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前回長々と医業類似行為について書きました。法解釈が途中で捻じ曲げられたという芦野氏の主張内容を紹介。芦野氏が挙げる根拠はほとんどが昭和30年代以前のもので、今から半世紀以上前のもの。私としては、社会環境が大きく変わった現在も法律制定時はこうだったから今もそうである!という感じがすんなりと受け入れられない部分があります。
芦野氏は『「施術」とは、医師以外がおこなう治療行為を指す言葉です』と断言していますが、「施術」という用語を国語辞書で調べるとそのような記載はありません。元の法解釈ではそうだったのかもしれませんが、現在の世間的な用語の使い方は違います。
・weblio辞書、goo辞書:医者が医療の術を行うこと。特に手術にいう。
・国語辞典オンライン:医者が治療としての手術を行うこと。
・コトバンク:医者などが医療の術を施すこと。特に、手術を行なうこと。
ざっとネットを調べても医者が行うことという説明になっています。このように令和時代の状況を踏まえた上で考えないと一部の人間が強弁するローカルルールになる懸念を覚えるのです。
さてこの法律(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師に関わる法律:あはき法)に関することに対して、令和になってから国会(参議院)で答弁が行われていました。それを紹介し政府の判断は現在どうなっているのか探っていきたいと思います。
参議院 第198回国会(常会) 質問主意書 質問第六二号 あはき法に関する質問主意書
「あはき法に関する質問主意書」が櫻井充議員から伊達忠一参議院議長あてに提出されたのが令和元年(2019年)5月23日の参議院第198回国会です。わずか3年前という最近です。ちなみに質問主意書を出した櫻井充議員は自由民主党で医学博士だそうです。なお“あはき法”とは前回も出てきた、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師に関係する法律のことです。
質問主意書の前文を抜粋します。一部年月を加えたり、漢数字を直したりして読みやすく加工していますが、内容はそのままです。
『
健康保持や疾病の予防・治療の目的で受ける「カイロ」、「矯正」、「〇〇マッサージ」などの国家資格を持たない者による医業類似行為には、国民の生命並びに健康を脅かす危険が高いものも散見される。
独立行政法人国民生活センターの報道発表資料「手技による医業類似行為の危害-整体、カイロプラクティック、マッサージ等で重症事例も-」(平成24年(2012年)8月2日)には、手技による施術によって危害が発生したという相談が「2007年(平成19年)度以降の約5年間で825件寄せられており」そのうち「法的な資格制度がない施術である「整体」、「カイロプラクティック」、「矯正」という語句を含む相談を合わせると366件(44.4%)であった」と示されている。また、消費者庁のニュースリリース「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術は慎重に」(平成29年(2017年)5月26日)においても、平成21年(2009年)9月1日から平成29年(2017年)3月末までに「法的な資格制度がない医業類似行為の手技による施術で発生した事故の情報が、1,483件寄せられています」とある。この事例の中には治療期間が一ヶ月以上となる事故も多数含まれており、法的資格を持たない施術者による事故は看過できない状況であることが確認できる。
これらの施術には法的規制がなく、安全基準も設けられていないため、取り締まりが難しく、民事責任すら問われない場合がある。
国民を健康被害から守るとともに、あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師(以下「あはき師」という。)による施術を安心して受けられる環境を整えることが急務である。そのためにも、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(以下「あはき法」という。)において、国家資格を持つあはき師と無資格者それぞれの立ち位置を明確にし、無資格者による施術の取り締まりなどを強化する必要があると考える。
以上の点を踏まえて質問する。
』
この部分を要約します。
国家資格を持たない者による医業類似行為によって、国民の生命・健康を脅かす危険があり、実際に報告されています。しかしこれらの施術には法的規則、安全基準がないため取り締まりが難しい現状で。国民を健康被害から守り、あはき師(あん摩マッサージ指圧師及び鍼灸師)の施術を安心して受けられるためにも、あはき法においてあはき師と(あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許、きゅう師免許を持たない)無資格者それぞれの立ち位置を明確にして、無資格による施術の取り締まりなどを強化する必要があると考えている。その上で質問をする。
こういう感じです。なお医学博士でもある国会議員でも「無資格者の施術」という表記をしており、医師以外の治療行為という意味で施術を用いていないことが分かります。
答弁書は令和元年(2019年)5月31日に当時の内閣総理大臣安倍晋三の名前で参議院議長あてに送付されています。答弁書は質問主意書の順番通りに回答しているわけではないので、この投稿では答弁書に合わせて質問と回答を区切ってQ&A形式でまとめて書いています。質問内容には流れがあり意図することが読み取れるのですが、回答が飛ぶため分かりづらいと思いこのようにします。
●質問内容①(※通し番号は私が便宜上つけています)
質問主意書より抜粋。
『
一 あはき法における医業類似行為の定義について
一の1 「医業類似行為」は、一般的に、法的な資格制度がある「あん摩マッサージ指圧」、「はり」、「きゅう」といった施術と、法的な資格制度のないカイロプラクティック治療、タイ式マッサージといった施術という2つに大別された施術を含む用語と理解されているが、そのように理解されていることを政府は認識しているか。
一の2 「医業類似行為」には、広義の医業類似行為と狭義の医業類似行為とがあり、広義の医業類似行為は、狭義の医業類似行為に、あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復など法律により公認されたものをあわせた概念であると理解されているが、本理解について政府の認識を示されたい。
』
質問内容①を解説します。
前回散々書いた医業類似行為の定義についてです。ここでは現在の厚生労働省が出す見解に則して、医業類似行為には、「国家資格を持つあはき師の施術」と「法的な資格制度の無い内容の施術」の2種類に大別されていると政府は認識しているのか?次に医業類似行為には広義と狭義があり、狭義の医業類似行為にあはきと柔道整復の法律で公認されたもの(国家資格免許がある)合わせて広義という概念になると理解されているが、政府の認識はどうであるのか?
芦野氏が主張する法律解釈からの医業類似行為とは全く異なる概念(定義)で立法の場(国会)で質問されています。医業類似行為に対する基準となる認識を政府に問いています。
〇回答内容①
答弁書より抜粋。
『
一の1及び2について
御指摘の「一般的に・・・二つに大別された施術を含む用語と理解されている」(一の1)及び「広義・・・と狭義の医業類似行為」(一の2)の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。なお、厚生労働省としては、「医業類似行為」とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であると解しており、それには、あん摩、マッサージ及び指圧、はり、きゅう並びに柔道整復のほか、これら以外の手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが含まれると考えているところである。
』
回答内容①を解説します。
答弁書では質問の意味するところが明らかではないので回答できないとしています。どの点が意味するところが明らかになっていないというと、
(一の1)<一般的に、法的な資格制度がある「あん摩マッサージ指圧」、「はり」、「きゅう」といった施術と、法的な資格制度のないカイロプラクティック治療、タイ式マッサージといった施術という2つに大別された施術を含む用語と理解されている>
(一の2)<広義の医業類似行為と狭義の医業類似行為>
の2か所としています。
その上で、厚生労働省としては『医業類似行為とは、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある医行為ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であると解しており、それには、あん摩、マッサージ及び指圧、はり、きゅう並びに柔道整復のほか、これら以外の手技、温熱等による療術行為であって人体に危害を及ぼすおそれのあるものが含まれると考えている』と回答しています。
医業類似行為の解釈について、答弁書は質問の意味するところが明らかではない、という理由で答えを避けています。まず(一の1)ではどの個所が意味するところが明らかになっていない点が不明ですが、(一の2)の個所と関連付けると“2つに大別された施術”というところでしょうか。(一の2)では広義と狭義と医業類似行為を2種類にしていることが意味するところが明らかではないと。前回のインタビューでは芦野氏が、平成2年(1990年)に医事課が『あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律・柔道整復師法 逐条解説』という本を出版し、その中で「あはき柔整は広義では医療類似行為になる」とあるというので、このことを質問主意書では触れているのでしょう。質問主意書では資格持ちの施術と無資格者の施術が一緒くたにされていることを確認させようとしている意図が見えますが、答弁書では医業類似行為とは医行為ではないが、国家資格免許持ちの施術と、それら以外の手技・療術行為で、人体に危害を及ぼすおそれがあるものが含まれると厚生労働省は考えていると。
この答弁書の文面からは、私個人としては、国家資格の有無ではなく“人体に危害を及ぼすおそれのあるもの”が医業類似行為であり、それは医師の行う医行為以外は全て同列という印象を受けました。論点はそこではないよ、という。もちろん芦野氏の主張する違法禁止行為である医業類似行為とも異なります。
●質問内容②
質問主意書より抜粋。
『
一の3 あはき法第12条は「何人も、第1条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない。」と定めている。同条の「医業類似行為」の定義については、仙台高等裁判所が昭和29年6月29日の判決において、「「疾病の治療又は保健の目的を以て光熱器械、器具その他の物を使用し若しくは応用し又は四肢若しくは精神作用を利用して施術する行為であつて他の法令において認められた資格を有する者が、その範囲内でなす診療又は施術でないもの」換言すれば「疾病の治療又は保健の目的でする行為であつて医師、歯科医師、あん摩師、はり師、きゆう師又は柔道整復師等他の法令で正式にその資格を認められた者が、その業務としてする行為でないもの」」と認定している。
この判決によれば、あはき法第12条における「医業類似行為」には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術は該当せず、無資格者が行う施術のみが含まれるものであると考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
一の4 厚生省は、あはき法第12条が憲法第22条に反するか否かが争われた昭和35年1月27日の最高裁判所大法廷判決に関して、同年3月30日付の厚生省医務局長通知「いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について」(医発第247号の1)の中で、「この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為業について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものである」との解釈を示している。したがって、厚生労働省においても、あはき法第12条における医業類似行為には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術は該当しないという認識は共通のものであると考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
一の5 前記一の1及び2において、一般的な解釈として「医業類似行為」には法律により公認されたものが含まれるとする一方、前記一の3及び4において、あはき法における「医業類似行為」には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術が含まれないとする場合、国民の「医業類似行為」の理解に食い違いが生じると考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
(略)
一の7 あはき法第12条における「医業類似行為」に、あはき師等が資格の範囲内で行う施術が含まれないとするのであれば、あはきは何をもって「医業類似行為」とされるのか。法令等をもって明確に根拠を示されたい。
一の8 平成3年6月28日付の厚生省健康政策局医事課長通知「医業類似行為に対する取扱いについて」(医事第58号)における「医業類似行為」の定義を示されたい。また、あはき法第12条における「医業類似行為」に、あはき師等が資格の範囲内で行う施術が含まれないとする場合、同通知は誤った法解釈を含んでいるものであると考えられるが、政府の見解を示されたい。
』
質問内容②を解説します。
一の3についてはあはき法第12条の医業類似行為に対する見解を問いています。ここでいう医業類似行為は有資格者の施術は該当せず無資格者が行う施術のみが含まれるものであると考えているが、政府の見解はどうか、と。ちなみに前回紹介した芦野氏の主張では、医業類似行為自体が違法行為でありすなわち無資格者(無免許者)が行うことであるとしています。例え鍼灸師のみの免許だけであれば整体・カイロプラクティック等の徒手療法も(それらはあん摩マッサージ指圧師免許の指圧に分類されるため)医業類似行為に入ると。政府があはき法第12条をどう解釈しているのかを質問しています。
一の4では更に過去の最高裁判決を引き合いに質問を重ねています。ここでいう憲法22条は職業選択の自由に関するもの。これは通称「HS式無熱高周波療法事件」の裁判を指していています。ここでの最高裁判決に対する厚生省医務局長通知を引き合いにして、改めてあはき法第12条の医業類似行為にはあはき師の施術は入らないという認識があるか政府に質問しています
一の5では現在の国民の認識として医業類似行為にはあはき師の施術も該当するが、一の3、4のように医業類似行為にはあはき師の施術が該当しないとしたら食い違いがあるのではないか。そこを政府がどうか考えているのか。
一の7ではストレートにあはき業は何をもって医業類似行為とされるのか法令等をもって明確に根拠を示しなさいと言っています。それまでの質問内容を効かせようとしているのを感じます。
一の8 平成3年(1991年)に出された「医業類似行為に対する取扱いについて」における医業類似行為の定義を示すように。そしてそれは誤った法解釈が含んでいるのではないか。現在定説としている通知に対して異議を求める質問内容です。
〇回答内容②
答弁書より抜粋。
『
一の3から5まで、7及び8について
御指摘の「あはき法第12条における「医業類似行為」には・・・無資格者が行う施術のみが含まれる」(一の3)、「あはき法第12条における医業類似行為には・・・該当しないという認識は共通のものである」(一の4)、「一般的な解釈」(一の5)及び「国民の「医業類似行為」の理解に食い違いが生じる」(一の5)の意味するところが必ずしも明らかではないが、厚生労働省としては、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号。以下「あはき法」という。)第1条の規定において「医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない」とされていること、あはき法第12条の規定において「何人も、第1条に掲げるものを除く外、医業類似行為を業としてはならない」とされていること、あはき法第12条の2第一項の規定において「第1条に掲げるもの以外の医業類似行為」とされていること等から、これらの規定に規定されているものを含めたあはき法における「医業類似行為」自体には、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許を持つ者が行うあん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゅうが含まれると解しているところである。また、一の1及び2についてで述べたとおり、同省としては、「医業類似行為」は、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある「医行為」ではないが、一定の資格を有する者が行わなければ人体に危害を及ぼすおそれのある行為であると解しているところであり、それはお尋ねの「平成3年6月28日付の厚生省健康政策局医事課長通知「医業類似行為に対する取扱いについて」(医事第58号)」における「医業類似行為」においても同様である。
』
回答内容②について解説します。
まず下記の部分の意味が必ずしも明らかではないとしています。
(一の3)<あはき法第12条における「医業類似行為」には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術は該当せず、無資格者が行う施術のみが含まれる>
(一の4)<あはき法第12条における医業類似行為には、あはき師等が資格の範囲内で行う施術は該当しないという認識は共通のものである>
(一の5)<一般的な解釈>、<国民の「医業類似行為」の理解に食い違いが生じる>
その上であはき法第12条にある医業類似行為にはあはき師の施術が含まれると理解している。医業類似行為とは回答内容①で答えたように、医行為ではないが人体に危害を及ぼすおそれのある行為、という認識であり質問で挙げた「医業類似行為に対する取扱いについて」におけるものの同様である。
回答を読むと、医業類似行為は医師以外の行う人体に危険を及ぼす可能性がある行為である、というしっかりとした柱があって、そこにあはき師のような国家資格者と免許を持たない無資格者で区別することはない、という意志を感じ取ります。それは意味が明らかではないと指摘する個所に表れているように思います。
●質問内容③
質問主意書より抜粋。
『
一の6 前記一の5において、国民の「医業類似行為」の理解に食い違いが生じることを認める場合、その食い違いは一般国民には極めて分かりにくく、特に国家資格を持つあはき師等が資格の範囲内で行う施術とそれ以外の施術との混同を招き、国民が本来望まない施術を受けることで健康被害を生じさせるおそれがある。混同を招かないような施策が必要と考えられるが、政府の見解を示されたい。
』
質問内容③について解説します。
国民の医業類似行為に対する理解に食い違いが生じている場合に混同を招き、健康被害が起きるおそれがあるので、国民が混同を招かないような施策が必要ではないか。政府の見解はいかに。
少々既成事実として断定的な仮定で質問しているように感じます。実際のところ国民は有資格者と無資格者の区別もつかず健康被害が生じているだから、政府はどう対策する気ですか、と問い詰めている印象を受けます。
〇回答内容③
答弁書より抜粋。
『
一の6について
お尋ねの「混同を招かないような施策」(一の6)の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。
』
回答内容③について解説します。
ここではあっさりと回答できないと結論づけています。<混同を招かないような施策>の意味するところが明らかではないというか、政府は医師か医師以外かの二択で考えていて、医業類似行為内に無資格者と有資格者の区分を考えていないのでしょう。そうであれば混同を招くという前提自体が無意味にうつるのではないでしょうか。
●質問内容④
質問主意書より抜粋。
『
二 あはき師以外の者による医業類似行為を禁止する理由について
二の1 前記一の4の判決において、最高裁判所は、あはき法第12条があはき師以外の者が医業類似行為を業としてはならないことを規定するのは、「これらの医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するものと認めたが故にほかならない」とした上で、「ところで、医業類似行為を業とすることが公共の福祉に反するのは、かかる業務行為が人の健康に害を及ぼす虞があるからである」と認定している。
つまり、医業類似行為は人の健康に害を及ぼす虞があり、公共の福祉に反するものと認められることから禁止されるものであると読み取れるが、政府としてこの判示をどのように解釈しているのか、具体的かつ明確に示されたい。
二の3 あはき法第12条において禁止される「医業類似行為」が、「人の健康に害を及ぼす虞」のある業務行為のみを指していると解釈する場合、その根拠を明確に示されたい。
二の4 医業類似行為が「公共の福祉に反する」かどうかは、「人の健康に害を及ぼす虞」の有無によってのみ判断されるのか、政府の見解を示されたい。また、「公共の福祉に反する」かどうかを「人の健康に害を及ぼす虞」の有無のみで判断する場合、その根拠となる法令を示されたい。
二の5 前記二の4について、根拠となる法令がない場合、「事前に法令で罪となる行為と刑罰が規定されていなければ処罰されない」とする罪刑法定主義の原則に反するおそれがあると考えるが、政府の見解を示されたい。
』
質問内容④を解説します。
二の項目から無資格者の医業類似行為を禁止する理由に項目が変わります。
二の1は、件のHS式無熱高周波療法事件の裁判結果を引き合いにしています。最高裁の判決から、医業類似行為は人の健康に害を及ぼすおそれがあり、公共の福祉に反するものと認められることから禁止されるものであると読み取れるが、政府はこの判示をどのように解釈しているのかを問いています。
二の3では、政府があはき法第12条で禁止される医業類似行為を人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為のみを指すと解釈するならばその根拠は何かを問いています。
二の4では、公共の福祉反するかどうかは人の健康に害を及ぼすおそれの有無によって判断されますか、またその場合の根拠となる法令はどれでしょうか、と問いています。
二の5では、二の4で根拠となる法令が無いとしたら罰刑法定主義の原則に反するおそれがあるのではないでしょうか、政府の見解はどうでしょうか、と問いています。
無資格者(=あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師免許のいずれかを持たない者、非あはき師)による医業類似行為を法的に取り締まる根拠を探っている質問と見受けられます。背景には昭和35年のHS式無熱高周波療法事件における最高裁判決が「人の健康に害を及ぼすおそれがなければ免許がなくても構わない」という曲解されて伝わっていることがあります。結局、被告は有罪判決で確定するのですが、途中の最高裁の破棄差戻し判決がひとり歩きしている状況です。その判決文に登場した「公共の福祉に反するもの」を判断するのは「健康に害を及ぼすおそれ」だけなのか、法的な拘束力はないのか、そこを模索しているように感じます。
●回答内容④
答弁書より抜粋。
『
二の1及び3から5までについて
お尋ねの「根拠となる法令」(二の4及び5)及び「罪刑法定主義の原則に反するおそれがある」(二の5)の意味するところが必ずしも明らかではないが、厚生労働省としては、御指摘の「あはき法第12条が憲法第22条に反するか否かが争われた昭和35年1月27日の最高裁判所大法廷判決」(一の4)は、憲法第22条第1項が保障する職業選択の自由に鑑み、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法等の一部を改正する法律(昭和39年法律第120号)第一条の規定による改正前のあん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法(昭和22年法律第217号)が、同法第一条に掲げるものを除くほか、医業類似行為を業として行うことを禁止処罰することは、「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局する趣旨と解しなければならない」としたものと考えており、当該判決で示された内容を踏まえ、あはき法における「医業類似行為」は「人の健康に害を及ぼす虞のある業務行為に限局」されるものであると解しているところである。
』
回答内容④について解説します。
質問内容において以下の部分の意味するところが必ずしも明らかではないと指摘。
(二の4)<根拠となる法令>
(二の5)<根拠となる法令>、<罪刑法定主義の原則に反するおそれがある>
その上で昭和35年の最高裁判決は、憲法第22条が保証する「職業選択の自由」がある以上、無資格者の医業類似行為を禁止処罰するのは人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為に限局する趣旨と解しなければならないとしたものと考えている。それを踏まえてあはき法第12条における医業類似行為は人の健康に害を及ぼすおそれのある業務行為に限局されるものである。
質問者が無資格者の医業類似行為を禁止する法令を探っているのに対し、回答はやはり健康に害を及ぼすおそれの部分でしか医業類似行為を定義していない印象です。件のHS式無熱高周波療法事件の裁判では憲法で保障される職業選択の自由を出して、職業選択の自由があるのだから医業類似行為にあたる仕事をしても良いのではないかという争点が出ます。職業選択の自由に該当しないのは公共の福祉に反する仕事をすること。それでは公共の福祉に反することだと証明するのは「人の健康に害を及ぼすこと」だけなのか。法律の上位にあり、より優先されるのが憲法ですから、職業選択の自由を掲げたら無資格者の医業類似行為を法的に処罰することは難しくなるわけです。そこへの対策として「公共の福祉に反する」を提示し「公共の福祉に反する」=「人の健康に害を及ぼすおそれ」として構わないのかという質問者の思惑。それに対して政府は意味するところが必ずしも明らかでないとして、医業類似行為の定義を変えていない回答を繰り返しているように見受けられます。
●質問内容⑤
質問主意書より抜粋。
『
二の2 前記一の4の判決によれば、現在経済産業省が推進する無資格者が行うリラクゼーション業(医業類似行為)は憲法第22条で規制される公共の福祉に反する職業であり、経済産業省が無資格者が行うリラクゼーション業を推進することは立憲主義に反する行為と思われるが、政府の見解を示されたい。
』
質問内容⑤を解説します。
経済産業省の名前も出し、無資格者が行うリラクゼーション業(=医業類似行為)は公共の福祉に反する職業であることは先のHS式無熱高周波療法事件の判決で明らかで、経済産業省の行なっていることは立憲主義に反するのではないかと問いています。
HS式無熱高周波療法事件は最終的に健康に害を及ぼすおそれ行為であるとして被告が有罪判決を受けているのです。その過程で最高裁は高等裁判所の控訴を一度破棄差し戻しにして高等裁判に戻しているのです。その破棄差し戻し判決は、職業選択の自由を考慮すると医業類似行為は健康に害を及ぼすおそれにあるものと判断すると。結局健康に害を及ぼすおそれがある行為であったために高等裁判所で改めて有罪、控訴するも最高裁の控訴棄却により有罪確定となるのです。よって無資格者がリラクゼーション業を行うことは技術的にも知識的にも未熟であり健康に害を及ぼすおそれがあることから、これは「公共の福祉に反する職業」であると考えられる。それを経済産業省が推進することは言わば憲法違反になるのではないかと質問者は言いたいのでしょう。
〇回答内容⑤
答弁書より抜粋。
『
二の2について
御指摘の「公共の福祉に反する職業」(二の2)の意味するところが必ずしも明らかではないが、経済産業省は、あはき法を含む関係法令の遵守を前提として、リラクゼーション業を含む健康の保持及び増進に資する商品の生産若しくは販売又は役務の提供を行う産業の発達、改善及び調整に関する業務をつかさどっているものであり、リラクゼーション業に係るこれらの業務が立憲主義に反するとの御指摘は当たらないと考えている。
』
回答内容⑤を解説します。
(二の2)「公共の福祉に反する職業」の意味するところが必ずしも明らかではないとしつつ、この質問を真っ向から当てはまらないと回答しています。経済産業省は関係法令の遵守を前提としておりリラクゼーション業が立憲主義に反することはないと。
ここが今回の質問主意書の本丸というか目的というか。本来あはき法によりあん摩マッサージ指圧師免許無しに医師を除いてマッサージ行為を業とすることは禁止されています(いわゆる業務独占)。しかし、これはあん摩マッサージ指圧師の行う按摩・指圧・マッサージではありません、別のものです、という主張でこの業務独占を無視している状況。そうであるならば、医業類似行為を禁止しているあはき法12条を出して取り締まれないかと考え、医業類似行為とは何か、リラクゼーション業は医業類似行為ではないのか、リラクゼーション業を法的に取り締まれないのか、を意図しています。前提として既に多くの健康被害が報告されている現状を踏まえ、「人の健康に害を及ぼすおそれがある」行為が医業類似行為であるなら無資格者のリラクゼーション業はまさに当てはまるはず。リラクゼーション業を推進する経済産業省のやっていることはひいては憲法違反ではないかと切り込んでいる。そのように私は見てとれます。
それに対して政府はそんなことはございません、とはっきりと回答しています。経済産業省は法令遵守を前提にしていると。
●質問内容⑥
質問主意書より抜粋。
『
二の6 前記二の1について、「人の健康に害を及ぼす虞」の有無は何をもって判断されるのか、具体的かつ明確に示されたい。
』
質問内容⑥を解説します。
人の健康に害を及ぼすおそれの有無を判断するものは何か。具体的に明確に教えてください。
何度も出てくる「人の健康に害を及ぼすおそれ」。これをどうやって判断するのか。その基準は何か。質問主意書の冒頭では事実として多数の健康被害が報告されていることを述べており、肝となるこの部分の判断基準を明確に示してもらう、という意志を感じます。
〇回答内容⑥
答弁書より抜粋。
『
二の6について
お尋ねの「人の健康に害を及ぼす虞」の有無(二の6)については、行為の具体的な態様から総合的に判断されるものであることから、一概にお答えすることは困難である。
』
回答内容⑥を解説します。
人の健康に害を及ぼすおそれの有無は、具体的な態様から総合的に判断されるので、一概にお答えできない。
なんと明確な回答をしていません。徹頭徹尾、医業類似行為は人の健康に害を及ぼすものとしながら、その条件はそれぞれだから一概に答えるのは難しいと。
●質問内容⑦
質問主意書より抜粋。
『
二の7 前記一の4の医務局長通知は誤った判決解釈から発したものと考えられるが、政府の見解を明確に示されたい。
』
質問内容⑦を解説します
これは、あはき法第12条が憲法第22条に反するか否かが争われた昭和35年(1960年)1月27日の最高裁判所大法廷判決(HS式無熱高周波療法事件のもの)に関して、同年3月30日付の厚生省医務局長通知「いわゆる無届医業類似行為業に関する最高裁判所の判決について」(医発第247号の1)の中で、「この判決は、医業類似行為業、すなわち、手技、温熱、電気、光線、刺戟等の療術行為業について判示したものであって、あん摩、はり、きゅう及び柔道整復の業に関しては判断していないものである」という通知が誤った判決解釈から発したと考えられるが、政府はどのような見解か。
〇回答内容⑦
答弁書より抜粋。
『
二の7について
御指摘の「誤った判決解釈から発した」(二の7)の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。
』
回答内容⑦を解説します。
質問内容の「誤った判決解釈から発した」の意味するところが明らかではないので回答できない。
門前払いにした回答という印象を私は受けます。確かに誰が(最高裁の)判決解釈を誤った結果なのか定かではないでしょう。質問者が言いたいのは、HS式無熱高周波療法事件において被告が憲法22条で保障されている職業選択の自由が侵さていないかという憲法違反を控訴によって最高裁で判断しようとしたところ、職業選択の自由を侵すものではないから高等裁判所でもう一度本来の案件について裁判し直しなさいと破棄差し戻ししました。その判決結果を最高裁が職業選択の自由があるから無資格でも療術行為をしても構わないのだ、とマスコミが報道して世間の認識が違ったものになります。それを踏まえて最高裁の判決解釈を間違っているから気を付けてくださいねと厚生省医務局長通知を出したのです。このことについて政府はどう考えているのですかと質問し、意味が明らかではないので答えないという。
●質問内容⑧
質問主意書より抜粋。
『
二の8 あはき法第12条の二は暫定処遇として医業類似行為の禁止の特例を定めているが、この特例の対象となる者は現在何名いるのか。該当者数を都道府県別に示されたい。
』
質問内容⑧を解説します。
あはき法12条の二とは。「この法律の公布の際引き続き三箇月以上第一条に掲げるもの以外の医業類似行為をしていた者であつて(中略)届出をしていたものは、前条の規定にかかわらず、当該医業類似行為を業とすることができる。」という文面があります。現行のあはき法が制定以前から療術行為(医業類似行為)をしてきた人は特例で免許が無くても、特例として仕事として認めますよということ。そういう人は現在何人いるのかと問いています。実際には何名が生き残っているのかという話でしょう。
〇回答内容⑧
答弁書より抜粋。
『
二の8について
お尋ねの「特例の対象となる者」(二の8)の現在の数については、把握していない。
』
回答内容⑧を解説します。
把握していませんとの回答。
以上が質問主意書と答弁書のやり取りです。質問者は健康被害が多数報告されている実情から国民の健康を守るために無資格者が行う施術行為を法的に取り締まりたいという考えがあり、それを実行するための方法を質問主意書にぶつけているように感じます。回答する政府は、医業類似行為とは資格の有無に関係なく人の健康に害を及ぼすおそれがあるものである、リラクゼーション業に違法性はない、という考えのようだと答弁書から感じます。
健康被害が多数報告されているのに取り締まらないからまた国民の健康被害が生じる、どうにかできないのか、という主張に対して、具体的な施策に繋がるような回答を政府から得られなかった、という印象です。この質疑応答が国会でなされたのが令和元年(2019年)。これが現在の実情といえるでしょう。健康被害を防ぐために、憲法を含めた法的に無資格者の施術を取り締まりすることが困難であるという。
しかしながら別の方向から対策が出ています。
総務省は令和2年(2020年)11月に『消費者事故対策に関する行政評価・監視 -医業類似行為等による事故の対策を中心として- 結果報告書』という報告書を作成しました。これは2018年3月~2020年11月の期間、健康被害に関する調査を詳細に行いその実態を明らかにしています。特に注目したのが無資格者、有資格者を問わない医業類似行為における健康被害と美容領域のエステティックによる医療器機での健康被害です。前者は健康被害を報告するシステムや取り締まるシステムが機能していないことを、後者は本来医師が扱う医療機器を美容目的として医師免許を持たない者が扱っていることを、特に重要視しています。
この調査結果を受けて総務省は消費者庁と厚生労働省に対して是正勧告を出しています。厚生労働省はこの勧告を受けて令和3年(2021年)3月15日付で各都道府県、保健所を設置する市、特別区の衛生担当部(局)に向けて「医業類似行為業等に関する指導について」と題する通知を出して改善するように動いています。
前回の芦野氏の主張、今回の国会での質問主意書のように法律を盾に改善要求をするよりも、総務省が行った実際の健康被害を調査し、根拠(エビデンス)を示した方が、厚生労働省が動くということを示しているように考えます。とにかく厚生労働省は「人の健康に害を及ぼすおそれ」にこだわるわけですから、「実際に人の健康に害を及ぼしている」のであれば対策せざるを得ないでしょう。また言い換えるとそこに有資格者、無資格者の区別は無く、例えあはき師の施術であっても健康被害を生じるのであれば関係なく対処するという意図を感じます。
前回、今回とあはき法に関することを深堀りしましたが、厚生労働省を動かすのは国民の健康被害という現実なのかもしれないと考えました。
甲野 功
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