～箱根の長安寺を紹介して喜ばれた話～

当院にいらっしゃる患者さんとは、人によりますが、様々な話をします。

先生と呼ばれることのある職業。先生とは“先に生まれた”と書きます。自分自身より先に生まれた年上の方にも先生と呼ばれることがあります。先生というのは何か知識や技術が秀でているからそのような呼称になるはずです。そうでなければ現時点で最高齢者のみが先生となるわけです。人生経験が上の方にも先生と呼ばれるには専門分野で知識・経験・技術などが秀でていないといけないでしょう。プロとして対価を頂くわけですし。

専門分野以外の話題になることがままあります。営業職では一般的にタブーとされる政治・宗教・熱狂的なスポーツ（かつての野球）なども状況次第で話題にします。特に私より年配の方の方が意見交換、ディスカッションのような形で話が盛り上がることが多いです。そのため世間で注目されていることは何となく目を通しておくようにしておきます。元々の気質はマニアック、我が道をいくタイプで、男の子はみんなプロ野球を観ていた小中学生の頃に風潮に反して野球に背を向けていました。好きではなかったので。親が東京ドームに野球観戦に行こうと誘った時も塾があるから行かないと断りました。勉強熱心ではなく野球を観に行きたくなかったからです。中学校のときは周りに全然共感されないなかプロレスに熱中していました。思春期という情況もあったのでしょう、みんなが熱狂するものを追いかけるのはカッコ悪い自分だけの趣味を極めることがイケている、という感情があったのです。その考えはあん摩マッサージ指圧師、鍼灸師となって不特定多数の幅広い年齢層の患者さんと接するようになってから、改めて世間で人気になっているコンテンツや注目されている事件、施設の情報をきちんと知るようにしました。

根は好きなものを突き詰めるタイプであることは変わりません。特に社会人になってからは精神的ストレスも増えたこともあり好きなもの好きなことをより楽しむ熱中する姿勢が生まれました。特に顕著になったのが箱根。神奈川県にある関東有数の観光地。幼少期に連れて行ってもらっていた箱根に社会人になって再び訪れたとき、幼いときの記憶がよみがえり凄く好きになりました。そこから年に数回のペースで行くようになっていきます。箱根というエリアは常に変化していて新しい施設ができ、反対に施設が無くなります。海外観光客が押し寄せるほど人気がある一方、台風、噴火、地震、新型コロナウィルスとたくさんの困難に見舞われてきました。良い面も悪い面もたくさんみて体験してきました。

来院した患者さんに箱根の情報を教えると喜ばれます。

知ってはいるけれど行ったことが無いという人が結構います。特に地方から東京に来た人には箱根が凄く遠い場所というイメージがあるようです。私も京都と奈良があれだけ近いとは現地に行かないと分かりませんでした。名古屋と伊勢神宮があそこまで遠いとは思いませんでした。土地勘がないと距離感がわからないものです。調べてみれば結構簡単にいける観光地の箱根。行ってみよう、今度行ってみますという患者さんに箱根のことを話すと喜んでもらえます。もちろん闇雲に話すことはせず、どういう気持ちでどういうスケジュールで行くのかを確認した上で話をするのです。初めて行くのか。日帰りなのか宿泊するのか。温泉に入りたいのか。グルメを楽しみたいのか。行く施設が決まっていて他に何か見るところがあるか聞きたいのか。などなど。交通手段も忘れずに。その情報の上で良さそうな情報を提供し、ときに旅のプランを提案するのです。初めての箱根なら定番と言える有名施設やエリアを紹介します。ここに行きますと行き先が決まっている場合はその界隈で少し楽しめる場所を紹介します。子どもを連れていくのか大人だけなのかでも話は大きく変わります。食事、お土産、交通手段まで私の経験から有益になりそうなことを紹介するのです。

あるとき患者さんに箱根の長安寺という場所を紹介しました。長安寺は仙石原にあるお寺です。知っている人は多くないのではないでしょうか。家族でよく箱根仙石原に行くという患者さん。最初に来た患者さんに箱根ガラスの森美術館を紹介しました。小学生のお子さんがいるということなので子どもも大人も楽しめる場所として。私も子どもを連れて何度も行っています。そして患者さんが子どもと行ってみてとても良かったと。そして患者さんがお母さまを当院に紹介してくれました。お母さまは孫の世話をよくするため、やはり箱根に行くというのです。お母さまには長安寺のことを話したのです。もちろんガラスの森美術館のことは知っています。年齢もありますが話をしていて長安寺に興味を持つのではないかと思ったからです。長安寺は境内に無数の羅漢像が点在しています。不思議な彫刻もあります。仏像なのか理解に苦しむものも。自然と石像が混在する不思議な雰囲気。ほとんど知られていないので静か。隣には諏訪神社もありこちらも静かで神秘的。敢えてラリック美術館や星の王子さまミュージアム（現在は閉演）といった有名な施設を外してみたのです。とても興味を示しました。

ところが箱根に行ってもお孫さんの都合が優先。何度も長安寺を訪れるチャンスを逃していたそうです。それが遂に行けたというのです。年越しを箱根で行うということで年末から１月２日まで滞在。大晦日の日中に長安寺に行けたそう。話に聞いていた羅漢像が点在する境内、その雰囲気がとても気に入ったそうです。お孫さんも様々な像があり探しまわったとのこと。更に夜中にまた長安寺にいって除夜の鐘を突かせてもらったのだとか。そのときは灯籠でライトアップされて幻想的な光景になっていたそうです。私は夜に行ったことが無いので（普段は閉門していますし）その様子を教えてもらう立場でした。お母さまは偉く気に入ったようで、春、新緑、紅葉と四季折々の姿を楽しみたいからまた長安寺に行きますとやや興奮しながら話してくれました。素晴らしい場所を教えてくださりありがとうございますと言われて私はとても嬉しくなりました。本業の施術だけでなく、人生が豊かになる情報を提供できたと思い。行ったのは東京医療専門学校教員養成科在学時代なので１０年以上前のこと。その時の経験が役立つとは。好きなことを突き詰める。それを心の引き出しにしまっておいて適宜出せるようにしておく。先生と呼ばれる立場になって身につけたものです。

甲野　功

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