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先日も紹介した「ドラッガーのマネジメント見るだけノート」。こちらを読んだときに気になったことがあります。それが労働と仕事の違いです。ドラッガーはこの2つを明確に分けております。本書によればそれぞれ以下のように区別しています。
〇労働(working):人の活動そのもののこと
→人によって作業スピードや効率が異なる。自分の労働効率を表現するための手段であるとも捉えられる。
『働くこと自体が労働だ』
〇仕事(work):論理的、分析的に組み立てられているという性質を持つ
→生産性を高めるためには、効率化を求める必要がある。
『最小の力で最大限の成果を上げることだ』
いかかでしょうか。労働がworkingで仕事がwork。英語でみると仕事はワーク(work)で名詞あるいは動詞です。労働はワーキング(working)で現在進行形です。英語ではニュアンスが異なるのでしょうか?ドラッガーが労働(working)と仕事(work)を分けて考えていることは別の書籍からも知っていたのですが、何が違うのだろうかと、よく分かっていませんでした。本書ではマネジメントをする上で労働と仕事を区別しておく必要を述べています。大雑把に労働は従業員がやりがいを持って行うもので、仕事は仕方なく行うもの、というニュアンスを感じます。よって経営者は従業員にやりがいを感じられる環境(労働に関すること)と生産性(仕事に関すること)を両立しなければならないと。
釈然としない部分があり、もう少し調べてみました。
goo辞書で二つを調べてみました。
【労働】
1 からだを使って働くこと。特に、収入を得る目的で、からだや知能を使って働くこと。
2 経済学で、生産に向けられる人間の努力ないし活動。自然に働きかけてこれを変化させ、生産手段や生活手段をつくりだす人間の活動。労働力の使用・消費。
【仕事】
1 何かを作り出す、または、成し遂げるための行動。
2 生計を立てる手段として従事する事柄。職業。
3 したこと。行動の結果。業績。
どちらも同じような意味があります。労働には<経済学で>と条件内で『生産に向けられる人間の努力ないし活動。自然に働きかけてこれを変化させ、生産手段や生活手段をつくりだす人間の活動。』とあります。ここに哲学的な、能動的なニュアンスを感じます。対して仕事には『何かを作り出す、または、成し遂げるための行動。』と比較してドライな印象を感じます。共通して生計のため、収入を得るためという意味があります。
※なお物理学では仕事は力学エネルギーに関する意味になりますが、関係なさそうなので割愛しました。
英語から考え、workingとworkの和訳を調べてみると、
working:働いている、労働に従事する
work:仕事、労働、作業、努力、勉強、研究
と出てきて名詞か動詞かの違いしか出てきません。
ドラッガーのいう労働と仕事の違いはどういうことでしょう。言葉の意味からはそれを確定できません。もう少し調べてみるとハンナ・アレント(あるいはアーレント)(Hannah Arendt)の名前が見つかりました。アレント(1906年~1975年)はドイツ出身のユダヤ人であり、アメリカで政治哲学者・思想家として活躍しました。時代的にナチスのユダヤ人迫害を体験しており1941年にアメリカに亡命しています。
アレントは人間の活動を主として活動(action)、仕事(work)、労働(labor)の3つに分けることができるとしました。
●活動:人間が関係の網の目の中で行う行為。平等かつお互いに差異のある人間たちの間にのみ存在しうる。
●仕事:職人的な制作活動に象徴される目的-手段的行為。
●労働:生存と繁殖という生物的目的のため、産出と消費というリズムにしたがって行われる循環的行行為。
哲学者なので私にはよく分からない部分もありますが、仕事と労働を区別しているのは確かです。アレントにとって仕事はある特定の目的の達成をめざして行われる行為であり、その達成された目的の証としての最終生産物を残すという。労働は仕事と異なり、人間の生存に伴う自然的な必要を満たすために労働を強いられると。これを解説したサイトの内容を読むと、労働が生きていくための生産活動で仕事は生活のため以外の価値を創造すること、という比較がされています。生々しい表現をすれば、労働は生きるために仕方なくやる・できればやりたくないことで、仕事は強制されることなく誇りを持って能動的に行うもの、ということです。
このように考えると納得できます。ドラッガーの言いたいことはアレントの区分と本質は同じように感じます。マネジメントする側は従業員を労働から仕事に変えることだというわけです。
仕事と労働の違い。私は実体験としてよくわかります。同じあん摩マッサージ指圧、鍼灸という施術行為。従業員のときと開業しているときとで、同じことをしているはずが気持ちの面で大きな違いがありました。従業員のときは目の前の患者さんに精一杯にしているようで、結局は給料を渡す雇用主のことが頭にあります。患者さんから受付さんが料金を頂きますが、そのお金に実感はなく、通帳に振り込まれる数字が現実的です。自分は誰のためにあん摩マッサージ指圧、鍼灸をしているのか。目の前の患者さんなのか、給料を与える雇用主なのか。そのような葛藤がありました。ですから大勢の患者さんが来院すると困る、辛い、きついという感情が芽生えました。どれだけ混雑して患者さんをたくさん対応しても給料が変わることはありません。それならば余裕のある人数、休みが多くて拘束時間が短い方が得だと考えてしまいます。これはまさに“労働”でした。入職当初は頑張ろう、経験が積めてありがたい、という気持ちでしたが管理職となり役職上の部下ができて、マネジメントをすることになると、もう自分のキャパシティを越えていました。臨床業務に加えて経営会議、部下の育成、経営のための勉強と業務はどんどん増えていく。まさに仕方なく・できればやりたくないものになっていました。
これがあじさい鍼灸マッサージ治療院を開業し一人でするようになると状況が一変します。やっていることは従業員時代と変わらないのですが活き活きとします。誰かに強制されることではない。患者さんへの気持ちや施術がとても純粋になりました。患者さんからいただく対価がそのまま自分の売上になる状況もそれを後押しします。患者さんが来てくれることをとにかく感謝の気持ちです。また普段の業務は全て能動的なもので誰かにやらされることは何一つありません。まさに「仕事と労働」を比較したときの“仕事”に違いありません。そもそも仕事は自ら生み出さないといけません。一人で開業するという事はそういうことです。コンサルタントをお願いしているわけでも師匠がいるわけでもありませんので何をするにもそう。練習、勉強、情報収集、広報活動など(対価を頂ける)直接的な臨床以外の業務も“仕事”です。収入に繋がるかどうかなど分からないことでもモチベーションをもってやってみます。それが何年後かに意味を持つかもしれません。
労働と仕事の違い。それを理解して向き合うか。開業権があり、どこまでも独立開業という選択肢がまとわりつくあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師には大切なことだと今回調べてみて強く感じました。
甲野 功
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