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昨日は鍼灸マッサージ学生さんに向けたセミナーを開催しました。テーマは「トリガーポイント」。
鍼灸マッサージ専門学校に入ってぶつかる壁というのは幾つもあるのですが、誰もがそうだろうというものが経穴(けいけつ)を覚えること。経穴とは人体にあるツボのこと。WHOが制定した標準だけで361個。これが最低限です。この仕事を目指すとなると経穴を知っている人が学校に集まりやすいものですが、知っている人でも100個はないと思います。50~60くらいは好きだと入学前に知っているでしょうが。更にこれは正穴と言われるもの。それに奇穴、阿是穴、新穴、圧痛点などが加わります。経穴の名前だけ覚えればいいわけではなく、その位置、筋肉、支配神経、特徴まで。本当に多岐に渡ります。臨床で使うかどうかは別として全て覚えないといけません。
経穴だけでも膨大なのに、いわゆるツボというのは経穴だけではありません。耳ツボや足ツボ、反射区などもあります。それは経穴ではないの?と思う方もいるでしょうが違います。別なのです。経穴以外のツボを知らなくても構わないのですが、鍼灸師やマッサージ師はもちろん知っているのでしょう、という目を向けられるので世間に認知されているものは無視できません。
学生さんからトリガーポイントについて知りたいと連絡がありました。トリガーポイントは英語である以上、古代中国から生まれた経穴ではないことは明白です。大量の経穴を勉強する過程で耳にしたものの、トリガーポイントは何だろうという疑問。「経絡経穴概論」という教科書で勉強するのですがそこに記載されていません。ところが名前は耳にする。トリガーポイントを使った鍼灸院というものが存在します。ではトリガーポイントとは一体何なのか。その疑問を解消しようと。
講義をする前に学生さんに事情を確認し、トリガーポイントの説明に入る前にツボとは何かというところから資料作りをしました。これは過去にツボについて解説する講義をしたことがあったので、そのときの資料をベースにしました。私のこれまでの経験上聞かれてきたツボのこと。広い意味でツボは色々なものがあると。そこには西洋と東洋の違いがある。更に近代と古代とでも違いがある。そういったことを踏まえて。経穴に関して学生さんは嫌でも知識が増しますし、それをどう実技に活かすのかを授業で習うのです。
経穴以外のツボを知ることで経穴(という理論体系)をより理解する。
その流れでトリガーポイントとは何かという本題に入りました。トリガーポイントは主にJanet Graham Travell(ジャネット・G・トラベルル)とDavid G. Smons(デビッド・グッドマン・シモンズ)という二人のアメリカ人医師によって世に広まりました。トリガーポイントという言葉はその前に別の人物によって提唱されていて。二人の共著である『Trigger Point Manual(トリガーポイントマニュアル)』が1983年に出版されて広く認知されるようになります。1000年単位の歴史がある東洋医学の経穴に比べると非常に新しいものであります。
引き金を意味するTrigger(トリガー)と点や位置を意味するpoint(ポイント)が組み合わさった言葉。痛みの引き金となる点という意味合いになります。そう考えるとトリガーポイントも広い意味でツボの一種と言えるでしょう。近年になり人体を観察する上で発見されました。トリガーポイントの特徴を挙げるとすると関連痛とファシア(fasia)(ファッシアと書く場合も)の2つでしょう。その場所が痛いのであれば特徴にならず、引き金となるからトリガーポイントであり、トリガーポイントから離れたところに痛みが生じます。それを関連痛と言います。関連痛が起きるのはファシアと言われる膜が人体にあるから。ファシア=筋膜とすることが多いのですが厳密には人体にある膜全体を指すのがfasia(ファシア)だそう。『閃く経絡』という本でもファシアは登場するのですが、単純に筋膜だけのことではないとしています。
私の他にも同じ見解を示している人がいますが、トリガーポイントは阿是穴(あぜけつ)と経絡と同じようなものだと考えるという私個人の見解を紹介しました。細かくは色々とありますが、トリガーポイントは阿是穴として扱えるのではないかと。阿是穴とは何かはまた別の機会に説明するとして、近代に入りアメリカの医師が提唱したことと古来より認められていた阿是穴の概念が一致した例になると思うという事を話しました。
そして実体験。経穴の場合、教科書に位置はここですよ記載されています。決まっています。共通認識となっています。トリガーポイントはその人の状態や状況で正確な位置が変わるし存在しないこともあるので触知します。互いの体を触ってこの感触がそうだろうという体験をしてもらいます。経穴の位置は体表上の指標となるところから何寸離れたところといった書き方がされます。そうではなく筋肉を触ってその感触で位置を求める。鍼を刺す、押すことでその感触が小さくなる。あるいは別のポイントに刺激をすることで感触が変化する。そのような体験を学生さんにしてもらいました。少人数で時間を掛けることで身体に変化が起きるという事を実感してもらえました。質疑応答を踏まえてなので、これまでの授業でよく理解できなかったことも納得できたという声がありました。
患者さんへの施術以外にも教育は大切な仕事だと思っています。鍼灸マッサージ専門学校教員免許を取って9年。次の世代を育てることは課せられたことだと。そしてそれまでここまで深く調べて考えてこなかったトリガーポイントというものに正面から取り組めたことは私にとっても大きな学びでした。教えるために勉強する。その状況になれば嫌でも勉強するので良いことです。最初に言われていた日程より1週間早まったのでかなり急いで準備しました。もっと調べればよかったかもという悔いもややあります。この先同じテーマで話すことがあるかもしれないので、今回のことを基礎として理解を深めていきたいものです。
甲野 功
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