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1月12日に柔道整復師国家試験問題漏洩事件に関する初公判が行われたという報道が出ました。
<TBS NEWS DIG 柔道整復師の国家試験問題漏洩事件 財団元理事ら起訴内容認める>
この報道内容については別に触れるとして、その表記に見過ごせない点がありました。TBSが報道したニュースでは柔道整復師とするところを柔道“整体”師と表記していのでした。これがどういうことなのでしょうか。
まず、これまで何度も触れてきた柔道整復師国家試験問題が漏洩した事件。現在2名が起訴されています。柔道整復師は厚生労働省が管轄する国家資格免許であり、最低3年間の勉強を所定の養成機関(専門学校や大学)で積んだことで年に一度の柔道整復師国家試験受験資格を得て、その国家試験に合格することで得られるもの。医師や弁護士と同様に国が管理する免許制度です。被告2名は実際に出題される問題を事前に入手して指導している専門学校に情報を与えたのです。通称「柔道整復師法」という法律がありその違反として逮捕、起訴されました。被告2名は柔道整復師であり、柔道整復師研修試験財団の理事と試験委員(柔道整復師国家試験問題を作成する立場)でありました。
ここまで繰り返し『柔道整復師』という名称を出してきましたが、もちろんこれが正式名称であります。略称として柔整師という言葉もよく使いますが、法律でも免許の名称も『柔道整復師』となっています。それが報道のテロップには柔道“整体”師という表記が出たのです。これは単なるミスなのでしょうか。
まず事件報道という状況を考えるといかがなものかと感じます。例えばバラエティー番組や個人のブログ、YouTubeチャンネルなどでそう表記されたとしていたら、事実確認をきちんと行わなかったねと目につくくらいだったと思います。整復という用語は、主に骨折や脱臼で骨が正常な位置にない状態に陥ったときに元の位置に戻す操作、を言います。医療用語で一般には用られません。なお腱や半月板でも整復するという表現をすることがありますが、原則は骨の位置を戻すことを整復(reposition)といいます。そのため一般の人には聞き馴染みがありません。たまに柔道“制服”師と書いてある文章も見かけることがあるくらい。しかし今回の場合は全国放送の報道です。事件報道です。マスメディアの報道班が間違えては困ります。内容には多々『柔道整復師』という言葉が出てきますから、用語のチェックはしてあったはず。テロップを付けるときにスタッフが間違えただけだとは思いますが、柔道整復師免許を持つ立場からするとこの事件を扱う報道で間違えてはいけないだろうという気持ちです。すぐに訂正されたようですが社会的知名度の無さを実感します。
ただ本質は別のところにあると考えていて、TBSが間違えるのも仕方なしという気持ちもあり、その方がとても重要なことと捉えています。そもそも柔道整復師という言葉があっても柔道“整体”師という言葉は本来存在しません。少なくとも厚生労働省や法律においては。ではなぜ存在しないはずの言葉を間違えてテロップにしてしまったのか。
それは柔道整復師が“整体師”を名乗って活動しているから。そう考えています。巷には柔道整復師免許を持ちながら自らを整体師と名乗って活動している人が少なからずいます。柔道整復師は保健所の指導下で接骨院という施術所を開設することができます。これは医療系国家資格においては医師、歯科医師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師と並んで開業権が公式に認められているからできること。反面、開設要件や広告に関して規制があります。非国家資格免許である整体師にはその規制がありません。よって柔道整復師として施術所を開設しないで、整体師として整体院を開くことで規制を受けずに開業するという人がいます。その際に徹頭徹尾、整体師と名乗ればいいところを柔道整復師の国家資格を標榜する。更には柔道整復師としての業務範囲外のことを整体師としてやりながら、肩書は柔道整復師とする(国家資格を持っていますよと宣伝する)。このようなやり方をする人がいます。
そうなると、柔道整復師とは整体師のことである、と認識する人が出てきます。詳しい免許資格区分が分からない利用者には当然のこととして。そうすると『柔道整復師』が『柔道整体師』に見えてくる、そう理解するという人が出てくるでしょう。その結果が今回のテロップミスに繋がったように予想するのです。
これは柔道整復師に限らない話です。理学療法士も整体師と名乗って開業しているケースがあります。本来の医師の指示のもと行う理学療法においては理学療法士に開業権はありません。ですから理学療法院というものは法的に存在できない。そこで整体師を名乗って整体院として開業する。このようなケースが多数あります。その場合、国家資格である理学療法士ですよとアピールするので、理学療法士=整体師という認識が広まります。また鍼灸師免許しかない者がマッサージもどきの手技をする際に鍼灸整体師を名乗る。マッサージもどきと書いたのは法律によってあん摩マッサージ指圧師でないとマッサージ行為をすることが禁じられているので、これはマッサージではありません、整体ですからと言い訳しないといけないのです。細かく言うと通称「あはき法」といって、鍼灸師とあん摩マッサージ指圧師は一括りの法律になっています。鍼灸師になる上で関係法規を学び、マッサージはあん摩マッサージ指圧師しかできない業務独占であることを知らないとは言わせない立場です(厳密にはマッサージをすることは医師であれば可能、理学療法士は医師の指示のもとなら可能となっています)。
このように医療系国家資格を持ち免許を取得しているのに整体師を名乗って法で定められた範囲外のことをしようとする。それが世間に浸透して柔道“整体”師なる言葉(概念)が生まれてしまった。そう考えています。
これは自らの首を絞めることだと考えています。過去にあったのですが、当院に来た患者さんが鍼や吸玉の施術を「整体」と言っていました。これはMMA(総合格闘技)選手がプロレスラーと呼ばれること。保育園を幼稚園と呼ばれること。ラグビーをアメフトと呼ばれること。これらに近くて、知らない人から見たら同じに見えるかもしれないが全然違うものだから当事者からすると看破できない、というものなのです。件の患者さんが鍼、吸玉を整体と認識していたのはおそらく別の鍼灸師が自らを整体師と名乗っていたからだと思われます。整体師がすることだから整体。それが鍼でも吸玉でも。一般の患者さんからすれば何も間違っていない認識です。このことの何が問題かというと整体師に法的根拠はありません。誰でも自ら整体師だと名乗れば明日から整体師になれます。免許はありませんから。更に整体とは何かという定義がはっきりしません。個人がこれが整体ですと言えばそうなってしまいます。行きつく先は本来健康被害が生じる恐れがある医療行為も“整体ですから”と誰でも行ってしまう。そういう懸念があります。既に実社会で起きていることでもありますが。
今回のテロップや報道の表記ミスは柔道整復師がしてきたことの結果ではないでしょうか。
甲野 功
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