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8月5日(土)、6日(日)の2日間、東京都渋谷の代々木第一体育館で『東京2023パラダンススポーツ国際大会』が開催されました。
この大会を2日間会場に足を運び、競技会を観戦してきました。
まずこの大会があることを社交ダンス愛好家の患者さんに教えてもらいました。大学で競技ダンスと出会ってから四半世紀以上。社交ダンス、競技ダンス(ダンススポーツ)の情報にはアンテナを張っているつもりでしたが、この大会は初耳でした。国際大会があるのか!と。そしてパラダンススポーツなるものが何かもよく分かっていませんでした。2021年に東京パラリンピックが開催されパラスポーツの理解と認知が上がったと思っていたのですがパラダンススポーツという言葉自体知らなかったのです。
検索し画像を見て日本で言う「車イスダンス」のことだと思いました。車イスダンスとは片方が車イスに乗って、もう一方が立って社交ダンスを踊るもの。その存在自体はずっと前から知っていました。ただし実際に見たことはありません。それを国際的にはパラダンススポーツと称しているのかと何となく理解してしまいました。ところが実際にパラダンススポーツを観戦すると大きな誤解であったことに気付きました。
8月5日(土)。午後から予約が入っていたので午前中のみの観戦。よく8月6日(日)は朝起きたら仕事用のスマーフォンが動作しなくなっていて大いに焦りました。電話が繋がらないのは困ります。すぐに近所のショップに予約を入れて対応してもらいます。結果的に機種変更ということになり3時間以上かかってしまいました。それから昼ご飯を食べたり家のことをしたりしてから会場へ。午後3時半くらいに到着。夕方から子どもの世話があったので6時前には会場をあとにしました。そのため全種目を観戦したわけではありませんが、色々なことがわかりました。
まずパラダンススポーツは車イスに乗った状態で行うダンスであること。社交ダンスを競技として行うことを私が大学の頃は競技ダンスと呼んでいて、今はオリンピック種目を目指す意図もありダンススポーツとしています。厳密にはダンススポーツは社交ダンスだけではなく、ブレイキン(ブレイクダンス)も含みます。次回パリオリンピックではブレイキンが種目に採用されました。よって車イスに乗った状態で行うダンススポーツというものだと思いました。(※車イスに乗ったという表現は正確かどうか分からず、車イスでのダンスを余儀なくされている人達というのが実際なのでしょう。)
種目区分は4つ
●コンビ:ドライバー(車イスに乗って踊る人)とスタンディング(立った状態で踊る人)のカップルが組んで踊ります。競技はスタンダード5種(ワルツ、タンゴ、ヴィニーズワルツ、スローフォックストロット、クイックステップ)、ラテン5種(サンバ、チャチャチャ、ルンバ、パソドブレ、ジャイブ)であらそわれます。私が想像していた車イスダンスがこれです。
●デュオ:二人のドライバーが一緒に踊ります。どちらも車イスに乗っています。競技はスタンダード5種、ラテン5種であらそわれます。
●シングル:ドライバーが一人で踊ります。フロアーでは車イスに乗った選手単独で競技に臨みます。種目はスタンダードがワルツ・タンゴの2種目、ラテンがサンバ・ルンバ・ジャイブの3種目。ここではスタンダード、ラテンが混在します。
●フリースタイル:ドライバーが上記の種目(コンビ、デュオ、シングル)を自由に選択できて、競技種目はフリーでラテン・フォーク・ヒップホップ・バレエ・コンテンポラリー・ストリートダンス・サルサなど多くのスタイルとレパートリーの適用が許可されています。フロアーで一人で踊り、曲も自由です。セグエあるいはショーダンスにあたるものでしょうか。
私がこの大会に興味を持った理由は主に2点。
・知らなかった社交ダンスの新たな可能性をその目でみる
・リハビリテーション分野での興味
前者は社交ダンスの一種と考えられるものの国際大会が日本で行われる。しかも会場はオリンピックでも使用される代々木第一体育館という大会場。調べると日本での国際大会は10年ぶりということでそうそうお目にかかることができないでしょう。その実際を会場で体感したい。
後者の理由は私があん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師でありリハビリテーション学を学んだことに強く関係します。ノーマライゼーション。リハビリテーション。座学で勉強し、少しだけ現場を経験しています。本職の仕事と強い結びつきを感じています。視覚障害者が行う社交ダンス、ブラインドダンスは観戦経験があったのでこちらも見ておきたい、知りたいという気持ちです。
2日間を通して感じたことを社交ダンス目線、リハビリテーション目線の両方から述べていきます。
〇コンビのダンスに驚愕
コンビ種目が私が行う社交ダンスに最も近い形態です。ドライバーとスタンディング。スタンディングの選手はもうノーマルのダンススポーツ競技会でも十分通用するような選手ばかり。衣装もスタイルも。ドライバー側も衣装はダンススポーツ競技会と同じドレスに身を包んでいます。
カップルが繰り出すダンスはダンススポーツでした。車イスに乗った状態で種目らしさを表現できるのかと疑いの目もあったのですが、実際にみるとそれはワルツでありルンバでありクイックステップでありました。ドライバーと組んでいてもステップがわかります。ナチュラルターンだ、フェザーステップだ、スライディングドアーだ、ニューヨークだと。アレンジする点もありますが驚くほど我々が踏むステップでした。そして車イスという車輪があることで表現できることが加わっており、社交ダンス経験者の私にはこんなことができるのかと驚くばかり。例えばクイックステップだと走り回るステップが特徴なのですが、本当にフロアーを疾走します。スタンディングがステップを踏みながら進み、ドライバーを進めていきます。スタンダード種目の誉め言葉に、まるで氷の上を滑るように、という表現がありますが、文字通りドライバーは車輪で滑ります。スピードがあります。そして車イスに支えられるようにスタンディングがジャンプ。あんな跳び方はダンススポーツの組み方ではできません。物理的にドライバーと距離があるからできる自由なものでしょう。他にもスイブルは車輪を使うのでドライバーの切り返しがよりスムーズでシャープ。連続でターンをするのです。
ドライバーもダンススポーツでした。上半身で表現するものはダンススポーツと何ら変わりません。タンゴの首の切り返し。ルンバの表情。ジャイブのノリ。手が離れることが多いラテンではスタンダード種目より表現が自由になります。失礼ながらここまできちんとワルツ、チャチャチャら種目を理解しているとは思っていませんでした。
スタンディングのレベルが非常に高かったです。スタンダード種目では車イスがあるためホールドがダンススポーツよりも広く大きくなります。そのため足元がよく見えてしまいます。だからこそ分かるのですがステップが非常に正確。ヒールで着くのかトーで着くのか。スタンディングのステップが正確だから音や足型がクリアーになります。おそらくですが車イスを支える・動かすには相当体幹とホールドが強くないとできないでしょう。
スタンダード種目の女性スタンディングが興味深かったです。どうしても社交ダンスでは男性をリーダーとし、進行方向を向いている、筋力・体格に勝っていることからも女性をリードしステップや進行方向を決める役割を担うものです。それが男性(リーダー)の仕事だと。ところがパラダンススポーツコンビのスタンダード種目スタンディングは組んでいるため車イスを移動させることもします。ドライバーは腕を組んでいるので車輪を腕で回すことができません。その特性上、女性がスタンディングだと女性側が能動的にダンスをリードしドライバーを文字通り動かしていきます。既に書いたように物理的に距離があるので足元が広くてよく動かせます。スタンダードパートナー(女性)があれだけアグレッシブに動いて、動かして自らも表現している様はダンススポーツ(スタンダード)ではそこまで際立たない姿。女性の力強さが見えました。
〇ドライバーの凄さ
パラダンススポーツのメインはドライバー、すなわち車イスに乗って踊る選手です。あのように表現することがどれだけ難しいのか私には想像できませんが表現者としてフロアーにいました。障害がある人(≒健常者より不自由で憐みの目を向けられる存在)ではありません。
スタンダードではきちんとホールドを張り、ネックで表現しています。ホールドを保たなければ車イスが進まないのは物理学的にわかります。腕はもちろん体幹もしっかりしていないとできないでしょう。枠が潰れたらそれでもうステップにならないと思われます。健常者以上にホールドが堅固なのかもしれないと感じました。
ラテンは腕を表現と移動の両方に使います。組んだままでスタンディングが連れていってくれるスタンダードと異なり、離れることが多いラテンではターンや移動はドライバー自ら車輪を回さないといけません。これはシングルはより当てはまるのですが、移動(進む、ターン、スピン、止まるなど)と音楽的表現を同時に腕で行うのです。それだけ上半身の筋力が必要になるでしょう。表現として後ろにそっくり返ってみたり、そっくり返った状態をキープしたり、その場で高速スピンをしてみたり、と車イスならでは動きがありました。車イスを使ってこんなことができるんだぜ!と主張しているようでした。
〇障害のクラス分け
東京2023パラダンススポーツ国際大会では障害の程度によってクラス1、クラス2に分けられています。クラス1はクラス1の選手同士と競います。そのクラス分けはかなり厳密に行うようです。会場にいたメディア関係者に教えてもらいました。
パラリンピックもそうですがパラスポーツのクラス分けは非常に厳密に行わないといけません。スポーツとは制約を楽しむものという考えがあるのですが、極力同じ条件で競い合うからスポーツであるわけです。健常者が車イスに乗って踊ればパラダンススポーツになるというわけではないのです。おそらく麻痺の程度、筋力がどれくらい残っているかなどを細かくチェックするのでしょう。
そういったところは私の本業が大いに関わるので興味があるところです。例えば脊髄損傷をして車イス生活になったとしても損傷している脊髄レベルで大きな差があります。損傷したのが下部腰髄なのか上部胸髄なのかで残存する身体能力は別物です。下肢だけが動かず腹筋や背筋が残っている場合と体幹の筋肉も機能していないのでは動きが変わります。極端な話、神経系が健常で両下肢を事故で切断してしまった場合と脊髄損傷で下肢が動かないのでは完全に別です。そして先天的に下肢が動かない選手と体が成長したあとに後天的に障害を負った選手でも、身体機能に大きな差が生まれます。
公平な条件で競うというスポーツの本質を考えるとクラス分けの細かいルールはどうなっているのか知りたくなります。今回は詳細なデータは見つからなかったのですが。そしてもっと競技人口が増えて、例えばパラリンピック正式種目になったとしたら、より細かいクラス分けが必要になることでしょう。そうすることで多くの車イス利用者が参加し、目指すものになります。ノーマライゼーションの一環になるのではと期待します。
〇トイレ事情を考えてしまう
これは本当にお節介なことかもしれませんが、ドライバー選手のトイレがやや心配でした。脊髄損傷があると膀胱直腸障害が起きることがよくあります。それは脊髄の下の方、仙髄・腰髄が排尿・排便機能を司るからです。多目的トイレがあるように車イスの方はトイレが大変です。それに加えて衣装。男性はズボンだから下だけ脱げばいいのですが女性のダンスドレスは多くが上下一体の作り。トイレをするときは全部脱がないといけないことがあるでしょう。普段の服装と違うのでそれが心配だと私は思いました。実は大会運営がかなり不手際で非常に大会スケジュールが押していました(大会初日は約4時間遅れて終了したとか)。それどころか当日に順番を変えていました。そうするとトイレにいくタイミングが難しくなるでしょう。ある日本人選手のSNSをみると予定時間より2時間遅れていてまだ出番が来ませんという投稿がありました。医療従事者の目からすると問題がなければいいなと願うのでした。
最後に非常に個人的な意見ですが背番号35番、イスラエルのコンビラテンの選手が圧倒的でした。技術、表現ともにフロアーマスターといえるくらい輝いていました。ドライバーもスタンディングも。車イスというツールを用いて、健常者と一緒に見せた圧巻のラテンでした。そこには「障害など無い、特徴だ」という言葉を想起させます。もっとパラダンススポーツは認知された方がいいと思いました。
甲野 功
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