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~鍼灸マッサージ専門学生に就職について話したこと~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 スライド表紙 就職先の違いと考察
スライドの表紙

 

 

昨日は鍼灸マッサージ専門学校の1年生、2名が来院しました。目的は色々とありましたが就職及び卒業後について知りたいという要望があったのです。

 

当院にいらっしゃる学生さん達は情報収集をしている方が多いです。私が専門学校生だった頃とは比較にならないくらい、今は膨大な情報が手に入ります。他校の学生さんのこと、開業している先生のこと。それ以外にも業界団体のことや勉強会、セミナー、海外の鍼灸師について、法律、事件など本当に多種多様な情報は感度を上げていれば得ることができます。

多くの学生さんにとって一番の関心事は国家試験のようですが、次に出てくるのが学校の定期試験(座学、実技を含む)をはじめとした日々の授業内容、そして卒業後の進路のようです。自分なりに就職と卒業後の進路に関する情報をパワーポイントのスライドにまとめ、話をしました。

 

そのときのことを書いていきます。

 

最初のきっかけはグループ展開をしているある整骨院グループで、一斉にスタッフがTwitterにアカウントを作って関係者をどんどんフォローしたことでした。Twitterを活用している鍼灸マッサージ専門学校の学生さんはその動きに違和感を覚えたのと、普段交流している開業鍼灸師たちとは使い方が異なることに気付いたのです。そのときに学生さんは個人院とグループ院では同じ職種でも違うのだろうかという疑問が生まれたようでした。この先、就職することを考えたときに、その違いはあるのかを知りたかったようです。

そういうことならば、ということで私の今までの職歴と方々から仕入れた情報を元に考えをまとめて資料におこしたというわけです。

 

まず私が資料を作るにあたって考えた事、というより前提条件なのですが、それは“職場はそれぞれで入ってみなければ分からない”ということです。

それはそうだろうという話なのですが、どういう所かは実際に入職してみなければ分かりません。どれだけ外から素晴らしいように見えたとしても中に入ったらそうとも限らない、というのはどこの業界でもある事でしょう。反対にブラック企業、ブラック職場だと周囲が認識していても、当の本人にとっては居心地の良かったりやり甲斐を感じたりすることもあるのです。数多ある職場を数少ない情報でこうだ、と決めつけるのはいけません。だからといって、『職場はそれぞれで入ってみなければ分かりません』と一言で終わらせたら、学生さんが聞きにくる意味がありません。

そこで考えたのは、私自身の経験を丁寧に説明すること。木を見て森を見ず、の前に、丁寧に一本の木を見た上で森を考えてみようか、という進め方です。私のことは実体験ですから間違いなく事実。誰かの体験談ではありません。リアリティーがあります。

 

今回は私の職歴について時系列で並べました。大学を卒業して一般企業で就職したところから始めます。一般企業→(脱サラ)→(民間専門学校)→リラクゼーション店→(鍼灸マッサージ専門学校)→鍼灸整骨院→(柔道整復専門学校)→クリニック→(鍼灸マッサージ教員養成科専門学校)→大学病院→(開業)という流れ。話を聞きに来た学生さんはそれぞれ専門学校入学前のバックボーンが異なります。ですから、理科系大学を卒業して新卒で半導体商社に就職するも、入院を機に会社を辞める決意をして、まず民間専門学校に入ってリラクゼーション店で働き、その上で国家資格を求めて鍼灸マッサージ専門学校に入学し、鍼灸整骨院に就職するも職場の意向もあり柔道整復師専門学校にも通うことになり、その後整形外科クリニックに就職するもそのクリニックが先が無いことを知ったため、教員養成科にまた進学し、教員養成科卒業と共に開業と大学病院の臨時職員になり、大学病院は3年で辞めて現在の開業一本になった、という職歴と進学の流れを説明することで、学生さん各々に卒業後の流れを考えるきっかけにしてもらいたいなと思いました。

 

その時々で私が何を考えて進学し、何を学んだのか。何を考えて就職して、そこで何を得たのか。何を考えて職場を変えて、結果どうなったのか。それら紆余曲折を経た実体験から学んでほしい、自分事として想像してもらい。そう考えました。

 

各職場において、そこで得たポジティブな学びとネガティブな経験の両側面を紹介しました。私は嫌だったことも大切だと考えていて、やってみてもう絶対やりたくないということが分かった、ということはキャリアアップにおいてプラスになると思うのです。就職というのは何がしたいかで考えるとなかなか迷うもので、反対にこれだけはやりたくないと進んだら間違いなく失敗するルートを避けることを考えると上手くいくものかと思います。

そもそも、4年制大学を出て上場している企業に新卒で入ったのに2年半で辞めるのは非常に親不孝なことです。私自身が親になったからよく分かります。しかしストレスで9日間も入院するくらい身体がおかしくなる経験が新しい道を進む後押しになりました。入院先のベッドで、自殺したり病死したりする方が親不孝だよな、と考えるほど。中途半端に居心地がよくズルズルと残るより、きっぱりとジョブチェンジしたのは今となれば良かったです。まだ20代前半でしたし。

余談ですが、ストレスの原因となった直属の上司はその後同じように会社を辞めて鍼灸師の道を目指すことになりまさかの母校の後輩となります。企業を退職して18年後に、私が講師として招かれた母校の廊下で立場が逆転して再会したときは腰を抜かしました。何の因果だろうと。

 

そういう話を含めて、一般企業(半導体商社)、リラクゼーション店鍼灸整骨院クリニック大学病院と各職場の特徴を説明しました。また生々しい話ですが職場が安泰であることは限らないということも。企業時代の話ではアメリカ9.11テロ、ITバブル崩壊で受けた悪影響について話しました。務めたリラクゼーション店のうち2つはもう閉店しています。鍼灸整骨院では多店舗展開を進める上での内部の軋轢。クリニックでは医療制度を悪用した結果、廃院になったこと。

就職した先が健全で安心できるかどうかも分からないという現実を知ってもらいました

 

私個人の職歴を振り返った後は一般論です。

まず卒業後の進路にはどのようなものがあるのか。これは過去に書きましたが、臨床教育研究その他の4つがあると意見を述べます。その4つで最も進路先で多い臨床に注目します。鍼灸マッサージの技術を活かせる臨床現場の種類。そして業態。重ね重ね断っておきますが職場の実情はそれぞれですが、最大公約数になるだいたいどこでもこれは当てはまるだろう、という特徴を紹介しました。この部分については別の機会に書いてみます。

 

続いて学生さんに伝えたかったことして、その時のキャリアのステージを見据える、ということ。キャリアアップするには各段階があります。この仕事は技術職である以上、どこから必死に臨床経験を積まないといけない時期が必要です。ブラック職場と揶揄されても、薄給でこき使われても雑用をこなして、患者さんに触れて、居残り練習して、失敗できるときに失敗して、積み重ねないといけないものがあります。それができないのであれば自腹を切ってでもやるしかありません。1年で済むのか10年かけて行うかは人それぞれではありますが。

また稼ぐステージや自分のペースで過ごすステージなどがあると考えていて、今どのステージにいて、次がどのステージになりたいのかを考えること。それは自身の結婚や出産、親の健康状態、生活拠点の変更、災害など外的要件も関わります。そういうことも就職というかキャリアアップには大きく関係するということを伝えました。

 

話が終わった後に、一人の学生さんがとても腑に落ちたという感想を述べました。その方は社会人経験がある人だったので、そういえばこういう風にキャリアを積んできたことを思い出した、それをもう一度すると考えるときついな、と。またこの職種が自分には一番あっているかも、というものが話を聞いて出てきました、一番しっくりきます、とも。就職及び卒業後の進路に悩むのは先々の見通しが立たない、情報が足りないからだと私は思うのです。私個人の職歴と一般論程度の就職先分類を聞いて、自分ならこれが良さそうだという道が見えたようでした。私は資料を作って話をして、とても良かったです。まだ1年生ですが、順調に2年経てば卒業です。良い鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師が生まれることは業界にとって、社会にとってプラスになること。少し迷いが晴れて前向きに勉学に励んでくれることを願うばかりです。

 

甲野 功

 

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