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先日とても考えさせられるニュースがありました。
<スポニチ
43歳第1子妊娠中の宮崎宣子「弱みに漬け込んだ商売…涙止まらず」不妊治療中に、不安につけこまれた体験>
どのような内容かというと元テレビアナウンサーの宮崎宣子さんが不妊治療を行っていたときに鍼治療を受けて辛い体験をしたというものです。記事自体は宮崎宣子さんがインスタグラムに投稿した内容を取り上げているだけで、更にインタビューをしたというわけではありません。元の投稿は以下の通り。
つまりスポニチの記事といってもほぼ宮崎宣子さんの生の意見であり、文言を修正した形跡はほとんどないのです(投稿内容の導入部分は省略していますが)。記事のタイトルや注釈を入れている程度。その分、飾らない宮崎宣子さんの本音があらわれていると感じます。
宮崎宣子さんが不妊治療の経験を経て、注意喚起の意図を含めて、自身の不妊鍼治療について言及しています。
『良くないなーと思うのは、
これをやったら妊娠できますよ!という商売。』
という言葉で不妊治療としての鍼を紹介しています。もちろんネガティブな意味であります。宮崎宣子さんは病院での不妊治療中に採卵できなくなっていたとき、鍼治療を勧められました。そこは
『不妊治療では有名な先生ということで、
院長先生の指名料を治療費プラス数千円とるようなところでした。』
といいます。
その鍼灸院で
『ここに3ヶ月通えば良質な卵が採れますよ。
とにかく3ヶ月通ってください。
いい卵を作るには、3ヶ月かかるんです。
そして、漢方を処方するので、漢方を合わせて飲むとよりいいですよ。』
と言われたと言います。その言葉を信じて宮崎宣子さんは3ヶ月通うことにします。大学院に通っていることを伝えると
『週1回で大丈夫です。
と言われたので不妊治療を一度ストップして、鍼治療に通いました。』
ということに。
鍼灸院での施術内容は以下の通り。
『毎回同じところに鍼を刺し、
卵巣にも電気を流しますと言って低周波のピクピクする鍼を刺されました。
お灸も勧められて、
毎月数万円もする漢方を処方され、
とりあえず休まず通いました。』
そして不妊の鍼灸を始めて3ヶ月後に病院で不妊治療を再開するとホルモン値が下がり卵巣に卵が1個も見えないというという結果でした。この結果に対して宮崎宣子さんは
『鍼治療の院長先生も頑張ってやってくれたことだろうし、
私が歳だから仕方ない。
私が最後に後悔したくなくてやると決めたことだから、この結果も想定内…』
と当初は前向きに考えていました。
ところが鍼灸院の院長は、週1回の通院だと足りなくて週2回通ってくれれば、という最初の話を反故にする発言をしました。また、大学院で忙しくてリラックスしない、一度通院を休んだから、と言い訳も。海外に10日間行くからその分の漢方薬を購入していた宮崎宣子さん。漢方薬を処方する漢方医が院長の妻である事実も加わり、
『なんだか、これは単なるコンプレックス商法で弱みに漬け込んだ商売に思えてしまったんです。』
という心境になりました。当然ながらその鍼灸院の院長の言葉を信じることができず、
『こんなことを今更言う先生を信じた自分が情け無くて、涙が止まらず帽子で顔を隠しながら帰ったのを覚えています…』
という状態に。宮崎宣子さんはこれを機に不妊の鍼灸施術を止めることにしました。このことは『一個人の経験と感想になります』と注釈を入れた上で『効果よりも後悔が方が辛かった』と投稿しています。最後は気持ちを切り替えて前向きな文面で締めていますが、決して望ましいものではなかったことは分かります。
このスポニチの記事、宮崎宣子さんの投稿は多くのことを考えさせられます。
私も第一子出産の際に不妊治療の一歩手前までいきました。専門のクリニックで検査をしました。その検査費用も安価なものではありませんでした。私はこういう仕事をしているので、東洋医学的にできることを心掛けて実践し、結果的に自然妊娠することができました。程度や性差はありますが、宮崎宣子さんの置かれていた状況は他人事ではありません。
そして開業している立場からすれば宮崎宣子さんが通った鍼灸院の院長と立場はかなり近いです。私は不妊治療の鍼灸を全面的に謳っているわけではありませんが、鍼灸マッサージ教員養成科で不妊に対する鍼灸を学びました。患者さんから要望があればするかどうかは別として対応します。逆子や安産に関しては妻のことも含めて経験があります。
今回の記事は、弱みにつけ込んだ悪徳商法、ということで不妊治療に対する鍼灸が紹介されているといっていいでしょう。どちらの立場もそれなりに分かるので複雑な心境ですが、開業して自分の名前で商売をしている以上、患者さんが感じたことが真実である、ということは間違いないと思います。例え誤解や実際は違ったことがあったとしても。こういう場合、言った言わないの話になりがちです。鍼灸院側も主張があるでしょう。また鍼灸師は患者に鍼灸施術をする対価を頂いてるのであって、その結果に責任を果たす必要はない、という意見があるかもしれません。しかし患者さんの感情は紛れもなく真実です。残酷なことですが、どうしようもない稚拙な技術でも相手が満足することがあり、業界最高水準と称される先生が行っても全然効かなかった、金の無駄だったと思われることがあります。患者さんである宮崎宣子さんに“単なるコンプレックス商法”、“弱みに漬け込んだ商売”と思われてしまったことは間違いないのです。そのことを鍼灸師側として、私は真摯に受け止めなければなりません。
不妊に悩んでいる人に、弱っている人につけ込む単なるコンプレックス商法と言われてしまう情けなさ。それは積み重なった信頼を裏切る行為の結果でしょう。信頼を裏切るというのは支払った対価にも関係します。指名料をプラス数千円、週1回の通院、数万円の漢方薬。具体的な金額は分かりませんが決して気楽に支払える金額におさまっているとは思えません。金額に見合わない態度。言い訳をする、最初と話したことと違うことを言う(週1回でいいといったのに週2回でないと)。宮崎宣子さんも不妊治療に絶対はないことは理解しているのです。結果が出なかったことではなく、その態度が納得できなかった。実際にどのような対応をしたのかは当事者にしか分かりませんが、ここまで書かれてしまうのは相当な精神的苦痛だったのでしょう。
また『鍼治療して結果が出れば、院長先生のおかげで、でなければ患者の身体の問題ということになるわけで、』という部分。我々鍼灸師は本当の意味で責任を取らない、取れない存在だと認識しないといけないです。臨床経験を積み、成功体験が増えると、誰でもどんな人でも治せると勘違いしてしまいます。それは改善できる人しか集まらなくなり、芳しくなかった人は黙って前から去るだけで、失敗を知らないだけの錯覚です。私は去年、虫歯からの蜂窩織炎で救急搬送されました。その症状に15年もの鍼灸師の技術や知識など歯が立ちません。まだ新型コロナで大変だったときに金曜日の深夜に来てくれた救急隊員と受け入れてくれた東京大学病院救急外来とその場にいて緊急手術をしてくれた口腔外科専門医が助けてくれました。確かに病院をたらいまわしにされて鍼灸の方に価値を見出す方もいます。医師からもう積極的に治療する方法はありませんと言われて鍼灸や東洋医学に辿り着き、快方に向かったケースもあります。しかし重篤な症状で責任を取るのは日本では医師しかいません。『鍼治療して結果が出れば、院長先生のおかげで、でなければ患者の身体の問題ということになるわけで、』という文章は、患者側からの真理であると肝に銘じます。
宮崎宣子さんは元日本テレビアナウンサー。在京キー局のアナウンサーはなることが非常に難しいことは知られています。さらに日本テレビは特にアナウンサー教育が厳しいと言われているそう。宮崎宣子さん本人に影響力があることは自覚しているでしょう。また言葉を選んで投稿していることが文面から読み取れます。知名度、影響力があるからスポニチのネット記事になるわけです。動画で鍼灸院への恨みつらみを語ってYouTubeに投稿しているわけではありません。インスタグラムという比較的拡散しにくいSNSで投稿したのは宮崎宣子さんの配慮を感じます。それも、妊娠することができているから気持ちが落ち着いた上で、それでもやはり今でも納得できなくて投稿した、ということも私には感じられます。場合によっては鍼灸師全体の印象を大いに悪化させるニュースになっていたかもしれません。幸いなことに宮崎宣子さんは現在妊娠中で、無事に出産されることを願うばかりです。
鍼灸に限らず、人の身体に何かを施し改善させようとする仕事全般にいえる、大切な戒めとなるニュースだと思います。
甲野 功
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