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~何をもって「あん摩マッサージ指圧」行為なのか~

内閣府ホームページ  「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」に関する疑義照会について(回答) より
「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」に関する疑義照会について(回答)

 

 

もう何十年も前から私の業界で議論されていること。それが無資格・無免許者によるあん摩マッサージ指圧行為です

 

まず前提としてわが国には「あん摩マッサージ指圧師」という厚生労働省が管轄する国家資格があります。その資格は「あん摩マッサージ指圧師免許」を取得している者が得るものです。免許とあるように、本来誰もあん摩マッサージ指圧ということを業とすることは許されていません。それを特別に許しているのが免許となります。例えば手術や投薬といった医行為は一般の人に禁じられています。しかし医科大学で十分な勉強と研修を積み、医師国家試験に合格した者は厚生労働省が医師免許を発行することで医行為をすることが許されます。医師免許を持つ者が医師となります。そうしなければ素人が手術を行うことで非常に危険な状態に陥ることを未然に防いでいます。行政が管轄する免許というのは一般的に危険で専門知識・技術を有さないとしてはいけない項目にあるものです。※茶道や華道といった文化的分野の免許はまた話は別です。

 

さて“業とする”と表現しました。“業とする”とは“反復継続の意思を持って行うこと”と説明されます。医師になる上で練習をしないといけません。生きた患者と向き合うのが医師ですから全てシュミレーターで済ませるというのは不可能です。実習などで医行為に該当することをしていかないと身に付きません。そのため法律は業とするという表現をして、反復継続の意思はなく勉強のためなら医師免許の範囲外というようにしているのでしょう。同じことは普通自動車免許も同じです。無免許で自動車運転自体をすることを完全に禁止したら教習所での運転もできません。結果、誰も運転できなくなります。職業としてやっていく過程での禁止行為はまた別という考えです。これが明確な犯罪行為には業という概念はありません。例えば殺人は絶対に許されません。殺人を業とすることを禁止するなどという法的表現はありません。反復継続の意思があるなし関係なく殺人はしてはいけません。※緊急避難などのやむを得ない状況については別の法律によって考慮しています。

 

よって

あん摩マッサージ指圧師免許」を持つ「あん摩マッサージ指圧師」でなければ「あん摩マッサージ指圧」を業とすることはできません、ただし医師を除いて

というのが法律(正式には『あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律』(昭和22年法律第217号)という)によって定められています。専門用語でこのことを「業務独占」といいます。本法律の第1条に明記されております。ところが、何十年も前からあん摩マッサージ指圧師ではない者があん摩マッサージ指圧を仕事として行っており、ほとんど摘発されていない状況が続いています。法律に明記してあるので逮捕することは可能で過去には逮捕者が出ているのですが、多くの場合は見過ごされています。巷にある〇〇マッサージや整体であん摩マッサージ指圧師がやっている店舗は非常に少ないでしょう。あん摩マッサージ指圧師の人数と店舗数は大きな差があります。

 

国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」でない者が「あん摩マッサージ指圧」を業とする(平たく言えばそれを仕事にする、継続的に行っている)ことを厚生労働省は“無資格者問題”としてきました。国家“資格”たるあん摩マッサージ指圧師を持って無い者が行うこと。なぜあん摩マッサージ指圧を業務独占にしているかというと健康被害という危険を伴う可能性があるからです。強く押して肋骨骨折をさせてしまうケースがあります。ひどいものですと脊髄損傷ということも。健康被害報告は報告されており統計にも出ています。また本来ならば医療機関にかかるべき疾患をお客として囲むために受診させないという間接的な被害もあります。民間療法で治せると一型糖尿病男児にインスリン注射をさせずに死亡させてしまった例頭を叩くことで万病が治ると称して死亡してしまった例など。実は後者の方が厄介です。医療知識がない者が人の体を触って治療に関することを行うことは危険です。国家資格を持たない者のいわゆる民間療法は問題視されてきました。※なぜこのような問題が残っているかは昭和35年の最高裁判決など要因があるのですが今回は割愛します。

 

ところが言葉遊びのように国家資格があればあん摩マッサージ指圧師ではなくてもあん摩マッサージ指圧をしても構わないという考えが出てきます。鍼灸師、柔道整復師、理学療法士らの行うあん摩マッサージ指圧です。柔道整復師には急性外傷の後療として、理学療法士は医師の指示の下行うリハビリテーション業務の一環として、マッサージ行為が容認されています。ところが外傷ではないのに接骨院で柔道整復師がマッサージ行為をし、理学療法士が医師の指示なしに整体と称してマッサージ行為をしている場合があります。鍼灸師は前揉捻という鍼を刺す前に行う技術があるのですがマッサージ行為を前揉捻だとして行っていることもあります(そして鍼は刺さない)。我々は医療系国家資格があるからあん摩マッサージ指圧をしてもいいのだという考え。更にとんちのように、“国土交通省認定の普通自動車免許という国家資格”を持っているからあん摩マッサージ指圧をしても構わないのだ、という理屈を出すひともいるのです。これを便宜上「無免許者問題」とし、無資格者問題に対して医療系国家資格があるからあん摩マッサージ指圧を業としても問題ないという屁理屈を認めないようにしています。この理屈がまかり通るならば柔道整復師が美容鍼をしだしますし、理学療法士がお灸を人にするようになってしまいます。我々はそれだけの実力があるのだからやっても平気だからと。※実際にそのような話が耳に入ってきます。

 

とにかくあん摩マッサージ指圧師免許が存在する以上、免許なしであん摩マッサージ指圧を業とすることは違法行為であります。違法行為である以上、守らない者を逮捕・起訴、処罰を与えることができるということ。ところがほとんど見過ごされています。その要因の一つというか法の目をくぐる理屈のようなものがまだあり、それが何をもって「あん摩マッサージ指圧」なのかということ。最初に述べたように法律によって明確にあん摩マッサージ指圧師免許が無い者(医師は除く)があん摩マッサージ指圧を業とすることを禁止しています。だったら我々のやっていることは「あん摩マッサージ指圧」ではないと言えば法律違反にならないだろうという。そして生まれたのが「整体」という用語と概念です。かつては医療系国家資格を持たない者が使用していた整体という言葉を、今は理学療法士、柔道整復師、鍼灸師も使用しています。自ら鍼灸整体師と名乗る者もいますし、報道が柔道整復師を柔道整体師と誤表記してしまうことがあり、理学療法士が理学整体師と揶揄されることもある。このような現状があります。※このことによりきちんと鍼灸、柔道整復、理学療法を行っている有資格者が迷惑しているという話がありますがそれも今回は割愛します。

 

では「あん摩マッサージ指圧」とは何ですか?という疑問というか問題になります。具体的には、あん摩マッサージ指圧師免許を持たなければやってはいけない行為はどういうことでしょうか、ということ。そこがはっきりしないと一般利用者は別として取り締まる行政側は困ります。

(※技術的なこと、歴史的なことを述べると非常に説明が長くなります。字のごとく「按摩」、「マッサージ(massage)」、「指圧」という3つの徒手療法を一括りにしています。3者は発祥も技術も歴史も異なります。それらを国家資格にするにあたり一まとめにしてしまったわけです。特に「指圧」に関しては実はとても広い概念があり簡単ではありません。指で押せば指圧でしょう、という話ではありません。ここで技術的な「あん摩マッサージ指圧」とは何かは説明しません。)

そこで行政が示した判断事例を紹介します。前置きが非常に長くなりましたがここからが本題です。

平成15年(2003年)9月24日付け15健政第704号で長崎県福祉保健部長から厚生労働省医政局事課長あてに以下のような質問がありました。

※あはき等法推進協議会の『無資格マッサージ等取り締まり関係資料』より

 

平成15年9月24日

 

厚生労働省医政局医事課長 様

                          長崎県福祉保健部長

 

「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」に関する疑義照会について

このことについて、別紙の行為が「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」に規定するあん摩マッサージ指圧師免許を必要とする行為に当たるか御教示をお願いします。

 

別紙の内容は以下の通りです

 

通常も服着用のまま、全身にまんべんなく行う。ただし、服の上から直接手をかけず、タオルを服の上にかけて行う。手順は次のとおり

1.仰向け

足(すねから腿の付け根まで※右~左)~腕(上から指先まで※右~左)~頸部~肩~目の周辺~額~頭頂

2.うつ伏せ

頸部~後頭部~肩~脇~肩胛骨周辺~脊椎(右~左)~腰~臀部~足(膝裏~ふくらはぎ~足裏※右~左)

 

・揉むというよりは「指や掌で押して引く」という感覚であり、押す強度は余り強くない。

・脇のリンパ節を押されたときは、多少痛いと感じたが、後に残るようなものではない。

・「リンパを刺激し、血液の流れを促す」「リンパに沿って押していく」と●●●が発言

・目の周辺は、手のひらで押さえていた。「気功を行うので熱くなります」と●●●が発言

・指のケアについては、二本の指で挟んで指を引っ張るということを行った。

・ボディケアの後、「気持ちよい」という感想であった。

 

おそらくリラクゼーション店で受けた具縦的な施術内容に関して

「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律」に規定するあん摩マッサージ指圧師免許を必要とする行為に当たるか

を質問しています。手技の内容だけでなく術者の発言内容(説明)についても加味してどうなのでしょうかというように文面からみてとれます。この質問に対して平成15年11月18日の医政医発第1118001号にて回答が出されています。

 

内閣府ホームページ

「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」に関する疑義照会について(回答)

 

 

22.「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」に関する疑義照会について(回答)

 

(平成15年11月18日 医政医発第1118001号)

 

平成15年9月24日付け15健政第704号にて照会のあった標記の件について、下記のとおり回答する。

 

 

特定の揉む、叩く等の行為が、あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)第1条のあん摩マッサージ指圧に該当するか否かについては、当該行為の具体的な態様から総合的に判断されるものである。

御照会の事例については、その行為の強度、時間等によっては、同条のあん摩マッサージ指圧に該当する場合もあると考えられるが、御照会の内容だけでは判断できない。

しかし、施術者の体重をかけて対象者が痛みを感じるほどの相当程度の強さをもって行うなど、あん摩マッサージ指圧師が行わなければ、人体に危害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある行為については、同条のあん摩マッサージ指圧に該当するので、無資格者がこれを業として行っている場合には、厳正な対応を行うようお願いする。

また、同条のあん摩マッサージ指圧が行われていない施術において、「マッサージ」と広告することについては、あん摩マッサージ指圧師でなければ行えないあん摩マッサージ指圧が行われていると一般人が誤認するおそれがあり、公衆衛生上も看過できないものであるので、このような広告を行わないよう指導されたい。

 

これによれば特定の揉む・叩く等の行為が法律による「あん摩マッサージ指圧」に該当するか否かは、その行為の具体的な態様から総合的に判断されるものだと前提を述べています。そして今回の質問内容の行為については、その強さや時間等によっては該当するかもしれないが内容だけでは判断できないと回答しています。つまり判断材料が足りず結論は出せないと。ただし一般的な見解を次に述べています。

 

施術者の“体重をかけて対象者が痛みを感じるほどの相当程度の強さをもって行うなど”、“あん摩マッサージ指圧師が行わなければ、人体に危害を及ぼし、又は及ぼすおそれのある行為”については、同条のあん摩マッサージ指圧に該当する

 

上記のように、あん摩マッサージ指圧師が行わなければ人体に危害を及ぼす或いはその恐れがあることは法律による「あん摩マッサージ指圧」に該当する。例えば、対象者が痛みを感じるほどの強さをかけること。ここから判断すると痛みを感じるほど強さで行うことは「あん摩マッサージ指圧」になり得るということ。少なくともあん摩マッサージ指圧師免許を持たない者が業として行った場合は違法行為にあたると考えられます。

更に回答では『無資格者がこれを業として行っている場合には、厳正な対応を行うようお願いする。』と注意喚起をしております。この場合の『無資格者』はあん摩マッサージ指圧師免許を持たない者全体なのか、医療系国家資格を持たない者を指すのか判断はつきませんが個人的な予想では時期的に(2003年当時)後者を指しているように思われます。福岡裁判が行われ鍼灸、柔道整復師専門学校が新設されている時期でまだ今のような過剰供給状況ではなかったため。

 

回答書では更に広告についても言及しています。『また、同条のあん摩マッサージ指圧が行われていない施術において、「マッサージ」と広告することについては、あん摩マッサージ指圧師でなければ行えないあん摩マッサージ指圧が行われていると一般人が誤認するおそれがあり、公衆衛生上も看過できないものであるので、このような広告を行わないよう指導されたい。』ここでは「あん摩マッサージ指圧」ではない行為(おそらく体重をかけない、痛みを伴わない慰安目的の手技を指しているのではないかと考えます)に「マッサージ」と称して広告することは、そうしないように指導するようにと通達しています。この広告に関してはまた別の機会にふれます。

 

厚生労働省の公式見解として残っている文章です。これによれば、無免許により違法行為とされる「あん摩マッサージ指圧」はそれによって健康被害が生じる、生じる恐れがある、ということがポイントになります。これは医行為の定義とも合致します。具体例として<痛みを感じるほどの強度>を挙げております。これにより、体重をかけずに痛みを感じない強さなら無免許でも徒手療法(「あん摩マッサージ指圧」に該当しない)を業として行っても大丈夫というとらえ方もできてしまいます。しかし前提として健康被害が生じてはいけないわけで、直接的な被害だけでなく、医療機関で適切な医療を受けさせないといった間接的な被害も含んでいると言えるはずです。それは最後の広告に対する指導から伺えます。

 

あん摩マッサージ指圧師としての技術的な定義とは別に公衆衛生上の観点から厚生労働省が見解を示した「あん摩マッサージ指圧」の定義です。大雑把に見えますが言いたいことはシンプルです。この文書の存在が残っていることは今後も大きな意味があると私は考えています。

 

甲野 功

 

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