開院時間
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先日、当院で話をした『就職先の違いと考察』の話。来院した鍼灸マッサージ専門学校1年生お二方に向けた内容。まだ1年生ですが卒業後の進路について疑問や分からないところがありました。
就職は卒業後の進路における選択肢の一つ。卒業後にどうなっていくかはその人次第です。学校は国家試験合格を一つの、そして最大のゴールとして指導します。国家試験に合格しなければ何も始まらないのです。つまり学校生活のゴールは国家試験合格でありますが、学生さんにとってはプロとしてのスタートになります。スタートラインに立ってからはどこに進むのかを学校は教えてくれません。教員たちはアドバイスをしてくれるかもしれませんがこうしなさいとは言わないでしょうし、言えません。卒業後に厚生労働省から免許を頂きあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師としてキャリアを積み重ねていく道筋は自分自身で決めていくのです。就職はそのステップの一つでしょう。
前回は就職先にはどのような職種があって、職場形態の違いは何かを一般論で説明しました。就職先は、本人のやりたいことややりたくないことを踏まえて研究した方がいいでしょう。しかし根幹にあるのはどのようなキャリアアップをしていくのかを常に考えておくことが必要だと思うのです。「今、自分はどの段階にいるのか」、そして「どこに向かうのか」。この2点を頭に置いておく。キャリアを積み重ねるにはそれぞれの“ステージ”があります。誰もが新人時代はあり、どれだけ高名な先生でも最初は何もできない時代があるのです。生まれついて経穴を300個正確に記憶している人はいませんし、人の身体に鍼を刺す事に全く躊躇なかったということもないのです。就職して働きながらキャリアのステージはどこらへんか見据えておかないと、上手くいなかなくなるでしょう。
私は学生さんにキャリアのステージをピラミッド型の図で説明しました。便宜上5段階あり、上に高く高くしたければ土台が広く頑丈にしないといけません。これは勉強や技術でも同じこと。下のステージから以下のように設定しました。
・上長・先輩の指示されたことをこなせる:新人
・自律して通常業務ができる:雇用期間終了
・新規患者さんを任せられる:中堅・戦力
・仕事を生み出せる:院長級
・他人に真似できない技術:独立して仕事ができる
一つ一つ説明します。
・上長・先輩の指示されたことをこなせる
これは就職当初の新人時代です。職場で上の立場(上長や先輩)に指示されたことをこなす段階です。インターンシップなどで既に職場に馴染んでいるなら別ですが、まずは言われたことを精一杯全力でやります。覚えることは膨大でしょう。学校で習わないローカルルールや職場内の決まりもあるはずです。このステージではとにかく真摯に真面目に取り組む。この段階で我を通そうとする人、悲観する人がいます。
『鍼灸師になったのに電気パッドの脱着や受付ばかり、患者さんに触らせてもらえない。』
『雑用ばかりでいる意味が見出せない』
といった不満を口にする。私は過去に実際に出会った新規入職者です。そして数ヵ月で辞めていく。今でもこういうことは少なくないのではないでしょうか。就職して給料を頂き患者さんの前に出るということはプロであるということ。それであるならば“なにかしらの利益”を出さなければなりません。“利益”がまだ出せないのであれば職場に“貢献”しないといけません。パワハラだ、ブラック職場だという意見があるかもしれませんが、職場にいるだけでリソース(資金、時間、人手など)が割かれるのですから、このステージでは言われたことをやるしかありません。雇用主や上長に、今できる事、求められている事を理解する。今のあなたに求められているのは“エース”なのか“雑用”なのか。エースができるなら最初から任せています。実力云々の前段階である事を知らないといけません。どれだけ学校で優秀な成績を修めて卒業したとしても、臨床現場は勝手が違います(逆に学校の成績が悪くても現場では大いに力を出せるタイプもいます)。
・自律して通常業務ができる
新人時代が過ぎて自律して通常業務ができる段階が次のステージです。だいたい雇用期間が終了する頃でしょうか。自律というのは自立と少し意味が異なり、自らの意思でできるということです。言われたことができるようになるのが自立だとしたら、言われなくてもできるようになるのが自律といいますか。院内の業務の流れを把握し、次にどう動けばいいのか分かる。気を利かせて先回りして動ける状態です。イレギュラーの状況を除いてルーティーンワークができている段階。
このステージまで来ると上長や先輩の手間がかからなくなり、本人も余裕が出てくる頃です。どんどん臨床デビューに向けて準備を進め、患者さんに入るようになります。前ステージでしっかりと取り組んでおくと、どうしてこのように言われるのか、何故ルールがあるのか、という根拠が理解できてきます。その段階を疎かにしていると自ら考えて行動するという動きが鈍くなるでしょう。技術の流派や接遇の仕方など一術者として納得できないことがあるかもしれませんが、職場がどのようにまわっているかが見えてくると落としどころが出てくると思います。
・新規患者さんを任せられる
新規患者さんを任せられるというのは臨床において大きなキャリアアップだと考えています。既存の患者さんは情報があるので対応しやすいのです。信頼も得ていることが多いでしょう。例えミスをしてもまた先輩スタッフに変わればいいという保険もあります。ところが新規患者さんは事前情報が無いので初対面で信頼を得て、施術し次回に繋げないといけません。常連患者さんを任せられるのはある意味ルーティーンワークですが、新規患者さんはイレギュラーの内容です。
このステージまでくると“中堅スタッフ”とか“戦力になる”といった段階です。どの職場でもリピートしてもらうことが大切ですから新規患者さんを任せるのは勇気がいります。それを任せられて、かつ安定的に次の来院に繋げることができたとすれば、大きなキャリアアップだと考えています。言わば勝ちパターンができてきたということ。ここまで来たら別の職場でキャリアアップをはかったり独立して自分で始めたりすることも視野に入れていいかと私は考えます。
このステージに来るにはある程度場数を踏んでいかないと到達できないでしょう。それも全く知らない他人に対価(料金)を頂くという経験。友人、知人に施術してどれだけ好評だったとしても足りません。他人に正当な価格の料金を払わせた状況で成し遂げる。そのためには試行錯誤が必要です。個人的にこのステージまでたどり着く前に鍼灸師を辞めてしまう人が少なくないように思うのです。
・仕事を生み出せる
自ら仕事を生み出せる段階。ここでいう“仕事”とは答えの出ていない新しい取り組みという意味合いです。既に誰かが行って答え(成果)が判明していることは“作業”です。“作業”と“仕事”は異なるのです。下の・上長・先輩の指示されたことをこなすステージでは仕事ではなく言われた作業をこなしているということ。掃除をする、備品整理をする、といったことは“作業”です。対して新規患者さんに施術することは前例が無くどうのような結果になるのか分からないのでそれは“仕事”になります。仕事を生み出せるというのは、職場で新しい広告を出してみる、キャンペーンをしてみる、ブログを書いてみる、動画を作成してみる、など既存の業務ではない新しいことをやってみることです。結果はやってみないと分からないのですが、挑戦してみる。その挑戦が認められるくらい職場で信頼をされていて、かつ開拓精神を持ち状況をより良くしようとする気概が必要。またやってみて何も良い結果が得られて新たな柱業務になれば、それはまさに“新しい仕事(=利益を生む業務)”を生んだことになります。
このステージまでくると能動的に働きかけて職場を変える、創ろうとする段階にあります。現場を任される院長レベルに達しているでしょう。そのために基本を踏まえて実績を積み重ねていないといけません。場を作れるというのは大きな能力であり、他で雇われ院長としてヘッドハンティングされたり、分院を任さられたりするステージです。
・他人に真似できない技術
そうそう他人では真似できない技術を習得している段階。ここでいう技術は施術技術に限らず、接遇面や広報活動、人柄、マネジメント力など広い意味での稼げる技術です。このステージまで来るとファンがついており、「先生じゃなきゃダメなのよ」という声がたくさん聞かれます。臨床能力だけでなく新規の店舗を造り出せる能力も備わっているくらい。このステージまで来ると独立して仕事ができると言えます。個人で開業するのも、オーナーに雇われて現場を任されるものも。自分で仕事を生み出せてかつ周囲と差別化ができる。一つの到達点になると考えています。
大雑把にこのようなキャリアのステージがあるのではないでしょうか。就職したら現場で求められることをしっかりやり、かつその要望の少し上をやるようにする。そうすればキャリアアップのスピードは上がると考えています。私も就職した職場は朝から夜遅くまで忙しかったのですが、その時期に遮二無二に働いて学んだから今があります。正直な感想として、休みが少ない、待遇が悪い、疲れが取れない、といった愚痴がこぼれたものですが、今はどの段階なのかを考えて日々過ごしていました。専門学校卒業後はキャリアアップのステージを理解することが重要です。厳しい労働環境でもガンガン経験を積むステージなのか、成功体験を重ねるステージなのか、とにかく稼ぐステージなのか、自分のペースで仕事をするステージなのか、など。それを見誤るとルーキーの大事な時期を逃してしまうかもしれません。
またキャリアのステージは年齢、結婚、出産などライフステージと大きく関係します。子育てが忙しくて長時間職務に携われない。親の介護が必要になった。家族の都合で引っ越さなければならなくなった。こういった外的要件によってキャリアアップがうまくいかないこともあるでしょう。すなわち人生設計にも繋がること。時に1年でできることを10年かけてじっくりと行わないといけない場合もあるし、すぐに稼ぐステージに立たないといけない場合も考えられます。
最後に学生さんに伝えたことは、就職先は大切だがそこでどうキャリアアップするのかの方がはるかに重要であること。“どこに入るか”よりも“そこで何をするのか”。また「自分はどこに向かうのか?」。その問いを常に持っておくこと。違ったなと分かれば方向転換はいくらでもできますが、進まないことには何も起きません。恐れて動かなければ失敗もしませんが進歩もしません。そして能力(免許・技術・知識)と環境(職場・人脈)によって、“できること・やりたいこと”がより鮮明になります。能力が高まればそれまで見たことがない景色が見えてきます。環境によって自分だけではできない成長がもたらされることがあります。話を聞いた学生さん達が卒業後に活躍できることを願っています。
甲野 功
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