開院時間
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土: 9:00 - 18:00(最終受付17:00)
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今年数年ぶりに新たな鍼灸養成施設が誕生しました。新潟医療福祉大学に鍼灸師を養成する学科が誕生しました。
<テレビ新潟 新潟医療福祉大学に鍼灸師を育成する学科が誕生 北海道・東北・甲信越では初めて 2023.04.11>
『
新潟医療福祉大学に鍼灸師を育成する学科が設置されました。
大学としては、北海道・東北・甲信越では初めてだということです。「鍼灸の日」である4月9日には記念披露会が行われ、実習施設が公開されました。
今年度は23人の学生が資格の取得を目指して学びます。
』
このように4月9日、鍼灸の日に合わせた記念披露会が行われました。鍼灸健康学科開設準備室長に粕谷大智先生が就任。粕谷先生は、私にとって東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科時代の恩師であり、長らく東京大学附属病院で勤務されていました。ホームページによれば新潟医療福祉大学は「看護・リハビリ・医療・栄養・スポーツ・福祉の総合大学」を標榜しています。
<新潟医療福祉大学>
鍼灸業界にとって明るいニュースと言えます。
ここで大学の鍼灸科について見ていきましょう。
我が国で鍼灸師になるには、所定の養成機関での勉強を経て国家試験に合格しはり師・きゅう師免許を取得する必要があります。鍼灸師養成機関の種類として大学、専門学校、盲学校・視覚支援学校の3種類があります。最も数が多いのが専門学校で次が盲学校・視覚支援学校、そして大学です。鍼灸師になるというゴールは同じでも各々意味合いが若干異なります。
専門学校は主に厚生労働省が管轄しています。医療系なので“厚生”部分が重要なのはもちろんですが“労働”面が強くあります。専門学校学生の多くは将来鍼灸師として働くために入学しています。早い話、職業訓練校の一面が強くあります。生徒全員がそうではありませんが、鍼灸師として臨床現場に立つことを目的としている者が大多数でしょう。私は専門学校出身です。
盲学校・視覚支援学校は視覚障害者の生業として鍼灸師の資格を取るという目的が大きいです。按摩師、音楽家と並び古くから視覚障害者の生きる術としてあった鍼灸師。障害の程度や視覚障害が生じた経緯もありますが、社会福祉面が強くなります。運営はほとんどが地方自治体や国という国公立機関。
そして大学。管轄は文部科学省であり、研究を主としています。大学ですから論文執筆、学会発表を行い、鍼灸に関する研究が行われています。
歴史で言うと圧倒的に盲学校・視覚支援学校に歴史があります。江戸時代に杉山和一検校が徳川綱吉公の支援を受けて設立した世界初の視覚障害者向けの学校から始まり、全国にあります。専門学校は約100年前から主に個人が設立した私立学校が主です。大学はほとんどが西暦2000年以降に大学自体あるいは新たに鍼灸学科が設立されたものです。視覚障害のない健常者向けの鍼灸養成施設を新たに作ることは規制されていたのですが、1998年の裁判で旧厚生省が敗訴し、解禁されることになります。そのため専門学校、大学ともに2000年以降大幅に増えました。
鍼灸師を養成する大学は現在12校あります。視覚障害者を対象とした国立筑波技術大学を除くと健常者向けの鍼灸養成施設としての大学が11校となります。新潟医療福祉大学はその11校目になったのです。他の大学を挙げていきましょう。
●明治国際医療大学鍼灸学部鍼灸学科(京都府)
1983年設立。学校法人明治国際医療大学。日本初の鍼灸の4年制大学です。1925年に山崎鍼灸学院をルーツとし、1983年に旧明治鍼灸大学として設立されます。1991年には修士課程を、1994年には博士後期課程を開設しました。鍼灸大学の老舗です。
●関西医療大学保健医療学部はり灸・スポーツトレーナー学科(大阪府)
2003年設立。学校法人関西医療学院。母体は1957年創立の旧関西鍼灸柔整専門学校です。1985年に旧関西鍼灸短期大学が設立され、2003年に4年制大学(旧関西鍼灸大学)になります。現在は校名を関西医療大学としています。
●帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸科(東京都)
2004年設立。学校法人帝京平成大学。1987年に帝京平成科学大学として設立、1995年から現名称へ。鍼灸科は2004年に新たに設立されました。
●鈴鹿医療科学大学保健衛生学部鍼灸サイエンス学科(三重県)
2004年設立。学校法人鈴鹿医療科学大学。大学は1991年に旧鈴鹿医療科学技術大学として設立され、鍼灸サイエンス学科は2004年にできました。
●森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科(大阪府)
2007年設立。学校法人森ノ宮医療学園。母体は1973年設立の旧大阪鍼灸専門学校(現森ノ宮医療専門学校)。
●東京有明医療大学保健医療学部鍼灸科(東京都)
2009年設立。学校法人花田学園。母体は1956年設立の日本鍼灸理療専門学校。
●常葉大学健康プロデュース学部健康鍼灸学科(静岡県)
2013年設立。学校法人常葉学園。母体は1946年設立の静岡女子高等学院。1980年に旧浜松学園大学が設立され校名変更を経て現在の常葉大学に。健康鍼灸学科は2013年に設立されました。
●九州看護福祉大学看護福祉学部鍼灸スポーツ学科(熊本県)
2010年設立。学校法人熊本城北学園。大学は1998年の設立。
●宝塚医療大学保健医療学部鍼灸学科(兵庫県)
2011年設立。学校法人平成医療学園。母体は2000年設立の旧平成柔道整復専門学院。
●九州保健福祉大学鍼灸スポーツ学科(宮崎県)
2010年設立。学校法人順正学園。大学は1998年設立。
このように鍼灸専門学校が大学を設立あるいは大学になったというパターンと既存の大学が新たに鍼灸科を新設したというパターンがあります。今回の新潟医療福祉大学は後者となります。過去に本業の鍼灸専門学校に加えて大学を作るか、大学に変えるのか、という選択肢があったのです。学校法人によっては専門学校、大学どちらも有しています。また既存の大学が、新設規制緩和により、新たに鍼灸科を作るというのもあるのです。どちらにせよ大学新設ラッシュは2000~2010年頃といえます。しかしどこも順風満帆というわけではなく、2011年に科を新設した倉敷芸術科学大学(岡山県)はわずか7年後の2018年に募集停止を停止しています。
人口減少に舵を切った日本は今後どんどん若い年齢層は減っていきます。多くの大学で定員割れを起しています。文部科学省は私立大学の新設を抑制する方針を明らかにしました。
<読売新聞オンライン 私立大の新設を抑制へ、少子化で「定員割れ」相次ぎ…学生確保の見通しを厳格に審査>
学生集めが困難な時代が既に到来しています。はり師・きゅう師の国家試験受験者数をみると第27回(2019年実施)を例外として第25回(2017年実施)から右肩下がりで受験者数が落ちています。第27回が例外というのは第26回の合格率が非常に低く、翌27回には多くの浪人生が受験したため受験者数が前年より増したのです。受験者数の推移は生徒数のそれと一致するでしょうから、大学鍼灸科の生徒は減少し続けているといえます。専門学校の受験者数は増えているのとは対照的です。このような状況で新潟医療福祉大学に鍼灸科が新設されたのです。定員40名に対し入学者は23名でした。なお新潟県には既に盲学校・視覚支援学校が1校、専門学校が2校あります。生徒集めは課題になるでしょう。
また大学となると偏差値という指標が用いられます。偏差値が全てとは言いませんが大学を評価する際の基準の一つになります。特に研究を主目的とする大学では避けては通れないでしょう。今回大学鍼灸科の偏差値を調査しました。ベネッセのマナビジョンと旺文社パスナビという2つのサイトを参照しましたが、数字に大きな差が出ています。なおBFというのはボーダーフリーという意味で偏差値を算出できないくらい低いという意味です。既存の大学鍼灸科の偏差値は以下の通り。
●明治国際医療大学鍼灸学部鍼灸学科
49~50(ベネッセ マナビジョンより)
BF(旺文社パスナビより)
●関西医療大学保健医療学部はり灸・スポーツトレーナー学科
50~52(ベネッセ マナビジョンより)
BF~35(旺文社パスナビより)
●帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸科
52~53(ベネッセ マナビジョンより)
42.5(旺文社パスナビより)
●鈴鹿医療科学大学保健衛生学部鍼灸サイエンス学科
47~50(ベネッセ マナビジョンより)
40(旺文社パスナビより)
●森ノ宮医療大学医療技術学部鍼灸学科
48~50(ベネッセ マナビジョンより)
35(旺文社パスナビより)
●東京有明医療大学保健医療学部鍼灸科
49(ベネッセ マナビジョンより)
35(旺文社パスナビより)
●常葉大学健康プロデュース学部健康鍼灸学科
50~52(ベネッセ マナビジョンより)
BF~35(旺文社パスナビより)
●九州看護福祉大学看護福祉学部鍼灸スポーツ学科
51~52(ベネッセ マナビジョンより)
35(旺文社パスナビより)
●宝塚医療大学保健医療学部鍼灸学科
52(ベネッセ マナビジョンより)
35(旺文社パスナビより)
●九州保健福祉大学鍼灸スポーツ学科
43~46(ベネッセ マナビジョンより)
BF~35(旺文社パスナビより)
計算方法が異なるのでしょうが、パスナビは非常に低く偏差値を算出しています。マナビジョンの方を採用したとしても偏差値50を超えるのがやっとというところです。国家試験の全体合格率で比較しても専門学院より例年低くなっています。教育を主とした大学教育において学力向上も課題と言えるでしょう。極端な話ですが、合格してしまえばそれでいい、現場で活躍してしっかりと稼げれば主目的を達成できるのが専門学校です。
大学での鍼灸教育。今後5年、10年でどうなっていくでしょうか。国家試験受験者を出す3年後、新潟医療福祉大学がどうなっているのか注目です。
甲野 功
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