開院時間
平日: 10:00 - 20:00(最終受付19:00)
土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
休み:日曜、祝日
電話:070-6529-3668
mail:kouno.teate@gmail.com
住所:東京都新宿区市谷甲良町2-6エクセル市ヶ谷B202
昨日は鍼灸専門学校2年生が来院してパルスについて講義をしました。これは前回9月20日に実施したものとほぼ同じ内容。毫鍼にパルス波(矩形波)の電流を通電させる鍼の技術について、説明したものです。9月に参加する予定だったメンバーが今回参加したのと前回参加して再び来た方がいて、3名の学生さんが来院しました。
前半はパルス鍼通電に関する知識を講義しました。講義内容が若干9月よりも増えたのですが、話す内容はほとんど同じ。この内容を話すのが3回目になったので資料内容が厚くなった気がします(講義する側の自覚として)。
座学のあとは学生さんが互いにパルス鍼通電をする実技時間にしました。当院で実施する他の講座では私が実技をみせることが多いのですが、ここでは学生同士やってもらうと。ちょうど学校の授業でパルスをしていることもあり。私は原則、鍼を刺しません。学生さんは3名いるので、鍼を刺す術者、刺される受け手、見学及び助手の役割、の3役に分かれます。同じことを9月にも行いましたが、今回はとてもより充実したものになったと思いました。
パルス鍼通電は毫鍼を刺す技術にパルスジェネレーターという装置の要素が加わります。毫鍼は身体に刺入するための鍼。刺鍼技術として、どこに・どの方向で・どれくらいの深さまで、刺すかがあります。なお前提としてどの鍼を選ぶのか(鍼の太さ、長さ、素材)があります。身体に刺した毫鍼にクリップを付けてパルス波の電流を通電させるのがパルス鍼通電。どのような装置を選択するか(どこのメーカーのパルスジェネレーターを用いるのか)という前提があります。当院では全医療器製の「オームパルサー」を使用しており、学生さんも授業で同じものを使っています。オームパルサーを使用するとして、電気の出力・周波数・出力パターンが変化させられる(選ぶことができる)パラメーターです。
学生さんはセイリン製寸6-3番という種類の毫鍼を使って筋パルス鍼通電を練習しました。パルス鍼通電には4種類(5種類)あり、筋パルス、神経パルス、皮下パルス、椎間関節パルス、(自律神経パルス)という種類があります。そのうち授業で行っているのが筋パルスでした。そして電気の出力は対象としている筋肉が収縮する強さとし、周波数1Hzでしか授業で習っていないということでした。そこで周波数と出力パターンを変えて体験してもらうことにしました。1Hzの他に5Hz。そして筋肉が単収縮と強縮を交互に繰り返すオームパルサーのMIXモード。違いを実感してもらいました。
ここまでは前回9月と同じでした。そこから学生さんがより考えて試行錯誤する姿が見られたのが今回の特徴でした。
どうしたら筋肉が動くのか。
筋パルスは狙った筋肉に毫鍼が当たっていればその筋肉がはっきりと収縮を起こすので、成功したかどうか見た目ではっきりと分かります。授業では筋肉をしっかりと収縮させることを狙って実技をしていると聞きました。
それでは筋肉を正確に捉えるためにどうするのか。
そこには解剖学の知識が必須。筋肉、骨、それらの位置関係。どの筋肉に当たっているかを判断するには1年生から習ってきて解剖学知識が必要です。どこにその筋肉がついているのか。起始と停止という付着部はどこか。筋肉がもたらす関節の作用は何か。それらが分かっている。それらが分かっているから他動運動や受け手の自動運動、抵抗運動によって筋肉を特定できるのです。更に触覚を研ぎ澄ませ筋肉の盛り上がり(筋腹)を捉え、どの方向に筋肉がついているのか(筋の走行)を理解しないといけません。毫鍼を刺すのにかなり解剖学知識が求められます。
筋パルスの場合、解剖学的な筋肉の捉え方をして経穴(いわゆるツボのこと)とはまた違ってきます。効かせるための経穴に刺すのではなく、筋肉を捉えてよく通電したときに収縮するところを探すのです。経絡経穴の知識とまたちょっと違うのです。経穴の場合は教科書を開けばかなり細かく位置が指定されています。対して筋パルスは教科書通りに刺したつもりでも通電してみないとうまく収縮するのかわかりません。言い換えると当たっているかどうかがはっきりし、経穴よりも正解がはっきりします。
私はアドバイスをしますが実際に刺すことはしませんでした。学生さんの自主性に任せます。しかし横から、その筋肉の起始・停止は?、関連する筋肉は?、その作用は?、などちゃちゃを入れるように質問します。授業の課題で「この筋肉に、こういう探し方をして、この方向に刺しましょう」ということを再現するだけでは良くないなと思い。
なぜそこに刺すのか。
今まで習った解剖学の知識を持ち出してその理由を考えてほしい。通電して筋肉が収縮しました。ではその筋肉が本当に狙った筋肉なのかはどう判断するのか。そしてその筋肉がパルス通電されたとして受け手(臨床にでたら患者さん)にとってどのような効果があるのか。また効果のある疾患は何が考えられるのか。そういう問いを持ってもらいたかったからです。
2年生の10月。鍼灸専門学校は3年制で3年生の2月末に国家試験です。そうなるともう学生生活の折り返し地点にきています。卒業後プロとして患者さんに鍼を刺す立場になるとしたら、そろそろ授業や実技試験の先を見据えて欲しいなと思っています。授業の課題をこなすことが目的になってしまうと現場で立ち往生してしまいます。対応する全症状を実技授業で習うことなど不可能です。基本を学んだら次は各自で創意工夫、考えていかないといけませんから。1年生なら試験対策や授業の復習でいいと思いますが。
偉そうに書いていますが私が専門学校時代に、このような考えは頭に一切ありませんでした。好きでもない鍼実技、とにかく及第点を取ればいいと割り切り授業を受けていました。自主練習も試験合格のみを考えて。そして現場で患者さんを前にして立ち往生したのでした。私の場合、幸いなことに根が真面目なおかげで基本的なことはしっかり学んでいました。そして東京理科大で嫌というほど自分で考えて仮説と検証を繰り返す訓練をした経験が活きました。職場で同僚のスタッフや臨床現場でどんどんと考えて技術を伸ばしていきました。「師匠は患者さん」としているのはそのような理由です。教員養成科で改めてきちんと鍼灸技術と向き合い今がありますが、自ら考えて試してみる、という姿勢は新卒の頃からありました。
時代といえばそうですし、近頃の若い者はという話になるかもしれませんが、言われたことはきちんとできる代わりに言われないことは何もできないという学生さんの傾向があるような気もしています。
ところが今回の学生さんは段々と自ら考えて動くようになってきたのです。私が色々何故そうするのか、どうしてこうなるのか、と聞いて、模範解答と思える解答例を示します。メンタルが受動的から能動的に変わってきて授業で習っていないことも試しはじめます。もちろんこちらで安全を確保するよう注意するのですが、どうしたら危険なのかということを考えるように学生さんがなっていました。鍼を刺すときに一番気をつけることが気胸。肺に刺してしまうこと。どこに刺すときに肺を気にするのか。肺はどこにあるのか。それを解剖学できちんと考えることで、怖い危険、から、ここなら平気やってみよう、に変わります。落ち着いて考えればそんなところに肺は無いよという場所も、授業で出てない部分は怖いから避けるというメンタルがある気がしました。
直接習っていないことでも、今まで習った知識を応用してこうしてみたらいいのではないかと考えて実践してみる。そのような姿勢が後半生まれてきたのでした。その様子が見られて本当に良かったと思いました。私の場合、その姿勢になったのは学校を卒業してからだったので。私よりずっと早く成長するのだろうと期待できます。
今の学生さんはコロナ禍になってから入学しています。私達の頃より対面授業が少なく、放課後実技練習する機会を大幅に奪われてきたといえます。私の頃より学ぶ内容は増えてこなさなければならない課題も増えています。国家試験の難度は上がりやらなければならないことがたくさん。それなのに授業は制限されてきました。今の時代でどのように学習して技術を習得するのか誰にも分からない部分があります。依頼された以上、その正解になりそうな答えを模索しています。
甲野 功
コメントをお書きください