開院時間
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先日、私の母校にあたる東京医療専門学校の学生に向けて開業支援に関する授業を担当しました。授業後にSNSを通じて授業を受けた学生から連絡がありました。良くも悪くもそういう時代で、私が同じ鍼灸マッサージ科の学生だった頃には考えられない、当時は不可能だったことです。
私の場合、比較的早い段階からSNSを活用してきました。最初に始めたのがmixi。その後、Facebookが主流に。東日本大震災を機にTwitterをはじめ、今は公式LINEにInstagramも使っています。当然のようにGoogleのマップに治療院を登録しています。YouTube、TikTokといった動画、VoicyやSpoonといった音声の方には今のところ手を出していません。
かつては外部講師と連絡を取るとなると、授業後に挨拶にいき名刺などを頂戴してメールなり電話なりして、改めてアポイントを取るしかありませんでした。それは学生にとって簡単なものではなかったと思います。今の学生さんは多くは当院が公開している電子メールに連絡を入れることはなく、各種SNSのメッセージ機能を使って連絡を取ることが多いのです。パソコンを持っていない、メールアカウントを作っていないなどの理由もあるでしょうが、SNSアカウントから連絡する方が使い勝手がいいのだと思います。メールのようなビジネスマナーのような堅苦しさが無いですし。
私は日常的に鍼灸マッサージ専門学校の学生さんやこれからこの業界に進学しようと考えている人のサポートをしたいとSNSでの情報発信をしていますし、該当する方のアカウントをフォローしています。それにより今まで多くの出会いがありました。また私は情報発信をしていると同時に学生さんの情報を得ているのです。特にTwitterからは良くも悪くも様々な意見や本音を知ることができます。比較的匿名性が高いツールであり、拡散能力が高いため様々な情報が目に入ってきます。
その中でどうしても気になってしまうのが鍼灸専門学校を批判する内容です。
SNS、特にTwitterでの鍼灸専門学校を批判する内容の投稿は目が留まります。私は専門学校を卒業して15年ほど、教員免許がありたまに教壇に立つため、学生と学校の二択に絞れば学校側の人間です。そのため間接的に自分が批判されているような気持ちが若干芽生えるのです。専門学校に対して批判する、その不満を述べる、というのは個人の自由であるから、それはもちろん構わないのですが、内容によっては果たしてそれでいいのですかと感じるものもあるのです。健常者向けの鍼灸専門学校は全国に80校以上あります。大学を含めると数は上乗せされ、視覚障害者向けの養成機関を入れれば更に数は増えます。全ての専門学校が在校生に対して満足な対応ができるというのは無理な話でありますが、学校側に近い立場からすると素直に受け入れられないものあります。そしてそれは学生さんから発せられるものだけでなく臨床に立つプロの鍼灸師からでも同様なのです。
尽きない課題なのですが、鍼灸専門学校に対する不満で“2大教えてくれない”問題があると言えます。それは
・学校は食える技術を教えない
・学校は経営の事を教えない
という意見です。
国家試験をパスしていざ現場に出たときに、学校では国家試験対策ばかりで臨床に役立つ技術を教えてくれなかった。あるいは在学中から専門学校で習うことなど実践では役に立たない。
鍼灸師は開業権があるので独立開業する人間が多いのに、専門学校では経営のことを一切教えてくれなかったから開業するときに苦労した。あるいは開業鍼灸師が、学校は経営のことを教えないからダメだという。
これらの意見を何年も前からよく目にするのです。
確かにと納得できる部分は一部あるのですが、教員免許を持ち開業した立場から言わせると、これらは少々お門違いの批判だと考えています。
まず食える技術というは基盤となる基礎技術や知識なしに成り立たないです。その基礎を教えることが専門学校のやる事。また食える技術とは各々が見つけることだと思います。将来美容分野で活躍したい生徒に精神疾患で効果のある鍼灸を教えても、それは“食える技術”にはならないでしょう。まず基礎能力を授けるのが専門学校で、そこから生徒が能動的に動かない限り“食える技術”は習得できないですし、生徒の進路を専門学校が決めるわけでもありません。
また食える技術を教えないという批判は、国家試験対策ばかりしていて臨床能力を高める実技練習をさせてこなかった学校側の怠慢だという臨床鍼灸師の側からSNSで出ることがしばしあります。ただこれは時代の変化を考慮しないといけないこと。まず国家試験の難度は上昇しています。かつては「過去問をしていれば誰でも受かる」と言われましたが、現在はそんなに甘いものではありません。また平成30年度からカリキュラム改正がなされて卒業に必要な要件(単位数や外部研修など)が大きく増えました。臨床で活躍する鍼灸師が学生の頃とは環境が変わっていることがままあるのです。何より学生からすると国家試験に合格できなければ意味がありません。学校側も国家試験合格が最低限のライン。カリキュラム上やらなければならないことが増えた上に国家試験が難しくなるならば国家試験対策に注ぐ力が増すのは必然です。
続いて学校は経営の事を教えないという批判。こちらも専門学校が請け負う内容なのかという気がします。
実際のところ私の母校、東京医療専門学校では1クール(約3ヵ月)で開業支援関連の授業を行っています。冒頭で挙げた私が担当した授業が他ならぬ開業支援がテーマです。ですから学校によっては対応しているところがあるのです。そして経営に関する知識をこの時期に与えることが本当に学生にとって有益なのかも、人それぞれというのが授業を担当した立場の意見です。開業権があるのが鍼灸師の有利なところではあります。しかし鍼灸学生全員が全員開業するとは限りません。既に何か別の免許を持っていたり、特別な技能があったりするなら別ですが、多くの学生はまず就職して臨床経験を積むのではないでしょうか。私が開業支援の授業だからと経営戦略のことやマーケティング、分析方法や、経営で追わなければいけない数字(売上、来院数、平均単価など)といった経営に必要な話をしたのですが、生徒さんの反応は薄かったです。(これが教員養成科の学生さんだと学生とはいえ免許持ちのプロですから反応が随分と良くなるのですが。)正直なところ国家試験に出ない細かい経営のことを授業で習うことが本当に学生のためなのかが疑問に思いましたし、せめて教えるならば我流よりもきちんとした専門分野の講師(中小企業診断士のような)が適任だと感じました。学校がすることは導入というかとっかかりを生徒に与えてあげて、経営知識が必要になったときに誰に質問すればよいのか提示してあげることが最適解なのではないでしょうか。
なおこの経営を教えないという批判は開業鍼灸師から挙がることも多く、開業時に経営面でつまずいたから学校が教えてくれば良かったのだ、と恨み節に近いような感情が見てとれることがあるのです。食える技術もそうですが、その人にとってネックとなっているのが技術なのか経営能力なのかはそれぞれです。何とも責任を専門学校に押し付けている感があります。そして、ときに専門学校を下に下げることで自分を上に見せたいという下心が透けているように見受けられることも。本心は自分が主宰するセミナーに学生を引き込むため、というような。
私が開業鍼灸師でありますが学校側に近い立場でもあるので声を大にして言いたのですが、学校側も学生さんの声を聞いて改善しようとしているところがたくさんあります。より良い実践的な実技を教えたい、開業時に困らないように授業やセミナーを組み込む、といったことを。外部から現場の第一線で活躍する先生を呼んで特別授業や時間外セミナーを開く。鍼灸師ではないプロの経営者を呼んで経営の授業を行う。そういった取り組みをしている専門学校があります。もちろん全ての学校が行っているとは言いませんが。専門学校だって営利組織ですから質の悪い授業をしていれば学生が集まらず規模縮小、ひいては廃校という状況に陥ります。生徒から教員への評価をさせたり、第三者組織から客観的な評価を受けたりして内部改善を図っているところもあります。
そして一人の鍼灸師という立場からすると、プロになれば批判を受ける側に立つということを理解してほしい。相対した患者さんなりお客さんなりから、あんたは技術が無いね、と批判されるのです。それは面と向かって言われることもありますがそれはかなり少なく、多くはよそで周囲への愚痴のように、見えない所でネットに書き込まれる、という形です。そのときどこかに勤務して職場のスタッフだろうが開業して院長をしていようが関係ありません。誰かに鍼灸をし続けていたら必ずあります。
それと学生さんに関していうと、経営者や雇用する立場にある人間は「言い訳にみえる批判をする人」を嫌います。学校が教えてくれない?だったらなぜあなたは自ら学ぼうとしないのですか?という思考。専門学校が悪いと誰の目にも入るような形(不特定多数の人間が見ることができるTwitterへの投稿)で批判する人は職場の愚痴も同じようにするだろうから雇用するのは控えた方が賢明、と考えるでしょう。一般企業でも採用を考える就職活動大学生のSNSをチェックするのが当たり前になってきています。例え匿名にしていても専門業者に依頼するとすぐに特定してしまうとか。一般企業よりも鍼灸業界はより狭いので、だいたいどこかで特定されてしまうものです。長らくSNSを活用している身からするとおそらく学生さんが想像している以上に色々と分かってしまうものです。本当に学校に不満があるならば、SNSに投稿するよりきちんと学校側に意見書を出した方がいいと私は考えます。
甲野 功
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