開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
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住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
先日、今年の春、鍼灸マッサージ専門学校に入学した学生さんが来院して按摩と指圧の練習をみました。
まだ入学したての学生さん。鍼灸の練習会や勉強会は色々なところであるのですが、あまり按摩、指圧の徒手手技の練習会や勉強会は見られません。3年前にある生徒さん(当時1年生)の声を発端に、私は「あましセミナー」を開催しました。『あまし』とは『あん摩マッサージ指圧師』の按摩(あん摩)、マッサージ、指圧の頭文字のこと。国家資格である『あん摩マッサージ指圧師』はどれも手で施術するということで3つの技術をまとめて一つの資格免許にしています。
ところが按摩は中国から、マッサージはフランスから取り入れ、指圧は成立したというそれぞれ異なったもの。歴史的に最も古くから日本にあるのが按摩であり、日本最古の法律、『大宝律令』にもその名称が出てきます。琵琶奏者、はり師と並び視覚障害者の生業として歴史を紡いできました。マッサージは明治時代に軍医がフランスから取り入れたとされています。指圧は大正時代に日本で生まれてアメリカ3大整体を含めて指圧として、あん摩マッサージ指圧師という国家資格にまとめたと言われています。
このように、傍から見ると単純な“いわゆるマッサージ”なのですが歴史的にも技術的にもかなり違いがあるのです。あん摩マッサージ指圧師専門学校に入ると3つの異なった技術をいっぺんに学びます。そして卒業後あん摩マッサージ指圧師として活躍するとなったときに、多くの人は按摩だけ、指圧だけ、マッサージだけ、という風にどれか1つに絞るのです。なお国家資格でいうマッサージ(massage)とは皮膚を直接触れて主に静脈・リンパにアプローチする技術を指します。世間一般に浸透しているマッサージは按摩や指圧になります。よって多くても3つのうち2つまでで3つ全て臨床現場で使う術者は多くはないでしょう。
この春入学した学生さんは按摩、指圧、マッサージの3つを同時並行で習っているそうです。私のときは指圧の授業が2年生からだったので、自分の時よりずっと大変だと思います。実技だけでなくそれ以上に座学科目がたくさんありますから。実技だってあん摩マッサージ指圧以外にも鍼灸があります。そのような状況で按摩と指圧の基本動作を習いたいという依頼でした。もう一人練習台になる学生さんを連れて、ペアで来院したのでした。もう一人の学生さんも鍼灸マッサージ専門学校に在学中ですので事情が分かります。
按摩と指圧について授業で習っている内容をみてもらってアドバイスを頂きたいということと、私が行っている様子を見たいという要望。何事もそうですが、実際にやってみると難しい。うまくいかないことを踏まえて見学すると理解が深まり早く上達するものです。
按摩、マッサージ、指圧の中で按摩と指圧は比較的近い技術だと私は捉えています。ですから按摩と指圧をセットで習うというのは良いセンスだと思いました。
まずは座学を行いました。按摩、マッサージ、指圧の特徴を比較するもの。発祥、基本手技、特徴的な手技、理論など。他に“手”の種類、意図など。学校では授業毎に個別に習っているものだと思わるので敢えて一緒に説明しました。按摩の基本手技は揉捏(じゅうねつ;揉むこと)、指圧は押圧操作(おうあつそうさ;押すこと)。揉捏がしっかりできるようになるためには指圧の基本である垂直圧ができないといけないと私は考えています。垂直圧とは体表面に対して垂直方向に圧を入れるということ。地面に垂直ではなく皮膚面に垂直に押す。これができないと皮膚が滑ってしまいます。体表面の皮膚は柔らかく“遊び”があります。真っ直ぐ圧がかからないとこの“遊び”によって引っ張られてしまいます。こうなると圧は入らないし皮膚が引っ張られて痛いしいいことがありません。困ったことに初学者は押している感触があるので「できている」と勘違いしてしまうのです。
鍼灸の方が難しいと思われがちですし、実際に難しいのですが、失敗が見た目で分かりやすい。鍼が真っ直ぐ刺さっていない、深さが足りない(あるいは深く刺さり過ぎる)、刺すまで時間がかかり過ぎる、など。灸も艾(もぐさ)の形が汚い、艾が倒れてしまう、線香の火がつかない、時間がかかり過ぎる、など。指圧や按摩の場合、慣れないと何が変なのか分かりづらいのです。
垂直圧を実現するためには指や手をしっかりと置くこと、そして正しく押した感触を覚えることです。指を垂直に置くためには全身で、特に下半身を使って位置を定める必要があります。体格や指の形など個人差があるので完璧な正解はありませんが位置取りをするためにはある程度の運動神経が必要で、今自分がどのような体勢になっているか客観視できないといけません。その基礎を怠ると長時間指圧をすることが難しくなります。余計な力を使うことになりますし術者の身体に負担がかかるからです。そして本当に垂直圧になっているかは指や手からの感触で判断します。これは斜めに圧が入っている、皮膚の遊びで滑っている、といったことを触覚で判断するのです。押しているところを見れば目視の判断ができなくもないのですが、それをすると姿勢が悪くなり結果的に悪影響を及ぼします。まして毎度毎度目視で確認しながらでは手技が進みませんので。
練習相手にうつ伏せになってもらい延々と垂直圧ができるように手掌(手のひら)や母指(親指)で肩から背中、腰を押してもらいます。圧が逃げている、皮膚が動いている、体勢が悪い、下半身を使ってなど延々と繰り返して押圧操作をしてもらいました。更に半月の手だとか重心移動だとか足の向きだとか伝えるポイントが多かったのです。垂直圧ができて初めて筋肉や硬結(いわゆる凝り)を捉えることができるのです。実技の前半は指圧で背中を押し続けてもらいました。恐らく学生さんはこんなに難しいのか、こんなに疲れるのかという気持ちだったとのではないでしょうか。
指圧基礎で主に押圧操作を練習。特に垂直圧、持続圧ができるように姿勢の作り方と感触を覚えるようにしてもらいました。
次は座位で按摩の揉捏です。
揉捏は筋肉を揉む動きなのですが初学者の多くは皮膚表面を揉んで筋肉まで届いていない。私の経験上、このような事態がよくあります。そうならないために、まず垂直圧で真っ直ぐと圧を入れて皮膚の下の筋肉を捉えること。その次に捉えた筋肉を揉んでいくというわけです。肩や背中の筋肉を指で捉えて揉む(揉捏する)。これも想像以上に難しいことです。まして1年生の最初の按摩実技は練習相手が座位、床に座った状態で行います。この状況ですと相手を押させておく必要があるので床やベッドで寝ている場合よりも難易度が上がります。体勢を作るのが難しくなるのと相手を支えないと圧が入らないからです。
更に来院した学生さんは私と同じ呉竹学園の生徒さんであるため、『MP揉み』という揉捏方法を伝えます。このMP揉みという母指揉捏が呉竹学園の按摩における特徴で習得するのがかなり難しいのです。私も学生の頃、最初は何を言っているのか理解に苦しみました。それを座位というハードルが高くなった状況で行います。初学者にとっては厳しい課題で、相手に寝てもらったらもっと楽なのにと内心思うのでした。
約2時間基礎練習を続けた学生さん。同じ時間手技を受け続けたペアの学生さん。互いに大変だったことでしょう。学校外でわざわざ練習しに来るのですから大したものです。今後素晴らしい術者になるのではないかと期待しています。
甲野 功
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