開院時間
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今月はじめに東京医療専門学校卒後研修で三村直巳先生による灸治療講座を受講しました。そこでこれまではそこまで深く考えていなかったお灸について学び機会を得ました。その一つが<直接灸と間接灸の違い>です。あまり考えてこなかったテーマでした。三村直巳先生の講義内容からこのことについて更に学び考えてみたいと思います。
まず灸の種類について。私が鍼灸学生時代に使った「はりきゅう理論」の教科書によれば灸の種類は「有痕灸」と「無痕灸」に分かれます。有痕灸とは、灸をすることによって皮膚にできる“灸痕”を残す施灸法の総称です。灸痕とは灸による火傷といってよいでしょう。艾(もぐさ)という蓬(よもぎ)の葉を生成したものを捻って“艾炷(がいしゅ)”という状態にして皮膚上に置きます。その艾炷に線香で火をつけて艾を燃やします。それによって程度の差がありますが跡がつきます。それが灸痕です。庶民の大多数が農民だった時代まではこのやり方が一般的でした。身体に負荷をかけることで免疫力・抵抗力を高める。農業という肉体労働に耐えうる体調を作る。灸痕をつけるのか付けないのか。それが灸法の種類を分けるものでした。
有痕灸には透熱灸、焦灼灸、打膿灸があります。透熱灸は一瞬熱いと感じるような程度。読んで字のごとく熱を透すイメージです。焦灼灸はイボ、魚の目にして焼いてしまう目的で行います。打膿灸は比較的大きな艾炷を用いて意図的に火傷をつくり、更に膏薬を貼って化膿を促します。非常に熱く、その後も膿が出て跡がしっかり残ります。焦灼灸と打膿灸は現在行う灸師は少なくなっており、打膿灸に至っては幻の手技といえるような状態です。臨床現場ではほとんど透熱灸までです。それは衛生環境が良くなり、農業をする人が減りかつ農作業には器械が導入された現在、医薬品も普及しているため、敢えて皮膚を損傷させるやり方をしなくても平気になりました。また刺激量が強いので身体が強くないと刺激に耐えられないという現状もあります。
有痕灸に対して無痕灸は灸痕を残さない方法です。現在の灸はこちらが主流です。様々なやり方があり知熱灸、温灸、隔物灸などがあります。知熱灸は皮膚の上に艾炷を置いてそれに線香で火をつけますが、途中で火を消火して皮膚表面まで火が届かないようにします。八分灸や九分灸といってギリギリまで熱を感じさせるやり方があり、灸師の腕の見せ所といえます。透熱灸と似ていますが途中で止めるのが違いです。温灸は皮膚と艾との間が離れているものです。棒灸や台座灸がそれにあたります。刺した鍼の先に艾の塊をつけて点火する灸頭鍼も広い意味で温灸に入るでしょう。艾が燃えることによる直接の熱ではなく、空気を介して伝わる輻射熱による温熱刺激が特徴です。艾と皮膚の間に物体を介するのが隔物灸です。皮膚の上に何かを置いてその上に艾炷を置いて火をつけます。ニンニク、味噌、生姜、墨、塩、琵琶の葉などが昔から用いられてきました。
灸の種類は有痕灸と無痕灸に分けられますが、“灸法(灸をする技術に関すること)”の種類で考えると直接灸と間接灸に分類できます。皮膚の上に艾炷を直接置いて線香で火をつける直接灸と、皮膚の上に直接置かない間接灸。その分類にすると透熱灸と知熱灸は直接灸になります。灸痕を残すことが時代的にそぐわないので、有痕灸と無痕灸で分けるよりも直接灸と間接灸で比較した方が理にかなっていると言えるでしょう。どのような違いがあるのでしょうか。三村直巳先生によると以下の通りです。
まず直接灸の特徴について。この場合の直接灸は透熱灸を指しています。
<直接灸の特徴>
・比較的急性症状に適す
・比較的即効性あり
・抗炎症作用あり
・鎮痛作用あり
続いて欠点です。
<直接灸の欠点>
・熱い
・痕になる
・大きいと逆に炎症憎悪
・灸あたりを起す
直接灸(透熱灸)はとにかく温熱刺激が強いです。瞬間的にジュっと感じます。場合によっては熱いというより痛いという感覚かもしれません。熱い、灸痕が残るのは仕方ないのですしそういうものですが、人によっては欠点になります。しかし急性症状に適し、即効性、抗炎症作用、鎮痛作用があるとされています。三村直巳先生曰く毫鍼に近いといいます。時間が短く一つの経穴(ツボ)で全体に効かせることが期待できます。
それに対して間接灸。皮膚に直接艾炷を直接がのりません。越石式も紫雲膏(おQバーム)を介して艾炷をおくのでも広い意味で間接灸です。灸点紙を使用するのも間接灸になるでしょう。間接灸の特徴と欠点はこのようになっています。
<間接灸の特徴>
・比較的慢性症状に適す
・血流改善作用に優れる
<間接灸の欠点>
・灸あたりを起す
・即効性に乏しい
直接灸に比べると熱がマイルドになります。そのため直接灸が急性症に適していたのに対し慢性症状に適するといえます。直接灸に比べると即効性に乏しいでしょう。ほんのり温かいという感触を得られ、直接灸の瞬間的な熱い!と感覚とは違います。注意したいのが灸あたりの起こしやすさは間接灸の方が上だそう。“灸あたり”とは温熱刺激によりのぼせるようなことで温泉に長く浸かったときにおきる湯あたりのお灸バージョンのようなもの。温かい感触なので長時間受けてしまいがちの間接灸の方が灸あたりを起こしやすいのだとか。
このように直接灸と間接灸の違いがあります。私の場合、ほぼ間接灸を臨床で用いるので直接灸との比較は実感がありませんでした。今後直接灸を取り入れることで臨機応変に使い分けることができるようになるかもしれません。専門学校での灸実技ではほぼ直接灸だけでその感触を覚えています。短時間(瞬間的)で身体の奥に入る感覚は鍼の響きと同質だと思います。指圧による刺激とは異なる。
今回、新たな視点で灸法について考えることができました。まだまだプロの灸師(きゅう師)として満足していないので技術・知識・経験を高めることが課題です。越石式を含めて自主練習に励みます。
甲野 功
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