開院時間
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早朝、サッカーワールドカップで強豪国スペインに逆転勝ちをおさめ、リーグ戦トップ通過を果たすという歴史的快挙を成し遂げた日。この日は私の誕生日でした。
その複数の出来事が重なった日に東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科での特別授業を担当しました。
2017年から始まったこの特別授業。今年で6回目となりました。
毎年この時期に関東鍼灸専門学校の内原副校長と一緒に、2年生の生徒を対象に行っています。当初の授業内容はどちらかというと活動報告のようなものでした。ベースは鍼灸師(専門学校専任教員と開業鍼灸師)がSNSを使ってどのようなことをしてきたのかという。SNSというベースは残して話す内容は微妙に変化してきたと感じています。
私は後半のパートでテーマは「開業鍼灸師のSNS活用」。現在あじさい鍼灸マッサージ治療院を始めて9年目。この間に実経験してきたことを中心に毎年資料を作成します。根底にあるのは集客。敢えてこの表現にしますが、患者さんが来てくれなければ経営は成り立ちません。完全に独立して個人で運営している以上、利益が出なければお終い。他の資本が運営してくれるわけではありません。その状況で今日まで残ってきたのは、やはり患者さんが来てくれるから。そのために必要不可欠なツールがSNSでした。そのことについて毎年内容を変えながら話をしてきました。
前半に内原先生が専任教員の立場で話をします。関東鍼灸専門学校という伝統鍼灸専門学校の副校長という役職。組織の管理職。私とは状況がかなり異なります。その立場から語られる内容に対比するような内容にすることを心掛けてきましたし、教員養成科を卒業して開業する方々に役立つような話にしたい。そうなると集客という生々しい現実は避けて通れないでしょう。
繰り返しになりますが今回で6回目の授業担当ですが、毎年発表資料は変えています。大幅に変えるときもあれば僅かな違いのときもあります。昨年の授業はTwitter上にて鍼灸師業界で大きな騒動があったこともあり、SNSの負の面について触れる内容にしました。その前の年まではどうSNSを活用して患者さんに来てもらうかというノウハウがメインにしていたのです。昨年の資料を作成るにあたって、あくまでSNSは活用するもの、悪用するものではない、という考えが芽生えました。何をもって悪用というのか難しいところですが、新型コロナウィルス流行から段々と鍼灸師業界におけるSNSのやり方が変化してきたことを感じており、それは鍼灸業界に限らず様々な分野でもそうですが、そこに触れる必要があると考えたからです。
また昨年の授業後に教員養成科学生さんから「SNSは怖いので使ってきませんでした」という声がいくつかいただきました。それは学校教員からも耳にしました。”SNSが怖い”という心境は昨今の炎上騒動や、著名人の不祥事における過度なバッシングを目の当たりにしているからかと思います。この意見が印象的で1年経っても頭に残っており、今年も鍼灸師のSNS“活用”、そして集客のためにどのような活用をするのかを基準に内容を固めることにしました。
私は昨年から母校の東京医療専門学校で鍼灸マッサージ科(私が卒業した科)、鍼灸科2年生を対象に「開業支援」をテーマしたオムニバス授業を担当しました。また5年前から教員養成科2年生を対象にしたこの特別授業も。その経験から鍼灸マッサージ科・鍼灸科・教員養成科、どの科でもSNSを利用している生徒は少ないなと印象です。やったことがない、アカウントは持っているが能動的に使っていない、むしろ嫌い(怖い)。そういう人だけとは言いませんが、過半数はそのような印象を受けます。
その上で私が言いたのは独立開業して自分で患者さんを集めないといけないとなったら、SNSをやらないというという選択肢はほぼ無いということ。嫌いだから、怖いから、面倒だから、など言っている余裕はないということ。もちろんSNS以外にやることは山のようにありますが少なくともアカウントは持っておいた方がいい。無くても経営が成り立つ人もいますが、この時代にSNS無しで開業して軌道に乗せるのはなかなか難しいと考えています。
その理由は何か。それを説明しながらどのようにSNSを活用するのかを話しました。
まず冒頭に入れた内容は、ポータルサイトにおける口コミ評価の信頼性が揺らいでいる、というもの。ポータルサイトとは自社ホームページに誘導するために入り口となるウェブサイトの総称です(ポータルとは玄関という意味でかなり大雑把に説明しています)。Googleをはじめとした検索サイト、口コミ評価サイト、店舗紹介サイトなどをひっくるめてポータルサイトと言えます。ポータルサイトに掲載されている口コミや評価平均点数が信用できなくなっている現状を感じています。口コミ代行業者が現れ、「バレずに店舗の都合の良い口コミを入れます」という謳い文句。ばれたらまずいと分かっていて、お金で都合の良い口コミが買えますよと言っているのです。また今年は飲食店向けの口コミ評価サイトにおいて恣意的に評価平均点数を下げたとして運営側に損害賠償を課す裁判結果が出ました。なおこの判決があっても運営側は点数を算出する方法(アルゴリズム)を公開することはありません。これまでも有料会員にならないとどれだけお客さんから高評価を得ても評価平均点数が上がらない、掲載順位が低くなるという声がありました。当院でも実際にこの8年間でポータルサイトに関するトラブルは何件からありました。
これまでの教員養成科授業では実名を避けてきたのですが、今回は実際の判決ニュースを含めてポータルサイトの実名を挙げて話をしました。それはやはり集客現場のリアルを伝えるべきだと思ったからです。そして評価基準がブラックボックス、口コミを投稿している人が本当に利用した消費者なのか、とポータルサイトが掲載する情報が疑わしくなりつつある、だからその個性が現れるSNSアカウントの意見(情報)がより重要視される(信頼される)であろうと述べたかったのです。誰が発信した情報なのか、がより重要になっていると。
次に(日本の)鍼灸には基準軸、標準が乏しいという話をしました。現代医療における標準治療にあたるものが鍼灸にはありません。例えば筋筋膜性腰痛に対して、この部位(経穴、筋肉など)に、この太さ(直径)の毫鍼を、どの方向に、どれくらいの深度で、刺入する、といった基準となる技術は存在しません。どのようにするのかは鍼灸師個人に委ねられます。太い鍼で深く刺す、細い鍼で浅く刺す、刺さない鍼を使う、直接灸をする、鍼と灸両方使う、灸頭鍼をする、患部とは異なる場所に鍼を刺す、などなど。一般の方も鍼灸のイメージは何となくあってもその人にとって鍼灸は、スポーツ傷害で、美容で、婦人科系疾患で、胃腸系疾患で、などどのような時に利用するのか定まっていないでしょう。だからこそ鍼灸師各自がこのような人間でこういう鍼灸をしていると打ち出していかないといけない。鍼灸院の看板を出したから患者さんが集まるという時代ではありません。
また先ほど書いた誰が発信した情報なのかが重要になることと同様に、誰が行う鍼灸なのかが非常に重要になるということ。鍼灸よりもまず鍼灸師。鍼灸師がまず信頼されないといけない。そのためにツールとしてSNSを活用することを勧めます。私はこの授業でも、当院で行っている学生向け講義でも、外部に依頼されて講師を務める講義でも、必ず時間を割いて自分のこれまでを説明します。どこで生まれてどのような経緯でこの業界に入り、どういう資格を持ち、どんな職歴を経て今に至るのか。甲野功という人間を知ってもらうことで(情報がたくさんあることで)より関心を持たれて信用されやすくなるからです。
人は知らないから(情報がないから)怖い、そう感じます。
だから他人の既に経験した意見(=口コミ)を参考に、安心するための拠り所に、します。ところがサイトの口コミ情報が怪しそう(恣意的なものかもしれないという疑念がある)となると、より個人がみえるSNSアカウントの意見の方を採用してしまう。だからインフルエンサーというカテゴリーが生まれたわけです。かつては流行を雑誌やメディアが造っていましたが、SNSによって個人が情報発信するインフラが整ったせいで、本当に信用できる(信用したい)あの人の意見を取り入れようということに。
そしてSNS活用は宣伝よりも広報に力を入れましょう。そう伝えました。宣伝とは端的にいえば「うちの鍼灸院に来て鍼灸を受けてくださいね」と訴えること。広報は比較すると「当院ではこのような取組みをしています、私はこのような人物です」とお知らせすること。宣伝は必要なのですがそればかりしていると人はついてきません。テレビ番組でも好き好んでCMを見る人はいないでしょう。映画館にいって本編上映前の作品予告を見るためにチケットを買う人はいないでしょう。あなたはどのような人物で、あなたの鍼灸院はどういう場所なのか、ということを広報するためにSNSを用いる。そのように話しました。
あとは昨年少し感想があがった内容を今年も継続しました。情報発信にはフロー型とストック型の2種類あること。フロー型の情報発信は主にSNSが得意であるがストック型の情報発信方法としてホームページも大切ですよと。また発信する情報(コンテンツ)にもフロー型とストック型があるので使い分けるとよいと話しました。何にせよ情報発信は必須で、どのような情報をどういうやり方で出すのかをフロー型とストック型で分類して考えることがいいでしょうということです。
昨年はマーケティングのことや消費者行動の変遷など経済学的な内容を入れたのですが、あまり手ごたえが無く不採用にしました。またもう少し時事ネタを入れるか迷ったのですが、私がその出来事をしっかりと消化しきれなかったのでやはり採用しませんでした。ある意味でこの授業準備のために毎日SNSを眺めて関連するニュースを追っかけているとも言えます。1年間の調査をまとめるような。
何はともあれ、今年も大きな仕事をやり遂げた感覚があります。終わるとどっと疲れます。直前に体調不良もあったので無事に終えることができて安心しています。このような場を設けていただた東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科、きっかけを生んでくださった関東鍼灸専門学校内原拓宗副校長、必修でもないのに授業に参加してくださった(卒業研究で忙しい)教員養成科2年生の皆様、どうもありがとうございました。
甲野 功
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