開院時間
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8月30日(火)にあじさい鍼灸マッサージ治療院から東京医療専門学校鍼灸マッサージ科2年生の学生に向けてリモートでの特別授業を行いました。これは昨年から担当している『開業支援・鍼灸と災害』という1クールの授業の一コマ。その名前の通り、卒業後の開業と鍼灸マッサージ師が大災害の現場と向き合う内容について学ぶものです。
私は東京医療専門学校鍼灸マッサージ科(鍼灸マッサージ科は通称「本科」というので以後本科と記載)を卒業しています。私が在学中の頃には開業支援という卒業後の進路アドバイスをするような授業はありませんでした(個別に教員に相談したら対応してくれたのでしょうが)。卒業後についての情報は鍼灸マッサージ教員養成科の紹介くらいだったと記憶しています(15年以上前のことで少々曖昧です)。
数年前に母校本科の学生さんが当院に来て卒業後の話を聞きたいという出来事がありました。その時に卒業後はどうしたいか、というキャリアシートみたいなものを書いてもらいました。すると皆さん滞りなく記入していくので、ちょっと驚きました。聞くと学校の授業で同じようなことを既にしていると。その時に今の母校は学生に向けて(最低限やらなければならない座学以外に)役立ちそうな授業をしているのだな、私のときは無かったよな、と感慨にふけりました。
昨年からその授業に「地域密着型開業院」をしているという括りで依頼を受けて、1コマ担当しています。最初の授業は卒業後のキャリアにつてい考えるもの。2~4回目は各特色のある開業している先生を呼んで話を聞く。そこの3番目を私が担当しました。東京医療専門学校の鍼灸科2年生、夜間鍼灸科2年生。そして本科2年生に授業を行います。
昨年同様先に鍼灸科、夜間鍼灸科の授業が先にあり、去る5月7日に授業を行いました。期間が空いて本科は8月30日(火)になりました。家族含めて私の体調面の状況で今回はあじさい鍼灸マッサージ治療院からリモート授業という形になった今回。それまでは対面授業をしていたので初めての状況でした。当日までの状況と当日のことを書いていきます。
開業支援。あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師。卒業すると本科の学生はこれらの身分を得ることになります(法制上は、あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師の3つの国家資格)。柔道整復師を含めてこれらの資格は法的に開業権があり、出張専門あるいは店舗開業を問わず、独立して仕事をすることができます。医療系職種としてはとても珍しいものであり、開業権があるからこの職業を目指す人も少なくありません。どこか、キャリアアップの先に独立開業というものが当然あるという風潮があります。だからこそ開業支援という内容の授業を作ったのでしょう。店舗開業をして9年目を突入している私の実体験を母校の学生さん達のためになることができればと考えてきました。
昨年初めての授業は非常に後悔が残るものでした。90分まるまる授業をする経験が無く、時間が余ってしまったのでした(それまで45分頂いて教室で授業する経験はあった)。時間配分の見積もるミスとともに、まだ学生だからこれくらいの内容に留めておこう詰め込んでも面白くないだろうな、という勝手な予想があったのでした。その日は当日時間を空けて夜間部の授業があったので、合間の時間で考えを改めて私が今の学生さん2年生に伝えたいことを増やした資料に作り替えて臨みました。特に時節柄コロナ禍で院の状況がどう変化したのかをしっかりと入れました。
今年5月の鍼灸科、夜間鍼灸科の授業も昨年作成した資料をベースに作成しました。少し対面している生徒さんの表情を読み取る余裕が出てきました。そこで薄っすらと感じていたのが、果たしてこの内容でいいのだろうか?、という疑念。昨年ガムシャラに資料を作ってそれをベースとした2年目。余裕が出てきた分、客観的にどうなのだろうと自問するように。
結局、私がしてきたことを紹介する。それはほぼ自慢に近いと思うのです。
というのもこの仕事はかなり術者本人の力量が直結する仕事だと思っています。まして個人院として開業していると、ほぼ100%甲野功の名前で運営していることになります。もしも同じ場所、同じ施設で誰か別の鍼灸マッサージ師が代わりに業務についたら、それはもうあじさい鍼灸マッサージ治療院ではなくなるでしょう。居抜き物件として屋号を変えてもらって新しい特色を出した方がいいわけです。結局、あじさい鍼灸マッサージ治療院は“甲野功個人商店”なのです。
そうなると私が話す実体験というかノウハウというのは、ほぼほぼ学生さんには適応できないことになります。今はやりの言葉言うと「それ、あなたの個人的意見ですよね」という感じ。だから私はこのような講義をする機会をもらうと毎回丁寧に自分の経歴を話します。東京都新宿区で生まれ、こういう家族のもと育ち、小中高と進学して人生の進路を自分なりに考えて大学に進み、一般企業に就職する。その企業で挫折を味わい人生の進路を大きく変えてこの業界へ。東京医療専門学校本科、柔道整復師科、鍼灸マッサージ教員養成科にどういう理由で入学し卒業後はどうだったのか。そして今現在の状況に至ったのか。その個人史を知ってもらわないと、「鍼灸マッサージに柔整、教員免許もあるのだから自分とは違うよね」とか「実家が新宿区ってそんな人いるの」など学生さんに、あなたができたことはあなただからでしょう、というフィルター(色メガネ)がかかるのではないかと。
そう考えてしまうのは私自身が強くそう思うからです。開業するにあたりたくさんの書籍や既に開業している諸先輩方の所に話を聞きにいき、今でも経営の勉強は続けていますし機会を見つけて他の施術所に出向いて身をもって体験して知見を広げています。その上で感じるは、結局自分がやること、ということ。巷の情報には自分だけの経験(n数=1、ソースは俺、というやつ)を世間一般に通用する不変の事をだとして大げさに語るものがたくさんあります。本当に万人に通用する項目は、支出より収入が上回らないと経営が続かない、患者さんに丁寧に接すること、といった当たり前ありきたりのことになります。これをすれば誰でも成功!みたいな言い方をしているものは、それこそ「それ、あなたの個人的意見ですよね」という感じです。
それが嫌なので、丁寧に私がどういう経過をたどって今の状況にあるのかを話し、私の過去を聞いて各学生さんがそれと比較して“私ならこうする、それは違うと思う、それは真似できる、それはやる気が起きない”など考えてくれることを願ってプレゼンテーション資料を作っています。基本的にどの講義資料も私はこのような考えを入れています。
ただあまりにそればかりだと私の個人談だけになるので、経営面で学んだことを入れて院の作り方の一般論を入れるようにしました。経営戦略、マーケティング、ストアコンセプト、STP分析など。経営で当たり前のように出てくる用語を持ち出してそれをあじさい鍼灸マッサージ治療院ではどうしているのかと。そこで一般性を加えようとしていました。
しかし前回の授業後に、果たしてこういうことは話す必然性があったのかなと自問するようになりました。おそらくほとんどの学生さんはいきなりマーケティングとか言われても面食らうでしょう。そもそも経営面の知識は中小企業診断士などのプロが解説した方が効果的。現在2年生の8月末。だいたい3年生の1月末くらいまでが東京医療専門学校の実質的な学生生活だとすると折り返し地点にいる本科学生さん。全員が卒業後即開業するとは限らないでしょうから、この時期に言われても自分事として響くのだろうか、という気持ちが芽生えたのです。
そして8月9日に別の学校の鍼灸マッサージ専門学生を当院に招いて就職先について話をする機会がありました。これまでは私自身の経歴を伝えるようにしていましたが、ここで“職歴”に注目して資料を作ったのです。来た学生さんは1年生だったので卒業までに丸2年以上あります。卒業後はとりあえず就職だろうと漠然とした考え。この段階では卒業後のことを具体的に考える情報が圧倒的に足りない。そうであるならば私が専門学生時代にどんなバイトをして卒業後にどのような職場を選びそこで何を得たのか、更になぜ柔整や教員養成科と進学したのか、開業に至るまでの経緯を職歴に焦点を当てて話をしました。その上で私が経験した、あるいは業界にいて入ってくる情報をもとに職場の分類をして解説したのです。
講義を終えたときに参加した学生さんから、この話を高校生あがりの若いクラスメイトに聞いてほしいな、と感想が漏れたのです。この意見にピンときて、確かにまだ2年生くらいだと開業など実感がわかない人が多いだろう(もちろん卒業後すぐに開業する気持ちの学生さんもいるとは思いますが)から、私がどのようなことを専門学校当時考え、卒業後はどういう考えで職場を選んだのか、それらを説明した上で開業の話に繋げた方がいいなと考えたのです。資格を取れば開業権があるから誰でも開業自体はできますが、開業するにはどういうステップを踏んだのか、を丁寧に説明した方がいいのでは。そう考えた私はあじさい鍼灸マッサージ治療院で行っている施策や経営手法の部分を減らして、就職と職歴に力を入れて話すように見直したのでした。
そして迎えた当日。
大きな問題がリモート授業であること。これはこちらの都合なので仕方ないのですが、リモートで話すのがかなり苦手なのです。とても疲れてしまいます。今年1月にお声がけしていただいた灸法臨床研究会のオンラインセミナーは120分という時間を頂いて行いましたが、途中が画面操作をするマウスが震えて大変でした。聴いている相手の反応が見えないので不安になります。
今回の東京医療専門学校の授業も生徒さんの方に画面が向いていないのでどういう生徒さんがいてどういうリアクションをしているのか分からず大変でした。あ、これは飽きているなと思えば先に進めますし、反応が良ければ少し語りかけてその話題を膨らますのですが、それができません。反応が分からないのでついつい資料の文字を口に出して読んでしまい、いつもよりもテンポが遅くなってしまいます。対面授業のときは、学生さんの休み時間を増やす意味もありますが、余裕をもって10分前くらいに話し終わるようにしているのです。今回は時間内ギリギリになってしまい、最後が駆け足になってしまったことが反省です。
授業終了直後にSNSを通じて授業を聞いていた学生さんから連絡が入り、それがとても気持ちを和らげてくれました。来年もチャンスがあるならば体調管理を含めて、より学生さん達のためになるものを創り上げたいと思っています。国家試験に出るわけでも(私の回は)課題提出もない単発授業ですから、なおさら学生さんの時間を奪うようなことにしたくありません。
幸いにして様々な鍼灸専門学校の学生さんが来てくれる環境にあります。学校、そして時代が違えば、同じ資格を取るために勉強しているのに大きな差異があります。私が本科学生だった15年前のことを出して「自分の頃は」なんて話しても意味がありません。時代は進み、学校毎に様々な事情があります。ああ、そうなのだと学生さんの話から学ぶことばかりです。そういう日常の経験を糧にしてまたより良いものを創っていきたいです。
甲野 功
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