開院時間
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先週、WEBメディア『ハリトヒト。』で鈴木雅雄先生のインタビューが掲載されました。
ハリトヒト。 インタビュー 10年やると鍼灸の本当のおもしろさがわかってくる/鍼灸師:鈴木雅雄
『ハリトヒト。』とは現役鍼灸師達が立ち上げた鍼灸業界向けのWEBメディア。創設メンバーは全員実際に会ったことがあり、始まりから見守ってきました。定期的に書籍版も発行しており、当院に訪れた鍼灸マッサージ専門学校学生や新卒鍼灸師及びあん摩マッサージ指圧師、あるいは今後この業界に進学を考えている方などに配っています。
『ハリトヒト。』の記事は基本的にインタビュー。主にひとりの鍼灸師に『ハリトヒト。』編集部がインタビューをし、それを編集しています。過去には鍼灸師ではない方も登場していますが関りがある人です。『ヒト』というネーミングから分かるようにその人(鍼灸師)を掘り下げるものです。
最新記事では2021年から福島県立医科大学会津医療センター漢方医学研究室教授兼漢方医学講座教授である鈴木雅雄先生が登場です。鍼灸師でありながら公立医科大学の教授になった、業界内では稀有な人物です。
そのインタビューで私が注目したのが、鍼灸師が医師に信頼されるにはどうしたら良いのか、という点です。
私自身の職歴には新宿区内の整形外科があるクリニックにて柔道整復師として勤務した経験と、自治医科大学附属病院麻酔科ペインクリニックにて鍼灸師として勤務した経験があります。病院(あるいはクリニック)で働く、すなわち医師を含めた他の医療従事者と働くことの大切さと難しさを僅かですが体験しました。他業種との連携が困難であるのが鍼灸師だと私は考えています。語弊があるかもしれませんが、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師でもある私の実感としては挙げた2つの職種よりも圧倒的に鍼灸師は医師と働くことが難しいと考えています。理由は東洋医学の存在。経絡、経穴、脈診、腹診、気の概念などかつてわが国で主流であったが今は医学の本流にはない学問を扱います。あん摩マッサージ指圧師では東洋医学は使いますが、基本的に徒手による物理的刺激であり、考えとしては解剖学・生理学をはじめとする現代医療の考えが中心です。柔道整復師は東洋医学を扱わないので整形外科を中心として現代医療そのものであり、医師と共通の概念になります。鍼灸師は鍼を刺す、灸を据えるという行為が物理的刺激と割り切る場合もありますが、そこに“気の操作”という考えや施術の意図が加わることが多いのです。それが医師を筆頭に他の医療職種が理解しがたい部分です。
東洋医学以外にも技術・流派が多種多様にあるのが鍼灸師の特徴です。それは長所でもあり短所でもあります。鍼灸師が10人いれば10の流派があると言われます。多様性があると言えばそうですが、誰もが自分勝手に行っているともいえるのです。標準的な鍼技術は無いに等しく、例を挙げれば筋筋膜性腰痛があったとして、痛みがある患部に鍼を刺すという単純なやり方をする鍼灸師は少ないでしょう。そこに経絡を考慮して下肢に鍼を刺す、表裏の関係にある腹部を使う、末端の足先を使うなど人それぞれ。鍼でも刺す方向、深さ、鍼の太さ、パルス通電をする、刺したままにしておく、運動させるなど刺す部位が同じでも技術は様々。さらに灸を使うことを考慮すればやり方はいくらでもあるのです。同じ鍼灸師同士でもどうしてそのようなやり方をするのか理解できないことがあるくらいですから、他の医療従事者からすると「鍼灸師は皆、言う事がバラバラ」という印象を持たれます。あん摩マッサージ指圧師では、指圧には多様性があり浪越指圧と長生術では大きな差異がありますが、指圧ならば手の指を使うことは共通しています。按摩もマッサージも共通認識があります。柔道整復師に至っては整復方法(脱臼や骨折において骨の位置を正しい場所に戻すこと)は共通認識で独自の技術があるようなものはありません。まして整形外科医と柔道整復師で解釈が異なるということなど無いのです(あってはいけません)。鍼灸師に比べれば共通認識がしっかりしています。それはこれらの資格免許を持つ私の実感です。
鈴木雅雄先生は鍼灸師でありながら医科大学教授という役職に就いています。医療現場で医師と仕事をする鍼灸師。インタビューでこのように述べています。
『
病院で鍼灸が受け入れられている大きな理由は2つあると思っています。1つは僕ら鍼灸師の活動を医師たちが見ていて、「この人たちならまあいいかな」みたいに信頼してくれているのかなと。普段の行動や電子カルテの内容を見ていくうちに「この鍼灸師なら大丈夫だろう」と信頼してくれるようになっているんだと思います。
(略)
もう1つは鍼灸研修生の1年目は各科をローテーションするんです。鍼灸師がそこの科に配属されて研修を受けるので、そこで色々なコミュニケーションが生まれたり、人の輪が広がったりするんですよね。各科の先生からすると、自分たちが教育した鍼灸師が次に上がってくるので、さらに信頼できるというか。だから、この信頼はいきなり始まったわけじゃなくて、10年かけて醸成されてきたものかなと感じていますね。
』
病院で鍼灸が受け入れられる理由は2つ。
・鍼灸師の活動を医師たちが信頼してくれる。
・鍼灸師が研修先でコミュニケーションが生まれて更に信頼される。
つまり“医師に信頼される”ことです。
これに尽きるでしょう。結局大きく2つと言いながら信頼という着地点は同じなのです。
嫌な見方をすると、鍼灸師は医師から信頼されないから病院で鍼灸が受け入れらない、という現状を踏まえているとも言えます。病院に鍼灸師がいて鍼灸をするという状況は日本では稀です。これだけ病院・クリニックが多い東京でも圧倒的に珍しいです。通っている病院で鍼灸師がいて鍼灸治療を受けられるところがありますか?ほとんど聞かないのではないでしょうか。
そのことに関して鈴木雅雄先生はこのように考えています。
『
鍼灸が医療者の間で受け入れられないケースは、今でも一定数あるのかもしれません。その背景には、自分たちが教わってきたこととは違うものが入ってくる恐怖混乱みたいなものがあるんじゃないかなと思います。
』
まさにその通りだと私も思います。現代医学、西洋医学とは別の価値観も持つ鍼灸師(専門学校では現代医学も勉強しますし、国家試験は現代医学の問題が大部分でありますが)に対する不安が根底にあると思います。また標準的な鍼灸術が確立されていないことも、標準医療が徹底している医師には理解しがたいことだと思います。
実際に東京医療専門学校鍼灸マッサージ教員養成科の卒業研究で病院における他のコメディカル(理学療法士、作業療法士ら)を対象として鍼灸師の印象を調査した研究では「得体が知れない」という意見が複数あったという報告があります。同じ厚生労働省管轄の国家資格でありながら大きな壁があると現状言えると私は考えています。
その理由に、これまで述べたもの以外にも、鍼灸師は開業権があるためどこかで自立して仕事をする気質があるためと考えられます。自立というのは、医師の指示がない状況で働く、ということ。あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師は開業権が正式に認められています。ところが他の医療職種は医師・歯科医師を除くと基本的に開業権が認められておらず、医療機関で医師の指示のもと業務を行います(整体師と称して開業するのは別の話として)。自らの判断で施術を行うという点で鍼灸師は独立心が強く、それが医療職種からすると異質に見えるのだろうと予想できます。
鈴木雅雄先生が述べる、医師から信頼されるためには、地道な行動が必要だというわけです。共に学び、普段の行動から信用を勝ち取る。更にインタビューで育てたい人材として『医療機関の中で働ける鍼灸師、医療がわかっている鍼灸師』と述べています。前半の医療機関の中で働ける鍼灸師はいいとして、後半の“医療がわかっている鍼灸師”というのはどうでしょう。医療が分からないやつが鍼灸師にはなれないと思いませんか?。まず国家試験に合格しないでしょう。鈴木先生が言いたいのは医療機関で働けるレベルの医療知識や常識を携える鍼灸師という意味になると私は受け止めました。大学病院で働いていた時に病院側が求める(最低限の)レベルは、市井の鍼灸院で求められるものより遥かに高いと感じました。医療機関で働くに耐えうるレベルが“医療がわかっている”ということなのだと思います。
研究、論文、学会参加、学位取得など時間をかけて積み重ねた結果が、医師に信頼される、ということなのでしょう。それは医師の土壌で成果を上げるということ。それを実践して結果を残してきた鈴木先生の意見は説得力があります。鍼灸師は医師と同等だ、鍼灸は医業だ、と主張する鍼灸師がいますがそれを医師に認めさせる(信頼される)ことがどれだけ大変なことかが分かるインタビューでした。最後に鈴木先生の学歴と職歴をここにも載せておきます。
鈴木雅雄 福島県立医科大学 会津医療センター漢方医学研究室教授/漢方医学講座教授
【学歴】
1997年 明治鍼灸大学鍼灸学部卒業
1999年 明治鍼灸大学博士前期課程修了(修士鍼灸学)
2004年 明治鍼灸大学博士後期課程修了(博士鍼灸学)
2015年 京都大学大学院医学研究科呼吸器内科学(博士医学)
【職歴】
2001年 岐阜大学医学部東洋医学講座 非常勤講師
2004年 京都大学大学院医学研究科健康要因学講座 Post Doctor Fellow
2006年 医学研究所北野病院第2研究部 客員研究員
2006年 独立行政法人自動車事故対策機構中部療護センター 研究員
2007年 京都大学大学院医学研究科呼吸器内科 研究生
2008年 明治国際医療大学鍼灸学部臨床鍼灸学教室 助教
2012年 医学研究所北野病院第12研究部 主幹
2013年 福島県立医科大学会津医療センター漢方医学研究室 兼 漢方医学講座
2017年 認定NPO法人健康医療評価研究機構 上席研究員
【学会】
所属学会:全日本鍼灸学会(教育研修部部長)、日本臨床疫学会(臨床疫学認定専門家)、日本プライマリケア連合学会(研究支援委員)、日本呼吸器学会、日本東洋医学会(福島県部会委員)、日本緩和医療学会
甲野 功
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