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~柔道整復師国家試験問題漏洩事件判決文~

裁判所ホームページ 裁判例速報 令和4特(わ)2373
裁判所ホームページ 裁判例速報 令和4特(わ)2373 より

 

 

昨年10月に発覚した柔道整復師国家試験問題漏洩事件。今年2月に東京地方裁判所で判決が言い渡されました

これまではメディアの報道で情報を得てきましたが、ついに公的文書と言える裁判所から判決文が公開されました。公的に残るものですから、この判決文の内容が最も信頼がおけると考えています。

 

裁判所ホームページ 柔道整復師国家試験問題漏洩事件 判決

 

事件番号:令和4特(わ)2373

事件名:柔道整復師法違反

裁判年月日:令和5年2月1日

裁判所名・部:東京地方裁判所刑事第1部

 

判決文の内容からこの事件がどのようなものだったのかを知りたいと願っていました。まず判決文を抜粋して読み込んでみましょう。

主文

被告人Aを懲役1年に、被告人Bを懲役10月に処する。

被告人両名に対し、この裁判が確定した日から3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

主文はこれまでに報道があったように執行猶予3年付きの有罪判決で懲役1年と10ヵ月です。

 

理由の(罪となるべき事実)を抜粋します。

第1 被告人Aは、令和3年10月1日、東京都(住所省略)学校法人D専門学校において、同校校長補佐Eに対し、携帯電話機の無線通信機能を利用して、本件試験の全出題予定問題を読み上げた音声データを同人の携帯電話機に送信して教示し、

第2 被告人両名は、共謀の上、被告人Bが、令和4年2月10日、東京都内において、学校法人F専門学校G科学科長Hに対し、パーソナルコンピューターを用いて、同人が使用するメールアドレスに宛てて、本件試験の出題予定問題の要点となる文言を電子メールで送信し、さらに、同月21日、東京都内において、同人に対し、パーソナルコンピューターを用いて、同メールアドレスに宛てて、本件試験の出題予定問題と類似した内容の問題を電子メールで送信して教示し

もって試験事務に関して知り得た秘密を漏らしたものである。

これまでの報道にあった内容なのですが、校長補佐学科長といった役職が明記されています。これによって分かる人には個人が特定できるはずです。個人名をアルファベットで隠していますが役職を記すことは重要です。学校関係者とすることなく役職名を入れているのです。

 

判決文の(量刑の理由)を区切りながらみていきましょう。以下抜粋です。

判示第1は、柔道整復師国家試験の試験委員であった被告人Aが、出席した本件試験のI会議で録音した全出題予定問題の音声データを、被告人Aが非常勤講師を務めたD専門学校の校長補佐に送信して教示し、もって試験事務に関して知り得た秘密を漏らしたという事案であり

(罪となるべき事案)の判示第1の説明です。

 

判示第2は、被告人A及び同国家試験の指定試験機関の理事であった被告人Bが共謀の上、被告人Bが、被告人Aから送信された本件試験の出題予定問題の要点となる文言(以下「本件キーワード」という。)や、本件キーワードを基に被告人Bが作成した本件試験の出題予定問題と類似した内容の問題を、被告人Bが非常勤講師を務めたD専門学校の学科長に送信して教示し、もって試験事務に関して知り得た秘密を漏らしたという事案である。

(罪となるべき事案)の判示第2の説明です。

 

この判示はどのようなものかを書いています。

いずれも、それ自体、柔道整復師国家試験の公平公正を害し、その信頼を揺るがしかねない悪質な行為であることはいうまでもなく、判示第1は全出題予定問題の音声データをそのまま漏えいしたもので、漏えいの程度は大きい。

当然、悪質だと断言しています。

 

そして判示の動機と経緯について書かれています。

動機、経緯について、被告人Aは、先輩に当たる前任者から言われたことや、非常勤講師を務めた専門学校の生徒を合格させたい、同専門学校に貢献したいなどとの気持ちから、被告人Bも、同様に専門学校の生徒を試験に合格させたい、同専門学校に貢献したいなどとの気持ちから、本件各犯行に及んだというのであるが、努力しているのに不合格になっている生徒を合格させたいとの利他的な動機であったとか、金銭的な見返りはなかったとかいった各被告人の弁護人が指摘する事情を踏まえても、試験委員あるいは指定試験機関の理事として当然に守らなければならない義務に反する行為であることに変わりはなく、このような行為に及んだ意思決定は強い非難に値する。各被告人の刑事責任は決して軽視することができない。

ここで重要なことは『被告人Aは、先輩に当たる前任者から言われたこと』を動機に挙げていることです。そのまま文章を読めば、先輩に当たる前任者に言われて仕方なくやった、という状況が垣間見えます。そして『金銭的な見返りはなかった』と被告弁護人が指摘しています。『非常勤講師を務めた専門学校の生徒を合格させたい、同専門学校に貢献したいなどとの気持ちから』、『専門学校の生徒を試験に合格させたい、同専門学校に貢献したいなどとの気持ちから』、という文章から無償で生徒や専門学校のことを思って漏洩させたということが分かります。

 

最後に執行猶予をつける理由について触れています。

しかしながら他方、各被告人は、公訴事実を認め、反省の情を示していること、交通違反歴を除き、前科はないこと、被告人Aについて、本件の発覚により、勤めていた専門学校から懲戒解雇となったこと、被告人Bについて、指定試験機関の理事を含め柔道整復の関係団体の理事を辞任したり、退会したりしたこと、妻が公判廷において今後の指導監督を約束していることなど、各被告人のために酌むべき事情も認められる。

その理由を列記すると

・公判事実を認め反省の情を示していること

・交通違反歴を除き前科はないこと

・被告人Aは専門学校を懲戒解雇となったこと

・被告人Bは関連団体の理事を辞任、退会したこと

・被告人Bは妻が公判廷において今後の指導監督を約束していること

となります。

 

最後に執行猶予をつけることが相当であるとして判決をまとめています。

そこで、これら諸般の事情を総合考慮し、各被告人に対し、主文の刑を量定した上、その刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人Aにつき懲役1年、被告人Bにつき懲役10月)

 

令和5年2月1日

東京地方裁判所刑事第1部

裁判官 坂田威一郎

求刑については柔道整復師法通りの罰則です。執行猶予がつくかどうかについて判決文でその根拠が示されました。被告が勤めていた専門学校を懲戒解雇になったことや団体の理事を降り退会するといった社会的制裁を受けていると判断されたものと思われます。

 

これまで個人的に気になっていた犯行動機と専門学校の関与についてがある程度鮮明になりました。判決文上では金銭的見返りのためでなく生徒や専門学校のことを思って行ったという動機。反面、漏洩に至る経緯と漏洩後の対応に関して専門学校の関与がはっきりあることがはっきりしました。役職名を載せたこともそう思いましたし、“先輩である前任者”という表現もより個人を特定できるものだと思います。そこの詳しいことは朝日新聞が判決を傍聴した上で書いた記事に記されています。

 

朝日新聞デジタル 連載きょうも傍聴席にいます。

漏洩連鎖、きっかけは「先輩からの紙」 整復師は試験問題を録音した 村上友里2023年2月18日 16時00分

 

有料記事なので内容に詳しくは触れませんが、被告らの生々しい情況が記されています。

 

そして国家試験漏洩事件発覚後初めての国家試験となる第31回柔道整復師国家試験の結果が公表されました。その全体合格率は5割を切る、史上最低の合格率となりました。前年第30回と比べても大きな合格率低下から、漏洩が判明した4校以外にも全国的に問題情報が漏洩したいたのではないかと疑惑の目が向けられています。そのことに対して加藤厚生労働大臣は第三者委員会が設置されて調査を進めていると発言しています。

 

厚生労働省ホームページ 加藤大臣会見概要(令和5年3月31日(金)10:04~10:24 省内会見室)

 

 

厚生労働省ホームーページ 加藤大臣会見概要(令和5年3月31日)より
厚生労働省ホームーページ 加藤大臣会見概要(令和5年3月31日)より

 

 

一部抜粋

記者:

去年漏洩事件があった柔道整復師の国家試験の合格が先週発表されました。合格率は過去最低を更新し初めて5割を切りました。漏洩先の専門学校も一律で合格率が大幅に下がっています。業界関係者の中には「全国的に漏洩が広がっていた可能性がある」と証言している人もいます。この結果を受け、管轄する厚労省としてどのように受け止めていらっしゃるでしょうか。また、厚労省の対応として漏洩に関する調査や試験のやり直し、国家試験を運営している柔道整復研修試験財団への指導などは考えていますでしょうか。

 

大臣:

まず本年度の柔道整復師国家試験についてでありますが、その合格率は例年と比べて低いと認識しております。試験の作成については外部有識者である試験委員に試験問題の作成と評価を行わせ難易度についても慎重に実施されたところとは聞いておりますが、今申し上げたように本年の合格率は例年と比較して一定程度低いということは事実でありますので、次回の国家試験に向けてよく分析・検討をしていかなくてはならないと考えております。

他方で柔道整復師国家試験における試験問題の漏洩は、まさに柔道整復師国家試験制度に対するあるいは柔道整復師の方々に対する個々の国民の信頼を大きく損なうものであり、決して許されるべきものではありません。現在第三者委員会が設置され、その下で今般の漏洩に関する調査等が進められていると承知しております。厚生労働省としては先ほど申し上げた考え方に則り第三者委員会における調査等をまずは注視していきたいと考えております。

第三者委員会が設置され調査等が進められていると明言しました。この調査等によって更なる情報が出てくる可能性があります。裁判が終わり、判決文が公表されました。しかしこの事件はまだ終わっていないように思います。どのような調査結果が出るのか。はたまた何も出ないまま終わるのか。当事者として注目しています。

 

甲野 功

 

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