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先週も学連OBOG練習会モダンに参加してきました。学生競技ダンス連盟、略して「学連」。学連を経た人間がもう一度、シューズを履いて練習しようよという企画で始まったといいます。現在はスタンダード、あるいはボールルームと呼ぶことが多いのですが、昔の学連の呼び方でモダンという名称を採用しているというこの会。モダン部門のコーチが武蔵野美術大学出身の本池先生でラテン部門が東京外国語大学出身の金光先生。お二方は学連時代はもちろん、プロフェッショナル部門でもトップ選手でした。現役選手を引退し各々スタジオを持っています。ひと月ごとに交互にモダン、ラテンの練習会がそれぞれのスタジオを会場にして行われます。
私は今年から学連OBOG練習会に参加しており、特に本池先生は学連時代の1学年上の先輩であり同じモダン専攻でしたから憧れがあります。学連選手を全うできたのも本池先生のおかげでもあります。この練習会のいいところは学連式であり、いい年齢のOBOGがホールド(ダンスの構え)をしたまま静止し、ボックスという単純なステップを繰り返す練習があります。しかも声を出しながら。体育会系の練習をこの年齢でできるのは非常に貴重です。
さて今回の練習会のテーマは事前に発表されず、当日明かされました。テーマは確か「金光進陪を苦しめる」だったと思います。金光進陪とはもちろんラテンのコーチである金光先生のこと。ラテンのグレートチャンピオンだった金光先生も参加する上での本池先生の冗談です。本池先生はいつもラテン練習会に生徒側として参加しラテン練習に汗を流しています。今回、金光先生が立場を逆にして参加したのです。学連の世界は、特に私がいた頃は、部歴がとにかく重要でした。他大学だろうが部歴が上の人は無条件で先輩。敬うのです。部歴でいうと本池先生は金光先生より上なので、プロの先生同士なら別なのでしょうが学連OBOGとなると「外語の後輩」という立場。あの金光先生が練習会に参加して基礎練習を一緒にするというのはダンス界からすると非常に面白い出来事になります。
そして実際にやるのはスローフォックストロット。これはモダン5種目のうちの一つ。そして学連ラテン選手が最も苦手なモダン種目といえるのです。競技10種目を習うのが当たり前のアマチュアやプロと異なり、学連はモダンかラテンの専攻分けをして片方の種目に専念します。更に究極は最後の冬に行う全日本で優勝することが大事なことであるため1つの種目に集中しがち。ラテン専攻の選手にとってスローフォックストロットは非常に難しい種目です。その理由は4拍子で動きが3つという独特な点。4拍で3歩進むのが基本です。それが慣れないとまどろこっしいですし、1年生のうちは(東部ブロックの場合、国公立大学を除くと)競技会にない種目であるため、2年生でラテン専攻を選ぶとほとんど練習しないのです。
ちなみにかつてモダン新人戦という競技会が学連にはありました(※現在はありません)。1、2年生が参加しモダン4種目のみの大会です。よってラテン選手もこの日はモダン種目を競技会で踊るのです。そしてワルツとクイックステップは優勝するとデモンストレーションの権利が得られるためモダン選手がこぞってエントリーします。そうなると残るタンゴとスローフォックストロットにラテン選手がエントリーするようになるのです。タンゴはラテンに近いところがあるのでまだましなのですが、スローフォックストロットを2年生ラテン選手が躍るとかなりひどい有様。私は過去にモダン新人戦のジャッジをしたことがあるのですが、スローフォックストロット1次予選など本当に目も当てられない有様の選手がたくさんいました。タンゴのように切れやハッタリが通用せず、音が外れている、足型が間違っている、というものがたくさんいました。そう考えると金光先生が苦しむのはスローフォックストロットなのかもしれないなと納得です(実際には普段使わない筋肉、動き、頭を使いますよということらしいです)。
スローフォックストロットは学連時代に競技に出ていたモダン4種目のうち、個人的に最も苦手な種目ですがきちんと向き合って練習してきたので体が動かないということはありません。その上で本池先生の話を聞くと、社交ダンスは学問だという考えになりました。
スローフォックストロットはカウント(音の取り方)をスロー、クイック、クイックと取るように習います。4拍子で1、2拍がスロー、3、4拍がそれぞれクイックです。今はどうか知りませんが私が学連時代は全てスロー、クイック、クイックの繰り返しでした。これは上達してくると分かるのですが、スロー(slow)つまりゆっくりという意味なのに動きが速くてクイック(quick)といいながら動きとしてはゆっくりなのです。スローの2拍で身体の向きを変化させる動作が入るので音は長いが忙しい。クイックの2拍はそのまま前進するので音は短いが動作が少ないのでゆっくりに感じる。このような矛盾があります。本池先生はスローフォックストロットのカウントを1、2、3、4と4拍で考えてスロー、クイック、クイックととりません。1の音で何をするのか。そのような教え方をします。
動きのメカニズムを考えて身体に馴染ませるために、その場で膝を曲げ伸ばし(ロアー)しながら4拍で動作の切り替えを教えます。1の音で向きがニュートラルに戻り、パワーが集約する。そこから2~4で力を開放して左右どちらかのサイドが前方にいく。このときホールド(腕)は前後にしか動かず交差するようなことにはならない。過去に散々やってきた基礎練習ですが詳しく解説されると理解が曖昧だったことに気付かされます。言われてみればそうだなと納得します。
続いてフェザーステップとスリーステップという足型を繰り返して直進していくという練習。これもポピュラーな練習方法で経験してきました。そこでライズという体が上方に上がっていく動作がどう違うのかの解説。ワルツとスローフォックストロットではライズの技術が異なることは知っていましたが、同じスローフォックストロットにおいてフェザーステップとスリーステップでもライズに違いがあるとは。これも4拍で考えてフェザーステップの方がライズが始まるタイミングが早いのでライズが大きくなるとのこと。そのためフェザーステップとスリーステップではライズ動作の大小で表と裏ができる。それを意識して踊る。なお女性の場合は裏と表が逆になる。これもそう解説されるとそのようにトップ選手は動いているなと分かります。このメカニズムで音を表現しているのかと。何か東洋医学の陰陽論に通ずると思います。
続いてダイレクション。体の向きについて。1の音では進む方向が定まっていて、逆に4の音ではまだそこまで回転しない。4の時点で回転したいところを抑えて1で向きをニュートラルにする。文章にすると何を言っているのか分からないと思いますがやってみると確かにその通り。そこが曖昧になるのでラテン専攻の学連選手は苦労するのだと思い返しました。
このような説明を受けると社交ダンスは学問であると感じます。社交ダンスは日本で始まったものではなく西洋が起源。特にイギリスが本場だといわれます(種目によっては諸説ありますが)。本池先生は学連を経て更に渡英して技術を学び実践してきました。日本に伝わるにつれて曲解されたものが多数あったはず。きちんとした理論を持ち帰り自分の言葉で構築しているとわかります(繰り返しになりますが学連時代の本池先生の教え方は非常に抽象的でした)。もちろん時代が進めばトレンドが変わります。技術体系も新しいものが出てくるわけです。アップデートされていくことも含めて学問として成り立つと考えます。納得できる理論体系ができている。学説かもしれません。それに対して別の先生が別の学説を唱える。議論されて有識者によって自然と判別される。主流となる学説になるか、異説になるか。学問の世界では当たり前のように起きていることが、社交ダンス(競技ダンス)の世界でも起きているのでしょう。
それに対して私自身も学問として考えていることにも気づかされます。というのは、どれだけ理にかなった技術理論があったとしても体現できるかは別の問題。言われたとおりになんでもできたら楽な話で、練習する必要がありません。人間は機械ではないので個性があります。肉体的な性能差があります。理想とする動きに現実の動きをどう近づけるか、そのギャップを埋めるのかという問題に対して、人体の面から考えてアプローチ(介入)するのが私の仕事であり学問だと考えています。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師という4つの国家資格を持つ過程で学んできた解剖学が機能運動学、更には生理学や東洋医学を駆使して理想とする動きができないのは何故かを考える、解析する。筋力なのか、関節可動域なのか、バランスなのか、理論を理解していないのか、など。それから理想の動きをするために按摩指圧、マッサージ、ストレッチ、PNFなどの徒手療法や鍼灸といった物理療法を用いて人体に刺激を入れることで解決に導く。そのようなことを20年ほど研究してきました。
学連の特徴の一つとして『舞踏研究部』という言葉があります。多くの部活名に採用されており私の母校も正式部活名がこれでした。そのため学連選手と舞研人(ぶけんじん)と称することがあります。舞研人という言葉は学連でしか使われないでしょう。アマチュアやプロで使っている人を知りません。社交ダンス部ではなく舞踏研究部。研究するのです。大学の部活で。すなわち最初から学連はダンスを学問として研究対象にしていたのかもしれません。今回の練習会内容は既にやってきた動きなので、ラテンの時のように頭で考えているように体が動かないということはなく、余裕がありました。その分考える割合が多く、どれくらい理解できるか宿題を渡されたような気持ちです。そこから私自身が専門とする分野とどうリンクさせていくか。日々考えるきっかけとなります。
甲野 功
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