開院時間
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ここ2回、あはき(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師免許を持つ者の施術)は医業類似行為なのか、という点を法律面から検証していきました。冷静な目で見ると、どれだけ法的にあはきは医業類似行為でないと主張しても、行政も政府も医師もあはきは医業類似行為としてみている、という状況です。さて、ではあはきが医業類似行為でないのならば何なのでしょうか。それはすなわち医業に他ならない。そう主張するひとがいます。ほとんどが鍼灸師からですが。
医業類似行為≠医業であることは明確です。イコールなら医業でしかないわけですから。そもそも医業類似行為とは違法行為であるという前提で立法化したと主張するわけです。しかしそうなると医師法との矛盾が生じてくるわけです。
<医師法第17条:医師でなければ、医業をなしてはならない。>
【解釈】:医師法第17条に規定する「医業」とは、当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為(「医行為」)を、反復継続する意思をもって行うことであると解している。
これは厚生労働省ホームページに出ている表記です。医師でなければ医業をしてはならないのに、鍼灸師は医師ではありません。そう考えれば鍼灸が医業であるはずはありません。普通はそう考えるのですが、“鍼灸は医業の一部を限定解除しているのだ”という主張が聞かれるのです。鍼灸は医業であり、その医業の中の鍼灸部分を、限定的に鍼灸師免許を持つ者に許している。このような考え方です。ちなみに私の場合、鍼灸マッサージはもちろん、柔道整復、教員養成科を含む専門学校でこのように習った記憶はありません。どちらかというと、鍼灸師が医者と同列にいるなど奢ってはいけません、分をわきまえよ、という教えを受けてきた気がします。それは自分たちを卑下するのではなく、きちんと職域を理解しなさいという教えです。しかし鍼灸は医業の限定解除であり鍼灸は医業であるということが常識という鍼灸師もいらっしゃいます。同じ鍼灸師であるのになぜこのような違いがあるのか調べました。
まず鍼灸師に関する法律です。通称、あはき法と言われる法律の第1条がこちら。
<あはき法第1条:医師以外の者で、あん摩、マツサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マツサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許(以下免許という。)を受けなければならない。>
冒頭に敢えて“医師以外の者で、”と注釈があります。これは医師であれば鍼灸を業として構わないということです。医師であれば鍼灸ができるというわけですが、見方を変えると医師が行う医業に鍼灸が含まれているから、冒頭の注釈が出てくるのだという意見があります。最近よく引用している芦野氏の主張です。ハリトヒト。の記事より抜粋。
『
インタビュアー:ところで、第1条の冒頭に「医師以外の者で」とありますが、これにはどのような意味があるのでしょうか。
芦野氏:あん摩と鍼灸は、本来は医師が行うべき「医業」であるということです。この条文で、あえてあはきを医業の一部としたのは、戦後の医業以外の治療行為を禁止しようとする流れから、明治の頃からもともと免許制をとってきた伝統医療であり、盲人の福祉的意味合いもある、あん摩と鍼灸を守ろうとしたんですね。そういう意思が込められているのだと思います。
』
ハリトヒト。インタビュー 鍼灸師よ、誇りを失うな【特別講義編】/鍼灸師:芦野 純夫 より
我が国の歴史からみると、医師、按摩師、鍼灸師は大宝律令にもその名前が載る役職。かるく1000年以上前から医療職種でした。ただそれと現在の状況を踏まえて鍼灸は医業だと言い切れるのでしょうか。昔はそうだったかもしれないが今はどうなのという。
別の視点から鍼灸は医業にあたるという意見があります。それは開業権が認められていることです。どういうことでしょうか。
以下に厚生労働省管轄の医療系国家資格を全て挙げました。
・医師
・歯科医師
・保健師
・助産師
・看護師
・診療放射線技師
・臨床検査技師
・理学療法士
・作業療法士
・視能訓練士
・薬剤師
・臨床工学技士
・義肢装具士
・歯科衛生士
・歯科技工士
・あん摩マッサージ指圧師
・はり師国
・きゅう師
・柔道整復師
・言語聴覚士
・管理栄養士
この中で、はっきりと開業権を認めている資格は医師、歯科医師、助産師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師くらいです。法律で開設要件が規定されているのは。独自に整体院やサロンといった形態で開業したり、フリーで活動したりするのは別として。
特にあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師は施術所として開設することが認められています。この4つの資格は実質診断権を持っていると言えます。医師、歯科医師を除く国家資格の多くは医療機関にて医師の指示の下、業務を遂行するものがほとんどです。診療放射線技師が勝手にレントゲン撮影をすることはできませんし、薬剤師が処方箋なく独自判断で薬を調合して販売することはありません。理由は日本では医師以外が診断することを認めていないのです。あなたはこの病気です、あなたのケガはこうです、と診断することは医師以外できません。この原則があるため、まず医師が診断をくだし次に各職種が対応するという順番が基本になります。
ところがあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師は医師の指示なしに施術が行えるため、実質診断権を持っていると言えるでしょう。法的に診断権は無いので、患者さんの状態を把握して独自で“判断”している、というのが表向きの姿勢。ですから鍼灸師は患者さんにあなたはこの病気ですと断定する(診断する)ことは認められていないのです。じゃあ脈を診たり舌を診たりして腎虚だ肝虚だと言っているいわゆる「証立て」はどうなのだと言われそうですが。言い換えるとこの4つの資格は自分の判断で施術を進めるのか医療機関に送るかを決定しないといけない立場になり得るのです。
独自の判断で患者さんに施術するという実質診断権を法的に認められている以上、鍼灸は医業の一部である。そういう考えがあります。
また、件の芦野氏の主張では『あん摩・はり・きゅう・柔道整復等 営業法の解説』(昭和23年発刊)を読めば、あはき法は“鍼灸は医業の一部である”という考えで作られたと言います。しかし、ある時期から厚生省関係者らが「医業の一部」から故意に「医業類似行為」にシフトさせてしまったとも。そうなると元々は医業の一部として鍼灸はあったが、時代が経過して医業とは認められなくなった、というのが正確な表現になるのでしょう。
立法時は医業扱いであったが70年が経過して、医師の行う医行為とは別のものになったというのが実情だと私は考えています。
明治では鍼灸は医師も行うことだったと聞いたことがありますが、現代医学が発展するにつれて鍼灸よりも外科手術や投薬、化学療法といった最先端医療の方に医業は舵を切っていったと言えるでしょう。鍼灸は鍼灸でその間に独自の発展をしていきました。同じ医療ではありますが、得意分野が違います。医師の行う医業とはまた別物だと思いますし、私個人の考えとしては鍼灸(あん摩マッサージ指圧も含めて)は補完医療だと考えています。
また私は柔道整復師でもありますから、むしろ柔道整復術の方が医業の一部という実感があります。脱臼、骨折の徒手整復は整形外科医も行います。柔道整復師は応急処置に限り、脱臼骨折の処置を医師の指示なしに行うことができるのです。
現状、多くの医師が鍼灸をすることはありません。医師の全員が鍼灸をしないわけではありませんが、臨床に取り入れる人はごくわずか。鍼灸に現代医学を追いかける方が重要なことでしょう。だからこそ鍼灸は別の視点から補完できる存在であればいいと考えています。
甲野 功
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