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人体で最もよく動く(可動域が広い)関節が肩関節です。競技ダンスにおいても非常に重要な部位であるわけです。スタンダードでいえばホールド。シルエットを美しくする意味でもコネクションを保つにするにしても。ラテンでいえば表現全般。スタンダードよりも腕を自由に使えるため表現に欠かせません。もちろん相手とのコネクションにも重要です。
知っているようで知らない肩関節について。
まず“アーム”と聞いてどこを思い浮かべるでしょうか?ラテンではフリーアームといいますが。機能解剖学の話では「自由上肢」と「上肢帯」に分けられるのです。上肢というのはいわゆる腕全般を指します。足だったら下肢ですね。自由上肢は上腕、前腕、手、指と腕から先のことです。自由とつくくらいですからよく動きます。自由上肢の発達が人間を発展させた要因になります。ここに「上肢帯」というものも含めて上肢としています。上肢帯とは鎖骨、肩甲骨を指します。帯はベルトのような意味。自由上肢を支えている存在です。何が言いたいかというと鎖骨と肩甲骨も解剖学でいうと上肢、すなわち腕に含まれるということ。このことを踏まえた上で肩関節を考えてみましょう。
肩関節と一言で済ませがちですが、正確には複数の関節や機能が合わさっています。肩関節には「解剖学的関節」と「機能的関節」が存在します。指や肘、膝などの一般的に動かせる関節は解剖学的関節といって複数の骨と関節構成体(関節包、滑膜など)というもので構成されています。対して機能的関節とは関節構成体が無い一般的な関節ではないがその機能を持っているところです。肩関節とはこの解剖学的関節と機能的関節が複数組み合わさって“肩回りの動き”を担っているのです。
解剖学的関節は「肩甲上腕関節」、「肩鎖関節」、「胸鎖関節」の3つがあります。
機能的関節は「肩甲胸郭関節」、「肩峰下関節」、「烏口鎖骨機構」の3つがあるとしています。
解剖学的関節はその造りがはっきりしています。機能的関節については諸説あり烏口鎖骨機構を入れないこともあります。少し面倒ですが一つ一つみていきましょう。
●解剖学的関節
・肩甲上腕関節
肩甲骨と上腕骨で構成される関節。肩関節といったら狭義ではこの関節の事をいいます。肩関節脱臼というのはこの肩甲上腕関節が外れることを指します。
・肩鎖関節
肩甲骨と鎖骨を繋げる関節です。肩甲骨の肩峰と言われるところと鎖骨の外端が繋がっています。鎖骨は骨折しやすい骨の一つで、鎖骨が折れてしまうと肩が挙がらなくなります。
・胸鎖関節
鎖骨と胸にある胸骨を繋げる関節です。位置的に体の前面、胸の上部にあるので肩関節と言われてもピンとこないかもしれません。
●機能的関節
・肩甲胸郭関節
肩甲骨と肋骨で作られる胸郭が接する部分。肋骨は12対あり、籠のように胸部の周りを囲んで胸郭を形成します。その胸郭に乗るように肩甲骨が付いて複数の筋肉群で支えています。肩関節の動きに重要な働きをしていてコッドマンリズムという肩甲上腕関節との連動があります。
・肩峰下関節
第2肩関節とも言われます。肩甲骨の烏口突起という部分と肩甲骨の肩峰、それにそれらを繋げる烏口肩峰靭帯によってできるソケット状の烏口肩峰アーチと上腕骨の骨頭から構成されます。骨と骨の関節ではありませんがここがうまく働かないとインピンジメント症候群という挟み込み現象が起きて、痛みを伴い肩の動きを悪くします。
・烏口鎖骨機構
C―Cメカニズムとも呼ばれます。肩甲骨には烏口突起という出っ張りがあり、そこと鎖骨を烏口鎖骨靭帯が結んでいます。烏口鎖骨靭帯があるおかけで肩鎖関節と胸鎖関節の運動を調節することを言います。
個別に細かく解説するときりがないのですが、このように肩関節には複数の関節や機構が組み合わさっています。
このことを踏まえて競技ダンスを考えてみましょう。
●肩甲骨、鎖骨も含めてアームと考える
ラテンのフリーアーム。これには(いわゆる)腕や手だけでなく、肩甲骨と鎖骨もフリーアームだと考える必要があるでしょう。「背中から手を動かす」というアドバイスがありますが、これは『肩甲骨を意識してフリーアームを使う』と翻訳できるでしょう。肩甲骨の自由な動きによってダンスが立体的になります。コネクションも固くならず相手とのより高い一体感を生み出すことでしょう。
では肩甲骨を意識するにはどうしたらよいでしょうか。背面についていることもあり、肩甲骨がどのような状態になっているかを認識することは訓練を積まないと難しいものです。そのときに肩甲骨と連動する鎖骨を意識します。鎖骨が動くということは肩甲骨も動きます。上肢帯として肩甲骨と鎖骨は機能しており、肩鎖関節で繋がっています。鎖骨は前面についていて容易に触れることが可能。鎖骨を動かす訓練を積むと肩甲骨も動きやすくなります。その際に胸鎖関節、胸骨と鎖骨のつなぎ目に注目してください。来院した選手に試すことがありますが、胸鎖関節の動きをよくしようとする方は今でいませんでした。胸鎖関節の動きを意識するとスタンダードのホールドが良くなります。
●骨で考える
コツを掴むという言い回しがあります。このときのコツとは骨のことと言われています。武道では骨で体の動作を考える練習方法があるそうです。骨は体の支柱であり、形が変わりません。自ら能動的に動くことはできず、筋肉が収縮することで他動的に動く存在です。ですから個々の骨をどう動かしているかを考えると意識がシンプルになります。肩関節にある骨は鎖骨、肩甲骨、上腕骨。それらと繋げる胸郭、胸骨。ここの筋肉を使って、と筋肉ベースで考えがちになりますが(練習を積み重ねると筋肉の知識がつき、かつ個々の筋肉も意識するようになるのでなおさら)、骨をどう動かすかで考えてみると視点が変わって上手くいくことがあります。
●肩関節には胸も関係することを知る
解剖学的に肩関節には胸骨、鎖骨という胸部も関係することが分かります。つまり競技ダンスで上半身を上手に動かすには胸部の意識も必要ということ。リーダーは背中に背番号をつけますし、パートナーは背中が開いたドレスが多いので背中の方に注意がいきがちです。背中を意識することはもちろんとても重要な事ですが、前面、胸部の意識も忘れてはいけません。胸骨と鎖骨の関係や大胸筋の下にある小胸筋を意識するとより肩関節が使えるようになるでしょう。
肩関節の動きは競技ダンスにおいて上半身の表現に大きく関わります。スタンダードでシルエットが綺麗というのはほぼ背中から首にかけての部分で見るでしょう。そこに関わるのはムーブメントの関節である肩関節。ラテンのコネクションやフリーアームの基盤は肩関節。ここから腕や手、指に繋がっていきます。
甲野 功
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