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~文学座公演と文学座の歴史~

文学座12月アトリエの会 文、分、異聞 パンフレット
文学座12月アトリエの会 文、分、異聞 パンフレット

 

 

今日は患者さんが出演する舞台、『文、分、異聞(文学座12月アトリエの会)』を観劇してきました。文学座公演はこれで3回目。場所は前回と同じ信濃町にある文学座アトリエでした。9月に訪れた場所。入ってみると観客席が1面になっていて驚きました。変えられるのか、と。前回は2面に観客席が設置されていて舞台を2方向から見る形でした。てっきりそういう造りなのかと思っていたら。劇団関係者からすれば当たり前なのかもしれませんが単純に驚きました。

 

さて内容はというと。史実をもとに昭和38年(1963年)に起きた文学座騒動を描いたもの。

中日スポーツ 60年前の”文学座騒動”を現在の若手が新作劇に 三島作品巡る「喜びの琴」事件題材、”現場”で上演

 

場面展開はなく、最初から最後まで11名の演者が出ずっぱりで劇が進みます。途中声だけの出演者が1名いますが、11名の俳優による密室劇というもの。正直な感想は、よく分からなかった、です。最初は会議の場面。三島由紀夫原作の戯曲「喜びの琴」を公演するか否かについて。しかしそれは劇団員(研究生という正式な座員ではない人)が演じていたということだった。そこから文学座の今後を議論し合うことになり、事態はおかしな方向に進むという。

 

よく分からなかったのは文学座騒動のことを知らないことが大きな要因のようでした。複雑なのが、実際に昭和38年(1963年)11月20日に劇団総会が開かれており、その内容を冒頭で研究生が演じているということ。つまり俳優が研究生を演じて、更に作中で総会の様子を演じている。最初の役割(役名)と劇中の役が異なる。それにまず混乱します。それとフィクションであるようですが登場人物の何名かは実在の俳優をモデルにしているそうで後に樹木希林となる悠木千帆氏がチホ、小川真由美氏がマユミ、江守徹氏がトオルとなっています。更に場所は今劇場として中にいる文学座アトリエ。60年前に文学座アトリエで起きたことを題材にしている劇を、現在の文学座アトリエで私は観ている。作中には四谷三丁目という言葉もあり、最寄り駅だよな、と思いました。

 

途中周りで笑い声が聞こえたのですが、私には何故笑うのかが理解できませんでした。コメディ要素があるように感じなかったです。またストーリー展開もかなり疑問で、どうしてそのようなことになるの?という疑問符が頭を浮かびます。これは劇団員ならありがちなことなのだろうか、と。

 

とにかく疑問だらけで過去2回の観劇とは全く異なる感覚。どういうことか調べてみました。

 

すると通称『喜びの琴事件』という史実があることを知ります。文学に疎い私でも知っている文豪、故三島由紀夫氏が関わっていました。三島由紀夫氏は文学座に所属し作品を書いていました。今回描かれる日の前に、文学座筆頭女優の杉村春子氏との対立により多くの有望俳優が脱退し、劇団「雲」を創立します。これが最初の文学座分裂事件で一度目の危機でした。そして三島由紀夫氏は戯曲「喜びの琴」を作成。この内容が実際に起きた「松川事件」を彷彿させる内容だと意見が出ます。

松川事件とは昭和24年(1949年)に東北本線松川駅付近で起こった列車転覆事件のこと。労働組合員で共産党員の犯行とされ、裁判の一審と二審では有罪となりましたが、被告の自白の虚構が判明し昭和38年(1968年)最高裁で逆転無罪となります。「喜びの琴」では上越線転覆事件が登場します。

作品は反共産主義思想的な思想があるとされました。それが杉村春子氏らには耐えられないと上映拒否をしたといいます。この対立に対して文学座は上映するのか否かを総会で話し合い、上映保留と決定します。しかしその判断は三島由紀夫氏の文学座脱退を意味します。杉村春子氏と三島由紀夫氏の思想面も含めて対立であったと劇中でも語られます。文学座総会の判断を受けて三島由紀夫氏は文学座を脱退し、その後を追うように数多くの所属俳優が脱退しました。これが二度目の文学座分裂危機となります。

 

これら二度にわたる文学座分裂の危機を劇として描いているのでした。このことを知った上で作品を思い返すとなるほどと納得できることが多かったです。研修生達は稽古場に立てこもるふりが反対に閉じ込められて。そこは私は舞台として見ていますが本当の稽古場でもあります。椅子や机でバリケードを作るのも学生運動を象徴しているように思いました。間違いなくその当時、文学座は揺れていた。その葛藤を描いた。セリフにもそれが現れていました。タイトルの「文、分、異聞」とは文学座が分裂という意味が込められているのでしょう。

 

むしろこのいきさつを知らないとなかなか厳しいと思いました。現在の文学座俳優が、しかも研究生の役柄上であるため若い俳優たちが、所属する劇団の歴史をモチーフに演じる。さらに新型コロナウィルス流行により実際にやむなく上映中止が起きてきたこの現代で。おそらく古参の俳優や関係者から当時の事を聞かされているであろう俳優たち。かつて解散の危機があり、それを乗り越えて今がある。その今に所属する俳優たちによって演じられたもの。その背景を知ったら見た印象は大きく変わったことでしょう。

 

当時の、今では想像もできない、思想の対立。後に三島由紀夫氏は自衛隊市ヶ谷駐屯地に押し入り、割腹自殺を果たします。私が生まれ育って今も住む場所は市ヶ谷駐屯地のすぐそばにあります。そして文学座アトリエからも市ヶ谷駐屯地はそう遠くありません。これまで知らなかった歴史。それも生活圏内で起きた出来事。今回の劇を観なければこの先ずっと知らないままだったと思います。

 

観劇から予想もつかない学びとなりました。

 

甲野 功

 

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