開院時間
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住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
6月8日に鍼灸専門学校1年生が来院し、鍼灸の流派について説明しました。
学生ペア割という鍼灸学生向けのプランを当院は持っています。これは学生がペアになって見学と体験を一緒にできる割引プラン。内容は学生さんの要望に沿うようにしています。このときは今年の4月に専門学校に入学した1年生のペアでして、「鍼灸の現代、中医、経絡の違いを知りたい」という要望を事前に聞いていました。
ここで軽く説明しますと日本の鍼灸は主に3つの流派(技術・理論体系、思想などを含めて)があり、それが現代派鍼灸、中医学、経絡治療です。色々と説がありますが大まかにこの3種類です。何をもって現代派というのか、とか、どこまでを経絡治療とするのか、とか、中医学は毛沢東以前のものも指すのか、など細かい議論は枚挙にいとまがないわけですが。その違いを知りたいというのです。
この要望はかなり難しい内容でどうしようか悩みました。
分類を整理して説明するのがなかなか難しいわけで。正直なところはっきりと解説できない部分もあります。私が鍼灸専門学校に入学したのが18年前。それから教員養成科を経て今まで学んできたことを整理してもはっきりとしていないことがままあります。何より3つの流派を専門的に取り組んでいるわけではないので、各々を深く突き詰めると不明点がどんどん噴出してしまいます。
しかし良くも悪くも鍼灸に関心がないまま専門学校に入学した私はどのような鍼灸にもこだわりがなく(好き嫌い、得手不得手はありますが)、どれかを信奉したり反対に何かを否定したりする気持ちがありません。冷静に個々を比較検討できる方だと思っています。難しいけれども個人的には得意なお題であるとも言えます。
別の点で難しいことが、4月に入学してまだ2ヵ月の1年生に話すということ。これが2年生で東洋医学概論、東洋医学臨床論、解剖学、生理学、臨床医学各論、臨床医学総論といった科目を1年間勉強しているのであれば話がしやすく、3年生であればもっと楽になります。この段階でどこまで知識があるのだろうか。おそらくほとんど一般人と変わらないという前提で取り組まないといけなさそうだと考えました。五臓六腑とか補瀉とか東洋医学用語がどこまで通じるのだろうか。ホメオスタシスはもう習っているのだろうか。どこまで説明しなければいけないのか。きっと最初から説明しないといけないだろうなと。
これまでに経絡治療と中医学を比較する資料は作ってありました。その資料から細かい部分を省いて初学者向けに簡易的な資料に作り変えました。それに現代派鍼灸の説明を加えて資料を再編成しました。まずは(いわゆる)東洋医学と(いわゆる)西洋医学の比較。そこから大雑把に現代医学的(西洋医学的)な鍼灸と伝統医学的(東洋医学的)な鍼灸があること。伝統医学的な鍼灸には経絡治療と中医学がありその比較。今の東洋医学概論の教科書は中医学をベースに書かれていることを踏まえて二つの相違点を説明しました。
鍼灸専門学校1年生のこの時点でどこまで理解してくれるかは分からないのですが、あまり簡単な表面的なものにもしたくないので、初学者向けといいながそれなりに詳しい資料にしてみました。今はよく分からなくても、今後そういえばあの時聞いた話だ、と思ってくれることを信じて。
そして座学の次は実技です。実際に経絡治療のやり方、中医学の特徴的な鍼の仕方、現代的な筋肉ベースの鍼を見てもらうことにしました。理論・理屈も大切ですが、同じ鍼灸にカテゴライズされながら、やる内容(鍼の太さ、刺す深さ、刺し方など)がかなり異なることを目で見てもらい体験してもらいます。
まずは脈診、腹診をした上で経絡治療の鍼。太さの細い鍼で浅めに刺します。置鍼という刺したままにしておくやり方。そして鍉鍼を用いて経絡上を刺激する。全体的に優しい穏やかな感じです。
次に中医学の鍼。太くて長い中国鍼を用います。鍼管を用いない刺し方。より深く刺します。刺してから提挿、捻転。経絡治療との違いがはっきりするように敢えてダイナミックに鍼を動かします。訪れた学生さんは中国鍼を刺された経験が無かったのでその刺激に驚いていました。響くとはこういうことなのかと実感したと言います。
そして筋肉への低周波鍼通電。経穴というよりも筋肉を目指して刺鍼してパルス通電を行います。周波数を変えて筋肉の単収縮と強縮を体験してもらいました。オームパルサーという器械の説明を加えて。
学生さんの反応は前半の座学と違ってとても印象が強かったようです。文字情報を追うのと、実際にしているところを目で見て体験するのはやはり違います。まだ学校で他人の体に鍼を刺していないということですので、その様子は衝撃的だったようです。私からすると当たり前のことなのですが、「そんなに深く刺すんですね」、「刺してからすごく鍼を動かしますね」といった感想が口から漏れていました。内心、この程度のことで驚くのか、という気持ちと、自分にもこういう時期があったことを思い出し、初心忘るべからずと気を引き締める想いがありました。きっと学生さんはほどなくして当たり前のことになっていくことでしょうが、初めてのときの感覚(驚き、衝撃)は残ることでしょう。
普段は中医学、中国鍼をほとんど扱うことが無いのでよい復習になりました。そして3つの流派を比較する資料を作成することで、改めて知識・情報を整理し調査する機会を得ました。今となっては当たり前すぎて疑問に感じなくなってしまったことを、学生さんは質問してきます。その何故に真摯に向き合うと、何となく分かったつもりになっていたことが明確になってきちんと学び直そうという気になります。教科書に書いてあるから、そう決まっているから、と言ってしまうのは楽ですがそれでは学びが薄くなります、私も学生さんも互いにとって。基礎を見直すチャンス、そして課題を得ていると思います。
甲野 功
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