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~柔道整復師国家試験漏洩事件、3年間業務停止処分~

共同通信 柔道整復師の試験漏えい2人処分 業務停止3年、厚労省
共同通信 柔道整復師の試験漏えい2人処分 業務停止3年、厚労省

 

 

昨年発覚した柔道整復師国家試験問題漏洩事件。厚生労働省が管轄する医療系国家資格である「柔道整復師免許」。最低3年間の養成施設(専門学校、大学など)での学習をしないと受験資格が得られません。年に1度しか試験は開催されず、例年3月第1週日曜日に行われます。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師免許と同様に全体で6割以上正答しないと合格できません。またその3つの免許とは異なり、必修問題50問のうち8割を正解しないといけないという合格基準が追加されています。そのため合格率はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師に比べると低くなっています。私はここに挙げた、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師の4つの国家試験を取得しています。もちろん全ての国家試験を受験しているので難度の違いを実感しています。

 

この国家試験ですが、事前に問題内容が学生にばれてしまうことなどあってはならないことなのですが、複数年に渡り柔道整復師国家試験問題の内容を事前に入手していて、特定の学校に教えていたという事件が昨年発覚しました。2名の容疑者が逮捕、柔道整復試験財団や関与した専門学校らの家宅捜索が行われ、起訴、裁判と進みました。今年に入り容疑者2名に執行猶予付き有罪判決が下されたのでした。それから数か月経過した昨日。厚生労働省は有罪判決となった2名に対し、柔道整復師の業務停止処分を決めたと報道されています。

 

共同通信 柔道整復師の試験漏えい2人処分 業務停止3年、厚労省 2023/09/19

 

この報道を受けて気になったことが、処分までタイムラグがあったことです。有罪判決が出てからそれなりに時間が経過しており、今更業務停止処分を出したのか、という感想です。

説明しますと裁判での有罪判決と業務停止処分には間接的な関係です。柔道整復師国家試験問題漏洩は柔道整復師法違反に該当し、裁判所が有罪判決を下しました。具体的には懲役10月(執行猶予3年)懲役1年(執行猶予3年)です。そして業務停止処分を下したのは厚生労働省であります。管轄が異なります。間接的な関係といったのは柔道整復師法の内容が関係します。

 

柔道整復師法は以下のようになっています。

(欠格事由)

第四条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。

一 心身の障害により柔道整復師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

二 麻薬、大麻又はあへんの中毒者

三 罰金以上の刑に処せられた者

四 前号に該当する者を除くほか、柔道整復の業務に関し犯罪又は不正の行為があつた者

 

(免許の取消し等)

第八条 柔道整復師が、第四条各号のいずれかに該当するに至つたときは、厚生労働大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めてその業務の停止を命ずることができる。

欠格事由とは免許を与えない条件という意味です。第4条の項目3番目に「罰金以上の刑に処せられた者」とあります。今回の2名は懲役刑で罰金以上の刑なので該当します。そして第8条では、既に柔道整復師免許を持つ柔道整復師がその条件に該当するに至ったときは厚生労働大臣が、その柔道整復師免許を取り消すか、期間を定めて柔道整復師の業務停止を命ずることができるのです。今回の厚生労働省が出した処分は第8条(免許の取消し等)に則ったものでしょう。ただ有罪判決が出た直後に業務停止処分を出せたわけですから、数か月期間が空いたことはなぜなのでしょう。報道によれば起訴された2名のうち、1名は自身が経営する接骨院を営業していたとあります。

 

次に業務停止期間が3年という点。免許取消しに比べれば軽いですが、3年間というはかなりの時間です。処分が下った2名の年齢が65歳と63歳であることを考えると3年後は70歳近い。その間の仕事はどうするのか。また3年後に業務復帰できるのでしょうか。同業者として気になります。業務停止処分の期間に関して、ある法律事務所にデータがありました。

 

新銀座法律事務所

あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師、柔道整復師等の行政処分

 

業務停止処分3年になったもの。

※この事例は柔道整復師以外にあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師免許も保持しています。

詐欺(保険金91万円詐取)により懲役2年(執行猶予4年)

 

比較するために他の業務停止処分の事例を挙げます。

 

業務停止処分2年になったもの。

詐欺罪、通院日数を水増しする虚偽の施術証明書・施術費明細書を作成し提出して保険金約43万円をだまし取った事案により懲役1年6月(執行猶予4年)

詐欺罪(保険金133万円詐取)により懲役1年6月(執行猶予3年)

 

業務停止処分5年になったもの

※はり師、きゆう師も保持。 

道路交通法違反(高速道路48キロ速度違反)=罰金7万円、法人税法違反(①法人税770万円脱税、②法人税1695万円脱税、③法人税1751万円脱税)=法人への罰金1000万円、詐欺(保険金1587万円詐取)により懲役3年(執行猶予5年)

※はり師、きゆう師も保持。

詐欺(①保険金443万円詐取、②保険金499万円詐取、③保険金465万円詐取)により懲役3年(執行猶予4年)

詐欺(①保険金132万円詐取、②保険金217万円詐取、③保険金164万円詐取)により懲役3年(執行猶予4年)

 

ここに出ている判例だけですが詐欺(保険金搾取)により懲役刑で業務停止処分が下っており、その刑の重さから2~5年の幅があります。なお執行猶予が付かなかったものは免許取消処分が出ています。

 

私の知る限り国家試験問題漏洩というケースは聞いたことがありませんでした。今回の場合、初めてのケースなので厚生労働省が判断に苦慮したのかと想定しています。前例を作るわけですので。柔道整復師国家試験のシステムそのものを壊しかねない犯罪であったことを考慮して執行猶予1年でありながら業務停止処分3年という判断をしたのではないでしょうか。この処分が重いのか軽いのかは判断が難しいところですが、厚生労働省が処分を下したのは事実。刑罰は再発防止のためにもあります。柔道整復師国家試験以外にも試験問題漏洩が重大な犯罪だということを周知させる効果になることでしょう。

 

甲野 功

 

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