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これは厚生労働省ホームページに掲載されている“医業類似行為に対する取扱い”について出された文書です。もちろん現厚生労働省が公式見解としている内容でしょう。常識的に嘘をホームページに載せるとは考えられませんし。その通知内容の一部、抜粋します。
『
(平成三年六月二八日)
(医事第五八号)
(各都道府県衛生担当部(局)長あて厚生省健康政策局医事課長通知)
近時、多様な形態の医業類似行為又はこれと紛らわしい行為が見られるが、これらの行為に対する取扱いについては左記のとおりとするので、御了知いただくとともに、関係方面に対する周知・指導方よろしくお願いする。
記
1 医業類似行為に対する取扱いについて
(1) あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復について
医業類似行為のうち、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう及び柔道整復については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第十二条及び柔道整復師法(昭和四十五年法律第十九号)第十五条により、それぞれあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師の免許を有する者でなければこれを行ってはならないものであるので、無免許で業としてこれらの行為を行ったものは、それぞれあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律第十三条の五及び柔道整復師法第二十六条により処罰の対象になるものであること。
』
この文章を読むかぎり、あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう(この3つを総称して「あはき」とまとめることが一般的です。はり、きゅうは鍼灸のことで免許制度上、はり師・きゅう師と分かれているためこのような表現をしています)、柔道整復は医業類似行為であると読み取れます。
また令和2年(2020年)11月に総務省から発表された報告書にこのようなものがあります。
<消費者事故対策に関する行政評価・監視 -医業類似行為等による事故の対策を中心として- 結果報告書>
内容を抜粋しますが、前書きにおいて
『
医業類似行為には、「あん摩マッサージ指圧」や「柔道整復」といった国家資格が必要な施術のほか、これら以外の手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが含まれる。
』
という文言があり、あはき、柔道整復は医業類似行為であることが明記されています。
最初に挙げた厚生労働省の文書は平成3年(1991年)のものですが、次に挙げた総務省が出した報告書は令和2年(2020年)のものです。
更に昨年の令和3年(2021年)には厚生労働省医政局が各都道府県、保健所を設置する市、特別区の衛生担当部(局)に向けて<医業類似行為業等に関する指導について>と題する通知を出しています。
そこの一部を抜粋すると
『
第1 医業類似行為に対する取扱いについて
(1)無資格者が医業類似行為を行った場合の取扱い
医業類似行為については、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師又は柔道整復師の免許を受けた者(以下、「あん摩マッサージ指圧師等」という)を除くほか、何人も医業類似行為を業としてはならず、その違反に対しては罰則を定めている。免許を有しない者による医業類似行為の施術が、医学的観点から人体に危害を及ぼすおそれがあれば、禁止処罰の対象となるものであることから、保健所等関係機関とも連携し、その指導を徹底されたい。
(2)有資格者による医業類似行為の施術によって健康被害が生じたおそれがある場合の取扱い
免許を有する者による医療類似行為の施術によって健康被害が生じた場合は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(昭和二十二年法律第二百十七号)第8条及び柔道整復師法(昭和45年法律第19号)第18条の規定の「衛生上害が生じるおそれがある場合」に該当し、行政指導の対象となることから、その旨御了知いただき、健康被害の相談があった場合は、必要に応じて事実確認の上、医療機関での治療が必要となっている事案については重点的に指導するなど、改めてその対応を徹底されたい。
』
とあり、医業類似行為にはあはき、柔道整復のように国家資格(この場合は、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゅう師免許、柔道整復師免許を指します)を持つ者(※文書では有資格者と表現しています)が行うことと国家資格を持たない者(※無資格者と表現)が行う2種類あるとしています。
もちろんこれらの通達は厚生省(当時)、総務省、厚生労働省医政局が出した公式なものであることは間違いありません。
更に公益社団法人日本整形外科学会から「医師のための保険診療基礎知識(2019年改訂)医業類似行為関連Q&A」という文書が出されております。
医師のための保険診療基礎知識(2019年改訂)医業類似行為関連Q&A
この内容はあはき、柔道整復に関する療養費について解説されています。タイトルが医業類似行為関連とあるようにあはき、柔道整復は医業類似行為であるという前提になっています。
このように、30年以上前から行政(厚生省、厚生労働省、総務省)はあはきを医業類似行為と認識しその見解を崩さず、日本整形外科学会という医師の学会も同じ見解のもと文書を作成しています。
それにも関わらず<「あはきは医業類似行為」という嘘が広まってしまっている>と公言する人がいます。あはきは医業類似行為というのは嘘。そうだと断言する。率直に私は、あれ、あはきは医業類似行為だと言っているのは我々の身分を保証する厚生労働省だけど、その厚生労働省が嘘つきだと言っているのか?という疑問が頭をよぎりました。この主張は鍼灸業界からも聞かれることがあり、一体何を言っているのだろう、と少々呆れていました。その主張はどのような根拠の元にしているのかまとまって分かるインタビュー記事が出たので紹介しつつ、検証してみたいと思います。
ハリトヒト。インタビュー 鍼灸師よ、誇りを失うな【特別講義編】/鍼灸師:芦野 純夫 2022.07.27
話をする芦野氏の経歴は以下の通り
『
芦野純夫(あしの すみお)先生
1947年東京生まれ
高校卒業後1977年までウィーン留学、国立音楽演技芸術大学オーボエ科、ウィーン大学医学部研究生を経て、ボルツマン鍼研究所にて臨床研修、その間1976年東京高等鍼灸学校卒
1979年 筑波大学理療科教員養成施設臨床専攻課修了、筑波大学にてドイツ語講師
1980年 厚生省採用(厚生教官)、国立身体障害者リハビリテーションセンター理療教育部教官、東洋療法研修試験財団国家試験評価委員、筑波技術大学非常勤講師を歴任、現在は横浜医療専門学校学術顧問
』
注目する内容を先に述べてしまうと
・芦野氏の主張では医業類似行為はそもそも違法行為全般を指す言葉
・あはきが医業類似行為であることなどもちろんなく医業に分類する
この2点です。
そもそもの疑問として厚生労働省が「あはきは医業類似行為である」としながら、芦野氏をはじめとして鍼灸師の一部には「鍼灸は医業類似行為ではない」と声高に主張しているということ。繰り返しますが私達あん摩マッサージ指圧師や鍼灸師(柔道整復師もそうですが)は厚生労働省の出す免許があってその業務をすることが許されています。その厚生労働省の言い分を真っ向から否定する矛盾。言うなれば、高校球児が甲子園大会に出場するため大会に出ているが高野連の言うことは聞きません、という。高野連のおかげで甲子園大会が開催できるのではないのですか?という気持ち。そういう感覚を覚えていたのです。
これも結論から言うと芦野氏曰く、法律の解釈を途中で捻じ曲げた結果だというのです。どういうことでしょうか。
まず法律の文言を押さえていかないといけません。このブログにおいて、これまでもそしてこの先も延々と出てくる「医業類似行為」。用語の説明をしましょう。まず頭の「医業」とはなんでしょうか。「医業」とは「医行為を業とすること」です。では「業とする」とは何か。「業とする」とは「反復継続の意思をもって行うこと」とされています。厚生労働省の出す解説<「医行為」について>には以下のようにあります。
『
○医師法(昭和23年法律第201号)
第17条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
第31条 次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
(略)
【解釈】
医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
』
医師に関する法律としてある”医師法”。その第17条に『医師でなければ、医業をなしてはならない』としていて、ここでの医業とは「医行為を反復継続する医師を持って行うこと」であり、その「医行為」とは「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」と解釈しています。ややこしい話ですがこれが医師法第17条です。
医師法に対して、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師に関わる法律として通称「あはき法」があります。以降はあはき法という略称で書いていきます。大きなポイントは第1条と第12条です。
『
あはき法第12条(一部抜粋)
何人も、第一条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。
』
第12条で医業類似行為が法律に出てきます。第一条とは何でしょうか。
『
あはき法第1条
医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。
』
法律ではマッサージの小さいッを大きい字として表記するのでマツサージになっていますがマッサージのことです。文頭に「医師以外の者で、」とあるように医師はあん摩、マッサージ、指圧、鍼灸を業としても構いません。医師でない者であるならば免許(あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゅう師免許)を持っていなければいけませんよ、ということです。あはき法第1条の解釈は誰でも違いは出ません。
それをあはき法第12条に当てはめると
「何人も、あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅうを除く外、医業類似行為を業としてはならない」
と読めるでしょう。この当てはめた内容をそのまま読むと「誰でも、医業類似行為のうち、あはきを除いたもの以外を業とすることはできません」と理解できるのではないでしょうか。医業類似行為の中にあはきが入っている前提。
しかし、そういう意味ではないと芦野氏はいいます。あはき法第1条は「者」と表記し、あはき法第12条では「もの」としています。これは第1条での「者」はあはき師免許を持つ免許者について書いてあるが、第12条にある「もの」は「あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅうの免許行為」を指しているという。よって第12条は「何人も、あはきの免許行為はここには入らないが、医業類似行為は業としてはいけませんよ」という意味だというのです。
つまり私が法律を読んで理解したものとは違って、医業類似行為という誰でもしてはいけないことがあります、ただしその医業類似行為にはあはき業は入りませんよと注釈を入れている。その証拠は昭和23年(1948年)の法律施行時に医務局で作られた『あん摩、はり、きゆう、柔道整復等 営業法の解説』に記されていると。
なんと分かりにくいことなのだろう、というのが私の感想でした。それならば<医業類似行為は違法行為で禁止です>とはっきりと明記しくれればいいのに、という。30年以上前から厚生労働省の見解には医業類似行為は禁止行為ですなどとはしていないので、前提が違ったことに驚きました。また芦野氏はインタビューで『法律を国語で解釈してはだめです。法律用語と国語の用例は同じではありません、法律というのはそういう独自の世界なのです。』と法律用語は国語と違うと語っています。国語が通じないような特殊なものを一般人に適応させる法律にしていいのかと私は突っ込みました。
更に証拠として芦野氏は昭和29年(1954年)に仙台高等裁判所が出した
『医業類似行為とは疾病の治療、または保健の目的でする行為であって、医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゅう師または柔道整復師等の、法令で正式にその資格を認められたものがする行為でないものをいう』
と判示を明示し、医業類似行為は開業権をある国家資格者がする行為以外のことであるという説明をしています。よって昭和20年代までは医業類似行為は国家資格者がする行為ではないという判断を司法が示していたことが分かります(ちなみにこの仙台高等裁判所の判示はHS式無熱高周波療法事件と言われる、この業界の今を左右する重要な一連の裁判の一つです。)
芦野氏によれば医業類似行為とは厚生省ができる前に内務省の衛生局が「国が免許制にしていない諸々の治療行為」を一括りに呼んだ行政用語で、法的な決まりは無かったと言います。
それでは最大の疑問。いつからあはきは医業類似行為として認識されるようになったのでしょう。そうした理由は何なのでしょうか。
芦野氏はインタビューで『ところが、私の少し上か同世代くらいの人たちが、あはきを「医業の一部」から故意に「医業類似行為」にシフトさせてしまったんですね。』と答えています。公の場で初めてあはきが医業類似行為と言われたのが、昭和62年(1987年)の国会で、当時厚生省の医事課長だった阿部正俊氏が「(あはき法)12条で医業類似行為と規定されているのはあはき柔整の4つで、お尋ねのカイロプラクティックについては法的な規則はありません」と答弁したといいます。つまり旧厚生省が自らあはきは医業類似行為だと認定したということ。その裏にはカイロプラクティックを守るための事情があったよう。(※カイロプラクティックに関しては当時の小泉純一郎厚生大臣が大臣指示を出して圧力をかけていたという記事内容もありましたが、話が複雑になるのでここでは触れません)
途中をかなり省いていますが、これがあん摩マッサージ指圧、鍼灸は医業類似行為であるとなった経緯だということです。元々違法行為として法的に取り締まるためものであった医業類似行為。あはき法12条で何人も医業類似行為はしてはいけないと明記した。しかしそれを厚生省の人間が解釈を変えてあはきは医業類似行為であって、医業類似行為とは違法禁止行為ではありませんとすり替えた。そしてそれが公式見解として30年以上経ってもそのままになっている。そういうことらしいです。
そうなると行政と司法どちらを優先させるのかという話になります。法律がこうだ、といっても誰も知らない、誰も守らない、誰も取り締まらない、のであっては法律がある意味がありません。まして現在の厚生労働省は公式見解としてあはきは医業類似行為としていますし、その前提で総務省は健康被害に関する調査を行い、日本整形外科学会という医師の団体もその認識です。誰かが厚生労働省に対して裁判を起こしてこの風潮を払拭するのでしょうか。
そしてあはきは医業類似行為ではないと法的に改めて認定したとしたらどうなるのでしょうか。すなわち、医業類似行為は禁止行為であり、あはき法第12条を根拠に取り締まるとしたら。
実は恐ろしいことです。芦野氏ははっきりと『免許行為者であっても行えるのは免許範囲の業だけであり、それを逸脱して医業類似行為まで業としてはならないということです。免許者はなまじ免許内で治療行為がおこなえるので、免許外の行為にまで踏み越えることのないようにいさめています。』とインタビューで述べています。具体的には鍼灸師免許を持っていたとして(あん摩マッサージ指圧師免許が無いのであれば)医業類似行為(ここでは鍼灸以外の療法)を業としてならないということ。世の中には鍼灸整体師と称して、鍼灸師免許しか持っていないのに整体と称して手技療法を行う人がいます。それは法的に禁止ですと。インタビュー記事においてカイロプラクティックを始め整体などのあらゆる徒手療法はあん摩マッサージ指圧師の“指圧”に統合したと法律の成り立ちから解説しているので、あん摩マッサージ指圧師免許なしに行うことは無免許者と同じ。そういう主張があるので、タイトルが「鍼灸師よ、誇りを失うな」というわけです。鍼灸師の多くが鍼灸ではない“違法行為である医業類似行為”に手を出している、鍼灸師の誇りを失っているという前提で語っているのです。はり師きゅう師免許しかない鍼灸師で何かしら他の療法(徒手療法や物理療法)をしている人は聞きたくない内容ではないでしょうか。
またカイロプラクティックなどの整体術も「指圧」に組み込まれる以上、あん摩マッサージ指圧師免許無しに行うことは全て違法、禁止であるとなります。このことに関しても嫌がる人は少なくないでしょう。また鍼灸専門学校で徒手療法を教えているところは学生に違法行為を教えているということになり批判されることになるはずです。
このインタビュー記事が出てから、何度も読み直しテキストにまとめなおして理解に努めました。長年の厚生労働省の見解と一部の鍼灸師の主張が真っ向から食い違うことの原因も判明しました。その上で私が考えることは、実際にはどうなるのか、ということ。開業鍼灸マッサージ師として現実の業務にどう関係するのかが最重要なことです。今後の社会の動きに注目していきます。
甲野 功
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