開院時間
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公益社団法人東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会が開催する講習会に参加しました。
令和5年度第4回東京都委託施術者講習会になります。タイトルが「精神科領域の鍼灸治療の最前線 ―医鍼連携のネットワーク構築を目指して―」です。場所は東京都千代田区神田にあるNATULUCK淡路町会議室。講師は東京有明医療大学保健医療学部鍼灸学科助教、鍼灸学博士の松浦悠人先生でした。どのような人なのかはWebサイト『ハリトヒト。』でのインタビューがあります。
<ハリトヒト。 インタビュー 臨床に還元するのが研究者の役目です/鍼灸師:松浦 悠人>
主催の公益社団法人東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会は業界団体で公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会(通称、全鍼会)の東京都師会になります。
今回の講習会は私にとって幾つか目的があり、そして当日は想像以上の収穫がありました。
まず業団について知ろうという狙い。
業団とは業界団体のこと。鍼灸マッサージ業界には複数の業界団体があります。主に開業者を支援する師会、学術分野の発展を目的とした学会、教育面の学校協会。そこに歴史的に按摩、鍼が視覚障害者の生業としてあったことから視覚障害者団体もあるのが特徴です。またこの業界の複雑なところが、国家資格はあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師と3つあり、その頭文字をとって「あ・は・き(あはき)」と略することがあるのですが、多くの人ははり師ときゅう師を同時に両方取得しているので“鍼灸師”と称することが一般的で、反対に按摩・マッサージ(massage)・指圧は技術も歴史も発祥も異なるのに3つ全てをまとめてあん摩マッサージ指圧師にしてしまっているのです。更に鍼灸師だけの人、あん摩マッサージ指圧師だけの人、鍼灸師もあん摩マッサージ指圧師も持っている人といます(まれにはり師のみ、きゅう師のみ、という場合も)。私はあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師の資格があるので“あはき師”とか“三療師”と言われたりします。大きく鍼灸師のみ、あん摩マッサージ指圧師のみ、両方持ち、の3種類あるのですが各々立場が異なる部分があります。そして同じように業界団体も存在します。
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会
公益社団法人日本鍼灸師会
公益社団法人日本あん摩マッサージ指圧師会
上記3つがそれぞれ、あん摩マッサージ指圧師と鍼灸師の両方向け、鍼灸師のみ向け、あん摩マッサージ指圧師のみ向け、という区分になります。ただ全日本鍼灸マッサージ師会に関しては鍼灸師のみ、あん摩マッサージ指圧師のみの人でも加入できます。私の場合、上記3団体すべてに加入することができるのですが、理由があってどこにも所属しきませんでした。しかし最近、全日本鍼灸マッサージ師会について興味があり入会しようか考えるようになりました。実際にどのような活動をしているのか団体の人はどうなのかを実際に確かめたいという気持ちが芽生え、今回の全日本鍼灸マッサージ師会の東京都団体となる東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会が主催する講習会に出てみようと思いました。
当日は東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会現会長の成田卓志先生とお会いして挨拶することができました。短い時間でしたがどのような考えをお持ちなのかわかりました。既に全日本鍼灸マッサージ師会理事のある方と話をしたことがあったこともあり、より団体のそれとなりを知ることができました。
次に“医鍼連携”に関して知るため。
医鍼連携とは鍼灸師と医師との連携で、さらには病院・クリニックといった医療機関と在野の鍼灸院との連携も示唆した言葉でしょう。あん摩マッサージ指圧師、鍼灸師、柔道整復師はその歴史的背景から開業権が正式に(法的に)認められた医療系国家資格です。医師、歯科医を除くと開業権がはっきりとあるのは珍しいのです。多くの医療職種は医療機関で医師の指示のもと勤務することが一般的です。そのように法律ができています。養成施設のカリキュラムでも独自の判断で患者さんと向き合うことを想定した内容になっています。
私を含めて、開業し独立する鍼灸師が少なくありません。そのため他の医療職種と異なり医師と関わらず、連携を持つことなく、業務している場合が多いです。言い換えると、病院、クリニックで鍼灸科がある、あるいは鍼灸師が常駐して働いている、という環境が非常に稀で連携する機会はとても少ないのです。松浦先生の話では鍼灸治療を行う一般病院は304施設だそう。3百もあるのか、という印象かもしれませんが鍼灸院(鍼灸を行う施術所)が3万以上あることと比べるとまさに桁が違います。医療機関で医師と連携して働くことが当たり前の他職種(※コメディカルを指す)に対して環境が大いに異なる鍼灸師。
私の場合は柔道整復師として整形外科のあるクリニックで働き、鍼灸マッサージ教員養成科を卒業した年から3年間を大学病院で週一日鍼灸師として勤務した経験があるため、医鍼連携には少し経験があるといえます。ただそれも5年以上前のことなので現在の状況を知りたいと思っていました。私の母校である東京医療専門学校は理事長が医師であることもあり、他の医療職種と連携できる人材を育成することを掲げており、私も元々理科系大学卒という過去もあることから、がちがちの伝統医学としての鍼灸よりも現代医学に即した鍼灸を好みます。現在進行形の話を聞くことができました。
そして、うつ病に関する知識を得る。
これまでのキャリアで精神科領域の疾患を扱ったことがほとんどありませんでした。今回の講演会はうつ病がメインの疾患として内容が構築されていました。うつ病を患う患者さんと多数接してきましたが、積極的に鍼灸でうつ病そのものを対処しようとすることはありませんでした。教科書で習う以上のうつ病に関する知識。鍼灸でどのように対応するのかという具体例。座学、実技見学両方から学ぶことができました。特に印象的であったことに、うつ病は症状が多岐にわたり、しかも一般的な検査で異常が出にくくかつ症状が強いため、標準治療である投薬を採用すると服薬量が多すぎてしまうということ。例えば、頭痛、肩凝り、腰痛、下痢、腹痛、不眠、眩暈、という訴えがあり、それら全てに薬を服用させたら大変なことになるわけです。ドーゼ(刺激量)オーバーで身体に負担がかかりますし、薬同士の飲み合わせの問題があります。また肩凝り腰痛を訴えているからといって、一般的な筋肉が固い、炎症している、といった状態ではないことがあります。筋弛緩剤や鎮痛薬を使えばいいというわけでもない。このような多彩な症状に対して比較的対応が得意なのが(局所だけでなく全身をみる)鍼灸であるわけです。そういった意味でも医師と鍼灸師が連携することがうつ病患者さんに対して有効だというわけです。
また松浦先生の考えとして、筋・骨格系、神経系の症状には人体の機能構造論に基づいた現代医学的な経穴(ツボのこと)を用いて、自律神経、内科系の症状には臓腑・経絡理論に基づいた東洋医学的なそれを用いるという。この考えは私も非常に納得できるもので、現代医学たる西洋医学と伝統的な東洋医学の両方をきちんと学ぶ鍼灸師の強みだと考えます。なお余談ですが、松浦先生が師事した有明医療大学の坂井先生は私が鍼灸専門学校時代に習った先生で、もう一人の埼玉医大の山口先生は私が教員養成科で研究した鍼通電のために参考にした書籍、論文の著者。松浦先生とルーツが少し似ていると感じました。
講演内容は事前に想定していた以上に実のあるものでした。現代医学的な鍼灸をするのかと思ったら、候背腹診という背中、お腹を診る東洋医学的な見立て、配穴(使用する経穴を選ぶこと)をしていました。それも比較的オーソドックスな、メジャーというか奇をてらっていないというか、分かりやすいやり方。東洋医学的な学びがあったことが意外でした。
また研究者である松浦先生のエビデンスに関する話。ちょうど医療統計を学んでいるところだったのでシステマティックレビューをどう作成するのかという段階に関する話がまさに!というタイミングでした。グラフの意味も勉強していたおかげでより理解できました。教員養成科を卒業したばかりだと意味がよく分からなかったでしょう。EBM(エビデンスベースドメディスン)の5ステップは初めて知る観点でした。
他にも会場参加の利点がたくさんありました。やはり対面できることの貴重さ。既に知った先生から初めての先生。出会いがありました。つい最近も授業で一緒になった関東鍼灸専門学校の内原先生や呉竹医学会であったハリトヒト。の鶴田先生、近所の滝澤先生。学生時代から面識がある野村(のむち)先生や当院に勉強に来ていた学生さん。特に鍼灸学生として私が実技を見せたり教えたりした方と机を並べて勉強するというのはなかなか感慨深いものがあります。またSNS上でしかやり取りがなかった先生と初めましての挨拶をして、「あの甲野先生ですか」と言われる。何年か越しに対面できたという。新型コロナ前までは頻繁にあった機会が失われた数年。我々鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師は患者さんと対面する仕事ですから、やはり実際に人と会った方がいいと思います。今年は2019年以前の状況が戻っている実感があります。あの当時のように積極的に人が動き回り活発な交流が戻ってきたと思います。
本当に役に立つ内容の講演会でした。きちんと復習して資料としてまとめます。そして現地参加をしたことで知識以上に大きな収穫がありました。人との交流。対人サービスといえるこの仕事において、重要な体験をできたのです。開催していただいた東京都はり・きゅう・あん摩マッサージ指圧師会の皆様ありがとうございました。
甲野 功
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