開院時間
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昨日は鍼灸マッサージ専門学校2年生の方が来院して、研究手法について話をしました。先の呉竹医学会に参加した学生さん。来年の医学会で研究発表を行うことを決めました。そこで研究について学びたいという希望でした。私は研究職では無いですが、理科系大学を卒業しているのと鍼灸マッサージ教員養成科で卒業研究を経験していること、毎年教員養成科卒業論文発表会を公聴していることから研究のやり方について教えてほしいと。大学では論文作成はしなかったのですが卒業研究はしました。当時、世に出たばかりだった青色発光ダイオードに関する研究。その後ノーベル賞を受賞する中村修二先生の論文を読み、実験をしたものでした。そして東京医療専門学校鍼灸マッサージ科、柔道整復科ではそれぞれ2年生の時に呉竹医学会で発表をしています。最も腰を据えた研究が鍼灸マッサージ教員養成科での卒業研究です。これは1年間かけて取り組みました。これらの経験に加えて他の研究発表を聴くことで更に理解が深まりました。鍼灸大学および大学院の研究には程遠いとは思いますが研鑽を積みました。
学生さんにはまず、研究する意義、について話します。YouTubeやテレビのバラエティー番組の企画のような、面白そうだからやってみたというものではいけません。大袈裟ですが社会に貢献するようなものでないといけないと考えています。それは自分のため(自己顕示欲を満たしたい、利益になるようにしたい、他人より優れていると示したい、といった)ではなく。そのために、研究をするにあたってやってはいけないことを提示しました。医療における臨床研究ではとても重要である利益相反にあるものや、被験者の人権を蔑ろにするような各種倫理に反するようなこと。違法行為はもちろんだめ。また、追実験を除いて既存の研究テーマをそのまま行うこと。あるいはその研究に社会的価値が無いと思われることも敢えて実行することはないでしょう。確かめてみたい、実験してみたい、という素直な科学的好奇心は大切ですが何をやっても構わないということではありません。
続いてエビデンスの階層について紹介しました。エビデンス(evidence)は医療においては「医学的根拠」と認識されています。よくエビデンスがある、ない、と話します。EBMという“エビデンスに基づいた医療”という意味の用語も存在します。しかしエビデンスと一言でいいますがレベルがあります。一つの例としてその改装を紹介しました。
・総説、専門家の意見
・症例対照研究、症例集積研究、症例報告
・コホート研究
・RCT(無作為化比較試験)
・システマティックレビュー
・ガイドライン
上から下に行くにしたがってエビデンスのレベルが上がっていきます。ですから専門家の意見とかベテランの勘といったものもエビデンスが無いとはいえず、低いものということ。エビデンスのレベルを理解した上で専門学生でも研究できるものを選択しましょうと伝えました。それを踏まえて研究デザインの種類を紹介します。観察研究、介入研究、データ統合型研究の3種類。各研究デザインの特徴を説明します。
続いて、研究するに値する内容はどのようなものか。これは教員養成科時代の教員から言われたことや10年に渡り卒業論文発表会に参加してきた経験から個人的な意見としてあげました。まず文献調査やアンケート調査よりも実験研究の方が望ましいということ。やはり我々が生業とする按摩・マッサージ・指圧、鍼灸は人体に施すもの。人体に何かしら刺激をすることで介入してその変化を計測する実験研究が好ましいだろうと。文献調査やアンケート調査が悪いわけでは無いのですがそれらよりも望ましいでしょうという提案です。そして時流(トレンド)を読んだテーマも良いのではないか。現在だと新型コロナ感染症の後遺症に関することなど。世界的なトレンドとしてSDGsや人生100年時代といったキーワードに関連するようなもの。また新しいテクノロジーを用いた実験をしてみる。器機の発展は目覚ましく、スマートフォンのアプリケーションでも10年前では考えられなかったことが可能になっています。実験器具が新しくなればそれまでできなかった実験が可能になります。いち早く新しいツールを用いれば新規の実験手法を提案できるかもしれません。
続いては、最初から最後までの実験研究の手順を大まかに説明します。流れといいますか。
①証明したいことを考える(妄想)
②関連する論文を調べる
③仮説を立てて実験手法を漠然と考える
④実験プロトコルを構成する
⑤予備実験を行う:課題を洗い出す
⑥本実験を行う
⑦データを統計処理にかける
⑧結果を照らし合わせて考察する
⑨論文にまとめる
⑩内容を要約した抄録を作成する
⑪プレゼン資料を作成する
⑫学会等で発表する
⑬質疑応答
このような順序になるでしょう。更に学会で表彰されたり、学術誌などに掲載されたり、別の学術大会でも発表するなど次の段階がある場合もあります。やはり実験内容そのものに気を取られてしまいがちですが、先行研究を調べる、清書を読む、関連する論文を読み込むといった事前準備期間が大切です。その上で研究テーマの骨格を作っていき、実行可能か、問題はないか、といった具体的な研究手法を詰めていきます。この時点で統計処理方法まで考慮しておいた方がいいでしょう。その際に必要となる知識というか用語をいくつか挙げました。
バイアス(偏り)と言われる本当の値から結果を遠ざける要因について。選択(セレクション)バイアス、情報バイアス、交絡バイアスを説明し、生じるであろうバイアスをいかに排除できるように努力するかを考える。そのためにできる手段として盲検(ブラインド)があります。これは被験者や実験者、更には統計処理をする者が本当の介入をしているのか偽の介入をしているのかを分からないようにすることです。医薬品の治験では外観が薬と見分けのつかない偽薬を用いて研究をしますが、そのようなことです。実際に我々の按摩・マッサージ・指圧、鍼灸でそれができるのかについても、現実的な話をしました。
そして統計処理について。データを取って平均したものがこれだけ変化しましたよ、では研究にはなりません。その結果がどのような意味があるのか。全人類を用いた実験ができればいいのですが、そのようなことは不可能。調べたい人々の集団である母集団から限られた人数を抽出して研究対象にすることになります。この被験者を標本といいます。どのように標本を抽出すれば母集団をより反映できるのか。その基準としてMECEという区分けがある。また被験者の人数、すなわちn数といわれるものが多いほど一般的に研究精度は高まります。可能なn数で実験をしたとして得られたデータ(数字)をどう解釈するのか。そこには統計学が必要になります。平均値、中央値、外れ値、正規分布、標準偏差、帰無仮説、p値、有意差、有意水準といった用語の説明をします。統計処理の細かいところまでは私の学習が足りないため触り程度になりました。
説明した後は学生さんとディスカッションをしました。こんな方法を考えている、それだとこうしたら。より具体的なものが頭に思い浮かんでいるようでした。これまで自分が得てきたものを次の世代に引き継ぐ。そのような時間でした。
甲野 功
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