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先日、目を疑うニュースが飛び込んできました。柔道整復師国家試験の内容を試験財団の理事が漏洩したとして、容疑者2名が逮捕されたというのです。私が知るこれまで起きた業界関連の報道の中でも群を抜いて重大なニュースでした。
まず一つ報道を紹介します。
<柔道整復師の国家試験の情報を漏えいか 理事ら2人を逮捕 TBSテレビ 2022年10月5日(水) 15:02>
『
「柔道整復師」の国家試験の問題を漏えいしたとして、警視庁は「柔道整復研修試験財団」の理事の男ら2人を逮捕しました。柔道整復師法違反の疑いで逮捕されたのは、公益財団法人「柔道整復研修試験財団」の理事・三橋裕之容疑者(64)と、試験問題を作成していた黒田剛生容疑者(62)です。
三橋容疑者は今年2月、黒田容疑者から翌月に実施する試験問題の情報を受け取り、数十個の設問に関する「キーワード」が書かれたデータを自身が講師を務める専門学校にメールで2回にわたり送り、漏えいした疑いがもたれています。
柔道整復師は骨折やねんざのリハビリを行うことができる国家資格で、警視庁は情報が複数の専門学校に漏えいしたとみて捜査しています。
』
どれくらい問題なのか関係者なら分かりますが、柔道整復師とは縁のない人にはピンとこないとでしょう。私はあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師として普段仕事をしていますが、柔道整復師でもあります。11年前の2011年に柔道整復師国家試験に合格した当事者の一人です。説明します。
まず柔道整復師とは厚生労働省が管轄する医師や看護師らと同じ、医療職種の国家資格です。骨折・捻挫・打撲・挫傷らの急性外傷(いわゆるケガ)に対して保存療法(手術や投薬を行わない治療方法)で処置を行う専門職です。なお整形外科医はメス等を用いた観血療法(※血が出る治療法、主に手術をさす。保存療法と対をなす言葉。)を用いて処置を行います。具体的な業務内容を挙げると、応急処置に限り柔道整復師は骨折や脱臼によって正常な位置に無い骨を元に戻す整復操作を医師の指示なしに独自判断で行うことができます。ちなみに同じ医療職種の国家資格であるあん摩マッサージ指圧師の場合、医師の指示なしに独自判断で整復操作をすることは違法行為になるのです。よって柔道整復師の業務は整形外科医が行う業務の一部を特別に行う職種ともいえます。
現実には近年色々と拡大解釈することで他分野の業務を行うことが増えていますが、柔道整復師とは急性外傷に対して保存療法で対応するスペシャリストと言えます。
柔道整復師になるためには国が認めた養成機関(専門学校、大学)で最低3年間、座学と実技を学び、そこで卒業認定を受けることで国家試験受験資格を得たうえで、年に1度だけの柔道整復師国家試験を受験し合格することで柔道整復師免許が下りることになります。つまり医師程ではないにせよ簡単に取得できる資格ではなく、最低3年間の勉強と国家試験合格が必須なのです。もちろん3年間の学費も安くはありません。
その国家試験に関することがこのニュースです。
今年3月に行われた第30回柔道整復師国家試験の問題を漏洩した疑いで2名の人間が逮捕されたのです。そのうち1名は「公益財団法人柔道整復研修試験財団」の理事でした。「柔道整復研修試験財団」は柔道整復師国家試験を取り仕切る団体です。しかも公益社団法人。その理事という立場の人間が逮捕されたのですから大問題なのです。想像がつくと思いますが、国家試験本番に出される問題は厳重に情報統制されています。事前に漏れることなどあってはなりません。国(厚生労働省)の管轄ですから。
漏洩した容疑で逮捕されたのが柔道整復研修試験財団理事の三橋裕之容疑者と柔道整復師国家試験問題を作成していた黒田剛生容疑者です。
三橋容疑者は「柔道整復研修試験財団」だけでなく「公益社団法人日本柔道整復師会」の副会長でもあります。「日本柔道整復師会」とは開業柔道整復師のための組織で、いわゆる業界団体。こちらも公益社団法人でありますから公共性が求められる団体です。更に厚生労働省が行う『あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師及び柔道整復師等の広告に関する検討会』のメンバーになっています。この検討会のメンバーは関係各所の有識者が集められており、三橋容疑者は柔道整復師業界の代表といえる立場です。
何が言いたいかというと柔道整復師界にとって非常に地位のある人物であるのです。その三橋容疑者が逮捕されたという衝撃。
もう一人の黒田容疑者は柔道整復師国家試験の問題作成を担当していました。当たり前のように報道されていますがこれはかなり特別なことだと思います。なぜならば国家試験の問題を作っている人物が公表されることは極めて異例だと考えるからです。私の父親は過去にある分野の国家試験問題を作成していました。その際に、絶対にあなたが問題を作っていることがばれないようにしてくださいと厳命されていたと言います。問題内容を漏らすなどもってのほかですが、誰が問題を作っているかで内容を予想できてしまうのです。その人の個性が問題に反映するもの。だから父が問題作成していることは秘密でした。その当時は私を含めて家族誰にも話していなかったはずです。
私は鍼灸マッサージ専門学校の教員免許を取得していて、鍼灸師業界に20年近くいますが国家試験を作っているという人物を一切知りませんし、噂も聞いたことがありません。役職的にあの辺りの先生が関わっているのかもと予想はできますが、具体的に特定できるようなヒントすら得たことがないのです。それくらい国家試験問題に関わる人間は情報を守るものだと思うのですが、はっきりと問題作成に携わっていたと報道されています。国家試験問題作成をしていたという個人を初めて知り、それにも驚きました。
まず国家試験本番に使用される問題が試験前に漏洩すること自体、大問題であることは理解できると思います。それも外部の人間がハッキングなどして情報を入手したのでなく内部の試験財団理事が漏洩させたという容疑。国家試験制度自体を揺るがすことです。
ここからは各報道で情報に違いがあるので、この文章を書いている時点で出ている報道内容を紹介しつつポイントとなる内容を挙げて説明を加えます。
<柔道整復師の国家試験漏えい容疑 公益財団理事ら2人逮捕―警視庁 JIJI.COM 2022年10月05日18時39分>
この報道では逮捕された2人の容疑者の認否は明らかにしていないとしています。事件を捜査したのは警視庁捜査2課。この報道によると柔道整復研修試験財団によると、国家試験後にある専門学校から「問題文と疑われる資料が見つかった」と相談が寄せられて発覚したとあります。警視庁捜査2課は10月5日に港区の柔道整復研修試験財団を家宅捜索しています。
調べによると、三橋容疑者が講師を務める柔道整復師専門学校の教員のメールアドレスに国家試験数十問分の要点などを2回にわたって送り問題を漏えいした疑いがあると。三橋容疑者と黒田容疑者は30年来の知人で問題作成を担当していた黒田容疑者に対して三橋容疑者が問題漏洩を依頼、入手した情報を三橋容疑者が勤める専門学校側に伝えたとみている。しかも警視庁は両容疑者が複数の専門学校に問題を漏洩させていたとみて、詳しく調べているというのです。
これが更なる問題で、国家試験問題を事前にわかったとして何の意味があるのか。はるか前に柔道整復師国家試験をパスしている人間が今更今年の問題を知るメリットはありません。何より片方は作成する当事者ですし。その動機は柔道整復師を養成する専門学校に情報を流すためだったという疑い。これが本当だとすると専門学校側が国家試験の情報を求めた可能性が考えられるのです。しかも複数の専門学校にも。捜査の展開によっては専門学校側にも容疑がかけられ兼ねません。
<柔道整復師の試験問題漏えい疑い 実施法人の理事ら2人逮捕 毎日新聞 2022/10/5 13:00(最終更新 10/5 18:59) 686文字>
こちらではより細かい情報があります。まず逮捕したのは柔道整復師法違反(秘密保持義務など)の容疑とあります。あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師は一つの法律(通称、あはき法)にまとまっていますが、柔道整復師は単独となっています。その中に国家試験に関する項目があり、当然不正行為を禁止するという項目があります。
『柔道整復師法 第十三条の五 (不正行為の禁止)
試験委員は、試験の問題の作成及び採点について、厳正を保持し不正の行為のないようにしなければならない。』
そしてこの報道では
『2月上旬から下旬ごろ、三橋容疑者が講師を務める専門学校の教員に、3月実施の柔道整復師の国家試験問題の要点やキーワードなどを2回にわたってメール送信し、試験内容を漏えいしたとしている。』
とあり、具体的な情報漏洩を行った時期に触れています。柔道整復師国家試験は例年3月第1週の日曜日が開催日となります。今年第30回は2022年3月6日でした。そしてメールを送ったのが2月上旬から下旬。2月は国家試験対策の追い込みをしている時期。一番学生が頭に詰め込んでいるところです。私も柔道整復師国家試験前は朝から晩まで学校に籠って勉強をしていました。
どこの学校も成績が不安な学生を対象にがっちり試験対策の講習をしていると思われます。このときに要点やキーワードを教えてもらえればかなり有利になるでしょう。実際に経験した者として、この2月の試験直前というのは絶妙なタイミングであり、受験生にとってはそれよりも前だと忘れてしまったり真剣さが足りなくて覚えていられなかったりするのです。この報道では三橋容疑者が講師を務める専門学校では合格率が大幅に全国平均を上回ったとしています。
<柔道整復師の国家試験、出題項目を漏らした財団理事ら逮捕…専門学校教員に閲覧させる
こちらの報道では『三橋容疑者が講師を務める専門学校の合格率は97・3%に上り、全国の現役生の合格率より16・3ポイント高かったという』と具体的な合格率を明記しており、この情報をみればどの専門学校か分かる人はすぐに分かってしまいます。状況証拠として専門学校に国家試験情報を漏洩させたから合格率が跳ね上がったのだろうとする報道側の意図を感じます。
<柔道整復師試験、会議無断で録音…漏えい容疑の男 2022/10/06 15:00 読売新聞オンライン>
ここでは黒田容疑者が昨年9月に行われた国家試験問題を決める幹事会議のやり取りを無断録音していたと報道されています。これが本当だとすると用意周到な犯行だと言えます。また黒田容疑者は11科目ある国家試験のうち「柔道整復理論」を担当していたとしています。柔道整復理論は柔道整復師国家試験において非常に重要な科目で問題数が多いのです。この報道によると、黒田容疑者は各科目の担当者が試験問題の素案を読み上げて報告した際にひそかに録音していたという、とあるので担当外科目の情報を得るためだったと思われます。
他の報道では、黒田容疑者が以前講師を務めていた別の専門学校において、複数の元教え子が取材に応じ、「数年前の国家試験で出題された設問が直前に行われた模試と全く同じだった」「模試の問題用紙は終了後に回収された」と証言したというものがありました。
さてそうなると、どの専門学校に問題を漏洩させたのかが次なる問題になります。報道では仙台市の専門学校とも出ています。報道で実名があがっていないので、予想はつきますが名前を出しません。ところが10月6日午後に「東京柔道整復専門学校」が、”本校教員が逮捕された”ということを表明しました。そして”警察捜査に協力する”としています。
警察の捜査によって、もしも専門学校側が情報提供を求めたり情報提供の見返りとして金品を授与していたりした場合は事実があったとするならば、もっと問題が大きくなるでしょう。おそらく当事者の受験生は裏事情を知らないで講師や学校側が与えた情報をもとに試験本番に臨んだと考えられます。まさか学校側や講師が情報を横流ししているなどと伝えることはないと思われます。不正行為にあたるのは明白ですから。
『柔道整復師法 第十三条 (不正行為者の受験停止等)
厚生労働大臣は、試験に関して不正の行為があつた場合には、その不正行為に関係のある者について、その受験を停止させ、又はその試験を無効とすることができる。』
このような法律があります。もしも専門学校側に情報漏洩したと立証された場合、その学校の受験生は国家試験が無効になる可能性があるわけです。合格して臨床現場に出ている人間にはたまったものではありません。まして自力で合格できるほど勉強してきてきた受験生にとっては。更に過去にわたり試験問題の情報を教えていたとなったとしたら更に影響を受ける卒業生(つまり既に柔道整復師として働ている人間)が出てくるかもしれません。容疑者2名を処罰して再発防止に努めれば済む、という話ではなくなるのです。
私も10年以上前ですが柔道整復師国家試験を経験した身。同じ第30回受験生だったらずるい、ふざけるなと憤慨したことでしょう。そしてもしや自分も巻き込まれるのでは、と不安にかられるでしょう。すぐに母校の教員に質問を投げかけるはず。試験制度、免許制度を揺るがす事件。この先も色々なことが捜査によって判明するかもせず、柔道整復師業界が大混乱に陥るかもしれません。
甲野 功
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