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~鍼灸師による東洋文庫ミュージアム鑑賞~

あじさい鍼灸マッサージ治療院 鍼灸師で東洋文庫ミュージアムに行きました
鍼灸師4名で東洋文庫ミュージアムにいきました

 

 

先日、私を含めて4名の鍼灸師が集まり、東洋文庫ミュージアムに行ってきました。

 

東洋文庫ミュージアム

 

東洋文庫ミュージアムは駒込にある施設です。現在『東洋の医・健・美』というテーマの展覧会を行っています(2023年9月18日まで)。ネットでこの展示会の情報を知り、勉強になりそうだと感じたのです。すると一緒に行きましょうという鍼灸師の同業者が現れ、ご一緒しました。

 

当日は都営三田線千石駅で集合。JR各線の通る駒込駅の方が便利なのだと思ったのですが、私は都営線のみで行けるので三田線千石から行きますと伝えたところ、皆さんが合わせてくれました。ちょうど地下鉄出口のそばにファミリーレストランがあり、そこでランチを。2名は既に面識のある先生で、一人が初対面の先生でした。食事をしながらその先生に自己紹介をします。大きな共通項があって驚きました。

 

ランチ後は徒歩で東洋文庫ミュージアムに向かいます。その途中に日本医師会があって奇遇でした。初めて訪れた東洋文庫ミュージアムは外観も内装も非常にオシャレで驚きます。建築デザイン賞をもらっているようでした。

1階は企画展示で温泉にまつわる書籍を紹介していました。明治時代の箱根温泉のレポートが展示されていて個人的に楽しかったです。

 

そして本題の展示へ。階段で2階にあがります。そこには高い天井と3方を本で囲まれた「モリソン書庫」があります。この景色が圧巻でした。そこに展示された本には五行論について書かれたものがありました。五行論とは東洋医学(東洋思想)のベースとなる陰陽論と並ぶ理論です。陰陽論が万物と陰と陽の2つに分けることができるという考えに対して、五行論は万物を木・火・土・金・水の5つに分類するというもの。流石、東洋文庫ミュージアムと変な納得をしてしました。

 

続いて今回の展示会本番。膨大な蔵書から東洋医学に関する書籍や資料の展示です。最初が<東洋伝統医学の発展>というコーナー。説明文が非常に簡潔かつ分かりやすく書かれています。中国古代王朝から近代まで、ざっと東洋医学がどのように興り広まったかを解説しています。実際の展示としては王冰注補注黄帝内経』。黄帝内経はコウテイダイケイと読みます。鍼灸師にとっては聖書(バイブル)のようなもので中国最古の総合医学書とされています。黄帝とは古代中国の伝説の帝。なお内経があるなら外経もあったらしいと言われていますがその存在は確認されていません。『黄帝内経』には鍼灸師が用いる経穴や鍼灸技術などが記されています。原本はもちろん失われており、現存するのは写本だけなのですが、展示されているものはかなり古いものに見えました。他にも『備急千金要方』、『重修政和経史証類備急本草』といった東洋医学概論の教科書に載っていた本が展示していました。

 

黄帝内経の他に特に気になったのが張仲景傷寒論』と呉有性温疫論』です。温疫論はウンエキロンと読みます。『傷寒論』の方が鍼灸師にとっては有名なのですが、『温疫論』との関係がよく分かっていませんでした。それが本展示の解説文を読むことで歴史的背景が理解できました。本当に、そういうことだったのか!、と驚きと納得です。あまり古典の勉強をしてこなかったので初めて得た知識。これだけでも観に来た価値がありました。

 

そして大注目の滑寿撰『十四経発揮』。今でも鍼灸専門学校で用いる教科書にそのイラストが載っている“鍼灸の教科書”。実際には経絡経穴概論の教科書といった方が鍼灸師にはしっくりくるでしょう。現存する最古の『十四経発揮』で慶長9年(1604年)刊のもの。慶長5年が関ヶ原の合戦が行われた年ですから、とてつもなく古いものです。東洋文庫が所蔵する、鍼灸師にとって貴重なお宝です。正経十二経の最初、手太陰肺経の部分が展示されています。「孔最」という経穴の表記がイラストの方は難しい“最”で書かれており、左側の解説では現在の字で書かれているところが興味深いものでした。

 

後半は<日本-古代から近世の医術>というコーナー。専門学校時代に授業で作者と書籍名を覚えた本の数々が展示されていました。曲直瀬道三啓迪集』の書写。丹波康頼医心方』の模刻。日本初の解剖書である山脇東洋蔵志』の書写。そして杉田玄白前野良沢ら『解体新書』。こちらは安永3年(1774年)刊のもの。“神経”という単語を作ったのが杉田玄白らで、五神の心にある「神」と経絡の「経」を組み合わせて訳しました。世界で初めて全身麻酔による外科手術を成功させた華岡青洲の『乳岩図説』書写。

 

また<ヨーロッパへの針灸医学の伝播―出島での異文化接触―>という解説文が非常に勉強になりました。鎖国下の江戸時代、出島を通じてヨーロッパの人々が鍼灸に関する情報は、当時の清国での鍼灸治療が衰退したため、日本のものが優位になったとあります。オランダ東インド会社から出島のオランダ商館に滞在した医師の一人、テン・ライネが現在の鍼治療を意味する英単語「アキュパンクチャ:acupuncture」を訳語として作り出しました。初めて知る知識です。他にもどのようにヨーロッパへ鍼灸の情報が伝わったのかが解説されていました。

他にも色々な展示がありました。規模は小さいながら仕事と直結する歴史的なものばかりで(一部現代のものもありました)、じっくりと鑑賞しました。展示を見終えたあとはミュージアムショップで今回の展示内容の解説冊子を購入しました。この一冊だけでも相当な価値があると思います。読んで復習しました。

 

展示鑑賞の後は東洋文庫ミュージアムに併設されている庭園とオリエント・カフェをみんなで楽しみました。スイーツを食べながら展示の感想や業界の情報交換。対人だから得られる生の情報を得ることができました。もちろん交流も。

学生時代の課外活動だったらこのような気持ちにならなかったでしょう。参加メンバー全員が鍼灸師免許を取って時間が経った上での鑑賞。大人の社会科見学。実務経験を積んだからこそ、教科書に載っていた、専門学校の授業ででてきた、ものを観て、再度学ぶ。実りある時間でした。

 

甲野 功

 

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