をウッドデッキと階段にするという斬新な(無駄な?)空間設計をしています。後にAKOMEYAの旗艦店になりますがラカグ開業でこのエリアが非常に注目されるようになりました。通りを挟んで向かい合わせになっているのでラカグとセットで巡る観光客が多いと思われます。
ラカグも新潮社という大手出版社の施設をリノベーション。かもめブックスも閉店した本屋をリノベーション。神楽坂に根付いた出版の文化が新しい時代に適応しようとしているように感じます。
本屋本来の機能を残すために新しい切り口、意味を見出して、生き残る。調べてみるとかもめブックスが始まったのは2014年でラカグ開業も同じ年。それなりの時間が経過しています。この間、消えることなく神楽坂の本屋文化を守ってきたと考えると、特に2020年からのコロナ禍を踏まえると、感動すら覚えます。
甲野 功
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