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昨日は鍼灸マッサージ専門学校の2年生5名が参加して「あはき師のための数学」というセミナーを開催しました。これは先月「あはき師のための理科」というタイトルのセミナーに続くものです。
あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師という3種類の国家資格の頭文字をまとめて“あはき師”と私の業界ではいいます。参加した学生さん達はこの資格免許を招来取得する予定で、現在勉強と練習に励んでいます。専門知識を理解するには理科の知識が役立つであろうということで開催した「あはき師のための理科」。具体的には理科の中の物理と化学の中から関連する内容を解説しました。その際に物理、特に力学や化学の化学式をきちんと理解するには数学が必要になるという話になりました。物理と数学は切っても切れない関係と言えますし。化学変化を表す式は代数式に近いと言えます。
そこで次は数学について話をしてくださいという学生さんからの要望と、私個人がやってみたいという希望の、2つが重なって今回の講座が実現しました。
それは理科の時よりもずっと難しいものでした。
私は東京理科大応用物理学科を卒業しています。物理の勉強を中心に大学までの勉強をしてきました。既に書いたように物理を学ぶには数学(物理数学というジャンルがあります)を学ぶことは必須。数学も得意な方でした。高校3年間で数学は5以外取ったことがありませんでした(もちろん5段階評価で)。それが一つの自慢であり誇り。理科は地学で4を取ったことがありますが物理・化学は5だけでした。大学までの勉強で培った理科・数学の素養は、この仕事をする上で想像以上に役に立ってきました。直接関わる科目は生物が一番近いのですが、物理・化学も少し関係します。そして数学の考え方は東洋医学や鍼灸・あん摩マッサージ指圧の技術はもちろんのこと、経営、経済、法律など開業後の実務にも手助けとなりました。
前回、今回と理数系科目から縁が遠い鍼灸マッサージ専門学校の学生さん達に向けて、理科・数学の紹介とどう関係しているのか、どう活用するのかを話したいと思いました。そして前回の理科はとても好評に終わりました。それを受けての今回の数学です。
準備段階で理科のとき以上に苦しみました。私の専門は物理で理科教科の範囲。近い科目ですが数学はまた別物です。理解度が物理に比べると低いので思い出すのに、そして調べて解説資料を作るのに、(事前に予想はしていましたが)より苦労しました。
実際に起きている現象を扱う理科に比べて数学は哲学を含む抽象的なものが含まれます。そして国語力が試されます。予備校講師や塾講師から聞いた言葉ですが、数学には国語力が必要、というのがあります。経験上分かっていたのですが、いざそれを伝えるとなると非常に苦しい作業でした。理数系科目を重点的に勉強してきた人間であれば暗黙の了解で話が進むのですが、皆さん高校時代で数学から距離を置いた方々。どれくらい詳しく説明したものか。そもそも詳しく説明すればするほど難しくなるわけですし。
まず数学とは何か。数学という学問を説明するとどうなるのか。そこから入りました。数学は自然科学の理科と異なり、形式科学に分類されます。数学を自然科学の中に入れる考えもありますが、別物と考えた方がいいと私は思います。現実に生じる現象を追いかける理科との違い、数学は数字や数式、概念で考える世界であること。例えば無限大(∞)という概念が数学にはあります。とてつもなく大きい量という意味の無限大。しかし物理や化学ではまず無限大という考えはしません。とてつもなく遠い距離を考えたときに、天文学では「光年」という光の速度で1年間かけて進む距離という途方もない単位を用います。無限大と一言で片付けてしまうことはありません。無限大分の1すなわち1/∞は0という概念も数学です。物体を細かく小さく見ていけば電子顕微鏡でナノの世界を観察することができますし、陽子、中性子、電子というオーダーまで現代科学では知る事ができています。膨大な数字の逆数は0に近づきますが、無ということには現実になり得ません。こういうところが自然科学と異なる形式科学に分類される数学なのでしょう。
こういう点が気とか経絡とかを実際に存在するものとして扱う東洋医学に近いのではないかと考え紹介しました。
次に数について考えます。私のゴールは虚数、つまり-1の平方根√-1たるiを紹介すること。負の数(マイナスの数)同士を掛けると(積)は正の数になります(-1×-1=1)。二乗してマイナスになる数は本来存在しません。それを虚数単位iとして表すことにより数学が大いに発展します。オイラーの公式など必要不可欠な存在に。東洋医学における気について学んだとき、私はこの虚数単位iのようだと感じたのでした。そのために数の分類を紹介することにします。自然数、整数、分数、小数、有理数、無理数、実数、虚数。言語、文化に関係なく誰もが利用する数という概念。その数には様々な種類があることを説明しつつ虚数まで持っていきました。
途中、特に東洋医学に関係する自然数として2、5、6を挙げます。そして2と5の最小公倍数10である十干、2と6の最小公倍数12である十二支を紹介。さらに10と12の最小公倍数60で干支があることを説明しました。
この時点で学生さん達の表情には?が浮かんでいました。さてこれはなかなか大変だと思いました。この先はもっと複雑になるので。
数学というとても広く深い学問の全てを網羅することはできません。数学専攻でなかった私には土台無理な話。鍼灸マッサージ専門学校に入ってからこの分野の勉強をする上で、数学分野において役立った項目を紹介することを念頭に置いていました。数学とはどういうものかという総論、数の種類という序論が終わり、各論に入ります。どれくらい腑に落ちてもらえるか不安になりました。
数学における次元の話。これは以前からしているのですが、0次元すなわち点は経穴、1次元すなわち線は経絡、2次元すなわち面は反射区、3次元すなわち立体は人体という捉え方。0次元~3次元を説明した上で。
三角関数とベクトル分解。サイン、コサイン、タンジェントなどの三角関数。このうちサインとコサインをピックアップして直角三角形からベクトル量を水平成分と垂直成分に分解するという話。鍼を刺す方向および指圧の圧を入れる方向を定めるときに、2つの力のベクトルで考えるといいというもの。
平面と直線の関係。直線とその直線上にある点が決まると平面が決まります。点を通って直線から垂直な方向に空間を広げると平面ができます。また互いに平行の位置にはない2つの平面が交わるとき、そこに直線が生まれる。このように平面と直線の関係を説明した上で、人体における運動面と運動軸を説明します。矢状面、前額面、水平面という互いに垂直に交わる3つの平面。そこに垂直軸、矢状軸、水平軸という3つの運動軸。その関係性は数学で説明します。
代数式、関数、グラフ。変数と定数。これらがどういうものなのかを説明し、実生活でどう活用できるのか。鍼灸やマッサージ、東洋医学というより経済、経営に数学が必要であること。グラフの見方を紹介します。
微分積分。微分とは何か、積分とは何か。これができると何の意味があるのか。物理からの要請で微分積分学が発展し、現代の経営戦略にも応用できるという話。力学には必須である数学分野なので力を入れました。
統計学。論文を読むとき、研究をするとき、必要な学問です。n数、p値、標準偏差、有意差、エビデンスなど研究論文を読めば出てくる用語を説明します。既に学校で研究をしている学生さんがいたのでここは少し馴染みがあったようです。
そして証明と命題。数学の命題「p⇒q」。裏、逆、対偶。背理法、対偶法の証明方法。定義と定理。私が一番伝えたかった数学的思考の部分です。命題の例として『はり師は東洋医学を勉強している』を挙げ説明しました。
どの項目も、そういえば昔中学高校で習ったことがあるかな、あるいは、ここで初めて聞きました、という反応でした。数学そのものの話だと聞いている方が大変だと思い、たびたび学生さんが興味ありそうな内容を入れて見ました。「ジョジョの奇妙な冒険」、「HUNTER×HUNTER」といった有名少年マンガのエピソードや国家試験の合格率推移などには、やはり反応が良かったです。その分、純粋に数学の解説は腑に落ちないという反応。理科のときは実際に体験することや生理学で学んでいることに直結するのでそうなのかという実感がありました。
やはり数学を伝えるのは難しい。資料を作成し説明しながら感じました。
ただ最後の命題、そして数学的思考で物事を考えてみる、という点は響いたようで良かったです。講座後の雑談では私の修業時代の事や学生さんの卒業後の相談などをしました。そのときに、ものの見方に数学の素養が入ることで少し未来が良くなるのではないかと伝えました。
私にとってこの取り組みは非常に大きな、労力を割いたものでした。準備途中、数学に手を出すんじゃなかった・・・、と少々後悔しました。20数年ぶりに数学と向き合うと自分自身理解が薄いことに気付きましたし。だからこそやり切ったことに充実があります。また学生さんに話す機会があるので更にブラッシュアップしていき、良い内容にします。そしてもう少し自分の中にある数学を高めたいと思います。
甲野 功
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