開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
9月20日に鍼灸マッサージ専門学校の2年生、3名が来院してパルス通電について講義をしました。これは当院が実施している「学生ペア割」の一環で行いました。
パルス通電とは鍼施術の一種で、身体に刺入した毫鍼にクリップで端子を付けてパルスジェネレーターと言われる装置から通電させて毫鍼を通して身体に電気刺激を与える方法です。他にもいくつか呼び名があるのですがここではバルス通電に統一して記載します。
学生さん達はちょうどパルス通電の実技授業をしていて、臨床現場でのやり方やより深い知識を得たいという希望があったようです。通常であれば体験と見学ということで私が学生さんにパルス通電を行うところですが、パルス通電に対して私には他の鍼灸技術よりも思い入れがあるので座学面から力を入れて解説することにしました。
パルス通電については過去に同業者の鍼灸師、鍼灸マッサージ専門学生を前に講義をしたことがありました。そのときは参加者の半分以上が鍼灸師で皆さん自分の場所を持っています。そのためかなり緊張しました。そのときに作った資料をバージョンアップして、学生さん向けにより広く内容を入れたものを創り直しました。前回はパワーポイントのスライド資料を作成していなかったので改めてこの日のために用意します。毎度のことながら色々と詰め込んでしまいました。
まず私とパルス通電の関係。これは鍼灸師として働き始めたときに最も使っていた技術でした。新卒で就職した、いわば修行の場で、ベーシックで使うやり方でした。鍼灸整骨院という業態もあり、鍼を刺してパルス通電を10分するというのがその職場の鍼でした。元々鍼灸に情熱がなく専門学校時代に全然練習してこなかった私は現場で覚えた鍼技術がこのパルス通電。今でこそ学生に教えるようなことをしていますが、新卒の頃は装置の使い方も分かっていなくて、なんと出力されず鍼に通電されなかったということがありました。単に刺した鍼にクリップが付いているだけという。そのときは、感じないだけで電気は通っていますから、と適当なことを言ってごまかしたものでした。まさに現場で覚えたものでした。(言い換えると専門学校時代にいかに練習しなかったかということです。)
それから5年。柔道整復師科を卒業して鍼灸マッサージ教員養成科に入学しました。鍼灸師として5年間の臨床経験と柔道整復師科で更に筋肉、骨格の解剖学知識を上乗せしていました。鍼灸マッサージ教員養成科2年生時には卒業研究を行い、そのときのテーマがパルス通電でした。外側広筋という筋肉にパルス通電をしたら垂直跳びの成績が向上するのではないかと考えてのことでした。研究に際してパルス通電について調査をしました。
またパルス通電は電気という物理学が関わります。刺鍼技術は鍼灸ですが通電は物理学。そして体内のイオンに関りそれは化学。東京理学大学の応用物理学科を卒業しているので物理学、化学に関しては鍼灸を知る前からずっと向き合ってきたもの。得意分野といえる理科分野と関連が深いのです。
鍼灸学生さんには細かすぎるかもしれませんが、電気の基礎知識から説明することにしました。鍼灸専門学校は高校卒業が入学条件。理科も最低限習っているという前提で授業が行われます。ただ理科系でないとそこまで電気の事を覚えていないと思いました。具体的には電流・電圧・抵抗のこと。オームの法則に直流と交流の違い。参加者には一人理科系出身の学生さんがいて、その方はそうそうと聞いていましたが、他の方はそういえば昔習ったような、という反応でした。
この電気の基礎を知らないと鍼に通電することが理解できないと考えました。それはパルス通電の通電種類は直流なのか交流なのかという疑問に繋がります。良導絡という別の鍼通電技術があるのですが、それは鍼1本に電気を通し患者は手にアースとなる端子を握ります。通電方法は1方向の直流になります。対してパルス通電は2本の鍼に通電するので交流のように一見思われます。(※乾電池は直流、コンセントは交流です。乾電池はプラスとマイナスの方向を間違えると作動しませんがコンセントは左右変えて差し込んでも作動します。それは通電方向が一方向の直流と常に方向が入れ替わる交流の違いによります。)しかしパルス通電は厳密にいうと直流になります。矩形波(くけいは)という瞬間的に上がって一定時間出力し瞬間的に下がる電気出力をパルス(波)と言います。ですからパルス通電は一方向の直流です。しかしそれをすると鍼に電気分解が起きて折れる可能性があるため、直後に反対方向に逆のパルスを流すのです(双方向パルス波)。そのためパルス通電は交流のような振る舞いをします。更に交流と同じように周波数という要素が生じます。純砂直流であれば同じ出力を一定に続けます。周波数とは1秒間に何回出力するかということ。1秒間に1回ならば1Hz(ヘルツ)。1秒間に5回なら5Hzとなります。良導絡の通電には周波数はありません。細かいことかもしれませんが臨床でパルス通電をしていくには知っておく知識だと思っています。
更に電気と生理学の関係です。既に参加した学生さんは生理学で神経のところを習っていたので復習の意味で説明しました。細胞内外の陽イオンの濃度差により電位が生じること。それはNa⁺(ナトリウム陽イオン)とK⁺(カリウム陽イオン)による。ナトリウムポンプによって濃度差を作っているが刺激を受けると脱分極が起きてオーバーシュートに至り活動電位が生じる。そういったことを説明しました。加えてイオンとは何かという話を入れていきます。日常耳にするマイナスイオンという言葉。プラスに帯電した原子核とマイナスに帯電した電子が釣り合っている状態から電子が離れたり余計にくっついたりする状態のことを説明します。何となく習ったことという学生さんが多いと思うのですが、これは東洋医学の陰陽論に通じることだと考えてのことです。
そこから神経線維の伝達について。無髄線維と有髄線維、絶縁体としての髄鞘、ランビエの絞輪、跳躍伝導。生理学で習った内容の復習を電気的な視点で復習します。無髄線維と有髄線維から一次痛と二次痛の話題に広げて臨床現場で患者さんが痛みを訴えているときに一次痛なのか二次痛なのかを判断することで病態把握に繋がりますよということ。さらにゲートコントロール説を紹介します。
続いて筋肉の収縮について話を広げます。筋肉の収縮には単収縮と強縮があり、パルス通電によりそれらを(骨格筋で)意図的にさせることができること。それにはパルス通電時の周波数が関係するということ。低周波であれば単収縮、高周波になると加重が生じて強縮になる。
ここまでの話を踏まえてパルス通電を行う意義を話しました。患者さんに「効果がありますから」という理由で行うのは足りなくて、どういう事が起きてどういる効果がより期待できるのかをきちんと説明して納得してもらわないといけません。以前に他の鍼灸学生さんにパルス通電を体験してもらったところ、きつい、苦手という感想でした。一般的に刺激が強くなるので患者さんによっては負担をかけるものです。話を聞いている学生さん達が将来、臨床現場に出たときに理屈、理論を踏まえてパルス通電を行ってもらいたいと願っています。
その話の後は具体的なパルス通電に関する知識を説明します。日本では芹澤勝助氏によりパルスジェネレーター(パルス通電を行うための装置)が開発されました。それから特に筑波大学理療科で研究が進められます。筑波大学理療科は視覚障害者のための学校であり、パルス通電と視覚障害者との関係も紹介しました。パルス通電において刺激量に関わる要素は出力・周波数・リズムパターンが挙げられます。研究により低周波パルス通電の種類は筋肉パルス、神経パルス、椎間関節パルス、皮下パルス、反応点パルスがあるとされていること、効果について研究で発表されている項目を紹介しました。
講義だけでもかなり時間を取りました。ただ授業で習っていない内容も多かったので無駄ではなかったと思います。特に現在授業で行っているパルス通電は筋肉パルスで他に種類があることを知りませんでした。
講義の後は実技で実際にパルス通電を行ってみます。鍼の違いによって可能となるテクニックや授業ではやったことがなかったMIXモードを経験してもらい筋肉の単収縮と強縮を体験してもらいました。
せっかく当院まで来てもらったので普段経験できないこと、習わない知識を得ることを体験してもらいました。一度習ってしまえば次の瞬間からそれはもう当たり前の事になります。私は鍼灸専門学校時代に真面目に練習しなかったので出だしが悪かったと理解しています。次の世代の学生さんへの学びのきっかけになることを願っています。
甲野 功
コメントをお書きください