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最近、アートメイクは医行為に該当するという見解を厚生労働省が通達しました。アートメイクは皮膚に針を用いて色素を定着させる行為で、やっていることは入れ墨(タトゥー)と変わりません。しかし2020年の最高裁判所判決でタトゥーは医行為ではないという判例が出ました。アートメイクは医行為でタトゥーは医行為ではない。矛盾しているように思えます。
まず医行為か否かで何が変わるかというと、医師法違反に問われるかどうかが重要なのです。医師法第17条では医師免許を持たない者が医業をすることを禁止しています。医業とは、医行為を業とすること。業とは、反復継続の意思を持って行うこと。このように現在は法解釈されます。つまり医師ではない者が医行為をすれば医師法違反になります。もちろん違法行為ですから書類送検、逮捕、起訴、有罪判決といったことが起きるわけです。
実際に脱毛サロンで脱毛機器を用いた脱毛施術をする際に、出力を抑える器具をつけ忘れてしまい利用者に火傷を負わせてしまったケースでは、20代女性アルバイトと24歳女性脱毛サロン経営者が“医師法違反疑い”と業務上過失致傷疑いで書類送検されました。医師法違が加っています。これは使用していた脱毛機器は本来、医師の知識が無ければ健康被害が生じるおそれがある医療機器で、それを用いて行った脱毛施術が医行為に該当すると判断されたのです。もちろん脱毛施術を行った女性アルバイトは医師ではなかったため、医師法違反疑いになったというわけです。
医師法(第17条)違反には3年以下の懲役または100万円以下の罰金または併科ですから罪が重たいのです。ニセ医師が出てきては大問題ですから。
つまり入れ墨・タトゥーは医行為でないという最高裁判決は医師免許が無いものが不特定多数の者にタトゥーを入れても医師法違反には問えないということ。仮に針から感染症になるといった健康被害があったとしても。この判決に対して、同時にアートメイクは医行為であるという判断も2審の大阪高裁で出しています。これは医師でない者がアートメイクをしたら医師法違反の対象になる、ということを意味します。極端な話、顔に絵を入れるタトゥーは医行為ではなく、同じ技術で眉毛を描いたら医行為になるという。その際に術者が医師免許を持っていない、医師の指導のもと行っていない、としたときにタトゥーは無罪、アートメイクは医師法違反であるのです。アートメイクとタトゥーの、各々を医行為か否かを分けるものは何か。それが「医療関係性」という概念です。どいうことなのでしょう。
先日厚生労働省が以下の研究を発表しました。
どのようなものか研究目的の部分を抜粋します。
『
従来医師法上の「医行為」と整理されてきたタトゥー施術行為について、令和2年(2020年)9月16日最高裁決定において「医行為」には当たらないとされたことから惹起された2つの論点(従来からの行政解釈によって「医行為」であるため医師法で規制していた行為に関し、その外延に「医療及び保健指導に属する行為」であるという要件が加わったことで、その「医療関連性」の範囲についての理解と、およそ保健衛生上の危険が想定される行為について医師法での規制が及ぶものかどうかが問われるようになったこと、及び令和2年最高裁決定は、従来は(少なくとも法制度上は)医師法により規制が講じられていたタトゥー施術行為について、医師以外の者、具体的には彫師、タトゥーイストなどの施術者が行うことについて安全規制の法律がなくなったことを意味することから、感染症対策等をはじめとした保健衛生上からの一定のルール等を定める必要が生じたこと)に関し、科学的な見地から検討を加え、タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドラインを作成するとともに、令和2年最高裁決定の射程について法学的見地から整理を行った。
』
なぜタトゥーが医行為にあたらないのか。その根拠にタトゥーは“医療及び保健指導に属する行為”ではなかったという点があります。言い換えると「医行為とは医療及び保健指導に属する行為である」という意味になります。このことを「医療関連性」としています。これまで医行為の定義について、健康被害のおそれがあるか否かが注目してきて考えてこなかった「医療関連性」。このことをこの研究報告から学んでいきたいと思います。
研究報告書『タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究』にはこのように書かれています。
これまでの医行為の行政解釈は、平成17年(2005年)の厚生労働省医政局長通知(医政発第0726005号)「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」で示される、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」を「医行為」であるとしています。前半の、医師の技量が無ければ、という仮定を除くと“人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為”が医行為というわけです。大切なことは人体に危害を及ぼすか。危害を及ぼさないために医師の医学的判断および技術を持ってなければいけない。それが医行為です。もちろんタトゥーを入れるには皮膚に針を刺入するので危険を伴います。例の最高裁判決まではタトゥーを入れる行為は危害を及ぼす(または、おそれのある)行為であることは明白ですから医行為であるという行政解釈でした。
しかしこの行政解釈に対し、令和2年最高裁決定において医行為とは、“単に「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」というだけでは足りず、医師法第1条が医師の業務の領分とする「『医療及び保健指導』に属する行為」である必要があること”とされました。前半は従来の行政解釈であり、令和2年の最高裁は更に追加したのです。それが「『医療及び保健指導』に属する行為」である必要があること。この「医療及び保健指導に属する行為」ということを「医療関連性」といいます。つまり医行為は人体に危害を及ぼす、及ぼすおそれがあり、かつ、医療関連性があるもの、という解釈です。
よってタトゥーは「医療及び保健指導に属する行為」とは言えない、すなわち「医療関連性がない」ことから、医行為ではないという判断にされたわけです。
医療関連性は医師法第1条に関係があります。
『
医師法第1条:医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。
※法律は小さい「っ」をそのまま「つ」と表記します。
』
第1条は、医師とはどのような存在かを最初に示す段階で、医療及び保健指導を担当する(掌る)ことによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活に確保するものとする、というもの。医師が行うのは医療及び保健指導に属する行為(=医療関連性)である。それにタトゥーを入れる行為は当てはまらない(=医療関連性がない)。このように医療関連性がないことがタトゥーは医行為に該当しないというのが最高裁の判断です。
では「医療関連性」とはどのようなものなのか、またその範囲はどこまでなのか。かつ、保健衛生上の危険が想定される行為について、果たして医師法でそれを規制できるのでしょうか。更に報告書は言及しています。
『
「医療関連性」要件については、「医療」又は「保健指導」というカテゴリに属するものであることを要求するものの、その性質上明確な基準の設定は容易ではなく、社会通念による判断を行うとする決定の判断枠組みではその問題がさらに深刻になるとした。
』
このようにあります。医療、保健指導に属するかどうかの基準を明確にすることは簡単ではなく、「社会通念」による判断は問題がさらに深刻になります。タトゥーを入れる行為は社会的な風俗として医学とは異質の知識・技術を要する行為であり、医師免許取得過程等でタトゥー習得は予定されず、歴史的に長年にわたり(医師免許を有しない)彫り師が行ってきた実情があるとしました。そして「歴史的事情」が決め手となり、「社会通念上」医行為に該当しないと判断したと考えられるとしました。このことから今後の医行為かどうかの判断基準は、社会通念によって判断される医療関連性があるかどうかになります。言い換えると、タトゥー同様に“歴史的に医療従事者が全く関与せずに行われてきた行為は医療関連性が否定されて、それは医行為には該当しない。その代わり、新しいもので「社会通念が明確ではない」あるいは「社会通念が存在しない」場合の行為に関してはタトゥーのときのような判断基準は用いられないのです。
ですからアートメイクについては医療従事者が行っている実態を踏まえると、医療の一環と捉える社会通念があると考えることも可能であるため、医行為と判断できる(医行為該当性が肯定できる)としています。アートメイクは美容整形の範疇としての医行為であると。よって医師あるいは主治の医師の指示の下での看護師又は准看護師以外の者がアートメイクを行っている場合には、医師法違法の可能性が問われるのです。なお、これはあくまでもタトゥーです、と言われた場合はそれがアートメイクと判断するためには、「美容整形の範疇としての医行為」かどうかを個別に判断する必要が生じることを想定しています。
このように医師法違反に抵触するかどうかの医行為の定義に、今後「医療関連性」が関わってきます。しかし歴史的に医療従事者が行ってこなかった行為を除いて、社会通念上「医療関連性」があるとされる行為で人体に危害を及ぼすおそれのあるものは医行為にあたるという解釈も生まれたと言えるでしょう。このことは今後大きな意味を持つように思われます。裁判は問題を白黒つけることはもちろんですが、判例を提示しその後の裁判の参考にする役割もあります。最高裁判所という最上位の判断が与える影響は、今後の医師法違反を問う事例において重要です。
追記:報告書全文を載せておきます。
『
厚生労働行政推進調査事業費補助金
(厚生労働科学特別研究事業)
総括研究報告書
タトゥー施術等の安全管理体制の構築に向けた研究
研究代表者 小野 太一
政策研究大学院大学教授
研究要旨
令和2年(2020年)9月16日最高裁決定において「医行為」には当たらないとされたタトゥー施術行為について、衛生管理の観点から「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン」を作成するとともに、令和2年最高裁決定の射程について法学的見地から整理を行った。「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン」として、1)施設の設置、2)施設内各区域の設置と管理、3)器具の管理、4)リネン、環境の管理、5)職員、施設の衛生管理の5項目に関して、具体的な対応策を取りまとめた。また医師法第17条による規制の対象となる「医行為」への該当性の根拠に関し、令和2年最高裁決定及び学説・判例を通じた整合的なロジックを構築した。今後の課題として、タトゥー施術以外の、医師あるいは医師の指示を受けた看護師等以外の者が行う針先に色素をつけ、皮膚の表面に色素を入れる行為についての法適用のあり方や、今後タトゥー施術等に関する立法措置が行われた場合の、関係の所管部局の共同しての対応の必要性などが挙げられる。
さらには、施術者やスタジオによるガイドラインの遵守や、行政や日本タトゥーイスト協会による効果的な周知方法についても検討の必要がある。
A.研究目的
タトゥー施術行為(針先に色素をつけ、皮膚の表面に色素を入れ、図柄、文様、記号、文字等を描く行為)については、その行為の保健衛生上の危険をめぐって、従来より「医行為」の範疇であるかどうかについて議論が存在していた。
従来の行政解釈は、平成17年(2005年)7月26日の厚生労働省医政局長通知(医政発第0726005号)「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」において示されている、「当該行為を行うに当たり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」を「医行為」であるとし、その医行為を「反復継続する意思をもって行うこと」を「医業」であるとした。そしてタトゥー施術行為についてはこれに該当するとしており、医師法第17条の規定(「医師でなければ、医業をなしてはならない」)に違反するものとされてきた。
しかしながらこうした行政解釈に関し、最高裁の令和2年(2020年)9月16日の決定(以下「令和2年最高裁決定」)においては、「医行為」とは、単に「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為」というだけでは足りず、医師法第1条が医師の業務の領分とする「『医療及び保健指導』に属する行為」である必要があること(以下「医療関連性」)であると判示され、タトゥー施術行為は「医療及び保健指導に属する行為」とは言えない(すなわち「医療関連性がない」)ことから、「医行為」ではないとされたところである。
このことは重要な2つの論点の惹起につながる。1つは、従来からの行政解釈によって「医行為」であるため医師法で規制していた行為に関し、その外延に「医療及び保健指導に属する行為」であるという要件が加わったことで、その「医療関連性」の範囲についての理解と、およそ保健衛生上の危険が想定される行為について医師法での規制が及ぶものかどうか※1が問われるようになったことである。
もう1点は、令和2年最高裁決定は、従来は(少なくとも法制度上は)医師法により規制が講じられていたタトゥー施術行為について、医師以外の者、具体的には彫師、タトゥーイストなどの施術者が行うことについて安全規制の法律がなくなったことを意味することから、感染症対策等をはじめとした保健衛生上からの一定のルール等を定める必要が生じたことである。令和2年最高裁決定が正当であるとした原判決(平成30年(2018年)11月14日大阪高裁)において、「必要に応じて、業界による自主規制、行政による指導、立法上の措置等の規制手段を検討し、対処するのが相当」とされた。一般社団法人日本タトゥーイスト協会においては、令和元年(2019年)に「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン」を作成し、施術者に対してその遵守を呼びかけているが、令和2年最高裁決定の趣旨を踏まえ、改めて当該ガイドラインも踏また上で、適切な安全管理ガイドラインを創設する必要が生じた。
本研究班は、令和2年最高裁決定によって惹起されたこれら2つの論点に関し、科学的な見地から検討を加え、本研究班としての「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン」を作成するとともに、令和2年最高裁決定の射程を法学的見地から整理を行った。
※1 勿論医師法での規制が及ぶためには、業として行う、即ち「反復継続する意思をもって行う」ことが求められるが、ここでは争点とされていないので特段の考察は行わない。
B.研究方法
本研究班は、まず基礎的な調査を研究班員全員で行い、並行して安全管理ガイドライン班、法学的分析班の2 班で検討を行った。
研究班としての第1回総括会議(令和4年(2022年)8月31日)においては、厚生労働省より、令和2年最高裁決定の概要の説明及び本研究に対して期待する点についての説明を受けた後、班全体の運営方針の確認を行った。
次いで同年9月から10月にかけて、班員により、タトゥースタジオ1か所及びアートメイクを実施する診療所 2か所を訪問し、施術室や水道施設、器具の滅菌、保管場所等の施設の構造や、使用している機械、器具、色素等の材質や安全・品質の管理等、保健衛生上の観点から実践している事項等に関し説明を受けるとともに、実際の施術の様子を見学した。
その後安全管理ガイドライン班においては、滅菌や血液暴露の危険性等を共有する、例えば理容師やあん摩師・鍼師等の業務に係るガイドラインや関連の論文を収集、分析するとともに、感染制御に係る専門家やタトゥー施術等の被害に関する知見を持つ専門家等の講演を通じて、タトゥー施術行為のリスクを把握し、一般社団法人日本タトゥーイスト協会の協力も得て、ガイドラインに盛り込む安全管理のポイントを検討した。
また法学的分析班においては、医師法第17条に係る学説・判例等についてレビューの上分析を行うとともに、令和2年最高裁決定及び下級審における判決に対し詳細な検討を加え、その上で今後の医行為規制のあり方について考察を加えた。
第2回総括会議(令和5年(2023年)3月30日)においては、両班からの報告を受けた後、班員間の意見交換を行い、取りまとめの方針をまとめた。
C.研究結果
(詳細はそれぞれの分担報告書を参照)
(1)安全管理ガイドラインの作成
安全管理ガイドライン班においては、分担報告書に掲載の「タトゥースタジオにおける衛生管理に関するガイドライン」(以下「安全管理ガイドライン」)を作成した。
安全管理ガイドラインにおいては、施術者、被施術者両者の感染症発症リスクへの対応のため、1)施設の設置、2)施設内各区域の設置と管理、3)器具の管理、4)リネン、環境の管理、5)職員、施設の衛生管理の5項目に関して、具体的な対応策を記述している。概要は以下の通りである。
1)施設の設置では、壁と天井を有する場所で行うこと、採光、照明、喚起を十分に行える構造設備の下で、それらを十分に行うこと、各種施設・設備を常に点検、整備すること、清潔を保つこと、水道・下水施設は手洗い及び器材洗浄用の2か所を設置すること、機械的換気設備を設けることが望ましいこと、作業中の作業場内は適温、適湿に保持すること、施術室、洗浄室、待合所の設置、消毒設備の設置、更衣、休憩室の別途の設置、トイレへの手洗いの設置、またシャワー等は必ずしも必要ではないことなどを規定した。
2)施設内各区域の設置と管理では、区域ごとの独立性の確保、必要に応じた補修、衛生上の支障のないこと、動物をみだりに入れないこと、身体障害者補助犬は待合所等で待機させること、飲酒しないこと、喫煙は専用の場所を設けること、施術室の要件(広さ、採光・照明・換気、床・腰板の材質、開封後のインク・保護剤・消毒薬等の取扱い等)、施術室の備品の要件(消毒薬の配置、施術者用手指衛生剤、防護具の配置、インク・消毒薬等の使用、感染性廃棄物、貫通性廃棄物それぞれ専用の容器等)、保管庫の要件(施術室との区別、清潔・清掃、開封後のインク・薬剤を置かないこと、立ち入り制限等)、洗浄室の要件(専用の水道施設の手洗いとの別途設置、床・腰板の材質、清掃や排水の逆流を防ぐ補修等)、廃棄物置場の要件(洗浄室等に併設も可、定期的なごみの廃棄・換気、必要時の追加清掃・昆虫の駆除等)、トイレ・手洗いの要件(施術室と隔離、流水式・清潔・定期的な殺虫及び消毒、石けん・消毒液等の備付、清潔保持等)、その他(事務室、待合所、職員休憩室)の要件等を規定した。
3)器具の管理では、針、インクキャップ、紙コップ、かみそり、チューブ類など血液が付着、又はその疑いのある器具の扱い(単回使用(ディスポーザブル)のものの廃棄方法等、繰り返し使用のものの消毒・滅菌方法等)、タトゥーマシンの扱い(カバーの装着、マシンの洗浄、マシンの消毒・滅菌(オートクレープが可能なもの、できないものごとの消毒・滅菌方法)、消毒・滅菌後の保管方法等)の要件等を規定した。
4)リネン、環境の管理では、リネン類の扱い(リネンの使用前保管方法、交換、使用後の保管・洗浄等)、(環境のラッピングを含む)施術室内の清掃、消毒等、施術時の衛生の管理(清潔、使い捨てグローブとマスクの使用、必要時のガウン、ゴーグル等の着用、被施術者のマスク着用、最小限の会話、グローブの要件、手指消毒方法等)、廃棄物の管理(被施術者毎の処理、汚物箱等の設備の消毒、感染症(疑いを含む)の患者や皮膚疾患のある者を扱った際の消毒に係る厳重な対応)の要件等を規定した。
5)職員、施設の衛生管理では、タトゥースタジオごとの衛生管理者(衛生に関する知識と十分な経験を有することが望ましい)の設置、職員への衛生教育、従業者の清潔と健康管理、外傷への救急処置に必要な医薬品等の常備、被施術者への気道感染症、倦怠感、皮膚症状などの確認、明らかな発熱、気道症状や皮膚病がある際の施術の中止、延期も妥当であること、B型・C型肝炎、HIV、梅毒等血液による感染症を防ぐための針刺し事例への対応方法、B型肝炎ワクチンの接種推奨等を規定した。
(2)法学的検討班
法学的検討班においては、分担報告書にある文書をとりまとめた。
報告書では、序論に次ぎ、医師法17条(「医行為」を「業として」行うこと(「医業」)の医師以外の禁止)に関する基本的趣旨・解釈について、まず「業として」要件がきわめて広い範囲の行為を含むことを確認した上で、「医行為」について、判例、学説の両方を振り返り、従来の判例が医療関連性を医行為の前提要件とする立場をとっていたと考えられること、医行為の学説は、その概念について厳密な外延を明確にする目的で記述されたものかは疑わしいとした。
次に令和2年最高裁決定の概要を整理した上で、決定要旨の検討を行った。まず「医行為」の定義において、従来の定義に「医療関連性」要件を根拠を示さずに加えていることについて、不明確性を増幅させている側面が否めないものの、従来の行政解釈が「医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ」という限定があってもタトゥー施術行為を医行為に含めていたことから、規制対象の危険性の医療関連性のみならず行為自体の医療関連性を要求する必要があったと推測した。次いで「医療関連性」要件については、「医療」又は「保健指導」というカテゴリに属するものであることを要求するものの、その性質上明確な基準の設定は容易ではなく、社会通念による判断を行うとする決定の判断枠組みではその問題がさらに深刻になるとした。
その上で、タトゥー施術行為が医行為に該当しない根拠事情として決定要旨で示された4点(①装飾的・象徴的要素や美術的意義のある社会的な風俗としての受け止め、②医学とは異質の美術等に関する知識及び技術を要する行為であること、③医師免許取得過程等でタトゥーの知識及び技能の習得は予定されていないこと、④歴史的に,長年にわたり医師免許を有しない彫り師が行ってきた実情)について検討し、①については②~④を根拠としての受け止めであり①を単独の根拠事情とするのは適切ではないとする。また②は医療には医学と異質の行為が含まれる場面も一定程度想定されること、③は医療・保健指導分野のあらゆる行為を医学部教育で行っておらず、この点の強調は絶対的医行為以外はすべて医行為規制の対象外ともなりかねないことから、いずれも適切な根拠事情ではないとする。その上で④の歴史的事情を、タトゥーの位置づけを明らかにする上で最も重要かつ本質的な点であるとし、最高裁決定の医行為該当性につき社会通念で判断する枠組みの曖昧さはまぬかれないものの、タトゥー施術行為については歴史的事情が決め手となり、社会通念上医行為に該当しないと判断したと考えられるとした。
さらに今後の医行為規制のあり方の検討に入り、従来の判例には医療関連性の内容や医行為該当性の具体的判断基準について積極的な内容を見出すことは困難であるとしつつ、学説については、多数説では「危険性の医療関連性」が医行為該当性の要件となっていたことは改めて確認する必要があるとした。その上で今後の判断基準の方向性としては、まずは令和2年最高裁決定を踏まえた判断基準として、社会通念によって判断される医療関連性が要求されることは疑いがない(従ってタトゥー同様歴史的に医療従事者がまったく関与せず行われてきた行為も医療関連性が否定される)が、全く新たな行為類型など「社会通念が明確ではない」あるいは「社会通念が存在しない」場合には、令和2年最高裁決定の判断基準は用い得ない。よってこういった類型については、多数説も要求してきた「危険性の医療関連性」、すなわち「医師の医学的判断及び技術」によって低減可能な危険性が存在する場合は、危険性の医療関連性が肯定され、この場合には、参照可能な社会通念がない以上、令和2年最高裁決定の下でも医行為該当性の肯定が可能とした。最後にアートメイクについては、実態を踏まえると医療の一環と捉える社会通念があると考えることも可能であり、かつ社会通念が不明確、不存在であるという立場に立つとしても、危険性の医療関連性が肯定され、いずれにせよ医行為該当性が肯定できるものとした。
D.考察、及びE.結論
今後の課題として、以下の2点が指摘できる。
(1)安全管理ガイドラインの射程範囲
安全管理ガイドライン班が取りまとめた安全管理ガイドラインは、感染症専門医の知見と実践を基に、タトゥーショップの現場の実態も踏まえ、日本タトゥーイスト協会の協力も得て取りまとめられたものである。
タトゥーショップ及び施術者においてこれらが遵守されることが期待されるが、安全管理ガイドラインが、後述するように現時点では法的な根拠がないこともあり、実効性は自主的な取り組みに俟つほかはないこととなる。逆にそうした法的な根拠がないものである以上、安全管理ガイドラインの射程範囲についても、法的な厳密性が求められるものではないこととも意味する。
上述のように、アートメイクに関しては令和2年最高裁決定の判断基準の適用の有無にかかわらず医行為該当性が肯定されるものである。また、令和2年最高裁決定でも述べるように、アートメイクは美容整形の範疇としての医行為であることから、よって医師法第17条に基づき医師が行う、あるいは保健師助産師看護師法第37条に基づき、医師の指示の下で看護師あるいは准看護師が実施する必要があると考えられる。よって、医師あるいは主治の医師の指示の下での看護師又は准看護師以外の者がアートメイクを行っている場合には違法である可能性が問われなければならないこととなる。
この場合、タトゥー施術行為については医行為該当性が否定されているため、医師あるいは医師の指示の下での看護師又は准看護師以外の者が、針先に色素をつけ、皮膚の表面に色素を入れる行為を、アートメイクではなくタトゥーであると称して実施する可能性が生じる。その場合、当該行為がタトゥーではなくアートメイクと判断するためには、令和2年最高裁決定がいう「美容整形の範疇としての医行為」かどうかを個別に判断する必要が生じることと考えられる。その医師法を踏まえた適法性は事例毎の個別の判断が求められるものである。
本研究班においては日本タトゥーイスト協会の協力を得たところであるが、同協会に加入する施術者(彫師)やそのスタジオのみならず、他の全ての施術者(彫師)やそのスタジオにおいて、遵守されることが期待される。行政や同協会は、そうした協会外の関係者への効果的な周知方法について検討する必要がある。
(2)現状の法制度との関係
今後、タトゥーショップ及び施術者により、安全管理ガイドラインが遵守されることが期待されるが、仮に安全管理ガイドラインが遵守されなかった場合には、タトゥーあるいは施術者(彫師)についての資格法や規制法は存在しないため、当該タトゥーショップや施術者に対し、行政指導等一定の行政上の関与を施すことは困難なものとなっている。(もちろん、例えば民法や刑法、景表法といった一般法規上の問題となる場合を除く)立法措置が必要か否かについては、今後の安全管理ガイドラインの遵守状況やタトゥー施術の普及・実施状況、健康被害も含めた各種トラブルの発生状況、あるいは、本研究班では特段の調査を行わなかったが海外での立法事例などを見て別途問われるべきと考えられる。仮に立法措置が行われ、それによりタトゥーないしタトゥー施術者(彫師)に対し法的な定義が与えられれば、(1)で述べた点も含め一部課題も解決することが想定されるが、複数の所管にまたがる事柄となると思われることから、各関係所管が共同して対処する必要があると考える。
F.健康危険情報
なし
G.研究発表
なし
H. 知的財産権の出願・登録状況(予定を含む。)
なし
』
甲野 功
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